澤氏:
そうしたところで,僕としてはゲーマーの方(かた)に対する啓蒙活動を考えているんですよ。オンラインゲームというコミュニティで生きる知恵として,問題が起きたときに切り分けできる能力を育てていかなければならない。
それはそれとして,メーカーの立場からRMT業者さんに言わなければならないことはたった一つ,つまり「他人の庭で勝手に商売すんなよ」ということに尽きます。Botだとか,中国人ゴールドファーマーが増えるとかは別の問題ですから。
浦安の遊園地に行って,ネズミとアヒルのぬいぐるみを売ったら,連れて行かれしまいますよね? 私が売らなくても中国人がいっぱい売るから……みたいな言葉を連ねたところで,そんなの言い訳でしかないわけです。
4Gamer:
そうですね。
澤氏:
メーカーは,韓国企業なりどこなりからライセンスを受け,スタッフと機材を揃え,お金を掛けて事業を行っている。その中で我々が生み出す価値が,アイテムだったりゲーム内通貨だったりするわけです。そういう敷地で勝手にお店を広げられたら,企業としては「なぜ他人の庭で?」と言わざるを得ない。
以前,アイテムバンクさんに乗り込んだことがありまして。当時担当していた「Seal Online」のアイテムを出したら,問題になりますよ,とお話しさせていただいたことがあります。規約上認めてないですし,運営元のサービスから生み出された価値を基にしていながら,運営元にペイバックがあるわけでもないですから。
それに加えて,「プレイヤーさん同士の売買サイトが出来るのであれば,そこにメーカーが卸すとか,きちんとした形でビジネススキームが組めるのではないですか?」というお話もしました。まあ,その後アイテムバンクさんについては話題が途絶えてしまいましたので,とくに大きな問題は生じなかったようですが。
つまりメーカーが考えなければいけないのは,敷地としての“ショバ代”などといった話と,アイテムを卸す/卸さないといった,ビジネス的な交渉だと思いますね。
4Gamer:
そうですね。ビジネス上の観点は無視できないと思います。
澤氏:
一方で韓国に「R.O.H.A.N」というゲームがありまして,この作品は面白いことにRMT業者さんと正式に提携して「ゲーム内通貨やアイテムの取引はOKですよ」としている。韓国では現在,月額課金方式が不評であるにもかかわらず,プレイヤーはこの作品について月額課金方式を認めています。つまり,ゲーム内で稼いだものをRMTに投じて,月額料金分を回収するという,お金の流れを作ったわけですね。
ただしこの構造には問題が一つありまして,それは「永遠にインフレーションを続けなければ成り立たない」ことです。ずっと会員数が伸びていく,ゲーム内通貨/アイテムが生み出される,それが続くうちは循環が生み出されるのでよいのですが,あるときにゲームが限界を迎えると,不況が起こる。お金の要素を組み込んでしまったために,ゲームの寿命がお金によって規定されることが,生々しく分かってしまう。ゲーム性と関係なくなってしまうわけですね。
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宇田川:
なるほど,確かにそうですね。
澤氏:
少し本題から離れたところに踏み込むと,R.O.H.A.Nでは賭博が可能になっています。ゲーム内通貨を賭けたトランプゲームに勝つと,賭け金の8倍とか10倍とかが手に入ります。
RMTでゲーム内通貨を買って,ゲーム内のカジノでお金を増やす。それをRMTで売ってよいとなれば,RMT業者とゲーム会社が結託して賭博を開帳していることになります。それを現在,韓国の文化観光庁が問題視しているわけです。
もしもですよ,こうしたゲームで,運営側がゲーム内通貨を安く卸し,プレイヤーに高く売って賭博をさせるとする。ゲームですから賭博の勝率は変えられます。もちろん,モンスターからのアイテムドロップ率だって一緒ですから,公然と八百長ができてしまう可能性があるのです。
4Gamer:
確かに。
澤氏:
そこまでひどくないにしても,ゲーム運営側とRMT業者が手を組むことはプレイヤーの不信感を生み出します。「メーカーがペイバックと引き換えに,RMT業者に貴重なアイテムまで卸しているのではないか?」というような。あくまでゲームの世界に没頭したいという望みを持っているプレイヤーさんも多いですから,そうした生々しい部分を見たくない,という感情も大きいのだと思います。
ポッと手に入れたレアアイテムを,知り合いに5000円で売るとか,いや,メシおごるからとか,そういうのはOKだと思います。でも,それが企業によってサービスとして行われているときに,メーカーが交渉のテーブルを持てない理由は,この生々しさにあると思います。
僕としては,ゲームは文化だし,夢を与えるものだと思っていますから,そうしたお金のやりとりとかを見せたくないんですよ。会社としてRMTをやることに対しては,そうした思いがあります。
4Gamer:
宇田川さんは,メーカーさんと交渉してみたりしたことはありますか?
宇田川氏:
ビジネスを始める前の段階で,個人的な知り合い何人かと話してみたところ「個人として気持ちは分かる」と。しかし,「現実に市場も存在するけど,会社としての正式な話はできない」と,言われてしまいました。
ビジネスを始めたあと,いくつかの会社からメールで「規約で禁止しています」という旨をいただきました。「そのメールの趣旨および,RMTそのものについてお話をしたい」と伝えると,お返事いただけないのです。
その気持ちも,非常によく分かります。澤さんのお話に出てきた,ビジネスレイヤーと,感情的な部分のレイヤーに沿って考えてみると,まず運営側として話ができないのは,プレイヤーさんの感情を逆撫でしてしまうからです。ジーエムエクスチェンジと何らかのミーティングを持っただけで,どこかでつながっているんじゃないかと疑われる。また,そもそも利用規約で禁止している事柄について,話し合いをするのもおかしな話です。そういったところで,非常に難しいのだと思います。
先ほどのお話の続きになりますが,現状でこのビジネス(RMT)は,明らかに他人様の畑で好き勝手な作物を作っている状況で,何よりそのゲームを作った人にとって面白くない状態だと思います。