連載 : Second Lifeの匠を訪ねて


Second Lifeの匠を訪ねて 〜メタバースの挑戦者達〜

第7回 変わり続けるSecond Life――日本人居住区に住む人々

 

Kalenという,日本人居住区の中心にあるカフェの屋上にて。今回取材したのは,比較的最近にSLを始めたばかりの人々だ

 「Second Life」(以下,SL)で活躍するクリエイター達を紹介してきた本連載だが,今回と次回はちょっと趣向を変え,SLを違う側面から紹介しよう。
 これまで取材してきた匠達は皆,SLを始めて最低でも半年以上は経っていた,ベテランのプレイヤー達だった。SLは多機能で自由度が高いだけに,覚えることが多く,もの作りやプレイのノウハウを身につけるには,ある程度の経験が必要になるからだ。彼らに対するインタビューからは,SLで何ができるのか,何が面白いのか,時には英語の壁と戦いながら試行錯誤してきた様子がうががえたと思う。
 筆者にとって,とくに印象に残っているのは,第2回のRandy Kamabokoさんの「たくさんの人が参加する=新しいアイデアがもたらされる」という言葉だ。プレイ人口が増えれば増えるほど,新しいことをやり始める人が増え,SLの世界が広がっていくという期待をこめた言葉だった。

 

 2006年年末から本年の年始にかけて,SLの注目度がにわかに高まってきた。世界レベルで爆発的なプレイ人口増加を遂げたことはもちろんだが,日本人プレイヤーの数も,比率的にはそれ以上の勢いで伸びており,日本人コミュニティに関する環境の変化には凄まじいものがある。

 

Halca(SIM名はIkebukuro)ができたばかりの頃。2006年12月31日の画像だから,2007年1月16日時点では,まだ最近と言って過言ではない ほぼ同じ位置の,2007年1月16日現在の様子。昨年末にはほとんど建物がなかったのに,2週間ちょっとでこんな景色に。続々と人も集まってきている

 

 その中で,一つ大きな動きとして挙げられるのが,MagSL(マグスル).netを運営するNeko Linkさんが推し進める,日本人居住区を中心とした一大プロジェクトだ。筆者(のキャラクター)も,この居住区の一画に土地を借りて住んでいる。
 今回はこの居住区と,そこに住む比較的SL歴の短い住民達を通して,SLをこれまでとはまた別の視点から眺めてみたい。

 

 

5×5の25SIMにわたる壮大な日本人コミュニティプロジェクト

 

 現在,日本語版の公開へ向けて,JP Gridというオフィシャルの日本人エリアの建設が進められているが,Nekoさんのやろうとしていることも,同じベクトルだ。簡単に言えば,日本人が日本語で利用し,楽しめるコンテンツの提供だという。Webにおける,ポータルサイトの構築というイメージに近い。
 現在Nekoさんが運営するMagSL.netで展開するサービスは,ウェブマガジンの発行,リンデン ドル(L$)と日本円の両替,そしてSL内での土地賃貸である。
 「いずれも,日本でセカンドライフが活性化するために必要だったから作ったのです」とNekoさんは言う。SLの既存のコンテンツやサービスは,ほとんどが英語によるもの。そのハードルの高さと不便さを解消し,SLに対してより多くの日本人の参加を促すのが目的だという。

 

画面中央にある緑色のタイル一つ一つがSIMで,5×5の25SIMを使った大きな地域が作られようとしている。そのすべてが日本人を対象にしたものだ

 その中で,SL内の土地に関するNekoさんの計画は,次のようなものだ。右の画像のように,まず中心にショッピングセンターを中心としたSIMを置く。そしてその周囲8マスに企業用のSIMを,その周囲16マスに居住区を配置する。
 中央のショッピングセンターは城をかたどったものになるということで,周辺はまさに城下町。城の周りには武家屋敷のように企業の建物が並び,その周囲には町人の街のように一般の住人の居住区が広がる。一つ一つの居住区には個性をつけ,それぞれの居住区の広場にカフェやプールを置いたり,ある居住区はFurry(擬人化された動物キャラクターの総称。SLでは,動物タイプのアバター使用者を指す)専用にしたりといったことを考えているという。
 このように,Nekoさんは5×5マスのSIMの中に,企業と一般の住人が共存する一つの小さな世界を作り上げようとしているのだ。

 

現在のマップの状況がこれ。今空白になっている地域が,SIMで埋め尽くされるのが待ち遠しい

 だが,SLではテレポートでどこにでも瞬時に移動できるから,SIMの配置などといった立地に,あまりこだわっても仕方ないのではないだろうかという疑問もわく。
 「私も最初は,場所は関係ないと思っていました。ところがいくつもの企業とミーティングをするうちに,彼らのニーズは,立地にあることに気づきました。確かに,集客の要となるショッピングセンターと居住区に挟まれていれば,常になんらかの形で,居住区の人達の目に触れるはずです。Group Noticeを使って,プロモーションの手伝いをすることもできます」(Nekoさん)

 

 SLに進出している大手企業には,独自にSIMを持っているところも多いが,賑わっているSIMはまだまだ少ない。その理由には,コンテンツの未熟さもあるかもしれないが,立地が「孤島に存在している状態」で,一般のプレイヤーの目に触れる機会が少ないために,存在が身近に感じられないというのもあるのだろう。企業にとっても,Nekoさんのプロジェクトは大歓迎に違いない。

 

Neko Linkさんは,現実世界ではITコンサルタントをしているという。このプロジェクトも,もちろんビジネス目的だが,Nekoさん自身がMMORPGのヘビーなプレイヤーということもあり,コミュニティを盛り上げることについては並々ならぬ熱意があるようだ

 

 SLで一般に「立地条件」といえば,周辺にラグを発生させるような物件がないか,カジノや風俗系の店など公序良俗に関わる物件がないか,あるいは海沿いや道路沿いか,などといったことを問題とする。Nekoさんのような考え方が今後メジャーになっていくのか,注目したい。

 

 

日本人居住区,KalenとHalcaの住人による座談会

 

 そもそもSLは,土地を所有することなくプレイできる。モノ作りをする場所ならば,SandBoxという,誰でも自由に利用できるところが数え切れないほどあるし,インベントリの容量に限りはないので,自分の持ち物は,使わないときはインベントリにしまっておけばよい。何かを売るにしても,ショッピングモールなど,商品の販売スペースを貸してくれるところも多いから,自前の店を持たなくてもかまわない。また,睡眠という要素もないので,SLを楽しむうえで,土地や家は必ずしもなければならないものではないのだ。現に,土地なしのプレイヤーもたくさんいる。

 

筆者がかつて所有していたFirst Land周辺。筆者自身の土地は,近所の人が売ってほしいと申し出たので売ってしまった。久しぶりに来てみたが,当時の跡形もないくらい変貌していた

 「SLでは,土地を持たなければほぼ無料にもかかわらず,あえて土地を有料で借りようという人が多いのは,面白い心理だと思います」とNekoさん。筆者も現に土地を借りているわけだが,その主な理由は,居場所とか拠点といった意味合いでだ。仮想現実の世界であるSLは,現実世界と同様に,自分だけの空間や,いつでも帰れる場所が欲しくなる。そして,近所に住む人達で一つのコミュニティを形成する。現実世界に近い現象が,SLでも起きているのだ。

 

 筆者は,Halcaという居住区の中央広場付近に2区画分の土地を借りて,簡単な建物を建てている。何に使うかはまだ考え中だが,とりあえずは自分の居場所として利用していて,Instant Messageのやり取りをしている最中はここにいたり,買ってきたアイテムを試したり,衣装を着替えたりといった使い方をしている。
 ただ単に,ぼーっとしているだけでも飽きない。友人かそうでないかにかかわらず頻繁に人が訪ねてくるし,中央の広場に人が集まったり,面白い遊びが始まったりすることも多く,それを眺めているだけでも楽しい。

 

 筆者はSLを始めた頃に,First Landという,有料アカウントのプレイヤーが対象の土地を1区画持っていたが,そこは目的も嗜好も言語も違う,さまざまな人達がごった煮にされたような混沌とした空間だった。それはそれで面白さもあったが,Halcaのような,きちんと区画整理された居住区に落ち着くことで,初めてSLの中で自分の居場所を得たかのような安心感を覚えたのは事実だ。

 

居住区の住人達で集まっての座談会。皆それぞれSLに対する見方が少しずつ異なっていて,たくさんの面白い話が飛び出した

 ところで,Nekoさんが計画している16のSIMにわたる居住区のうち,現在あるのは三つ。そのうちの二つKalenとHalca(Ikebukuro)はすでに埋まり,現在三つ目のAkibaの住民を募集中だ。
 今回は,そのKalenとHalcaの住人達に集まってもらい,座談会という形でいろいろと話を聞いてみた。

 

 特徴的なのは,この日集まってくれた人達は皆,SLを始めて3か月以内の新しいプレイヤーだということだ。ほとんどの人達は,1か月前後である。彼らの話を聞くことは,これからSLを始めようと思っている人にも参考になるだろう。
 以下では,座談会に参加してくれた人達をタイプ別に紹介する。

 

(1)SLでビジネスを模索する人達

 Missileman Adzebillsさん,Hitoshi Dodonpaさん,Sasuke Ochsさんの3人は,現実世界でビジネスをやっていて,それをSLの中で生かせないかを考えている人達だ。

 

KalenにあるMissilemanさんのTシャツ屋。Missilemanさんは現在3店舗を持っているが,当然のように赤字だという。SLで店を持ちながら,プラスの収入を得るのは決して簡単なことではない

 Missilemanさんは現実世界でTシャツ屋を営んでいて,SLに関する新聞記事を読んで,これは商機拡大のチャンスではないかと思い,SLに飛び込んできたという。SL内では3店舗でTシャツを売っており,現実世界で売っているものと同じデザインのTシャツを作ることで宣伝効果を狙い,現実世界での購買につなげたいそうだ。
 「当初はSL世界から現実世界への誘導に主軸を置いていたんですが,SLがこのままいくと,かなり一般に浸透していくと思うので,そのときには自分のウェブサイトからリンクして,アバターで試着したりといったことも考えています」(Missilemanさん)
 Missilemanさんは以前,宣伝のためにTシャツをただで配っていたが,最近ではSL内だけのオリジナルデザインのものも作っており,安くても買ってもらえるようなTシャツを作るように方針転換したという。「欲が出たというのもあるのですが(笑),“ただのもの”って,あまり大事にしてもらえないので,安くても買ってもらおうかと思ったんです」とMissilemanさん。値段は5〜15L$程度。アバターに着せるなら十分に安いと思える値段だ。今は,SL内で発生する経費をSL内でまかなえるように奮闘中だという。

 

このいかにも強そうなのが,Sasuke Ochsさん。SLで格闘技をやっている人はあまり聞かないので,新しくて面白いかもしれない。現在,対戦相手を募集中とのことだ

 Hitoshi Dodonpaさんは,現実世界では電気屋を営む。今まで,ゲームにはまったく縁のない生活をしてきたという。もちろん,ほかのMMORPGのプレイ経験は皆無だ。
 「何か,とんでもないことが起こっていると直感したんです。とりあえず入っておかないと,と思いました。何ができるかはこれから考えます」(Hitoshiさん)
 Hitoshiさんは,ゲーム経験がまったくないにもかかわらず,SLのプレイを開始して,すぐに家を建てることができたという。電気工事などで培った,現実世界の感覚が役立っているというから驚きだ。

 

 Sasuke Ochsさんは,現実世界でインゲームズアド,つまりゲーム内広告と,そのプロモーションの事業を行っている。現時点ではSL内で事業をしているというわけではなく,SLについて勉強するために,プレイしているという。今日参加してくれたキャラは,趣味でプレイするためのアカウントのもので,事業用のキャラのために,別アカウントを持っているとのことだ。Sasukeさんのように,勉強/調査目的でSLをプレイし始めた企業関係者が,最近増加している。
 Sasukeさんは,右上の画像をを見てのとおりの風貌で,個人的な趣味のプレイのほうで,SLに格闘技を広めようとしており,今後が楽しみである。

 

(2)クリエイターの卵達

ゲームの延長ととらえている人,現実世界のビジネスとリンクさせている人,Webに近いものとしてとらえている人など,SLというもののとらえ方は,人それぞれだ

 Taifrog Moriartyさん,Shin Mathildeさん,Reiko Rousselotさん,Ajika Laszloさんの4人は,タイプ的にはクリエイターに属する人達だ。4人に共通するのは,本格的なビジネスが主目的ではなく,モノ作りを通しての自己表現やコミュニケーションの醍醐味を重視している点と,SL内で収支ゼロか少量のプラス収入程度の,ささやかな商売を目指しているという点だ。

 

 Taifrogさんは,SL内で主にメガネやサングラスを作っていて,Halcaの広場付近に,メガネ専門の新店舗を建設中。ちなみに,筆者のキャラが第6回でかけていたサングラスは,Taifrogさんからいただいたものだ。
 また,絵画やライブといったSL内での芸術鑑賞も楽しみの一つで,筆者に面白い場所を紹介してくれる友人でもある。

 

 Shin Mathildeさんは,「バトルフィールド2」や「カウンターストライク:ソース」をプレイしてきた,FPSプレイヤー。日本人が運営するビジネスSIM「Metabirds」で,建築や看板作成などのアルバイトをしている。
 「消費者ではなく,供給者側になりたいという気持ちがあります」と語るShinさん。また,人にできて,自分にできないことがあるのは嫌だとも語っており,そんな勝ち気な一面を見せるあたりは,さすがFPSゲーマーといったところだろうか。
 「やはり大勢の皆さんに見てもらえて,評価してもらえるのが一番の醍醐味です。ダメって言われてへこむこともあるけど,すぐ,それをバネにして,やる気がわきます」(Shinさん)。彼は,実に多くのプロジェクトに参加しているとのことで,今後の活躍が楽しみだ。

 

SLで収入を得るのは簡単ではないが,同時に楽しんでやれているのがいいと語るReikoさん。SLは,アフィリエイトに近い位置づけでとらえているという

 現実世界ではグラフィックデザイナーであるReiko Rousselotさんは,MagSL.netのライターとしてレポートを書きつつ,モノ作りを学んでいる段階とのこと。なんとママさんプレイヤーでもあるそうだ。
 「家にいながら,小額とはいえ収入が得られるというのはとても嬉しいことで,SLのことを,アフィリエイトの進化したものという風に捉えている面もあります」(Reikoさん)。
 Reikoさんも,ほかのMMORPGのプレイ経験はないとのこと。Webの世界から直接SLへ入ってくる人は,意外と多いようだ。

 

 Ajika Laszloさんは,Reikoさん達とは逆に,元々「ウルティマ オンライン」のヘビープレイヤーだったそうだ。SLでは,スキンを中心に作っている。
 スキンは,大部分を外部ツールを利用して作るのだが,環境や角度によるスキンの見栄えを研究するために,SL内でもキャラクターの容姿の観察に時間をかけているという。
 「リアルと同じで,容姿によって人の見る目が大きく変わりますから,スキンも服も重要だと思います。ただ,普通のゲームだとすでにある中から選ばないといけないわけですから,自由に作れるSLは贅沢で素晴らしいシステムだと思いますよ」(Ajikaさん)

 

(3)おしゃれと買い物を楽しむ人達

 comi Cosmosさん,Sallie Takaoさん,Peel Ahさんは,ファッション関係を中心とした買い物にSLの楽しさを見いだしている人達だ。

 

「SLの商品って,単価安いでしょ。だから買っちゃうの(笑)」とは,Sallieさんの談。ウインドウショッピングで終わらせることは難しいらしい

 「マビノギ」「ダンジョンズ&ドラゴンズオンライン:ストームリーチ」など,いろいろなMMORPGのプレイ経験があるcomi Cosmosさんは,Nekoさんの勧めでSLを始めたそうだ。
 comiさんは,数え切れないほどの衣装を持っているという。この日も途切れることなくいろいろな衣装に着替えてくれて,ここまで徹底すると,立派なワザだなと感心してしまった。

 

 「特技:買い物,趣味:着替え」と自任するのは,Sallie Takaoさんだ。今回は友人の商品の宣伝のために,ずっとウサギの衣装のまま。「買い物はリアルと同じくらいか,それ以上に面白いです。お店に行ったら最後です」。その後はお察しを……。

 

 「初期のアバターってかっこ悪くて,周りはみんな美人系だったりカワイイ系だったりしたので,私も同じようになりたいと思ったら,シャレにならないくらい買い物をしていました(笑)」と話すPeelさんは,この日は事情によりFurryキャラ。このような格好ができるのも,SLだからこそである。

 

 この連載でお伝えしてきたように,SLのファッション界(?)は,現実世界に負けないくらいの盛り上がりを見せている。Furryなど,現実世界では実現できないようなファッションも多く,SLの大きな楽しみの一つであることは間違いない。ただし念のため,買い物のしすぎにはくれぐれもご注意を。

 

 

■■Sluta(ライター)■■
ゲームライターとして認知されつつあるSluta氏だが,この欄で何度も書いてきたように,現役の大学生でもある。何かゲームに関係することでも勉強/研究しているのかといえば,そうでもないようで,経済学関係のゼミに所属しているという。では,そのゼミで何をやっているかというと,「プログラミングの担当になったので,この1年,(経済シミュレーションに使う)プログラムを組んでいるだけでしたね。コードを書いては修正する日々です。そういえば,結局経済の勉強,何もしていない気がするなぁ」。まぁ現実世界はともかく,SL内では,経済学の知識よりプログラミングの能力のほうが役に立つ気がするので,結果オーライってことで(?)。
タイトル Second Life
開発元 Linden Lab 発売元 Linden Lab
発売日 2007年内 価格 無料(ファーストベーシック)
 
動作環境 対応OS:Windows 2000(SP4)/XP(SP2),Pentium III 800MHz以上,メモリ256MB以上,Geforce 2(グラフィックスメモリ:32MB)以上,またはRadeon 8500(グラフィックスメモリ:32MB)以上,DSLまたはケーブルモデム,LAN(ダウンストリーム256kbps以上)

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