ゲーム開始時のムービーシーン。随所にあるムービーも読み込みが発生せず,シームレスに挿入される
歴史的勇者の子孫である青年が,華やかな王宮で王様から「悪の魔王を倒せ」との命を受けて旅立つ……といった“選ばれし者”的なRPGとは違い,本作の主人公は,最初はごく普通の農業従事者である。なんと本作は,主人公が畑を耕しているシーンから始まるのだ。
しかし突然,クラッグ(モンスター)が襲いかかってくる。最初のうちは農具を武器に戦い,小雨が降りしきる薄暗い森の中を進んで,隣家の様子を見に行くと……と,徐々に物語に巻き込まれていく。
さらに冒険が進むと,パーティメンバーとして雇い入れられるキャラクター達と出会う。最大8人(荷物運び用のラバ含む)という制限の中でなら,パーティメンバーは自由に入れ替え可能だ。なんと,プレイヤーが最初にキャラメイクした農家の若者さえ,パーティから外せるのである。
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“荷運びラバ”の購入シーン。ラバはパーティメンバーとしてカウントされるが,多くの荷物を運ぶことができる |
旅の仲間を加えようとしているシーン。人を雇うにはコストもかかるので,パーティの戦力バランスを考えて,戦士タイプを採用するのか魔術師タイプを採用するのかをよく考えよう |
ゲームとしてのボリュームは申し分なく,シングルプレイだけでも,プレイ時間が20〜30時間,またはこれ以上になるのが当たり前で,物語の舞台「エッブ王国」を隅々まで探索することになる。そのうえ,マルチプレイ用にはまた別のマップ/シナリオが用意されているのだ。
広大な世界には,忘れ去られた古代遺跡,悪臭が漂ってきそうな沼地,凍てつくような氷窟,灼熱の大砂漠など,多種多様なダンジョンが待ち構えている。ダンジョンを抜ければ景観がガラリと変わるので,飽きずにプレイできる点はありがたい。
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沼地での戦闘風景。泥沼に入ると敵が集団で襲ってくるので,注意が必要だ |
氷のダンジョンにて。冷気属性を持つ敵の攻撃には,キャラを凍結させる補助効果があることも |
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地下聖堂での戦闘。独特の雰囲気が漂うダンジョンには,さまざまな罠や仕掛けが |
地下聖堂でのボス戦。ライフの減りが早いので,無理をせず逃げるのも立派な戦法である |
マルチプレイは,LAN,インターネット(IP入力),もしくはZoneMatchというマッチメイキングシステムを使って,8人まで楽しめる。前述のように,マルチプレイには「ウトラエアン半島」という専用マップが用意されているが,「エッブ王国」を楽しむことも可能だ。
シングルプレイで育てたキャラクターの持ち込み(インポート)も可能なので(逆は不可),まずはシングルを楽しみ,そのキャラをそのまま利用してマルチを楽しむという遊び方が一般的だろう。
システム的には,とにかく親切設計なのが特徴だ。
- ワンキーで落ちているアイテムをすべて拾える
- ワンキーでパーティ全員がポーションを飲む
- ポーションは1回の使用では全部飲み干さず,必要な分だけ消費する
- ローディングは起動時のみで,あとは読み込みで待たされることがない
などなど,ユーザビリティの高さは枚挙にいとまがない。
また,本作のシナリオ(ストーリーだけでなく,マップやモンスター,アイテムなども含め)を,プレイヤーが自由に構築できる「Siege Editor」も無償で配布されている(英語版のみ&サポート対象外だが)ので,ゲームをクリアしたら,次はクリエイターの立場となって,オリジナルのマップを公開するのも面白いかもしれない。
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マルチプレイでのキャラクター選択画面。新しくキャラを作ることも,シングルプレイで作ったキャラをインポートすることも可能 |
マルチプレイヤー(ウトラエアン半島)にある「バシリカ」では,一定レベルに達していればハブを使って好きな街へ飛べる
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日本において,初代ダンジョン シージは2002年の5月に発売された。その後,2004年の1月に拡張パック「マイクロソフト ダンジョン シージ 拡張パック:アランナの伝説」が,2005年には現時点での最新作である「マイクロソフト ダンジョン シージ 2」が発売されている。
また開発元のGas Powered Gamesは,2006年の早い時期に,Dungeon Siege 2(英語版)の拡張パックに関する情報を発表すると明らかにしており,注目されている。
さて,初代ダンジョン シージは,日本のマイクロソフトにとって当時は未知の領域であったRPGというジャンルながら,エイジシリーズや,フライト シミュレータシリーズに負けず劣らず,大ヒット作となった。これには,多くのゲーマーが親しんだ「Diablo」(当連載の第6回を参照)の面影があり馴染みやすいことや,「Total Annihilation」で一躍有名になったChris Taylor氏が手がけていることなど,いくつか理由が考えられる。しかし筆者の思う最大の理由は,本作に“華”があることである。
インベントリは,Diabloの改造版という感じ。装備品を実際に装着したときにキャラクターの外観を確認できるのが楽しい
人によって意見はさまざまかと思われるが,RPGの華といえば,一般的にはやはり“戦闘”ではないだろうか。本作においてもそれは例外ではなく,(ド派手で華やかな)戦闘シーンを中心に物語が進み,戦わずして先に進むことはできない。
ただし本作における戦闘は至ってシンプルで,左クリックで移動先/攻撃目標を定め,戦闘が開始されれば,ほかの指示を出すまで,どちらか(ターゲットした敵/味方パーティ全員)が倒れるまで“全自動”で戦い続けてくれる。いうなれば,Diabloの戦闘システムをさらに簡略化/自動化したという感じだ。
これは,よくいえば「簡単操作で,じっくりと戦況を見極められる」のだが,悪くいえば「放っておいても勝手に戦っているから,アクション性は低く,退屈なことが多い」。ただし常に退屈かというとそうでもなく,物語が進むにつれて,使用武器(魔法)の選択や,回復ポーションを飲ませるなど,徐々にプレイヤーが行う作業が多くなってくる。
より効率的に戦闘で勝利を収めるためにも,敵によって戦闘方法を変えたり,キャラクターの使う武器を変更したりして,自分なりの戦い方を見出す必要があるのだ。
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生命の祭壇上での戦闘。ライフの回復量が早まるので,有利に戦える |
洞窟内に住み着いていた熊との一戦。動きの遅い敵には,弓や魔法などの遠隔攻撃が有効だ |
もう一つの本作の華といえば,その(当時としては)美しい3D世界だ。中世ヨーロッパをイメージして作られたという世界は,小さなネズミから巨大な建物まで,すべてが3Dで表現されている。2002年のグラフィックスエンジンながら,ダンジョン シージ 2でもその改良版が使われているほどで,今でもそれほど見劣りしない。
雪道での襲撃。ヒラヒラと舞い降る雪が,極寒のダンジョンを演出している(雪以外にも,雨や雷といった環境エフェクトが用意されている)
本作における戦闘とグラフィックスについて簡単に説明したが,これら二つを合わせたモノが,筆者にとって,本作中の最大の“華”である。
つまり,「激しい戦闘」と「美しいグラフィックス」,この二つのコントラストがよく出来ており,背景の3Dは臨場感を出すと同時に,戦闘の緊迫感を助長しているといった具合である。
美しい景色を背景に,あるキャラクターは魔法で,またあるキャラクターは武器で激しい戦闘を繰り広げる……。戦闘のスクリーンエフェクトと3Dの美しい景観が相まって,なんともいえない幻想的な画を作り出すことすらある。これはまさに,プロモーションムービーにあったとおり,「もう一つの現実」と言えるのではないだろうか。
雨や雪の演出,海辺で戯れるカモメ,主人公から逃げ回るニワトリ………。それらすべてが世界を構成する一員として,動きが加えられている。中盤〜終盤にかけてはとくに目を見張る景観が多いので,未見の人はぜひ見ていただきたい。
付け加えるならば,そこで聞こえてくるBGMも,実に秀逸だ。EAXの3Dポジショナルサウンドをサポートしており,臨場感は抜群。また場面が変わるとスムースに曲も変わるため,ゲーム全体のシームレス設計と相まって,テンションを維持したまま延々とプレイを続けられるのである。
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建物の屋上での戦闘。地上までの距離感もあり,迫力の戦闘を行える |
広大な砂漠で一人たたずむ……。この砂漠のどこかに,忘れ去られた古代の遺跡が眠っている |
ただ,これだけ“戦うことの面白さ”を全面に演出しておきながら,肝心のシナリオでは,物語性があまり重要視されてない点は非常に残念だ。
街の人の会話や,しばしばアイテムとして手に入る本などをよく読み,その知識を頭の中に叩き込むことで,バックストーリーを味わうこともできなくはないが,先を急いでガツガツとプレイしていると,いつの間にかシナリオの存在を忘れかけることすらある。
世界のあらゆる場所にある書物。シナリオを存分に楽しみたい人は,ぜひ読んでおくことをお勧めする
物語性を増すことで,戦闘を楽しむと同時にシナリオ展開を謳歌できるようになったのがダンジョン シージ 2なわけだが,初代のほうも,パーティ全員の共通した目的や設定(例えば,全員がボスに恨みを持っているなど)があれば,より楽しめただろう。
RPGのお約束である“一本道シナリオ”の長所を生かし,もう少しシナリオ面に力を注いでほしかったところだ。
初代をプレイせずに,最新作のダンジョン シージ 2をプレイした人も多いかと思う。最新作は,機能面/シナリオ面共に,初代よりもレベルアップしていることは間違いない。
だが,今回紹介した初代作においても,RPG本来の“面白さ”や“やりがい”は,十分に感じ取っていただけると思う。
本作を経験せずに最新作にハマった人はもちろん,ダンジョン シージシリーズをまったくプレイしたことがない人にも,ぜひ一度初代ダンジョン シージの世界に触れてみてほしい。先に紹介した魅力(華)以外にも,プレイする人の感受性に応じた,自分なりの華を見つけられるはずだ。