連載:ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大・・・戦?


ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ スパイ大・・・戦?

第7回:革命農村は都市を包囲する:中国共産党

 

ソビエトに肩入れするとアメリカに滅ぼされる。いつソビエトと手を組むか,それとも最後まで組まないのか。主導権は中国共産党にある

 DOOMSDAYキャンペーンはアメリカを中心とした連合国と,ソビエトを中心とした共産圏が正面からぶつかるシナリオだが,そんな世界情勢などどこ吹く風で「ごく普通の」戦争をしている勢力がある。中国共産党と中国国民党だ。  ソビエトと中国共産党の双方をAIに任せると,かなりの高確率で同盟を結んでは共倒れになるのだが,中ソ同盟が組まれない場合,国共内戦は史実どおり中国共産党の勝利で幕引きとなる傾向にあるようだ。  では中国共産党が国民党を圧倒する兵力を持っているかといえば答えはノーで,初期段階はヒストリカルに国民党が数で勝る。驚くべきことに国民党の軍隊はすべて民兵として設定されているとはいえ,共産党軍だって民兵は混じっているわけで,普通に考えれば国民党の優位は動かないはずなのだ。  ではいったい,何がどうなって中国共産党は国共内戦を制するのだろうか? 実際にプレイしてみるとしよう。

 

この連載は,第二次世界大戦あるいはその後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。

 

 

人民による闘争形式とは?

 

国民党の陸軍は80個師団。こちらは20個師団未満。数でいえば比較にもならない。敵は張子の虎といってしまえばそれまでだが

 共産党でプレイを開始してまず痛感するのは,先ほども触れたように兵力の乏しさである。何しろ開始時点で中国共産党に与えられている部隊数は,プロヴィンスの数よりも少ない。そもそも守るのすら無理というわけだ。
 その一方でグランドキャンペーンでもそうだが,中国共産党側は技術開発状況で大きなアドバンテージを有している。とくに中国共産党の方向性を決定付けているのが,最初から開発済みになっている「ゲリラ戦」ドクトリンである。
 これはドゥームズデイで新たに追加された陸軍ドクトリンで,歩兵の指揮統制値に一律−10%のペナルティが与えられる半面,民兵の士気が50%増しになるというシロモノである。

 

主席はともかく周辺のスタッフは,国際的に見てもかなり有能。陳毅の持つ「指揮統制回復速度+20%」は本当に素晴らしい

 戦闘部隊の命脈であり,戦闘における「耐久力」ともいうべき指揮統制値がちょっと減る代わりに,指揮統制値の回復力を司る士気が大幅に向上するというのは,悪いバランスではないのだが,指揮統制値が減るのは歩兵全般で,士気が上がるのは民兵のみ。普通の国にはとても採用できないドクトリンである。
 だが,相手さえ選べばこの「ゲリラ戦」ドクトリンは決して悪いものではない。こと全軍が民兵で構成された国民党相手であれば,軍の質は対等なわけなのだから,士気に50%のボーナスがあったほうが有利に決まっている。
 というわけで,中国共産党の序盤の主力は民兵でいくことに決定する。人的資源は貿易で売りに出したい(注:無理です)くらいあるので,どんなに民兵を大量生産したところで心配はない。むしろ,民兵が必要とする物資を供給するためのICが必要になるので,そちらが部隊数の上限を決めるだろう。つまり,文字どおりの人海戦術である。

 

初期技術開発状態と研究機関。陸軍ドクトリンの進捗は素晴らしい。ちなみに,前作に比べてちょっとだけ毛沢東が強化されていたりもする

 

いきなり最初から遠巻きに包囲されていたり。画面右上のほうにいる国民党軍を,早めに片付けてしまいたいところ

 中国共産党と国民党の初期配置はややトリッキーで,国民党は一部の軍隊が旧山西軍閥領に取り残されている一方,それを包囲するための鍵となるプロヴィンスは,とりあえず中国共産党の領地というだけで,軍隊は配置されていない。
 また中国共産党主力は延安近郊の山岳地帯に集まっているが,残る部隊は黄河河口の沿岸部にいて,近くには国民党の民兵がぎっしりと敷き詰められている。うまく立ち回れば北京近くの国民党を包囲殲滅できる一方,へたをすると黄河河口の軍を失うことになりかねない。
 もっとも,多少なりとも本作に慣れたプレイヤーであれば,この状況を捌くのはそう難しいことではないだろう。押せる部分では押し,押せない部分は戦略再配置で退いていけば,戦線整理と包囲殲滅は容易だ。黄河を挟んで戦線が膠着するようになれば,作戦の第一段階は完了である。

 

 

運命。それは陰謀ルール

 

南から進軍してくる大兵力から逃れつつ,北で包囲網を作る。包囲戦が終わったら反転して戦線を整える

最終的に桂林まで国民党を押し返せば,実質この戦争は終了したも同然である。あとは無理せず戦線を固めつつ広げていく

 さて,北京を制圧し,黄河を挟んで国民党と対峙するようになると,普通ならば気になるのは「時間」である。共産党と国民党を比較すると,国民党は基礎ICで倍以上だ。早い段階で黄河を突破してIC地帯を占領していかなければ,いかに質で勝るといっても数の前に苦しむのは必然であろう。
 ところがここで国民党を見てみると,基礎ICは90近いにもかかわらず,なぜか実効ICが10前後しかない。パルチザンの影響かと思ったが,とくに発生している気配はない。国務大臣にはIC+10%の能力を持った者もいて,総合ではプラス修正状態にある。なのにIC10。これはどうしたことだろう? プロヴィンスの構成上,資源不足はあり得ない。
 あまりに謎なので,ここで試しに国民党でゲームを始めてみると,「技術による修正−90%」という謎の記述が。そんな修正の発生する技術はない(あったら困る)ので,おそらくこれはシナリオによる特殊な修正ではないかと思われる。ストラテジーゲームの専門用語(?)でいうところの陰謀ルール――ヒストリカルな展開に近づけるための特殊ルール――である。
 しばし国民党でプレイしてみたが,この,技術によるペナルティ−90%は簡単には解除できないようだ。実際AIが中国共産党と国民党を扱っているのを見ていても,国民党は常時10前後のICで運営されているので,固定のものと見ていいだろう。

 

 それでも,ヒューマンプレイヤーが国民党をプレイするなら,これはこれでチャレンジ精神を喚起するものではあるが,AIが担当するとなると,勝負にならないのは目に見えている。そもそもIC10ということは,現存する国民党の部隊に補給が行き渡らず,補給を確保しようとすれば部隊の損耗が回復せず,そこを無理にやりくりすれば国民不満度が上がり,資金不足による研究ペースの低下を招く,ということだ。持久戦をすれば不利になるのは国民党のほうなのである。長い長い抗日戦争がもたらした国民政府への不満は,ここまでに至っていたわけなのだ。
 なんとも悲しい確認作業をしたところで,あらためて中国共産党に戻る。ソビエトはじきに崩壊すると思われるので,あせらず国民党の相手をしていくことにしよう。

毛沢東vs.蒋介石の貴重なショット。蒋委員長戦場に散る……かと思いきや,上海に脱出できるプロヴィンスだった 中国南部にはとにかく山が多い。攻めるには面倒が多い地形だが,あせる必要もないのでじっくりと戦線を進めていく

 

 

人類文明の針路をめぐる決断

 

このように,前進する予定はなくてもとりあえず殴っておく。指揮官は経験を積めるし,敵の前線は不安定になる

 さて,いかに国民党が不利といっても,部隊数的には中国共産党のほうがずっと少ない。最終的には数でさえ圧倒できる展望はあるものの,内戦など一日も早く終わらせるに越したことはない。
 こういう場合,戦術爆撃機を作ってしまうのが一番手早いのだが,いかんせん中国共産党は空軍の技術開発も進んでいなければ,空軍ドクトリンもほぼ真っ白。いささか効率が悪い。
 そこで有効なるのが,いわば戦略規模でのゲリラ戦である。相手が隣接プロヴィンスに移動してくるのを待ちうけ,移動してきたところを各個撃破するのだ。
 自軍が質的優位に立っている場合,この方法を戦線の広範囲で展開して相手の布陣を揺さぶり,敵が常に敗走と前進を繰り返す状態に追い込むのがよい。数的優位に立つ敵は,頭数が揃うことで質的不利を克服できてしまうので,前線に数をためさせないことが大切なのだ。待ちの姿勢でいながらも,個々の戦いの主導権を決して手放さないのが持久戦である。
 民兵を量産しつつ,次第に山岳歩兵(中国は非常に山が多い)を増やしていく。また砲兵旅団も増産し,要所を守る民兵に配備していく。国民党の主力は民兵なので,支援砲兵を付けただけで勝負の行方は明白になる。
 あとは中国の地形に沿い,川の下流で渡河して上流にシフトさせていく作戦を2回繰り返すことで長江の渡河作戦も終わり,国民党は首都も失って風前の灯となった。割とあっけない。初動でつまずくと厳しいが,そこも含めて,本作の初心者が陸戦を学ぶ教材として,それなりによいシナリオかもしれない。

 

民兵大量生産の図。有効ICがまだまだ低いのでこの程度だが,やがて10ラインほどで民兵の量産を行うことに 黄河の下流には平原が広がり,渡河に向いている。上流は山岳地帯なので,下流で渡って上流へ向かうのが無難

 

比較的珍しいベルリン爆撃。いくらソビエト占領下だからといって,それはどうなのかな,というアメリカの一手

 ……とかいう原稿を頭の中で作りつつ,ふとヨーロッパを見てみると,そこでは異変が起きていた。なんとソビエトがフランス攻略に成功,スペインも陥落させているのだ。こんなに頑張るAIソビエトなんて,初めて見た。
 代わりにといっては何だが,シベリアは完全にアメリカに席巻され,スターリングラードもアメリカが占領している。中東方面は比較的均衡しているがバクーはすでに陥落。二正面作戦状態は克服しているものの,前途多難というか,このままなら石油供給が切れて機甲部隊が活動停止,モスクワが落ちたら終わりだ。

 

赤軍大突破。でも結局このあと追い返される。この段階では,まあいつもの攻勢限界点だろうなと思っていたのだが このころ普段とヨーロッパの絵が違いすぎていることに気がつく。何よりも北部ドイツに連合軍の影がない

 

ついに赤軍はフランスを踏破,スペインに侵攻を開始する。だが米軍はシベリアを突破し,ウラルの工業地帯を突く勢い スターリングラードは陥落したが,赤軍はスペインを席巻。ここからシベリアで赤軍と米軍による大規模な陸戦が続くことに

 

中華民国の完全併合のため,台湾に上陸する船団を編成。後にも先にもこれが唯一の海軍となるのだが

台湾を制圧,ついに中国を統一する。だが,ここから第二ラウンドの開始である

 さて,ここで中国共産党には二つの選択肢がある。一つは事態を傍観すること。これで中国共産党の支配は揺るがず,満州はアメリカ領になるものの,中国は世界唯一の共産主義国として歴史に名を留めるだろう。
 そしてもう一つは言うまでもなく,この戦争に積極的に介入することだ。朝鮮半島からオホーツクにかけてのアメリカ領を占領すれば,シベリアからアルハンゲリスク近辺にまで伸びているアメリカ軍は補給路を失い,シベリアは巨大なポケット(包囲網)になる。さすがにそうなってしまえば,アメリカ軍がいかに精強といっても継戦不能だ。
 あるいはインドから中東方面に出て石油を確保するとともに,ソビエトと領土を接することを優先してもよい。この場合,完全に成功すればアメリカのパートナーであるイギリスは大幅にICを失い,ソビエトは石油難におびえることなく戦争ができる。

 

運命の分かれ道。普通に考えれば自殺行為だが,勝算は十分にある。最悪,完全に守りに入るだけでもソ連の援護にはなる

 もちろん積極介入を選ぶということは,アメリカ軍と戦うということである。指揮統制,将軍の質と数,技術開発状況に至るまであらゆる点で劣った人民解放軍が,どれくらいアメリカ軍と渡り合えるのか? かなり疑問ではある。
 だがもし渡り合えるならば,その報酬は大きい。満州を回復できるだけでなく,東南アジアからインド,うまくいけば中東までを「中国」にできるだろう。そして仮に渡り合えなかったとしても,要塞線を引いて立て籠もれば,アメリカ軍は相応の兵力を前線に張り付けざるを得ない。米軍戦力を拘束できれば,ソビエト軍がシベリアまたは中東に向けて突破できる可能性はぐっと大きくなる。ソビエト軍が満州を解放して,我々の知る「中国」が完成する可能性もある。
 いずれにしても,ここで小さくまとまってしまうのはゲームとして寂しい。せっかくなので勝負に出よう。米ソ両国に,第三世界の存在を思い出してもらおうではないか。
 常備軍化を進めて指揮統制値の向上に努めているとはいえ,「ゲリラ戦」によって指揮統制ペナルティ−10%を持った民兵と山岳歩兵の波は,果たして最新鋭の戦車と自動車化/機械化歩兵を相手に,どの程度通用するのか? 逆にアメリカは中国の労働力6000を削りきれるのか? 作戦開始といこう。

 

中国が連合軍に戦争をふっかける前であれば,ソ連との貿易効率は50%程度で済む。戦争が始まると1%にまで落ちるので,開戦前にソ連に石油を譲渡 アメリカがいま一つぱっとしないと思ったら,大統領が……。ベルリンへの原爆投下が原因で,ドイツ系アメリカ人の票がトルーマンから逃げたのだろうか?

 

 

三つの戦線で米軍を泥沼に引き込む

 

ソビエトからは満州の支配権が次々と譲渡されてくる。最終的に現中国領はすべて譲渡される形に

 さて,自分から戦争に踏み出しておいて言うのもなんだが,この戦争は必然的に防衛戦争になる。質で劣る軍隊が優勢に戦争を進めるには,こちらの有利な土俵で,有利な戦闘をさせてもらわねばならない。積極果敢な攻撃は,自らプロヴィンスの地形的優位を放棄する行為であり,そのまま押し切れるという確証がない限り,ただの蛮勇に過ぎない。クラウゼヴィッツも言うとおり,「防御は攻撃よりもいっそう強力な戦闘形式」なのだ。
 とはいえ,ただがっちりと守りを固めるのでは,敵戦力を拘束する以上の効果は発揮できない。攻められる場所では積極的な攻勢を仕掛けることで,敵軍は防御戦力の振り分けや追加を要求されるようになり,これが最重要地点における防御側の有利をサポートしていくことになる。

 

 戦線は大別して3方面になる。一つは満州方面。アメリカ上陸部隊が陸揚げされる場所に近く危険は大きいが,山岳地帯も広がっているため,早期に押し込んで,防衛戦に有利な戦線を構築してしまいたい。
 二つめはインド方面。イギリス軍は影も形もないので,海岸防衛用の民兵を引き連れつつ,一気呵成に突破を図りたい。
 最後は北西の山岳地帯。ここは万年膠着戦の舞台であり,山岳歩兵を持ち込んでもその傾向は変わらない。むしろ山岳地帯を基盤とした防衛ラインを張り,防御戦闘を中心に行う。

 

満州方面はすでに膠着気味。モンゴル方面は手薄なので,モンゴル国境まで一気に戦線を上げる インド方面軍は見た感じ無理な戦闘を繰り返しつつジャングルを突破。英軍が中東に向いていたのが幸いした

 

 全体的な構図としては,北で守って南に押し出すという感じだろうか。さて,即座に宣戦してもかまわないのだが,戦術爆撃機4個師団が完成するまでは,連合軍と戦端を開かないこととした。その代わりといっては何だが,スイスあたりの無害な中小国に宣戦布告し,自国の戦争状態を維持することで消費財への要求ICを減らすことにする。平和が訪れたら,とたんに人民の不満が噴出しようというもの。ここはゲームルール上の便宜というわけで。

 

 

世界最多人口から,世界の過半数人口へ

 

成都航空機公司は大国に出しても恥ずかしくない実力の持ち主。人民解放軍の空軍力を一手に引き受けてくれる

 山岳歩兵の数もそこそこ整い,戦術爆撃機4個師団が完成した段階で,いよいよ対米戦に突入する。即座に共産圏に加入し,ソビエトと共同戦線を張る。
 と,そこで思い出したのは,そういえば中国共産党ってスイスに宣戦布告してたんだという事実。スイス兵が無防備な占領ドイツ・フランスを荒らし回る。ソビエト駐留軍は七転八倒してこれを包囲殲滅,スイスを併合したが,ソビエトの経済活動に相応のダメージが与えられることになった。同志,すまぬ。
 想定外の椿事(ということにしておこう)はともあれ,人民解放軍は旧モンゴル領を突進,モンゴル領外辺を境界線として防衛に入る。満州方面は新京近くまで前進,そこで膠着状態に陥る。できれば大連は落としておきたかったが,山岳地形に戦車を筆頭とした精鋭3個師団が篭もってしまい,まったく攻略できない状態だ。やむなく大連の手前に前線を引く。防御線に最も近い空港として機能する大連の重要性は,この場合強調するまでもないのだが,こだわりすぎれば戦線崩壊を招きかねない。アメリカ相手の持久戦がそう短時日で終わるものでない以上,気負いすぎは禁物だ。
 北西では山岳地帯であっというまに膠着。基本は防戦だが,周恩来や毛沢東といった貴重な高級将領を張り付かせて,隙あらば攻勢に出ようという構えにする。

 

インドをほぼ制圧し,中東に突破しようとする人民解放軍。民兵だけを残したらインド南部の制圧に割と時間がかかったのは秘密

 インド方面は,ベトナムでフランス軍の強固な抵抗にあって進撃が止まったため,民兵13個師団を張り付けて戦線を膠着させておく。フランス軍がこれ以上増える可能性はないから,米軍がベトナムから上陸してこない限りは安全だ。来たら来たで,中国南部は世界有数の山岳地帯なので,生産した民兵を片っ端から山岳に配置すれば年単位で抵抗が可能だろう。
 ビルマ方面は順調に突破,旧ビルマ領を解放し,インドに到達する。ヒマラヤで米軍と戦線を接するが,ここも民兵中心の部隊で膠着させる。主力はそのままハイデラバードからカラチ方面に抜け,ペルシア攻略を目指す。ソ連軍はバクー正面まで迫っており,ペルシアで両軍が手をつなげば,巨大な包囲網はその半分が完成したことになる。
 この段階で労働力は7000近く。何をどうやっても使い切れない量だ。純粋に民兵に全部つぎ込んだとして,700個師団相当である。こう,なかなか頭に思い浮かべるのが難しい光景だ。
 山岳歩兵と民兵を合わせて人民解放軍の師団数はすでにソビエトのそれを超えている。大半というか7割は民兵なので戦力としてはちょっとアレだが,民兵も12個師団×2軍団くらいを二人の元帥に指揮させると,たいていの無理(というか普通の攻撃)はできる。相手に戦車がいようとも,12個師団×4軍団で撃退可能だ。山岳歩兵や砲兵が混じっていれば,戦力はもっと少なくてもよい。圧勝とはいわないが,かなりいい勝負ができる目がでてきた。

 

労働力増加にペナルティがある一方,国外ICの利用率が上がる大臣を登用。どうやってそれを実現しているのか,説明がたいへん気になるのだが,ゲーム的最適解なので仕方ない ついに中国に核攻撃。1発で国民不満度+16%の大打撃である。だが共産圏の主力がソビエトである以上,ひどい言い方だが,中国が弾除けになった意味は大きいと見るべきだろう

 

 

人民解放軍の近代化と技術革新

 

近くて遠いバクー。あと2プロヴィンスで貿易ルートが開通,希少資源不足によるIC低下に歯止めがかかるのだが

 占領地のICが回復してきたあたりで,戦略爆撃や資源不足によって低減していたICがコンスタントに100を超えるようになった。ここらでそろそろ安定性に欠ける民兵の編成を停止,山岳歩兵と戦術爆撃機,防衛拠点での要塞建設にICを割り当てていく。ちょっと早い気もするが,胡 耀邦同志が活躍したり,軍に階級制度が導入(!)されたりしているに違いない。

 

 戦闘そのものの方針は,実のところ国民党相手のときと変わらない。米軍は極めて質が高いので,完全状態の4〜5個師団が1プロヴィンスに固まっているだけで,人民解放軍にとっては重大な脅威となる。そこで米軍がまだ2〜3個師団しか集められていない時期に,複数プロヴィンスから40個師団ほどで攻撃を仕掛けて撃退,進撃はせずに次の米軍部隊が訪れるのを待ち受ける。これを繰り返すことで,米軍は安定した攻撃基盤を形成できなくなるというわけだ。
 もちろん1回の戦闘ごとに,損耗回復のために労働力が減るのだが,増加する速度のほうが上なので,気にしないことにする。これを気にしていては中国で戦争などできないのだ。ただ,労働力10が歩兵1個師団ということは,ごくおおざっぱに見て労働力10=1〜2万人というところだろう。1戦闘で3労働力くらいは必ず減るので,占領地も増えない「人民のための前進防御」1回ごとに,5000人くらいは死んだり負傷したりしている計算になる。……考えてみれば悲惨な話だ。

 

泥沼化し始めたシベリア戦線。イデオロギーのためにこんなところで戦い続ける連合軍兵士の胸中やいかに。とくにブラジル歩兵師団とか,エルサルバドル空軍とか,どうなのだろう?

 

思うにこのポーランド軍がシベリア戦線に投入されれば,戦争の帰趨はだいぶ変わると思うのだが。無理は言うまい……

 感傷はさておき。ここまでやって,さらには要塞まで作っても,まれに突破を許しそうになる場合がある。そういうときに効果を発揮するのが,例の「ゲリラ戦」による民兵の士気向上だ。異様な高士気状態にある民兵は,防御戦線から撤退している最中に指揮統制が50%以上に回復している。一方で米軍はシベリア全土を占領していることによるTC(輸送力)負荷が高いせいか,全体に指揮統制の回復が鈍い。防衛部隊が撤退を完了したところで,即座にもとのプロヴィンスに向けて再進撃を指示し,これを隣接プロヴィンスの歩兵に支援させることで,問題なく奪回が可能となる。突破を恐れてラインの位置取り自体に手を加える必要はまったくない。ゲリラ戦ドクトリン,お手軽な割に優秀である。

 

ついにソビエト領まであと1プロヴィンスに迫る。だが見てのとおり,あと1プロヴィンスが果てしなく遠い。絵に描いたような攻勢限界点である

 さて,文字どおり人民の血と汗で北方戦線を維持している半面,中東戦線では混迷が始まった。中東に展開していた爆撃機部隊を,戦線維持のため北方に引き抜いた結果,じわじわとこちらの戦線が連合軍に押され始めたのだ。無理に戦線を維持しようとして失敗したあげくインド方面に突破されては破滅だし,かといって北方は爆撃機なしではまったく安定しないので,涙を呑んで産油地アバダンを放棄,ペルシア領からインド最西部のカラチへ向かって順次撤兵を開始する。カラチには要塞を建設して防御を固めたが,人民解放軍にとってインド戦線はここが攻勢限界点のようだ。
 しかし,北方が膠着,北西山岳部も膠着,そして南方でも戦線が膠着したということは,逆に言うと米軍が本格的に戦力を対中戦線に投入してきたということである。そしてそれを裏付けるかのように,雪解けを迎えて泥濘も消えたシベリアではソビエトが大攻勢を開始,米軍の戦線が瓦解する……。こんなシーンを見るのは初めてである。血で購うばかりの反帝ゲリラ闘争も,決して無駄ではなかったのだ。

 

赤軍の猛攻。ここまで明白に,巨大なポケットを作ろうという意思が見える進撃も珍しい。北西部の中国軍もこれに呼応して攻勢を開始。包囲が完成する

 

 一方中国共産党にも,戦線の動きを大きく変えるだけの戦力が整った。ソビエトからの技術移転で実現した,ジェット戦術爆撃機部隊の編成が完了したのである。また空軍ドクトリンも,戦術爆撃に限っては,列強のそれに見劣りしないレベルに到達した。
 これによって,従来は防備が固まるという以上にはメリットのなかった前進防御戦略が,とたんに米軍に多大な出血を強いる戦闘様式に変わる。悪路の多いシベリアで前進と後退を繰り返す米軍は,次々に最新鋭の戦術爆撃機に捉まって戦力を損耗していく。人民解放軍には今のところ護衛戦闘機や迎撃機といったものは存在しないので,連合軍の戦闘機や迎撃機に捉まると大損害を受けるものの,シベリアにはそもそも空港がない。
 こちらは最もホットな戦域を最短距離でカバーするように空港を設置していくので,飛行ルートも含めて,迎撃の心配をせずに爆撃に専念できるというわけだ。
 戦争の風向きは大きく変わろうとしていた。

 

もう質を省みない軍隊とは言わせない生産ライン。戦力損耗のほとんどすべては,チチハルへの核攻撃が原因 中国が技術力でソビエトを上回った貴重な一瞬。これ以外の分野で全然追いつけなかったのは党の重要機密だ

 

 

人類史を塗り替えるユーラシアの共産化

 

人民解放軍66個師団で米軍16個師団を攻撃。相手がエリート歩兵だろうが戦車がいようが旅団が充実していようが,ここまでの数の差はいかんともし難かろう

インド方面軍はカラチで篭城,満州方面軍は朝鮮半島を進撃中。もしかするとこのプレイで最も激しい戦闘が続いたのは朝鮮半島だったかもしれない

 モンゴル北部での戦況が遅滞戦闘から,米軍が多大な損害を受ける消耗戦に切り替わったことで,これまで満州方面に展開していた米軍がモンゴル方面に転進しなくてはならない状況が生まれ始めた。もちろんこれには別の理由もあって,シベリア方面に大突破を始めた赤軍を止めるという任務もある。だがシベリアの奥地にまで爆撃機の足が届く人民解放空軍は,シベリア戦線に向かう米軍部隊を徹底的に阻止していった。
 さらには手薄になった満州方面で,陸軍がついに本格的な攻撃を開始する。この戦線はあえて完全な泥沼の消耗戦に持ち込み,米軍に追加戦力の投入を要求することにした。結果,シベリア/中央アジア/満州の3方面にそれぞれ中途半端な増援を送ることになった米軍は各地で敗退を繰り返し,ついに中国共産党は満州を回復。余勢を駆って朝鮮半島に民兵でスチームローラーをかけ,歩兵と山岳歩兵からなる主力はウラジオストックを陥落させた。

 

このころから,核はことごとく中国に投下されている。何の恨みがと思う半面,比較的弱いところをさらに弱体化させて突破しようという意図は,確かに正しい。迷惑千万なのだが

 

シナリオ終了まであと1年だが,このVP差は覆らないだろう。この段階での米陸軍は140個師団規模で,上陸作戦を展開したところで数の差が大きすぎる

 こうなってしまえば戦争の行く末は確定している。行き詰まった米軍は中国の大都市に核攻撃を繰り返す。その攻撃1発ごとに国民不満度が20%以上増すため,そのたびに装備更新などに遅れが生じるものの,結局極東ロシアから中央アジアにかけての地域は,人民解放軍が主体となって奪還に成功。中東はシベリアの余剰戦力を送り込んだソビエトが文字通り席巻して,スエズ対岸にまで押し寄せる。戦争は終わった。
 ゲームの期日的にはあと1年を残しているが,この段階で中国共産党の海軍技術研究はゼロで,海軍ドクトリン研究も真っ白だ。海軍爆撃機の研究は1年前から開始しているものの,生産はいまだゼロ。何をどうやっても日本上陸さえ不可能だ。一応空挺降下という可能性はあるが,空挺部隊の研究もしていないので,前途多難にもほどがある。実際問題,そういった「無駄な研究」をしている余裕は,中国共産党にはまったくなかったのだから仕方がない。世界人口のうち,おそらく優に過半数を解放したところで,いったん銃を置くことにしよう。

 

労働力8000に到達寸前の中国。意味がよく分からないが,世界人口の過半数はこの巨大な毛沢東帝国の支配下にあると思われる 最終的に1個師団差で中国軍が規模トップを維持。山岳歩兵78個師団は極東や中央アジアで米軍を圧倒する力を持っていた

 

 プレイ全体を通して感じたのは,常備軍化を最大に進めることが前提にはなるものの,思ったよりゲリラ戦ドクトリンは有用だということ。士気に関していえば,人海戦術方面に伸びる陸軍ドクトリンの終点付近には機甲や自動車化歩兵の士気を急上昇させるドクトリンがあるが,その手のものをコンスタントに生産/運用できる大国ならいざ知らず,有効IC120前後で戦い続けるうえ,石油供給に不安を抱く国にしてみれば,それらではむしろドクトリンの副産物である「歩兵の生産IC増加」がペナルティとして重くのしかかってしまう。実際,今回のプレイでは陸軍ドクトリンに関し,すでに研究が終わっている部分以上には進めていない。
 民兵は,打撃戦力としてほとんど期待できないが,それでも集中運用すれば十分に通用する。民兵ユニットを大量にスタックすると高価な司令部なしには指揮負荷ペナルティで破綻するものだが,スキルを落としてでもいいから元帥クラスの指揮官に指揮させれば,当面の問題はなくなる。完全に民兵だけで戦い抜くのはあまりお勧めできないが,ある程度の通常兵力を主たる火力とすれば,民兵という補助火力は想像以上に有効だ。
 もちろん,この方策を維持するためには,汲めども尽きぬ労働力が不可欠なので,現実的にいってゲリラ戦ドクトリンが有用なのはソビエト,中国あたりに限られる。とはいえソビエトの場合,あの工業力があれば機甲に回したほうが強いので,最終的に残るのは中国だけという次第だ。
 もっとも,局地的な紛争(限定された地域で小国が殴りあう)であれば,ゲリラ戦ドクトリンを備えた民兵に,歩兵による主力という構成は有用だと思われる。それについてはおそらく,ラプラタシナリオが格好の実験場となるだろう。

 

 ともあれ,よく分からない数の民兵で,最新鋭の軍隊を踏み潰していく戦争は,その表面的な印象とは裏腹に,デリケートな運用が要求される。戦争における王道は,質と数の双方を揃えることであって,質の伴わない数をその桁数の大きさに任せて運用するというのは,やはり奇策の範疇に属するのである。
 だが,奇策というのは,遊んでいて面白い発見ができるものでもある。ただ「数で押すだけの戦争だったね」と言って終わるのではなく,数で押すことしかできない戦争がいかに難しいか,現実世界における人民戦争戦略の断念と重ね合わせつつ,あらぬ思考実験ができるのも,本作の楽しさではないだろうか。

 

米ソともにいま一つぱっとしない首脳陣。ある意味,一つの時代が終わったことを実感させる場面

 

最終的な技術開発状況は,一点強化を続けた結果このように。自動車化/機械化歩兵を研究する時間で海軍を研究する手もあったが,米海軍は戦艦35隻,空母39隻,補助艦艇258隻。さすがに徒労かも

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
ヒストリカルストラテジーを手広く扱う,PCゲームライター。先日だしぬけに訊かれたことといえば「……普仏戦争(1870年)を扱ったPCゲームって,ありませんでしたかね?」。いやその,同時期の植民地競争とか,少し前の南北戦争とかならともかく,ビスマルクとナポレオン3世の戦争って……。あらためて考えてみると,我々が扱うモチーフやシチュエーションが,いかに単調かを裏書きしている質問なわけだが,まあ,どう見てもマーケティングターゲットとして有望とは思えない話題ではある。
タイトル ハーツ オブ アイアンII ドゥームズデイ 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/08/04 価格 通常版:8925円,アップグレード版:4725円(共に税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/800MHz以上(Pentium III/1.20GHz以上推奨),メインメモリ:128MB以上(512MB以上推奨),グラフィックスメモリ:4MB以上(8MB以上推奨),HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2: Doomsday(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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http://www.4gamer.net/weekly/hoi2dd/007/hoi2dd_007.shtml



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敗北を抱きしめて 上 増補版
ジョン・ダワー著。これを日本人以外に書かれてしまったことの衝撃が,ひところ言論界を賑わした,日本戦後史概説の決定版。

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鷲は舞い降りた 完全版
ジャック・ヒギンズの冒険小説。失意の降下猟兵指揮官シュタイナ中佐と部下に下ったのは,IRA工作員と協力し英国に潜入する任務だった。