テストレポート
手持ちのヘッドフォンを1000円強でヘッドセット化するクリップマイクを試す
またAL-M25Pには,Xbox 360用マイクとして利用するための,変換コネクタも用意されているのだが,そのコネクタも相当なものである。接続しようとすると少し隙間が空いてしまうほどで,見た目には期待しないほうがいいだろう。
ケーブル長は180cm。長いような短いような,微妙な長さである。PC本体の設置場所によっては,延長ケーブルが必要かもしれないし,すぐ近くにPCがある場合は少々持てあますことにもなろう。
接続端子は一般的な3.5mmステレオミニピンで,ステレオ仕様。ただ,実際にステレオで収録するわけではない。これはAL-M25Pが,PCのサウンド端子から給電して動作するコンデンサタイプであるがゆえだ。なお,前述の変換コネクタは3.5mm径→2.5mm径への変換を行っている。
高域のノイズが気になるものの
価格の割には優秀な入力品質
テストに当たってマイクのスペックを見ると,周波数特性は100Hz〜100kHzとされている。要するに,重低音を拾わず,一方で高音は超高域まで拾う仕様とされているわけで,価格からして「ほんまかいな」と突っ込みを入れそうになる仕様だ。この周波数特性が実際に有効なのかどうか,有効だとして,それがマイク入力品質にどういった影響を与えるかが,本稿の重要な検証テーマとなる。
というわけで,今回のテストに当たっては(通常のヘッドセットレビューだと48kHzだが)96kHzのスイープ波形を用意した。また,位相特性をより正確に計測するため,スイープ信号はモノラルで出力している。これをスピーカーから再生し,PCに接続したAL-M25Pで入力。平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして採用するする流れだ。
このほか,詳細なテスト方法は本稿の最後に別途用意した。基本的には文字で説明を行い,グラフの見方が分からなくても問題ないように配慮するつもりだが,興味を持った人は一度目を通しておいてほしい。
さて,実際のテスト結果は下に示したとおり。リファレンス(※緑色の波形)と比べたときに目立つのは,4kHz弱から8kHz強の周波数帯域で最大+10dBくらい持ち上がっている大きな山と,16kHz強の帯域における大きな落ち込みである。
4〜8kHzの山はほぼ間違いなくAL-M25Pのマイク特性。スピーカーの音響特性も若干影響しているため,+10dBがすべてAL-M25Pのマイク特性によるものと断じるには危険があるものの,4〜8kHzに山がある=4〜8kHz付近が強調されているのは事実だ。実際の聴感でも,AL-M25Pは高域に強く,割と聞き取りやすい。さすがに高域がこれだけ強いと低域はマスクされて聞きづらくなるが,音情報としての音声を入力するマイクとしてはとくに問題とはならないだろう。
しかし半面,歯擦(はさつ)音や破裂音の強い,いわゆる滑舌の悪いしゃべり方の人が使うと,ボイスチャット相手にノイズが伝わりやすいチューニングでもある。ゲーム中に身体が動く人だと,カサカサといった衣服の擦れる音も拾われがちだ。
なお,16kHz強より上の周波数帯域が大きく落ち込んでいる件についてだが,グラフに表示されない部分のログデータをグラフ化してみると,だいたい40kHzくらいまでは入力されているようだ(グラフ)。カタログスペックの誤表記ではないようだが,ただ,ボイスチャット用マイクという点では,16kHzくらいまで入力できていれば十分。超高域まで入力できるというこの特性に意味はほとんどない。
なお,位相がまったくズレていないことから,ノイズ(あるいはエコー)キャンセリング機能は搭載していないと推測される。価格からして当然といえば当然だが。
ただ,いかんせん作りがちゃちな点は否めない。とくに本体とケーブルの接続が貧弱だったりもするので,耐久性には期待せず,手軽にボイスチャットを試すためのものとして導入するのが正解だ。
■マイク特性の測定方法
マイクの品質評価に当たっては,周波数と位相の両特性を測定する。測定に用いるのは,イスラエルのWaves Audio製オーディオアナライザソフト「PAZ Psychoacoustic Analyzer」(以下,PAZ)。筆者の音楽制作用システムに接続してあるスピーカー(Dynaudio Acoustics製「BM6A」)をマイクの正面前方5cmのところへ置いてユーザーの口の代わりとし,スピーカーから出力したスイープ波形をヘッドセットのマイクへ入力。入力用PCに取り付けてあるサウンドカード「Sound Blaster X-Fi Elite Pro」とヘッドセットを接続して,マイク入力したデータをPAZで計測するという流れになる。もちろん事前には,カードの入力周りに位相ズレといった問題がないことを確認済みだ。
PAZのデフォルトウインドウ。上に周波数,下に位相の特性を表示するようになっている
測定に利用するオーディオ信号はスイープ波形。これは,サイン波(※一番ピュアな波形)を20Hzから48kHzまで滑らかに変化させた(=スイープさせた)オーディオ信号である。スイープ波形は,テストを行う部屋の音響特性――音が壁面や床や天井面で反射したり吸収されたり,あるいは特定周波数で共振を起こしたり――に影響を受けにくいという利点があるので,以前行っていたピンクノイズによるテスト以上に,正確な周波数特性を計測できるはずだ。
またテストに当たっては,平均音圧レベルの計測値(RMS)をスコアとして取得する。以前行っていたピークレベル計測よりも測定誤差が少なくなる(※完全になくなるわけではない)からである。
結局のところ,「リファレンスの波形からどれくらい乖離しているか」をチェックするわけなので,レビュー記事中では,そこを中心に読み進め,適宜データと照らし合わせてもらいたいと思う。
用語とグラフの見方について補足しておくと,周波数特性とは,オーディオ機器の入出力の強さを「音の高さ」別に計測したデータをまとめたものだ。よくゲームの効果音やBGMに対して「甲高い音」「低音」などといった評価がされるが,この高さは「Hz」(ヘルツ)で表せる。これら高域の音や低域の音をHz単位で拾って折れ線グラフ化し,「○Hzの音は大きい(あるいは小さい)」というためのもの,と考えてもらえばいい。人間の耳が聴き取れる音の高さは20Hzから20kHz(=2万Hz)といわれており,4Gamerのヘッドセットレビューでもこの範囲について言及する。
周波数特性の波形の例。実のところ,リファレンスとなるスイープ信号の波形である。通常のヘッドセットレビューでは48kHzの波形を用いるが,本テストレポートでは96kHzのものを用いている
上に示したのは,PAZを利用して計測した周波数特性の例だ。グラフの左端が0Hz,右端が20kHzで,波線がその周波数における音の大きさ(「音圧レベル」もしくは「オーディオレベル」という)を示す。また一般論として,リファレンスとなる音が存在する場合は,そのリファレンスの音の波形に近い形であればあるほど,測定対象はオーディオ機器として優秀ということになる。
ただ,ここで注意しておく必要があるのは,「ヘッドセットのマイクだと,15kHz以上はむしろリファレンス波形よりも弱めのほうがいい」ということ。15kHz以上の高域は,女声ソプラノのボーカルでもない限り,人間の声にまず含まれない。このあたりをマイクが拾ってしまうと,その分だけ単純にノイズが増えてしまい,全体としての「ボイスチャット用音声」に悪影響を与えてしまいかねないからだ。男声に多く含まれる80〜500Hzの帯域を中心に,女声の最大1kHzあたりまでが,その人の声の高さを決める「基本波」と呼ばれる帯域で,これと各自の声のキャラクターを形成する最大4kHzくらいまでの「高次倍音」がリファレンスと近いかどうかが,ヘッドセットのマイク性能をチェックするうえではポイントになる。
位相は周波数よりさらに難しい概念なので,ここでは思い切って説明を省きたいと思う。PAZのグラフ下部にある半円のうち,弧の色が青い部分にオレンジ色の線が入っていれば合格だ。「AntiPhase」と書かれている赤い部分に及んでいると,左右ステレオの音がズレている(=位相差がある)状態で,左右の音がズレてしまって違和感を生じさせることになる。
位相特性の波形の例。こちらもリファレンスだ
ヘッドセットのマイクに入力した声は仲間に届く。それだけに,違和感や不快感を与えない,正常に入力できるマイクかどうかが重要となるわけだ。
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