WoWは,「MMORPGとして何か特別ユニークな要素がある」という作品ではない。概観としては「ファンタジー世界で,敵との戦闘などを通じて自分のキャラクターを成長させながら冒険する」という,一般的なMMORPGである。つまり,独特の何かが世界中で大ウケしているわけではないのだ。
では,WoWが世界一に君臨する理由は何か。月並みな表現だが,ゲーム内の要素の一つ一つが「あまりにも丁寧に作られている」ということである。ゲームの隅々まで作り手の神経が行き届いているため,ほかのMMORPGの多くが何かしら抱えているプレイ上の問題やストレスをほとんど感じず,また停滞してしまう苦痛な時期もないため,どこまでも興味深くプレイを持続していける。
「プレイしやすい」=「ゲーム内容が単純」ということもない。コアなMMORPGをいくつもやりこんだプレイヤーが,「なるほど,これは良くできているな」と感心するほど,高度な内容を持った作品に仕上がっている。非常に手間暇をかけて作られているということが,ゲームの端々から感じ取れるのだ。
WoWに用意されている九つのクラスは,どれも実に(見事なほどに!)個性的だ。例えば,MageとWarlockは共にローブを着た魔法使いタイプのクラスだが,持っている魔法の性質や機能,ラインナップはまったく違う。そして,その差からくる戦闘時の振る舞い方は,全然違ったものになる。
Paladinは,よくあるような「Warriorの能力とPriestの能力をそれぞれちょっと薄めて半分ずつくっつけました」で終わってはおらず,Paladinのみに用意された特別な(そして興味深い)魔法の仕組みを持っている。また,「防御力が高くて攻撃力が低いのがWarriorで,その逆がRogue」といった単純な差別化にはなっていない。繰り出せる技の性質が違うのは当たり前で,その技を繰り出すためのパワーソース(キャスターでいえばManaにあたるもの)のマネージメントの仕組みからして全然違う。さらにWarriorでしか体験できない,あるいはRogueにしか利用できない専用の戦闘システムが用意されている。どのクラスも本当に「ユニーク」(=ほかに似たものがない)なのだ。
WoWの戦闘は,大まかには多くのMMORPGと同じタイプのリアルタイム制であるといえる。ただ,とてもテンポが良く,操作に対する画面の反応がきびきびしており,モーションやエフェクトも作り込まれているために,見ていて小気味いい。クラスにもよるが,基本的には技や魔法を次から次へと使っていくことで,戦闘はドンドン進行する。メレー系はもちろん,キャスターやヒーラーも,魔法を放つタイミングを後方でじっと待つようなプレイにはならない。
また,Healthなどの自然回復がもともと早いうえに,体力などを回復できる食料や飲料が安価で手に入るので,戦闘と戦闘の間隔は比較的短い。全体として,WoWでは待ち時間の少ないスピーディな戦闘が楽しめる。
WoWでは,1か所に陣取って,次々と湧き出す敵を倒し続けるようなレベリングは,まずない。WoWプレイヤーの意識としては,経験値は「敵を倒して稼ぐもの」というより,「クエストをこなして稼ぐもの」である。無論,クエストを遂行する過程の戦闘でも経験値は溜まっていくが,クエストクリア時にもらえる経験値量が,かなり多いので,育成は基本的にクエスト報酬で行うイメージだ。
プレイヤーはそこらじゅうのNPCから,次から次へとクエストを渡される。ほとんどのクエストはソロでも遂行可能なもので,プレイヤーはあちこち移動してクエストをこなすうちに,自然とレベルアップして,また行動範囲も広がっていく。クエスト達成時には報酬としてアイテムがもらえることも多い。
WoWに用意されているクエストの数は膨大で,「今のレベルに適正な難度のクエストを,やり尽くしてしまった」なんてことには,まずならない。WoWのキャラクターの成長速度は,ほかの一般的なMMORPGよりも速めに設定されているので,むしろ受け取ったクエストの消化ペースよりもレベルアップのペースのほうが勝ってしまうだろう。
グラフィックスは,WoWの大きな魅力の一つである。現役WoWプレイヤーに,この作品の特徴を聞けば,それがグラフィックスであると答える人は多いだろう。初めてグリフォンやウインドライダーを使った空路による移動を経験したプレイヤーが,異口同音に「景色が美しく感動した!」「飛んでいてとても楽しかった!」と感想を述べるのは,WoWをプレイした経験のあるものにとっては周知のことである。
最近は,目の前に表示されているキャラクターはとても緻密に描かれているというゲームが多いが,そういった作品は必然的に描画可能な範囲が狭くなり,世界全体の描写があまり綺麗じゃなかったりする。数体の精細なキャラクターを表示することに,マシンパワーの大部分が使われてしまっているのだ。
WoWのグラフィックスは,そういったアプローチとは,まったく逆のコンセプトのもとに作られている。「目の前にいる一体の美麗なキャラクターを描画すること」ではなく,「キャラクターを含めた周囲の環境をバランスよく表現する」ことに力が入っているのだ。「どうもWoWのキャラクターモデルがあまり美しく感じられない」と思っていた人は,ぜひ一度この世界を歩き回って,その全体的な美しさに注目してほしい。