連載:ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大・・・戦?


ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大・・・戦?

第8回 ゼア ファイネスト アワー:イギリス

 

 この記事をお読みの方であればおそらく,第二次世界大戦の西部戦線がどのように展開していったか,大まかなところは押さえていることと思う。ドイツのポーランド侵攻があって,次にノルウェーとデンマークが踏み潰されて,しかるのちにベネルクス3国を経由してのフランス侵攻が始まるという序盤の流れは,あらためて説明するまでもないだろう。
 この流れをどこまで阻害できるかについては,以前の連載でもポーランドとフランスで検討した。これらの国は直接ドイツの侵攻を受ける立場なので,「ただひたすら耐える」ことだけを前提とするなら,例えば大要塞を建設するといった分かりやすい手法が中心になる。また,軍事力の基幹である陸軍が直接ドイツ軍と激突するため,ドイツ軍と戦うことを前提とした陸軍を,編成やドクトリンの面で追求したり,戦いやすい地形に敵を誘導したりといった手法も可能だった。いや,どこまで効を奏するかはさておき。

 その一方で,連合国の盟主たるイギリスは,開戦と同時にドイツ軍の侵攻を受ける立場にない。これはイギリスの絶対的な優位であると同時に,自力で直接,戦線のすべてをコーディネートできないというデメリットでもある。史実においてもイギリス軍は,ダンケルクから史上最大の脱出をしたあと,ノルマンディで史上最大の上陸作戦を行うまで,欧州地域で自前の戦線は持ち得なかった……いや,ノルマンディ後とてアメリカ軍の戦線だろうという指摘はあり得るが,ここでは議論しないことにしよう。
 ではイギリスは本当に,史実でドイツに占領されたすべての国が負けるのを所与の条件として,アメリカの参戦を待ってから反攻に転ずるほかないのだろうか? 試してみることにしよう。

 

政府首班にIC−5%のペナルティ。かなり困りものではあるが,実は最終的に首相になるチャーチルとて,すべてプラスの能力というわけではない ゲーム開始直後にジョージ5世が崩御,次の王位についたエドワード8世がたいへんに困った性能。さすがにこのまま戦争するのはかなり苦しい

 

戦時体制への移行イベント。ドイツの対外拡張に伴い次々に発生していく。平時ペナルティの解消もありがたいが,労働力+15もなかなか素晴らしい そしてこちらが平時ペナルティ。大臣による修正−15%というのもかなり痛々しい数値だ。民主主義勢力の代表だけに戦時体制に移行するまではこんな調子

 

この連載は,第二次世界大戦あるいはその後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。

 

 

圧倒的な制海権と経済力,乏しい兵役資源

 

同じくゲーム開始時のイギリスの海軍力。空母6隻,戦艦12隻。中には旧式化しすぎていて戦力というには苦しいものもあるが,ドイツ海軍に負けることはない

イギリスの広さが分かる一コマ。マレー半島もイギリス領である。本格的な戦争が始まったら,このすべてを防衛しなくてはならない

 第二次世界大戦のイギリスにとっての戦略オプションというと,どうしても上で述べたようなヒストリカルな枠組みに縛られがちだが,実は本作において,イギリスが採れる政策は非常に広範なものだ。だがその可能性を検討する前に,まずイギリスの優位点と弱点を把握しておかねばならない。
 イギリスの優位点は,大きく分けて二つある。最大の利点は,ドイツが非常に近くにあるにもかかわらず,ドイツと戦争になったときにドイツ陸軍の直接侵攻を受けないということ。制海権はイギリスにあるため,極論すれば欧州西部における陸上戦闘の戦略的イニシアティヴを握っているのはイギリスである。可能性だけでいえば,イギリスはドイツのポーランド宣戦に呼応して,ドイツのキール軍港地域に上陸することすら可能なのだ。
 技術開発スタッフの充実も優位点である。さすがにドイツ,アメリカには及ばないとはいえ,英連邦諸国+フランスという広範囲で行われる青写真交換大会は,技術ツリーの進捗を全体的に速めてくれる。
 それに対して,弱点は三つある。一番厳しい問題は,イギリス領の広大さである。アフリカはスエズさえ守っていればよいと割り切ったとしても,ゲームルール上の中核州としてイギリスのICを支えるインドは“絶対国防圏”だし,枢軸側が大進撃をしてきた場合は石油産出国である中東の防衛が重大な課題となる。

 ところがこの広大な領土に対し,展開するイギリス軍はたいへん心許ない。海軍は世界でもトップクラスの充実ぶりだが,陸上戦力に関しては広さと規模がまったく見合っていない状態だ。だからといって陸軍を大増産しようにも,ゲーム開始時の労働力は2ケタ,ICにも重い平時ペナルティがかかっている。つまり,陸軍の貧弱さと兵役資源の乏しさ,そしてICにかかる重い平時ペナルティが,それぞれ2番め,3番めの困難というわけだ。

 

ゲーム開始時のイギリスの技術開発状況。海軍技術の高さが際立っている。なぜか戦略爆撃機だけ研究が完了していたりするのがお茶目だ。空軍ドクトリンも戦略爆撃関連だけ先に進んでいる

 

 

実は選択肢の多い,連合国の盟主

 

日英同盟を組めば中国侵攻も可能。全力を投じて素早く併合してしまってもよいし,適当なところで和平に応じるのも手だ。ちなみにこの状態で対独戦が始まると,日本の援軍がヨーロッパに上陸したりする

 さて,上記を念頭に置きつつ,例えばイギリスに何ができるのかを考えてみよう。
 実のところこのゲームのイギリスは,多少の外交的努力で日本を連合国に引き込める。リットン調査団はどうしたのよ? とか聞かれると困るが,近代史の分野では近年,日本の国際連盟脱退が,外交のフリーハンド(倫理的な意味合いをかなぐり捨てて,大国と汚い取り引きをする機会)になり得たはずという認識が,有力になりつつある。イギリス側から手を差し伸べようものなら,国際的な孤立を恐れていた日本はホイホイついてくるだろうという見解も,あながち的はずれではないのだ。

 

 ともあれ,このゲームの日本はやがて勝手に日中戦争を始める。そして驚くべきことに,これが日本を含む連合国と,中国統一戦線との戦争になるので,イギリスはその尻馬に乗って,ICの平時ペナルティを解消できてしまうのだ。
 戦争勃発により労働力の増加が落ち込むものの,「ドゥームズデイ」において戦闘部隊は,資源・物資・資金で他国から購入することすら可能だ。そうでなくても日中戦争開始までの間に労働力の自然増があるので,十分な規模の軍隊を編成できる。平時ペナルティが解消されれば,イギリスはその時点で世界有数の工業国に変身するので,好き放題が可能というわけだ。
 もっとも,この日英同盟締結プレイの場合,ポーランド侵攻までに日中戦争を終結させ,連合国の戦争状態を解除したうえで,日本を連合国から追放しておく必要がある(ルール上,平時でないと軍事同盟からの除籍は不能)。でないと,1941年末ごろから日本がアメリカに宣戦する確率が急上昇し,連合は枢軸とアメリカの両方を敵に回した戦争をすることになってしまう。

 

イギリスは植民地を切り離すことも可能。ICもなければ労働力もなく資源も出ないアフリカの諸地域は切り離してもよいが,あえて切り離すメリットも薄い

 またイギリスは介入度がやや高めに設定されているので,多少の努力で比較的自由な宣戦布告が可能になる。相手国の好戦度がある程度高くないと宣戦できないのであれば,諜報活動で当該国の国際評価を貶め,好戦性を引き上げてしまうのも手だ。
 この方向性を最大限に利用すれば,早期にアメリカに宣戦して併合,莫大なICと資源生産を背景に横綱相撲で世界征服も可能となる。イギリス陸軍の規模は小さいとはいえ,ゲーム開始時のアメリカ陸軍に比べれば大きい。そのうえイギリスにはカナダというおあつらえ向きの橋頭堡まであるのだから,なんら心配はない。

 

 これ以外にも,中国を舞台にアヘン戦争を再演したうえでフランスに中国を占領させ,ドイツが欧州を席巻したあとでもフランスが活動できる地盤を作ってみるとか,やっぱりフランスにはアフリカに引っ込んでもらって中国はイギリスのものにするとか,戦略的な幅はかなり広い。ある意味,世界をまたにかける大英帝国の面目躍如というところだろう。

 

ときおりアイルランドから冗談としか思えない提案がやってくる。冗談ではなく,ただちに却下 アメリカにアイスランドを委譲するイベントだが,アメリカが本格始動するまでに戦争にけりをつけたいところ

 

 

ダンケルクの撤退劇を未然に防ぐ

 

防御戦闘に向いた大臣を登用。指揮統制値の回復速度向上との二者択一だったが,とにかく負けては話にならないので,防御戦闘へのボーナスを選択

 それはそうとして,上記のようなあまりにもアンチヒストリカルな路線は,第二次世界大戦ゲームとしての興を殺ぐものと考える人も多いだろう。そこで,あくまでも本作の通常進行が用意した筋書きの中で,イギリスはどこまでできるかを試したい。ポーランド防衛やベネルクス3国の防衛はさすがに困難としても,なんとかしてフランスを守りきれないものだろうか?
 フランスを守る,という1点にテーマを絞れば,課題はある程度明らかになる。まず,イタリアは史実どおりフランス陥落まで枢軸に加盟しないであろうから,フランス南部のイタリア国境はさしあたり無視してよいし,アフリカ防衛もといスエズ防衛も不要だ。1939年時点でのイタリアはあまり重大な敵ではないが,それでも相手をすべき国が一つ減るのはありがたい。

 

思うにこの世界では,チェンバレンはそこまで悪い評価をされないのではないだろうか?

 次に,フランス中部には偉大なるマジノ線がある。これは普通突破できないので,防衛に特別なプランも不要だろう。ときどきトチ狂ったフランスAIの命令で,マジノ線から兵が出払ってしまうので,英軍守備隊なり歩兵部隊なりを要塞に3個師団ほど常駐させておけば確実だが,そこまでする必要はないかもしれない。
 問題はフランス北部,ベルギー国境である。ドイツは,ほぼ間違いなくベネルクス3国に宣戦して,この脆弱な防衛ラインを突破してくる。ここに鉄壁の防衛ラインを築ければ,ドイツがフランスに侵入するルートはほぼ遮断できる。
 問題をさらに極限しよう。この防衛ラインを1942年末まで守り抜けば,ソビエトがドイツの後背を突いて攻めてくる可能性が高まる。よって,この防衛ラインには積極的な反攻可能性は不要で,鈍重でもなんでもいいから,とにかく固い布陣ができればよい,という結論になるわけだ。

 

 さて,これで課題は明らかになった。が,それはつまり,その時点で世界最高の質を誇り,世界トップクラス(上位2強は中ソ)の量も備えるドイツ軍の猛攻を,どうしのぐかということである。

 

 

ドイツのフランス侵攻作戦「黄色」の盲点

 

 この問題の解決に際しては,まず敵であるドイツ軍の特性を考えねばならない。
 ドイツ軍の強さの根幹を支えるのは,実は戦車でなく歩兵である。この時期のドイツ軍は,指揮統制値が他国の軍隊より20〜40%も高い。この粘り強さはまさに鉄の壁となって戦線を維持し,そこに世界最高の突破力を備えた機甲部隊が加わる。
 空軍の充実度も見逃せない。戦術爆撃機や戦闘機の研究ペースは間違いなく世界一であり,空軍ドクトリン研究の進捗も速やかである。へたに爆撃機でドイツ陸軍を叩こうとしても,ルフトバッフェの撃墜王達にハイスコアを献上するだけだし,制空権を争うなら本気で挑まなければとうてい追いつかない。
 とまあ,これは要するに絶望的な戦いなのである。そもそもドイツにしてみれば,フランスはオードブルかスープのようなものであって,こんなところで苦戦しているようでは困る,というのが正しい「シミュレーション」である。ここでドイツ強すぎ! アンバランスだよ! などと憤ったところで誰も聞いちゃあくれない。
 そう,とにかくドイツは強い。強いが,ドイツにも弱点はある。そしてその弱点は,このゲームでドイツが低地諸国を突破するという「黄色作戦」に乗る限り,どんなに努力しても克服できない弱点なのだ。

 

 まずは右のスクリーンショットを見ていただきたい。第二次世界大戦に比較的詳しい人でも「それってどこだっけ?」と思わず言ってしまう都市,ゲントを擁するゲント・プロヴィンスが,電撃戦を展開するドイツ軍にとって最大の弱点である。地形は平原となっており,それ自体は防御に不向きなのだが,ここはこのゲームの連合軍にとって,ジブラルタルに勝るとも劣らぬ要地なのである。
 ドイツ側からゲントに攻め入る場合,攻め口はアムステルダム・アントワープ・ブリュッセル・モンスの4プロヴィンスにも及ぶ。だが,どこから攻撃しても渡河ペナルティがかかることになる。この作品の渡河ペナルティは相当重く,4方向からの集中攻撃によるボーナスを帳消しにしてしまう。
 そもそも4方向から集中攻撃したい場合,最もフランス寄りのモンスからは,前方に展開するフランス軍部隊を無視してゲントに向かわねばならない。そして,モンスを攻撃可能なフランス側プロヴィンスは二つあり,一つは渡河になるため使いにくいが,兵力を集中すればモンスで攻撃中のドイツ軍を攻勢から脱落させられる。もしそれが無理でも,モンスのドイツ軍の指揮統制値を下げることは十分に可能であり,これはそのままゲント防衛に寄与する。
 このように守るに固いゲントだが,攻撃の拠点としても有用だから始末に負えない。前述のとおり,ゲントは4プロヴィンスに隣接する。さすがにアムステルダムはともかく,ドイツ軍は残る3プロヴィンスに,ゲントからの逆襲に備えて相当数の部隊を張り付かせねばならない。つまり,たったの1プロヴィンスが,都合3.5プロヴィンス分の兵力を拘束してしまうのだ。
 そのうえゲントには軍港があり,カレーに配備された陸軍は極めて迅速にゲントへ展開可能だ。連合軍お得意のハイスタックを構築するのに,これ以上の場所はないのである。

 

 ゲントが難攻不落であると認識できれば,どう防衛ラインを引けばいいかも見えてくる。メスまではマジノ線が延びてきているので,絶対防衛ラインはたった3プロヴィンス。しかもそのうち2プロヴィンスには森林が広がっており,戦車の有効度が損なわれる。平地でつながっているプロヴィンスのリールはゲントに隣接しており,渡河も必要なため,守るのは容易だ。  第二次世界大戦が始まる直前,とある能天気なフランスの大臣はアルデンヌの森を訪れ,「この天然の要害たるアルデンヌの森を突破できる軍隊など存在しない」と演説したという。第一次,第二次世界大戦の経過に即して言えばとんでない演説であり,実際にドイツ軍はどちらの場合も突破に成功してしまっているが,まるっきり原則を取り違えているわけではない。要は,より慎重な準備が必要ということだ。

 

イギリスも,技術開発面では相当なもの。アラン・チューリングはなかでも特筆すべき能力の持ち主だ。情報能力の差は戦況にダイレクトに影響する この手のイベントは非常に助かるが,タカ派への移行はあまり無理をしなくても「戦時体制への移行」イベントで自動的に達成されていく

 

 

ねばり強さが英陸軍の身上

 

今回採用してみた重戦車。開発に手間がかからず,そこそこの能力が手軽に得られて将来性が高いのは良い話だが,積極的に採用する兵科ではないのは否めない

 防衛ラインは決まった。次はそのラインをどうやって守るか,という問題になる。細かく吟味してみよう。
 真っ先に思いつくのは,戦車を作り,そこに随伴旅団として重戦車を付けて防御の要とする,という方策だろう。戦車+重戦車の組み合わせは,本作で実用範囲内にある兵科では最も堅牢だ。ここにさらに自動車化歩兵師団を添えて諸兵連合効果を得ることで,こと防御戦においては無類の強さを発揮する。
 このプランは魅力的ではあるのだが,単純きわまりない問題がある。それは,例えば戦車+自走砲という攻撃的な編成に,これまた攻撃に向いた旅団をつけた歩兵の諸兵連合部隊というのが,ドイツ軍の基幹を成しているという事実である。まるでドイツ軍を鏡に映したような同一論点の編成で,陸軍大国ドイツに勝てると考えるのは,どう考えても無理がある。

 

前作では比較的早い時期にジェット化できたので今回も挑戦しようかと思ったが,ハードルが上がっていてがっかり

 もちろん,ここでドゥームズデイで可能になったドクトリンの放棄と再研究を活用し,例えば陸軍ドクトリンを電撃戦系統に移行させ,戦術でもドイツ軍と対等の水準を目指すという手はあり得る。だが,ドイツ軍は電撃戦ドクトリンをかなり前倒しで研究しており(1936年の段階で1940年のドクトリンが研究済み),ドクトリン研究が一手でも遅れれば計画は事実上水泡に帰す。
 イギリスには電撃戦研究専門機関(?)ともいえるリデル・ハートさんがいるので,実は相性そのものは悪くないのだが,リスクは高い。で,そのリスクを引き受けたうえで,得られる最大限の成果は「ドイツ軍と対等」である。
 それも,あくまで英軍が対等になるだけで,フランス軍は相変わらずのフランス軍のままだ。ICと労働力そのほかを計算すると,英仏の合計とドイツがおおむね対等という図式を考えるにつけ,あまりに危ない橋であるとしか言いようがない。

 

 ではどうするか。陸上兵力は基本的にフランス軍にお任せしよう。英軍は歩兵関係の技術開発をあえて捨て,フランスが開発した技術の青写真を受け取ってから(あるいはフランスが完成させる直前あたりから研究を開始し,途中で青写真を受け取って)の開発に徹する。陸軍ドクトリンだけはフランスの開発チームが弱いのでイギリスが主体となるが,それ以外は完全にフランス軍依存とする。
 陸上兵力は歩兵を基幹とし,装甲は諦める。経験的に言ってフランス軍はそれなりに装甲の研究と生産を行うので,戦車はフランスに任せ,英軍は対戦車に特化した部隊編成を行う。対歩兵も考えねばならないが,これは別ルートで対策する。
 対戦車戦闘に最適化するなら,対戦車砲,自走砲といった付属旅団が考えられるが,1940年という年限を鑑みた場合,実のところ選択肢は狭い。以下,比較してみよう。

 

対人攻撃力 対戦車攻撃力 防御力 耐久力 脆弱性 IC 労働力 生産期間 次の開発年
40年式砲兵 +6 +2 +4 0 0 6 2 60日 1943
40年式対戦車砲 0 +5 +3 0 0 5 2 60日 1943
40年式自走砲 +5 +2 +4 +4 −6% 7 2 70日 1943
40年式駆逐戦車 0 +3 +2 +2 −6% 7 2 70日 1941
41年式駆逐戦車 0 +5 +3 +3 −7% 7 2 70日 1943
38年式重戦車 +2 +2 +2 +2 −10% 8 2 80日 1941
41年式重戦車 +4 +4 +4 +4 −12% 8 2 80日 1943

※今回の作戦においては速度は不問なので,速度ペナルティなどは掲載していない

 

 ぱっと見40年式対戦車砲でよいようだが,対戦車砲というだけあって汎用性では劣る。
 41年式駆逐戦車はスペック的に申し分ないが,駆逐戦車を開発するためには対戦車砲と軽戦車/中戦車の開発ができていなくてはならない。軽戦車ならともかく,中戦車まで開発して,そのうえ駆逐戦車まで開発するのは明らかに時間の無駄である。要求ICから考えると,フランスで祖国防衛を目指して駆逐戦車を開発するのはあり得るかもしれないが,それでも開発の時間的投資が気になるところだ。
 41年式重戦車もかなり良いスペックだが,これまた中戦車の開発が前提となる。38年式重戦車では40年式砲兵と大差なく,総合的に見て40年式砲兵が一番良いように思える。

 そこまで踏まえたうえで,今回は重戦車を採用する。選んだ理由は,汎用性と将来性だ。
 砲兵で次の段階は1943年式なので,よくて1942年年始に研究完了,1942中旬までに改良終了という日程になるだろう。それに対して重戦車は1941年式,おそらく1940年には開発が完了する。仏独戦が最も激しくなるであろう1940年6月までに研究が終われば,8月までに全軍の改良が見込める。前提となる技術として中戦車が絡むため道のりはやや遠いが,フランスが戦車の開発を進めるならば青写真の提供が期待できる(中戦車は1939年の開発)。若干のリスクは背負っているが,賭けて損はない範囲であろう。最悪38年式のまま運用したとしても,砲兵を付けたときと対戦車能力は変わらない。

 

39年式の中戦車。ドイツと戦うのでなければ,これくらいの規模の戦車があれば割と事足りる。問題はむしろ数を揃えることの難しさかもしれない 41年式の歩兵。結局戦線の基幹となるのは歩兵である。だが必要IC4.5は意外と高く,とくに近接航空支援機のIC 5.3を見ると,なおさらだ 42年式の自動車化歩兵。将来的にはこれを地上兵力の基幹にしたいところだが,必要ICの高さがやはり問題。通常歩兵2ユニット相当である

 

 

RAFというアドバンテージ

 

 さて,そこまで陸上戦備を省いて何をするのか。全国力を傾けて空軍を育成するのである。
 フランス軍がどのような作戦を採ろうとも,ドイツ軍は必ず攻撃しなくてはならない。攻撃するということは,そこを爆撃すれば相応の戦果が期待できるということだ。イギリスは労働力の問題を抱えているが,空軍はあまり大量に労働力を必要としないので,早い時期から非常識な数を揃えていける。
 さらに,空軍には密かなメリットがある。以下の表を見ていただきたい。

 

対人攻撃力 対戦車攻撃力 IC 労働力 生産期間 備考
40年式戦術爆撃機 11 4 18 2 180日
40年式近接航空支援機 14 10 9 2 180日
40年式戦闘機 3 3 16 1 150日 対空12
40年式迎撃機 1 1 14 1 150日 対空12
39年式歩兵 12 2 7 10 95日
40年式自動車化歩兵 12 2 14 10 100日
39年式中戦車 12 11 24 7 185日

 

 際立つのは40年式近接航空支援機の必要IC,9である。戦術爆撃機と比べて,単純に倍の数を揃えられる計算になる。労働力消費は2なので,数が倍になったところで問題にならない。
 そして戦闘能力を見るに,40年式の戦術爆撃機が対戦車攻撃力4なのに対し,近接航空支援機は10。39年式中戦車の対戦車攻撃力が11であることを考えれば,これは破格のレーティングだ。さらに対歩兵攻撃力を見ても,14という飛び抜けた数字である。同時期の歩兵や戦車と比べても,なお2高い。

 

近接航空支援機。航続距離こそ短いが,対人攻撃力と対戦車攻撃力は異常。各種修正により必要ICが5.3にまで低下していることにも注目。とんでもない大量生産も可能になる

 もちろん近接航空支援機には航続距離が短いという重大な問題はあるものの,ヨーロッパ,とくにベルギー付近は空港に事欠かないわけで,これは問題とはいえない。仮に押し込まれたとしてもパリに空港があるし,押し込んだとしてもドイツは空港であふれている。
 というわけで,とにかく徹底的にRAFを強化,それも近接航空支援機に特化することをもってイギリスの方針とする。また,少しでも近接航空支援機の数を増やすため,制空権は戦闘機ではなく迎撃機でカバーする。ICにしてわずか2の差ではあるが,必要なのはヨーロッパ全域やドーバー海峡上空の制空権ではなく,ベルギー上空の制空権だけなのである。節約できるものは節約しよう。

 これを念頭に置き,技術開発も空戦ドクトリンを最優先する。可能な限り早く40年式近接航空支援機の数を揃え,制空権についてもドクトリン,機体性能の双方でドイツを上回ることが大前提である。
 陸海空3軍のうち海空2軍で優勢を得ることにより,ドイツの攻勢を単線的なものに押さえ込み,戦争全体を地形的優位を最大限に生かせる場所での「個別の戦闘」の繰り返し(具体的には都合4プロヴィンスをめぐる戦闘)に分解してしまうことで,戦略的劣勢を解体する。これが最終目標である。

 

迎撃機。航続距離の短さが難だが,最終的に他を圧倒する制空能力を発揮するようになる。もっともたいていの場合,戦闘機のほうが便利 戦術爆撃機。汎用性の高さではぬきんでたものがあるが,やはり対戦車攻撃力の低さが気になる。ドイツ軍の槍の穂先を折るには,これでは不足だ

 

 

いたって史実どおりの滑り出し

 

あり得ない数の近接航空支援機を猛然と量産する。空母の竣工も間もなくだ

 さて,いよいよ戦闘開始となるのだが,この段階までくるとイギリスにできることは少ない。最初にひいたプランどおり,研究と生産を繰り返していくだけだ。
 労働力については,平時であれば海外領土からの流入があるので,最大で+0.7/日まで増大する。ゲームは1936年1月1日に始まって,1939年9月のポーランド侵攻まで約1300日あるので,イベントなども含めておおむね900もの労働力が見込める。意外と潤沢である。どうしても苦しいときは,旧式の艦艇を破棄すると1労働力程度にはなるので,最悪,物資や資金を元手に適当な中立国から艦艇を購入,分解して労働力に還元するのも手だろう。もっとも,そういった奴隷貿易寸前のトリックを用いなくても,今回の作戦を遂行するうえで労働力は十分だ。
 最初の1年はひたすら工場の増設に注力したが,今にして思えばこれは「フランスが守りきれないかもしれない」ことを前提とした生産計画であり,不要といえば不要だった。対独戦勝利後に対ソ戦まで想定するならば工場の増強で正解なのだが,正直言って筆者もこの段階までフランスを防衛できるかどうか,まったく確証が持てなかったのである。つまり,どちらかといえば対ソ戦への備えではなく,対独戦がえんえんと続くことを見越しての工場生産であった。

 

 研究は,前述した航空機および空軍ドクトリンのほか,工業関係と情報関係に重点を置いた。また海軍の優越を確定させるために空母の研究を進め,1938年式空母を2隻配備する計画を立てた。ゲーム開始時点での海軍でも,ドイツ海軍に水上戦闘で負ける気はしないが,油断するとたいへんなことになるのは過去幾度も経験してきたことだ。備えあれば憂いなしである。

 

ポーランドを見捨てる意味はまるでないので,連合に加入させる。もっとも,守り抜けるわけでもないが

 世界は順調に(?)戦争への道を歩み,とくに不思議な事件が起こることもなく日中戦争は泥沼に踏み込んでいく。オーストリアとチェコはドイツに併合され,スロバキアが建国されていった。徐々に戦時体制に移行したイギリスは猛スピードで近接航空支援機の量産を行い,また迎撃機8個師団を揃えて守りを固める。
 陸軍関係は予定どおりほとんど何も行わず,既存の陸上部隊を整理するにとどめた。イギリス本島は裸も同然で非常に不安な状況ではあるものの,ここでドイツ軍に上陸を許すようなら,そもそも計画自体に無理があったといわざるを得ない。ここまでほとんどコメントしてこなかったが,ドイツ海軍に対する制海権の優越は,すべての作戦の前提となっている。
 そしていよいよポーランド戦開始。ワルシャワ近郊の空港に空軍を派遣し,空軍部隊に経験を積ませる。さすがにポーランド防衛は無理だったが,それでも史実に比べるとポーランドは割と長生きをした。
 ウェーゼル演習(ドイツのノルウェー侵攻作戦)が始まったところで空母機動部隊をデンマーク周辺の海域に派遣,ドイツ海軍を港で封鎖する。ノルウェー上陸部隊は空母機動部隊によって阻止され,ノルウェーは連合国のまま保持された。対史実成績+1である。
 ちなみにドイツ海軍主力は,空母4隻を備えるイギリス海軍と激突,イギリス海軍は戦艦1隻を失うものの,ドイツ海軍に再起不能のダメージを与えた。この優位を確定させるために,封鎖した港湾を戦術爆撃機8個部隊で爆撃,ビスマルクとティルピッツは湾内で大破した。
 そして1940年5月2日,ついにドイツはベネルクス3国に宣戦布告,雌雄を決する戦いが始まった。

 

いよいよ戦争開始。足の短い近接航空支援機をポーランドに派遣すると指揮統制値が落ちすぎるので,戦術爆撃機だけ派遣することに RAFによる爆撃の開始。20部隊ほどの近接航空支援機がドイツ国内の歩兵師団を捉えるも,塹壕に入っているのであまり効果なし

 

唯一の海戦らしい海戦。ネルソンを沈められるが,ドイッチュラントとグラーフ・シュペーを仕留める。主力はこの後の爆撃で大破させた RAFの威容を伝えるショット。左のリストや地図中央のスタックから分かるとおり,画面で見える範囲に,近接航空支援機が40部隊ほど

 

ノルウェーの未来がどうなるかにあまり興味はないが,潜水艦隊の基地が出来てしまうのも面倒なので防衛することに。デンマーク防衛はさすがに無理

 

 

バトル オブ ローカントリーズ

 

いよいよ本格的な戦争が始まる。オランダ防衛は無理だし,ルクセンブルクもまあ無理だろうが,ゲントでねばる都合上ベルギーは防衛できるハズ

 イギリスは事前の計画どおり,ゲントに重戦車付き歩兵の大部隊を送り込んで拠点とし,各防御プロヴィンスには6個から8個程度の歩兵師団を送り込んだ。これで大突破されたらダンケルクはたいへんなことになる。
 指揮官は防御に有利な能力をもった人を優先,普段なら避けるペナルティ付き能力である「古典派」が付いていても気にせず登用した。どんなに長くても2年程度の防衛戦において,指揮官の獲得経験点が減少するという特徴はペナルティとはいえない。
 統合参謀総長も防御戦闘+10%の能力をもったサー・シリル・デヴェレルに変更。通常は絶対にお目にかかれない人選だが,今回に限っては彼の能力にすがるほかない。

 

さすがにここまで群れると指揮負荷ペナルティが重い。だがこの地域はエリアが大きく分けて三つ,オランダを入れると四つ。どうしても渋滞しがち

 

リエージュに対する爆撃。工兵付き師団はゲントへの渡河攻撃ペナルティを軽減するので,こうやって消えてくれるとありがたい

 ドイツ軍はオランダ軍を一蹴,ベルギー領内を蹂躙していくが,予定通りゲントの罠にかかって戦線が膠着する。マジノ線前にも比較的多くのドイツ軍がいて,突破されないかとひやひやしたが,幸いなことに強襲はなかった。さすがにAIはそんな突拍子もない作戦は合理的でないと判断したもようである。普通はそんなものだが,ゲント・トラップにかかってしまうと,実はマジノ線のほうが脆弱になることもあるのだ。
 近接航空支援機の大量編隊はベネルクス3国のあちこちでドイツ軍の指揮統制値を削り,あるいは戦力そのものを削いでいく。普段ならあっさりと突破されるベルギー北部のフランス軍は,ドイツ軍の猛攻を受け止め,押し留め,そして戦線は膠着した。フランス軍はいつもどおりドクトリン研究すら危ない状態であるにもかかわらず,ドイツの攻撃を吸収できている。奇跡が現実のものになろうとしていた。このまま第一次世界大戦さながらの塹壕戦になれば,どちらが勝つかは明白である。時間は常に連合国の味方なのだ。
 だが,ここでフランス軍は攻勢に出始める。なんというか,お願いだから無意味な攻撃で塹壕修正を失わないでくれと思うのだが,ドイツ軍が弱まったと思うや否や,攻撃に飛び出していく。
 この判断自体はそこまで大きな誤りではないし,これでドイツ軍を退却させられれば近接航空支援機は大喜びで追い討ちをかける。だが,なにしろ戦場はヨーロッパの中枢,インフラの整備は進んでおり,部隊の動きは速い。勝てるはずの戦場にもあっという間に敵の増援が到着し,たとえドイツ軍を後退させても1日2日で後退を完了されてしまう。

 

ゲント防衛戦その1。防勢向き指揮官によるボーナスだの,大臣による修正だのが意外としっかり効いているのが分かる 爆撃部隊がドイツ軍に出血を強いる。阻止攻撃も織り交ぜているので,指揮統制値がなかなか回復しないのがミソ

 

ゲント防衛戦その2。重戦車を配備した歩兵ががんばっているところ。重戦車がどれくらい有効だったかは不明 大増産した歩兵が続々と完成。次々にゲントをはじめとした重要プロヴィンスに送り込まれていく

 

 

うるわしき連合国の友愛

 

 おまけに,フランス軍がどのような機動をするのかイギリス側には一切の通告がない(ゲーム的には当たり前だが)ので,チャンスに乗じて総攻撃を仕掛けようにもフランス軍が出発した後であったり,フランス軍と違う方向に進撃したりすることは日常茶飯事。こんなところで巧まざるリアリティを演出されても困るのだが,おそらく当時のイギリス軍指揮官は同様の苦労をしていたのだろうと思うと,趣深いといえなくもない。
 結果的にここでプレイヤーが得た戦訓は,これまたまことに軍隊らしくないが,「戦いません勝つまでは」。フランス軍と共同で攻勢に出るのは映画ならば良いシーンだが,現実的なところに下りて話をするとリスクが高すぎる。英陸軍はあくまで塹壕修正を堅持し,フランス軍が確実な勝利を収めるまで攻撃に出ないほうが,戦線が安定するのだ。だって,重戦車とか付いてるから進軍速度も遅いし……。いや,重戦車の速度ペナルティは砲兵と同じで−1だから,砲兵持ち師団と進撃速度は同じじゃないの? というツッコミは,甘んじて黙殺する方向で。

 

ゲント防衛戦その3。スタックの高さから分かるとおり,攻め手の数もすごければ守るほうの数も多い。連合軍はこの攻勢もきっちりと捌ききる ゲント防衛戦その4。このときが一番陥落に近かったシーン。モンスのドイツ軍にヴァラシエンヌから攻勢をかけ,ゲントへの圧力を下げて防衛に成功

 

イギリス軍の陣容。空軍はそもそも異様な部隊数だが,陸軍も大増産をかけて実働60個師団に近づいている。フランス軍の数にも注目

 

フランス軍による突破が始まる。この段階ではまだ若干押し合いへし合いがあったものの,フランス軍にドイツ軍が押されているという段階で,行く末は明らか

 そうこうするうち,徐々にドイツ軍のプレッシャーが減り,逆にフランス軍の突進が成功するケースが増えてきた。ドイツ軍はゲントに3〜4回ほど総攻撃をかけたが,防衛部隊はそのすべてに耐え抜く。イギリスは途中から,編成されたばかりの歩兵部隊をもゲントに投入し始めたこともあって,突破が不可能なのは客観的にも明らかになってきた。
 フランス軍を先頭とした連合軍は徐々にベルギー領を回復する。オランダ領にさしかかった付近でついにドイツの前線が決壊し,青い津波はそのままドイツ本国を蹂躙していった。イギリス軍も統合参謀長を進軍速度向上ボーナスを持つ人材に切り替えて,追撃モードに入る。
 イギリス陸軍はドイツの軍港を重点的に占領していき,港から追い出されたドイツ海軍は待ち構えていた空母機動部隊の餌食となっていった。そんなことしなくたって近接航空支援機で港湾爆撃を行えば海の藻屑になるのだが,一応このあとの対日戦争も鑑み,できる演習はしておこうというハラである。
 枢軸に加盟していたハンガリー,ルーマニアは抵抗らしい抵抗もできずフランス式スチームローラーが圧倒。最後の枢軸国だったルーマニアがフランスに併合され,ヨーロッパの戦争は終わった。ときに1941年5月,オランダがドイツに制圧されてから1年で,ドイツは地上から姿を消したのである。

 

フランス軍が突破に成功。ドイツ国内に兵力はない。この段階に至れば,あとは無人の野を行くがごとくで,戦後処理も同然である III号戦車もこうなってしまえば鉄の棺桶。それより,初期型の中戦車がドイツ軍に混じっているのが驚き。ハンガリー軍だろうか

 

イギリス軍がベルリン入城。ベルリンから落ち延びていく司令部が哀れを誘う ドイツの降伏。このプレイでは期せずして,スペイン内戦終結と同日だった

 

 

どこより早く戦後を予見した国

 

終戦時イギリスの技術開発状況。装甲関係の開発は実にお粗末なもの。代わりといってはなんだが,空軍ドクトリンの進捗は疑いなく世界一だろう。かなり無理のある開発を進めている

 さて,ここから先も戦争を続けようと思えば,1941年末には日本が連合国に宣戦するだろうし,あるいはこちらからソビエトに宣戦して共産主義を地上から根絶する戦いもできよう。
 対日戦に関して言うなら,アメリカと日本が戦争する段階で日本に勝ち目はないのだから,イギリスは既得権益の防衛に専念しても差し支えない。ヴィシー政権が立たなかったので仏領ベトナムは仏領のままだし,中国戦線は完全に泥沼になっているので,日本が東南アジアで上陸部隊による大規模な攻勢を実行するのは非常に難しいだろう。
 対ソ戦をするならば,日本の対連合国宣戦布告と,アメリカの連合国加入を待ってからでも遅くはない。ドイツを飲み込んだフランスは世界屈指の工業国に生まれ変わり,イギリスは百戦錬磨の空軍を引き連れて赤軍をロシアの大地に葬っていくことになる。
 依然,労働力不足の問題はあるが,ドイツと違って資源は潤沢に確保されているので,攻勢が息切れすることは考えにくい。1941年5月の終戦の段階で,イギリスは最新式中戦車の第一陣をロールアウトさせており,このまま機甲部隊と空軍だけ生産し続けて戦争を続行することも可能だ。
 いずれにしても本作戦の主目標は達成されており,ここから先の展開もほぼ確定している。残る興味は,英・米・仏がどんな形と割合でソ連を分割していくかくらいであろう。
 イギリスのチャーチルは史実において,ルーズベルトやトルーマンよりもはるかに早く戦後国際政治の展開を見通しており,それは1946年7月の「鉄のカーテン」演説どころではなく,第二戦線構築(つまりノルマンディ上陸作戦)の検討段階で,すでに示されていた。だがまあそうした神経質な展開でなく,必要とあらば直接ソ連を叩けてしまうのが,このゲームらしい悪夢ではあるのだが。

 

結局,欧州はフランスが制覇する形で終了。ここからソ連にケンカを売るもよしだが,それをするなら数か月の準備期間は必要になるだろう。フランスの労働力が一番のネックになりそうだ

 

 今回のプレイは,計画を練っている時間のほうが,実際のプレイ時間よりもはるかに長いという,ある意味ストラテジーゲームの醍醐味を発揮したケースである。ゲームそれ自体を起動させなくても,本作はグランド・ストラテジーの検討と,そのためにいかなる準備をすべきかを計画していくだけでなかなか楽しめるのである。
 そして実際,ある程度の経験と,しっかりしたデータに裏打ちされた計画は,それなりにうまく機能するものだ。とはいえ突発的な事態に対処しなくてはならないし,そこで対応を誤れば「蟻の穴から堤が崩れる」ことになりかねない。今回は幸いなことにそうした事態が生じなかったものの,それはそれでゲームならではの面白さといえるだろう。

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
ボードストラテジーゲームの世界でも現役の,PCゲームライター。かつてアド・テクノスという国内ボードゲームメーカーから出ていた「ノルマンディ上陸作戦」は,上陸の1か月前からゲームが始まり,作戦準備作業と輸送補給量調整をみっちり行ってから戦闘をあっさり済ませるという,まことにユニークな作品だった。今回の記事でそれを思い出したという,徳岡氏の広い意味での同志も多い(?)ことだろう。近代以降における戦争の本質と,ストラテジーゲームというものの本質について,考えさせられる話である。
タイトル ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/08/04 価格 通常版:8925円,アップグレード版:4725円(共に税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/800MHz以上(Pentium III/1.20GHz以上推奨),メインメモリ:128MB以上(512MB以上推奨),グラフィックスメモリ:4MB以上(8MB以上推奨),HDD空き容量:900MB以上

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http://www.4gamer.net/weekly/hoi2dd/008/hoi2dd_008.shtml



参考書籍をAmazon.co.jpで
敗北を抱きしめて 上 増補版
ジョン・ダワー著。これを日本人以外に書かれてしまったことの衝撃が,ひところ言論界を賑わした,日本戦後史概説の決定版。

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鷲は舞い降りた 完全版
ジャック・ヒギンズの冒険小説。失意の降下猟兵指揮官シュタイナ中佐と部下に下ったのは,IRA工作員と協力し英国に潜入する任務だった。