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― 連載 ―

誰もがRPGを愛していた
真の美というものは,真の知恵と同じく,大変簡明で誰にでも分かりやすいものだ(マクシム・ゴーリキー)

Illustration by よりと

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 筆者は1960年代の生まれで,4Gamerの編集者やライターなど関係者の中でも一,二を争うおじさんゲーマーなのだが,人間年をとってくると,だんだんとシンプルなものが好きになるようだ。
 例えば,筆者は車の運転や車そのものが好きでよく乗り回しているのだが,昔はシートカバーに凝ってみたり,ステッカーを張ってみたりして車を飾っていた。ところが最近は,運転そのものやメカニズムに関係したもの以外何も車に付けたくないし,置いておきたくもなくなってきた。
 また,今でもよくエレキギターでロックを演奏したりもしているが,以前のように1小節の中にぎっしりと音符を埋めるようなプレイはしなくなってきた。
 こういう状況を,世間では“枯れる”などと呼んで,渋みが増してきたと持ち上げる半面,暗におじさん臭くなったと揶揄しているようだ。若い頃は,自分がそのような枯れた心境になるなどとは夢にも思わなかったので,半ば軽蔑していたようなところもあったが,いざそういう境地に差し掛かってみると,ちょっと複雑な気分ではある。
 また,肉体的に枯れるのは,やはりしんどい。駅の階段の上り下りなどで,明らかに体力が落ちていることを実感できるし,いつの間にかお腹も出てきた。
 そこで最近,腹筋運動やスクワットなどといった,ちょっとした筋トレを始めたのだが,昔は500回くらいできた腹筋運動が,いまでは100回がやっとという状況にあらためて愕然としてしまった……,やっぱり枯れたくはないものである。

 精神的な“枯れ”に話を戻すと,こちらはもう,鍛えるものでもないし,このままいくしかなさそうだ。ゲームの趣味も目に見えて変わってきており,最近は余計な装飾のない,シンプルなものを好む傾向にある。
 シンプルなRPGの極地といえば,三つのタイトルが思い浮かぶ。「Rogue」(ローグ),「Wizardry」(ウィザードリィ),そして「Diablo」(ディアブロ)だ。

 

Diablo

メーカー:Blizzard Entertainment

復活した魔王を倒すべく,たった一人で戦いを挑む

さすがにグラフィックスは見劣りするが,今プレイしても十分に楽しめる。ライフサイクルがどんどん短くなるゲームの世界で,10年も前の作品が楽しめるというのは驚異的だ

 Diabloとは,主人公がたった一人でダンジョンに潜り(もちろんマルチプレイではその限りではないが),さまざまなクリーチャーと戦いながら最下層で待ち構える魔界の王“Diablo”を倒すというアクションRPGだ。

 1996年にアメリカで発売されるや否や,あっというまにトップセールスを記録し,やがて日本でも口コミでじわじわと広がっていった。
 当時,海外通販は今ほど盛んではなく,ましてや当初は日本で正式に発売されておらず,秋葉原などのごく限られた輸入ゲーム取り扱いショップに並ぶだけであった。つまり,入手が非常に困難だったのだ。しかし,PCゲーム情報雑誌などで大きく取り上げられたこともあり,日本でもかなりのセールスを記録した。
 その後,ソースネクストから日本語マニュアル付き英語版という形で正式発売され,多くのゲーマーの手に渡るようになり(日本語化されていないタイトルで,日本のソフトランキングの1位に輝いたのは,このDiabloが最初だったと記憶している),やがてプレイステーションで日本語版が発売されている。

 

ダンジョン地下2Fのボス「The Butcher」。多くのDiabloプレイヤーが,一度はこいつに殺されたはず……

 ゲームスタイルとしては,キャラクターを斜め上から見下ろした三人称視点で,地面を左クリックするとキャラクターは移動し,敵を左クリックすると剣を振ったり,魔法を放ったりする。オートアタックなどはないため,倒すまでひたすら敵をクリックしなければならず,当時筆者は腱鞘炎に近い状態にまでなってしまった(それでもプレイはやめなかったが)。
 ……と書くと,Diabloをよく知らない人は,「実にオーソドックス」と思うかもしれないが,この手のRPGのことを「Diablo風」と表現することもあるように,本作がこのスタイルを確立したのである。

 

 プレイヤーキャラクターは,近接攻撃で突進するWarrior(男),体力は低いながら凄まじいまでの魔法の威力を誇るSorcerer(男),弓を使った遠距離攻撃が得意なRogue(女)の3種類のみと,いたってシンプルである。
 用意されているロケーションも,ダンジョン以外は,体力の回復やアイテムの鑑定,売買などができる村が一つあるのみで,登場するNPCは10名に満たない。プレイヤーがすることといえば,村で装備を固め,ダンジョンに潜ってはモンスターと戦い,アイテムが持ちきれなくなったり,ポーションが切れてしまったり,そして死んだりしたときなどに村まで戻って体勢を整え,再びダンジョンに向かう……と,単純そのものだ。
 最近のRPGでは当たり前となった,“豊富なクエスト”というのも存在しない。メインストーリーに関連したクエストがポツリポツリとある程度で,ストーリーでプレイヤーを惹きつけるという要素は少ないといえるだろう。

 

ダンジョン地下3Fのボス「The Skeleton King」。The Butcherのインパクトが強すぎて,あまり印象に残らないかも 地下14Fを守るボスの「Arch-Bishop Lazarus」。こいつを倒せば,いよいよ最下層で待つDiabloとの対決だ

 

Sorcererが操る多彩な魔法は,どれもが凄まじいダメージを叩き出す。だがその分体力が低いので,うかうかしているとあっさりと死んでしまう
眠くても,疲れていてもやめられなかった,恐ろしいほどの中毒性

 このように,基本は非常にシンプルながら,そこに強い中毒性を秘めているのがDiabloだ。

画面中央の,赤くてひときわ大きいモンスターが魔王Diabloだ。さすがに攻撃力/体力ともに高く,とくに画面内の敵すべてを攻撃する“Apocalypse”の魔法を使ってくるのは脅威だ

 その理由はいくつか挙げられる。例えば,ダンジョンの構造がランダムで生成されるようになっているので,繰り返し遊んでも新鮮な気持ちでプレイできるのだ。
 またキャラクターが死んでしまうと,装備しているアイテムやお金など,持っているすべてをその場所にぶちまけてしまう非情ともいえる設定も,中毒性を高めるのに一役買っている。
 死んでしまった場合は,村から再スタートができるのだが,キャラクター自体はそのまま(経験値をロスしたりはしない)であるものの,裸一貫の状態になってしまっている。せっかく貯めたお金や,やっと見つけた貴重な武器や防具などは,すべて薄暗いダンジョンの中に残されており,ダンジョン内の状態が保存されないマルチプレイモードの場合では,このままゲームを終了すると,落としたアイテムなどすべてを失ってしまうのだ。
 したがってプレイヤーは,非常な危険を冒しながらも,アイテムの回収に向かわねばならない。ろくな装備がない状態で,一度死んだ場所へ向かうわけで,その緊張感は今プレイしてもかなりのものだ。

 

Battle.netでは,さすがにもうDiabloで接続している人はいなかったが,Diablo IIのプレイヤーはチラホラと見かけた

 そして,倒したモンスターなどから入手できるアイテムの性能が,毎回ランダムで変わるようになっているのだが,これこそがDiabloの中毒性の最たる理由だろう。
 アイテム名の前と後ろに修飾詞がつくことで,アイテムの性能が変わるようになっており,その組み合わせが実に多い。ごくまれには,前後に強力な修飾詞がついたアイテムを見つけることがあり,世界中のゲーマーが,そういった最高の性能を持ったアイテムを探して日夜ダンジョンに潜ったのだ。
 ところで,このアイテム名の前後の修飾詞によって,その性能が変わるというスタイルは現在でもRPGで見かけるが,これまた(昔からちらほら見受けられたが)Diabloで確立されたといっても過言ではない。

 

赤い魔方陣は,ダンジョン最下層に通じる入り口となっている。ここを潜ると,もはや魔法以外で村に帰ることはできない

骨のような形のレバーを引いていき,最終的にDiabloの部屋の入り口を開けることとなる。地獄の門が,今まさに開く

 もちろん,マルチプレイが実に楽しいのも,本作の中毒性を高めている。マルチプレイでは,4人までのプレイヤーが協力しながら進めていくことになる。また,ほかのプレイヤーキャラクターへの攻撃も可能で,プレイヤー同士が了解の下に戦い合うデュエル(PvP)や,相手の了解を得ない一方的な殺戮(PK)もよく行われていた(余談だが,PKという概念を,Diabloで覚えた人も少なくないだろう)。
 マルチプレイをするために,Blizzard Entertainmentが用意しているロビーサーバー「Battle.net」に接続すると,いくつものチャットルームができていて,(当時は)日本で正式に発売されていない,しかも英語版のゲームであるにもかかわらず,毎日それは大勢の日本人プレイヤーが集まって,「昨日,hell/hell(注1)で裸で戦っているやつを見たよ。確実にチーター(注2)だろうけど」とか,「知らない外人とプレイしていたら,MPK(注3)されて最悪だった」などといった会話が,ローマ字チャットで延々と続いていたものだ。
 Diabloは,オフラインの状態でもマルチプレイ用キャラクターを使うことができたので,多くのプレイヤーは,オフラインでせっせとレベルを上げたキャラクターを持ち込んでは,ほかのプレイヤーと楽しんでいた。

 

 シンプルゆえに,いつまでも飽きずに続けられるゲーム性。絶対に死ぬことが許されないという緊張感。プレイヤーの収集癖をくすぐる,無限ともいえるほどの組み合わせを持つアイテムなど,Diabloには,ゲームとしての面白さが詰まっている。
 ここ数年,RPGに限らずゲームはどんどん肥大化してきている。マップの広さが何百平方キロメートルだとか,サブクエストが何千個あるとか,スキルの組み合わせが何十通りだとかいうのもいいが,そんなものが一つもないのに,あれほど世界中のゲーマーを熱狂させたDiabloを,ゲームクリエイターはもう一度見直してもらいたいと思う。そろそろ原点に立ち返って,本当に面白いと思えるゲームを創造してもらいたい。

 

血を噴き出し,断末魔の苦悶を見せるDiablo。さしもの魔王も,百戦錬磨の冒険者にはかなわず,その巨体は崩れ落ちた。だが最後には,衝撃の結末がプレイヤーを待っている。Diabloの恐怖は,まだ続くのだ

 

 最後に,本作の入手方法についてお伝えしておこう。そう,まだ手に入るのだ。
 ソースネクストから発売されていた国内向け版こそ販売/サポートが終了しているが,海外では今でも流通している。そのため,例えば欧米の通販サイトを利用することで,購入可能だ。ただ,当然多少の英語力は必要だし,また日本への発送を行っていないことも多いので,よほど英語力に自信がある人以外は,国内の輸入通販サイトを利用するのが無難だろう。
 Diablo単体で売っていることもあるようだが,シリーズ未体験者なら,続編の「Diablo II」とその拡張パック「Diablo II: Lord of Destruction」をワンパッケージにした「Diablo Battlechest」という製品がお勧め(4Gamerでもしばしば入荷情報を載せるGDEX Online Game Storeでは,税込み7329円。Macintosh版となっているが,これはハイブリッド版であり,Windowsでもプレイ可能)。Diabloのすべてを体験できるので,これから購入しようかという人には,最も手軽&お買い得なパッケージといえるだろう。

 

注1……Diabloでは,マルチプレイモードで一度クリアすると,一つ上の難度でゲームを開始できるようになる。難度は全部で3段階あり,最高難度がHellだ。Hellの難度における,ダンジョンの最下層にあるHellステージ,つまりDiabloで最も敵の強い(=最も良いアイテムが手に入る可能性が高い)ステージを,hell/hellと呼ぶ

注2……ゲームデータを不正に改変することをチートと呼ぶ。チーターとは,チートを使用しているプレイヤーのこと。今ではよく聞く言葉だが,その存在がオンラインゲームで大きな問題になったのは,このDiabloが最初であると言っていいだろう

注3……プレイヤーキャラクター同士が戦った場合,死んでもアイテムなどをばらまくことはない。MPKというのは,大量のモンスターを引っ張ってきて,ほかのプレイヤーキャラクターを殺させるというもの。この場合は当然アイテムを落とすため,盗み放題となる。やられるとえらく腹が立つ

■■朝倉哲也(ゲームライター)■■
今回の原稿で,そのおじさんっぷり(腹筋100回できれば十分な気もするが)を明らかにした朝倉氏だが,連載第3回の著者紹介にもあったように,その生活は,なかなかに“ロック”だ。先日,目覚めたときから頭痛があった朝倉氏は,ふと,「こんなに気分の悪いときは,ロックだ」と思ったという。そして,それから数時間にわたってエレキギターを弾いていたとか。頭痛をロックで治すおじさんゲーマーなんて,この日本に,ほかにどれだけいるのだろうか。


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http://www.4gamer.net/weekly/rpg/006/rpg_006.shtml