連載 : Second Lifeの匠を訪ねて


Second Lifeの匠を訪ねて 〜メタバースの挑戦者達〜

最終回:Second Lifeで何をやるのか 〜 自分に合ったコミュニティを見つけよう!

 

 「Second Life」(以下,SL)で活躍する,さまざまなプレイヤー達を紹介してきた本連載だが,最終回となる今回は,これからSLを新しく始めようとする人の視点で,「SLでいったい何をすればいいのか」を考えてみたい。

 

 これまでも述べてきたとおり,SLは,これといった目的が存在しないインターネット上の仮想世界だ。アカウントを作成してチュートリアルの島に降り立った瞬間からプレイヤーは自由で,最低限のノルマさえ与えられていない。現実世界と違って家族がいないので,一人立ちするまでに面倒を見てくれる人が欲しければ,自分自身で探さなければならない。オフィシャルによるヘルプ機能はあるが,それはあくまでも緊急用であり,プレイを逐一サポートしてくれるものではない。

 

連載第1回の画像と見比べてもらいたい。時間と曜日が違うので,Online Nowの人数は直接比較はできないが,Total Residents(総住人数:161万9235→283万603)とLogged In Last 60 Days(60日以内にログインした住人の数。64万7356→100万7488)の増加数が凄い

 筆者も最初,SLの世界がどういうものなのか,把握するのに時間がかかった。というより,今も完全には把握できていないといっていい。
 すべてを見て回ることは不可能なほど広い世界のため,WebやSL内の検索機能を頼りに,有名なスポットを探して,訪ねてみた。SL関連のサイトなどの情報を読んで,もの作りやスクリプトを試してみた。買い物もしてみた。3日くらいは,あてもなくさまよっていたと思う。その後,Togenkyoなどの日本人コミュニティに足を運ぶようになって,少しずつ知り合いを増やし,前回紹介したIkebukuroに土地を持つようになって今に至る。

 

 筆者の場合は,この連載の仕事があったから,その取材をきっかけに始まったコミュニケーションも多いのだが,そうでなくても,自分が見て興味を持ったコミュニティに顔を出し,参加しながら自分に合った場所を探す,というスタンスは同じだったと思う。
 「何ができるのかが分かるまでが最初の壁です」と言った知人がいたが,自分のイマジネーションを実現するのに,どういう手段や方法があるのかを学ぶまでが,一つの関門だと言っていい。そしてそこから,具体的にどう実行するかを試行錯誤しながら考え,一緒にやる仲間を見つけ,自分自身のスタイルを確立していく。それがSLの難しさでもあるが,醍醐味でもある。

 

 連載のこれまでの記事で,「SLって,なんとなく面白そう」「SLって,凄いことが起こっている世界なんだ」と少しでも感じていただけたとすれば幸いだ。だが実際に,自分が参加するとなると,とくに一人で始めようとする人にとってはつまずくこともあるかもしれない。

 

SLにアカウントを登録して,始めて降り立つ地点がここだ。数分のうちに何人ものアバターが新しくSLの世界に降り立ち,そして旅立っていく

 これまでの取材やいろいろな人達の会話を通して,SLを100%楽しむために一つ決定的に重要なものがあるとすれば,それは「出会い」なのだと感じた。これだけ広い世界なのだから,自分に合う活動は必ず存在するし,探せば見つかる。だからあとは,それと出会うだけなのだと。

 

 これから紹介するのは,どれも仲間を募集中のグループやコミュニティだ。やる気のある初心者を積極的に受け入れてくれるという意味で,日本人コミュニティの中で公的な役割を果たしてくれているところでもある。今まで紹介してきた人達と同じく,彼らもまた,「メタバースの挑戦者達」だ。
 これからSLを始める人,あるいはもうすでに始めているが自分に合った場所やグループが見つかっていないという人は,ぜひ参考にしてもらえたらと思う。

 

 

日本人コミュニティをつなぐ情報誌 SLID LINER

 

 まずは情報収集。Webを頼りにするのもいいが,SL内で最新のトピックを日本語で探すなら,ぴったりのものがある。SLID LINERだ。
 SL内の日本語情報誌として企画され,今年(2007年)の1月13日に創刊号が発行されたばかりという,できたての雑誌である。

 

SLID LINER創刊号の表紙。日本人の有志達が集って創刊された,無料の月刊誌だ

 内容は,SLの基本操作の説明から,有名アーティストへのインタビューまでさまざま。全76ページもあり,どのページにも熱がこもっていて面白い。執筆者はもちろん一般の日本人SLプレイヤーで,SLを始めて間もない人も多く執筆に携わっているという。

 

 主幹の一人であるLINZOO Ringoさんは,SLID LINERの目的を次のように語る。「日本人が増えてきて,だんだん1か所に集まれなくなってきました(※1)。そのため,相互理解も薄くなってきましたので,これは隔絶されたエリアをつなぐ何かがないとだめだと思ったのが始まりです。また,雑誌という形にすることによって,新人さんに対して,特定のエリアだけでなく,日本人コミュニティ全体を紹介できるメリットに気づいたのも理由の一つです」。
 つまり,既存のプレイヤー間でお互いにやっていることについて理解を深め合おうという趣旨と,新しく始めた人に対して,日本人コミュニティを幅広く紹介しようという趣旨の二つがあるというのだ。

 

LINZOO Ringoさんは,SLID LINERだけでなく,多くのイベントを企画/実行するいわばイベント・クリエイターだ。インタビューに使ったクラブAsukaにも,多くの人が集まる

 単に情報を掲載するだけであれば,Webのほうがまだまだ使い勝手がよいようにも思えるが,SLの中での雑誌という形にすることで実現可能な機能が,「付録」だ。本のページの中で「Present」と書かれた部分をクリックすると,読者がアイテムを受け取ることができる。
 それは特定の場所へと即座にテレポートできるカードであったり,洋服であったり,もしくは家であったりする。SLでは,雑誌から家を受け取るなどということすら簡単にできるのだ。その新しいメディアとしての可能性はまだまだ未知数だが,SLの利便性がWebを上回る時代が来ることさえも,LINZOOさんは予想しているという。

 

 SLID LINERは,クラブAsukaをはじめとするさまざまな場所で無料で配布されているので,詳しくは手にとって見てほしい。そして自分も書いてみたいと興味を持ったら,参加してみよう。書くテーマがまだ見つかっていなくても,やる気さえあれば,それを相談する段階から参加してくれてかまわないという。「Let's begin, you can do it!」(LINZOOさん)。

 

SLID LINERは,このようにHUD表示にして読むスタイルが一般的。このページは,LINZOOさん自身が執筆した企業SIMに関するレポート このページは,ほかの執筆者によるもの。ベテランから最近SLを始めた人まで,さまざまな人がさまざまな分野で執筆に参加している

 

 

一般のプレイヤーも参加するメタバース専門企業 Metabirds

 

 Metabirdsは,日本人プレイヤーNao Noeさんが2006年6月に創業した(現実世界の日本の)株式会社だ。事業の対象はメタバース全般だが,現在はSLをメインに活動している。
 事業の柱は二つで,一つはほかの企業からの受託による開発の請負/サポート,もう一つはMetabirds独自のSIM運営によるビジネスだ。最近,日本でも企業のSLへの進出が少しずつ増えてきているが,Metabirdsはその中でも先行して事業を展開しており,存在感が大きな企業の一つである。

 

Metabirdsは,SLを熟知した人達が中心になって運営していて,ビジネスを前面に出しつつも,一般のプレイヤーの協力や支持を受けながら発展している

 一般のプレイヤーに関係する事業内容を,二つ紹介しよう。一つは,ショッピングモールだ。ここは日本人のクリエイターを中心に商品を募集していて,簡単な審査の後,モールの一角を借りて商品を販売できる。自分自身のお店を持つのももちろんいいが,こうしたショッピングモールは集客力が高いため,多くの人に商品を見てもらいやすいという点でおすすめだ。
 もう一つは,ビギナーセンター。「SLを始めたばかりの方が,チュートリアル島を出てそのあとさまようことが多いみたいですよね。その方達がとりあえずここまでたどり着いてくれたら,操作方法や名所を教えあったり,友達を作れたりする,そういう場所にしたいです」(Nao Noeさん)。そのほかにも,初心者向けの企画をいくつか案出中で,日本時間夜のピークタイムには,スタッフを常駐させて質問や相談を受けられるように考えているという。

 

MetabirdsのSIM内にある,有名な日本人デザイナーのお店。このように,新しくお店を持つ人に土地を提供するのも事業の一つだ

 なおMetabirdsでは,スタッフや,協力してくれる人を募集している。街造りの手伝い,看板作り,お客さんや訪問者への対応などが主な役割とのことだ。こちらも興味があったら,応募してみてはどうだろうか。

 

「企業の人にしても,一般の人にしても,まずは自分自身が好きなことや,興味を持てそうなことを探すところから始めるのがいいと思います。例えばステキな服,雰囲気の良い街,仲良くなれそうな友達などです。そうすれば,少しずつSLの良さが分かってきて,ビジネスの観点でも,一般のプレイヤーが何を喜ぶかが分かってくると思いますよ」(Naoさん)。

 

メタモールと呼ばれるショッピングモール。この1号店はすでに全部埋まり,現在は2号店のテナントの募集をしている 近日オープン予定というビギナーセンター。初心者にとって,こういう場所は非常に心強い存在になることだろう

 

 

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 ZIPANGUは,Kage Blackthorneさんが所有/運営するプライベートSIMだ。2006年12月にできたばかりの新しいSIMで,まだまだ制作が始まったばかりだが,プロジェクトのコンセプトや内容は,ほかにはない新しいアイデアに満ちている。オーナーのKageさんにお話をうかがった。

 

「ここ数か月,SLの人口は急激に増えていますが,ビジネスのイメージばかりが先行していて,違和感を持っていました。SLにはそれだけではない,もっと新しい価値を生み出す可能性があるんじゃないか,だからこそ,マーケットとしても魅力あるものになるのではないかと。そこで,SLの可能性を形で示そうと思ったのが,ZIPANGUを作ったきっかけです」(Kageさん)。

 

足元のグリッド・タイルが,ZIPANGUそのものだと語るKageさん。常に何かを求め,作り続けるSIMでありたいとの願いが込められている

 ZIPANGUのプロジェクトは大きく分けて二つからなる。
 一つはジャパニーズ・ランドスケープ・プロジェクトで,失われた日本の風景を再現していく中で,「忘れかけている日本的なもの」を訪問者に見いだしてもらおうというものだ。
 その象徴としてZIPANGUに建てられたのが,羅城門だ。芥川龍之介の小説「羅生門」で有名な羅城門は,平安時代に平安京の朱雀大路の南端に位置した,大きな門。980年に倒壊してからは再建されておらず,現在では実際に目にすることはできない。これをSL内で再建したのである。
「実際にその場所へ赴いて,その空間に身を置いて初めて見えてくることがあります。現実社会では資金面や技術的な問題など,さまざまな障害によって実現が困難な企画が,SLでは比較的容易に実現できるのです」(Kageさん)。

 

実物さながらの存在感を持つ羅城門。画像で見るだけでなく,こうして3Dで建設してみることで初めて気づくことがある

 確かに,SL内ではあるが,実際に羅城門をくぐることができるというのは素晴らしい体験である。擬似的にではあるが,実物大の迫力を体感できるのだ。Kageさんがこのとき,「この羅城門の2階に,どうやって上がるのでしょう? 階段もはしごもないということに,建築中に初めて気づきました。再現することで,初めて疑問として浮かび上がってくることの一つです」と語っていたのが印象深い。

 

 もう一つはSL日本語コミュニティセンターで,こちらは,プレイヤー同士が学びあったり,情報を交換しあったりする基盤になるような場所を作ろうというものだ。学校やサンドボックス,モールやバーといった,プレイヤー間のコミュニケーションに利用できるような場所が提供される予定となっている。

 

flandre Aferditaさんが統括するランドスケープ・プロジェクトでは,訪問した人の物作りの欲求を喚起したいというのが,一つのテーマだ。家の建物だけができていて,家具など小物類が設置されていないのも,それが理由だという 「クリエイターには始まりも終わりもないと考えています。喜ばしいことは,創作活動すべてを,仲間が見守っていることです。一人きりで行き詰まることはありません」とflandreさん。一緒に作る仲間や参加者を,随時募集中とのことだ

 

 

人でなし(?)のワクワク動物ランド FurryJapan

 

 これまでの記事では,ほとんど人間アバターばかりを取り上げてきた。だがSLでは,“Furry”と呼ばれる,獣人のアバターを使っているプレイヤーもかなりの数存在する。
 一般的にFurryとは,頭や外皮は動物だが,人間のように2足歩行をする知能の高いキャラクターのことをいう。犬や狐など実在の動物はもちろん,竜などの神話上の生物を使ったFurryもある。SL内でのFurryは,一つのアバターの形態としてポピュラーになっており,最初にアカウントを作成した時点で,インベントリの中にサンプルのFurryアバターが入っているほどである。

 

FurryJapanのマスター,Fakefurさんは,最近oinariという新しいSIMを購入した。あくまでの趣味の延長で,メンバーの中で土地をレンタルしてくれる人達と,共同でSIMを維持していきたいという

 Furryは,人間アバター達に混じって,共にSLでの活動を営んでいるが,その一方で独自のコミュニティを持ち,Furry独自の文化を作っているとも聞く。だがその実態は謎に包まれている(と筆者は思っている)ため,今回,日本のFurryコミュニティ「FurryJapan」を訪問してみた。

 

 Furry Japanは,Fakefur Okonomiさんがマスターを務める,日本最大のFurryグループだ。以前はTogenkyoの一角に土地を持っていたが,最近oinariという新しいSIMを購入し,そこをメインに活動するようになっている。Furryアバターをメインに使う人なら誰でも入会可能で,「SLを楽しむ」がモットーの楽しいグループだ。

 

 ここは人間アバターでもOKとのことだが,Furryが基本ということなので,筆者も用意してきたFurryアバターに着替えることにした。「着替える」という表現が適切なのかどうか分からないが,Furryのパーツを身に着ける。カワイイ系のウサギのFurryアバターだ。だがこのとき,「おいしそう」という声が聞こえた。何か嫌な予感がしたのは,言うまでもない。

 

人間アバターでも来ることは可能だが,Furryになったほうが存分に楽しめるだろう。だが,思い返せばこのあたりで怪しいと察知しておくべきだった 中央の湖の,上空700メートルに浮かぶ巨大な島。島全体が浮き上がって,跡地に湖ができたイメージとのことだ。ここは主にイベントスペースとして使われる

 

川底にメンバーの住居を発見。水中に存在するため,人間では住めないと思われる。半魚人(?)ならではの住居だ 個性豊かなFurry達に囲まれて,異世界のよう。FurryJapanの象徴である鳥居を中心に,記念写真を撮影した

 

 記念写真を撮り終わったあと,「ではこちらに来てください」と言われて行ってみると,そこには信じられないものが設置されていた。
 「このボールにSitです」。えっ? これって肉を焼くための焚き火なのではないだろうか。何かがおかしい。
 「今日,私がここに来た目的って……?」。訝しげに問いただす筆者に対して,「もちろん,食べられるためですよ」とFakefurさん。取材に来たつもりが,そうではなかったようだ。
 あっという間にグリルに縛り付けられてしまった。20匹にも達しようかという数のFurryが,舌なめずりをしている。

 

グリルで丸焼きにされる。肉食系のFurryばかりなのを最初疑問に思ったが,これで納得がいった

 

「さあどこから切り落とそうか」
「味付けどうしましょう?」
「犠牲者がまた一匹……」

 

焼かれた後,付けあわせとともに皿に盛られた筆者。この後の光景はちょっと掲載できない

 

 このあと,盛大な宴会が開かれたことは言うまでもない。

 

〜お知らせ〜
 ライターが食べられてしまったため(※2),本連載は今回をもって終了します。ご愛読ありがとうございました。

 

 

 ……と連載を締めようかと思ったのだが,一つ忘れものがあった。冒頭の「SLでいったい何をすればいいのか」という問いについて,筆者なりの,とりあえずの回答を示しておこうと思う。一言で言えば,「イマジネーションのわく限り,なんでも」ということになるが,そこには大きく分けて,二つのステップがあるだろう。それは,

 

(1)SLでどんなことができるのか,いろいろ見て触れて回り,試すことを通じてSLの世界について知るということ
(2)やりたいことが見つかったら,それを実現するための手段(スキル/土地など)や仲間を得るチャンスをつかむこと

 

である。
 どちらも簡単なことではないが,実現できたときには,非常にやりがいのある世界なのは間違いない。具体的な道筋については,各個人が見つけていくほかないと思うが,そのヒントになるようなものを,全8回の当連載の中に見いだしてもらえれば幸いだ。主にインタビューなどを通じて,SLの匠達が語った言葉の中には,そのヒントが多くちりばめられていると思うのである。

 

※1……一つのSIMに,一度に入れる人数には制限がある。標準では40人(最近では50人収容可能なSIMも登場)のため,ある程度の人の分散は必要条件だ。ちなみにTogenkyoというSIMは,最近,頻繁に満杯になっている。

 

※2……実際にはこのようなことは(たぶん)ないのでご安心を。FurryJapanの人達,もとい獣達はとても気さくで優しかった。

 

 

■■Sluta(ライター)■■
大学生兼ゲームライター。当連載の著者紹介欄で,何かと実生活が暴露されてきたSluta氏。普段はどういう生活をしているのか聞いてみたら,親友というN君の名前が出てきた。そのN君とは15年ものつきあいだそうで,夜な夜な,「マイクロソフト エイジ オブ エンパイアIII」や「カンパニー オブ ヒーローズ」などでマルチプレイを楽しんでいるとか。また,SL内の土地も共有しているそうなのだが,先日N君は,近所の住民に“Sluta氏の土地に勝手に入っている”として,注意されてしまったらしい。そこでN君が思いついたのは,“二人で写っている写真を土地の真ん中に飾っておく”というアイデア。……そこまですると“アヤシイ”ので,やめたほうがいいですよ。
タイトル Second Life
開発元 Linden Lab 発売元 Linden Lab
発売日 2007年内 価格 無料(ファーストベーシック)
 
動作環境 対応OS:Windows 2000(SP4)/XP(SP2),Pentium III 800MHz以上,メモリ256MB以上,Geforce 2(グラフィックスメモリ:32MB)以上,またはRadeon 8500(グラフィックスメモリ:32MB)以上,DSLまたはケーブルモデム,LAN(ダウンストリーム256kbps以上)

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