― 連載 ―

誰もがRPGを愛していた
英雄は普通の人より勇気があるのではなく,ただ5分間ほど長続きするだけである(ラルフ・ウォールド・エマソン)

Illustration by よりと

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 唐突だが,筆者には,布団に入った後やボーっとしているときなどについ,現実にありえない想像をして楽しんでしまう癖がある。少年時代からそうだったのだが,いわゆる「妄想癖」が服を着て歩いているような人間だった。こういうことは,ネット上という公の場で発表するようなことではなく,個人の密かな楽しみであるべきだと思うが,今回記事を執筆するにあたり,あえて言わせてもらった次第だ。ああ,恥ずかしい。
 ハズカシついでに,それがどんなタイプの妄想だったかも告白したいと思う。筆者が思い描く妄想は大抵,「正義のヒーローとして,地球征服を企てる巨大な悪の組織から地球を守る」的な物語だ。国産ヒーローも好きだが,アメコミをこよなく愛する筆者としては,スーパーマン,X-MEN(個人的にはウルヴァリン限定で),ファンタスティック・フォー(ヒューマントーチLOVE!),スパイダーマンなどになり切って,悪漢どもを格好良く懲らしめてやるのがお気に入り。なお,最近のマイブームは,懐かしのキャプテンアメリカだったりする。

 なぜ,いきなりヒーローの話から入ったといえば,(説明するまでもないが)今回ヒーローをテーマにしたRPG「Freedom Force」を取り上げることにしたからだ。
 実は,「誰もがRPGを愛していた」の記事を執筆することが決まり,どのゲームについて書くかを考えたとき,かなり悩んでしまった。というのも,国産/海外産問わず,PCゲームの黎明期から数多くのRPGで遊んできたつもりだし,正統派のファンタジーRPGにも,筆者の大好きなタイトルはたくさんあるからだ。
 だが,当連載のこれまでの流れから考えると,ここいらでちょっとばかり(いや,大幅に)趣向の違うゲームを取り上げてみるのもいいかもしれない。ファンタジーRPGのような,長年積み重ね上げられてきた“重み”のようなものはないけれど,誰もがストレートに楽しめる本作に,スポットライトを当ててやりたいと思ったのだ。

 正義のヒーローに対する憧れは,誰にでも多かれ少なかれあるのではないだろうか(なかったらごめんなさい)。そんなヒーローになりきり,世間の人々を苦しめるにっくきやつらを成敗する,至極痛快なRPG「Freedom Force」の魅力を,筆者なりに伝えてみたい。

 

Freedom Force

メーカー:Crave Entertainment

個性的なヒーロー達の能力を活用して悪を討つ

 Freedom Forceを端的に表せば,「特性の異なる最大4人のヒーローを操作し,それぞれのヒーローの特殊能力や必殺技を駆使して,街にはびこる悪者どもをやっつける,ミッションクリア型のRPG」ということになる。“ヒーローもの”だし,何かアクション性が高いゲームのようなイメージがあるかもしれないが,意外にそうでもない。それぞれのヒーローの特性を巧みに引き出し,効率良く敵を倒すための“戦略”が要求されるゲームなのだ(実際,戦闘の真っ最中でも好きなときにポーズできる)。
 ……などと書くと,何だか難しげで遊びづらいゲームのように思われるかもしれないが,実際はシンプルそのもの。敵を左クリックすれば攻撃し,地面をクリックすれば移動する。右クリックすると,対象に応じてショートカットメニューが現れ,このメニューから特殊能力や必殺技などのアクションが選択できる。キーボードをほとんど使わなくても操作できるので,とても遊びやすいのだ。

 

 

 ゲーム画面は3Dで描かれるが,ビビッドな色が多用されており,画面そのものがアメコミっぽく見える点が特徴的だ。効果音が「BOOM!」「SMACK!」といった文字でも表現されるところはコミックさながらで,アメコミヒーロー好きの人なら,あっという間にFreedom Forceの世界に没入できるだろう。

 

 ゲームを始めた直後は,「MINUTEMAN」というキャラクターのみを操作できる。彼は元々,普通の老人だったのだが,「Energy X」なる物質の力により,ムキムキボディと特殊能力を手に入れ,MINUTEMANとして人々のために立ち上がったという設定になっている。
 複数の敵をまとめてぶっ飛ばせる得意技「STRIKE FOR FREEDOM」をお見舞いするときには,「For freedom!」なんて叫んだりする。そして,彼のコスチュームもいかにもという感じで,愛国精神に溢れており,とってもアメリカンヒーローっぽくて,最高にイカしている。
 街灯,信号機を引っこ抜いて振り回したり,自動車を持ち上げて投げ飛ばしたりといった,ヒーローだからこそ許される(?)攻撃方法が用意されているのも嬉しい点だ。

 

 

 もちろん,登場するヒーローはMINUTEMANばかりではない。ミッションをクリアするにつれ,新しいヒーローが仲間に加わり,ゲームの終盤には,総勢14人の中から最大4人のヒーローを,ミッションの内容に応じて選び出し,操作することになる。

 この,登場するヒーロー達の多彩さは,Freedom Forceの大きな魅力の一つといえるだろう。アメコミファンなら見覚えがあるだろう風貌をした(でもどこか違う)コッテコテのヒーロー達。彼らは,それぞれに役に立つ特殊能力や強力な必殺技を持っている。ド派手なエフェクトとともにそれらのワザを炸裂させる様子は,爽快そのものだ。
 さらに,あらかじめ用意された多彩なボディ(どれも,“いかにも”な感じ)を選択して,それぞれの能力値を設定することにより,自分だけのヒーローが作れる。能力値の設定次第で,タイプがまったく異なるヒーローになるところが面白い。自分が考えたヒーローが悪者をやっつける姿が見られるなんて,筆者のような人間にとって,こんなに嬉しいことはない。
 なお,Freedom Force Modforceでは,ヒーローのスキンを作成するツールが提供されているので,がんばればヒーローの外見そのものも自分でデザインできる。

 

 

 ミッションをクリアすると,プレイぶりに応じてポイントがもらえるので,それを能力値に割り振ることによって,自分好みのヒーローに成長させられる。なお一般の人を傷つけたり,犠牲者を出してしまったりすると,ヒーローとしての名声が落ち,獲得できるポイントが減ってしまうので注意が必要だ。

 またそれぞれのミッションが,コミックの1話分みたいな扱いになっているのも面白い。例えば,あるミッションをクリアすると,「MINUTEMANの前に現れたこの男は敵か味方か,続きは次回のFreedom Forceで!」みたいな,それっぽく作られた威勢のいいメッセージが流れたりする。

 ここまで書いてきてあらためて感じたのだが,「アメコミをゲーム化する」ということに対する,開発者達の徹底したこだわりこそが,Freedom Forceの面白さの源になっているのだと思う。

 

ヒーロー稼業も楽じゃない。が,勝利の味は病み付きに……

 ヒーローとて万能ではない。
 Freedom Forceをプレイするまでは,コミックやテレビを通じて彼らを応援し,その活躍を眺めるだけで,よく考えもしなかった。しかし,実際に自分が悪者と対決してみると,ヒーローにもいろいろな苦労のあることが,身に染みて分かるものだ。
 例えば,敵を一撃でやっつける必殺技は,何度も続けて繰り出せるわけではない。Freedom Forceでは,ヒーローごとに,体力を示す「ヘルス」のほかに「エナジー」という属性を持っており,必殺技を繰り出すたびにそれが消費される仕組みになっている。もちろん,エナジーが足らなければ,必殺技は使えない。強力な必殺技ほど消費量が多いので,使いどころをよく考えないと,逆に苦境に立たされる結果になる。

 そういった苦労も,「仲間」がいれば乗り切れるというもの。4人のヒーローがそれぞれの能力を発揮して力を合わせることで,想像以上の効果を生み出せる。自分の狙いどおりに“コンビネーション”が決まったときの気持ち良さといったら,格別だ。

 

 ヒーロー稼業は楽じゃない。だが苦労を乗り越えて,「人々を守る」という大きなミッションを完遂したとき,日常生活ではなかなか味わえない(かもしれない)大きなカタルシスが得られることだろう。
 当連載でこれまでに取り上げてきたファンタジーRPGとは違って,Freedom Forceの背景には,深みのある「作品世界」は存在しない。さまざまな特徴,思想,文化を持った多数の種族がいて,それらが複雑な関係を織り成している……ファンタジーの場合,そんな世界がベースにあることが,何よりも求められるだろう。
 しかしFreedom Forceの根幹に流れる思想は「勧善懲悪」,そう,良い者と悪い者がいて,最終的には必ず良い者が勝つというアレだ。基本的に,この思想をベースとするアメコミヒーローのゲームなんだから,当然ではある。

 そんなわけでFreedom Forceは,ある意味ファンタジーとは対極にあるゲームだといえるだろう。とっても真っ正直で,分かりやすい。シンプルだから,難しいことは何も考えず,開発者達がふんだんに盛り込んだ“エンターテイメント”の数々を,心から楽しめばいいのだと思う。

 

■■山(4Gamer編集部)■■
2005年12月に編集部に入ったばかりの新人でありながら,何かと器用なために,早速大量の仕事を押しつけられている不憫な編集者。彼はかなりの酒豪との噂で,昨年末に行われた忘年会では,小学校で食いしん坊の子の机に牛乳瓶が集まってくるがごとく,余ったアルコール類が彼の前にどんどん集められていた。さぞかし嬉しかったことだろう……たぶん。
タイトル Freedom Force
開発元 Irrational Games 発売元 Crave Entertainment
発売日 2002/03/25 価格 未定
 
動作環境 N/A

(c)2002 Irrational Games LLC. All rights reserved.


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http://www.4gamer.net/weekly/rpg/008/rpg_008.shtml