― 特集 ―

メーカー vs. 業者。RMTがはらむ問題と可能性をめぐる座談会

Text by Kazuhisa/Guevarista,Photo by kiki 

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メーカー/業者間の対立を前提に,問題解決を考える

宇田川氏
 ゲームメーカーさんのお考えは間違いなく正論で,みなさん同じだと思うんですよ。そして,RMTが世界のどこかで下降線を辿っているのであれば,啓蒙活動というソリューションもアリだと思います。ですが,例えばすでに韓国とかではRMT市場が,通常のオンラインゲーム市場より大きくなってしまった。そして,現状でも変わっていない。
 それを見る限り,もう少し具体的なソリューションが必要なのではないかと思います。実際,解決の形はそれ以外あり得ないと思って,僕もこのビジネスを始めたのです。
 禁止する,啓蒙する,見つけた範囲内でアカウントを停止していく。これらの活動は,一つ一つは正しいように見えるんですけど,例えば先輩から後輩にアイテムを贈るとか,曖昧なケースがどうしても出てくる。そこで法廷に持ち込まれて,ゲーム運営側に不利な判決が出てしまった場合,それに合わせてゲームを作り替えていく必要が出てしまう。

 

4Gamer
 ふむ。

 

宇田川氏
 そうなるくらいなら,それより手前で,完全でないにせよある程度話し合いで解決して,今後発生し得る問題を追っていくことができる程度の情報共有,といったところで落ち着けておくのが,結果的に一番いいんじゃないかと。

 

4Gamer
 話戻っちゃいますよ,その方向。

 

宇田川氏
 禁止して,啓蒙してというやり方では詐欺もなくならない。小学生が親のカードを使い,海外のRMT業者から多額な買い物をしてしまっても,悪いのはRMT業者という話になるだけです。禁止していながら追跡していない運営側の責任はどうなるかという話も出てきてしまう。
 現状で,RMTが誘発する一つ一つの問題を解決するソリューションに,なっていないと思うんですよ。ゲームメーカーがRMT業者を否定するのは当然なのですが,誘発している問題を解決する具体的なソリューションも,同時に出す必要があるのではないかと。

 

澤氏
 まあでも,Botを止めたり,必要に応じて中国人ゴールドファーマーを入れなくしたりというのは,RMTがなくてもやることだから,僕はそれでいいと思います。RMTで,買う側はバーチャルな世界でしか得をしないのに対し,売る側は現実世界でご飯食べたり電車に乗ったりできるものを手にする。つまりは売る側の論理で動いているからビジネスになるんだけど,その一方で買う側のリテラシーがまるでないのが気になるわけです。
 僕がさっき述べた啓蒙というのは「RMTはいけませんよ」と言うことではなくて「これはゲームだよ」と言うことなんです。現状はすごく売る側,お金を手にしたい人の論理で回っている気がする。 アイテム課金制が普及することで,「これでRMTがなくなる」と喜ぶプレイヤーさんも多いわけですが,これは,運営元,胴元がやっているから納得できるわけです。

 

4Gamer
 そうですね。

 

澤氏
 それに対してRMTというのは,仕組みも流れも売る側の論理という点で,納得できない人も多いし,それは変わらないと思います。だからこそ,メーカーにソリューションを提案して,メーカー自身が運営する形がよいのでないかと思うのです。「EverQuest II」の試みが一つの例ですが,RMTが一般化する,みんなが受け入れるようになるとしたら,そこらへんに落ち着くしかないのではないかと。

 

宇田川氏
 ふーむ。

 

澤氏
 業者が別にいて,そこで取り引きをやっている。しかも,在庫自体がゲームサーバーにあって手元には何もないという事業の持つリスク。それが危ういものであることは,このままだと全然変わらない状態です。

 

4Gamer
 話をちょっと戻させてください。サービス業の一種であると仮定するにせよ,しないにせよ,プレイヤーの心情についてはどうですか? ……すごく言葉が悪くて,おまけに極論で恐縮なのですが,麻薬の売人と変わらないですよね,宇田川さんの論理は。
 必要としている人はいっぱいいる。麻薬は法で禁じられているけど,オレは売ると。なぜなら,もっと悪い業者がいっぱい出てきて,末端価格が3倍になったら困るよね? とか,詐欺が出たら困るよね? とか。でも,それは違うんじゃないの? といいますか。それが僕の感覚です。
 まず,理解に至るほど,経緯に納得ができないというのが,大半の人の感覚ではないかな,と思っているのですが。

さまざまな欲望を抱え込んだ仮想社会としてのMMORPG

宇田川氏
 僕の視点から言うと,ゲーマーさんには2種類の人がいます。RMT否定派と,肯定派です。

 

4Gamer
 どっちでもいい派も,思っているよりは多いですけどね。

 

宇田川氏
 そうですね。で,そこで否定派の意見はよく分かる。でも,逆の意見,つまり時間に富む者だけがゲームを楽しめるという現状をどう捉えるかです。
 映画館があって,楽しい映画をやっているとします。そこにならんでいる人は,時間があってその内容を楽しめますが,働いているサラリーマンは楽しめません,という心情を,汲み取る仕組みを,ゲームメーカー側は提案していく必要があります。

 

4Gamer
 ええ,そこは分かります。映画館で,前売りの良い場所のチケットが高いのと同じですよね。

 

宇田川氏
 で,その部分が難しいというならば,RMTは間違いなくその部分を補うことができていると思うんですよ。プレイヤー層を一つであると捉えれば我々は否定されてしまいますが,本当にさまざまなプレイヤーがいますし,僕はMMORPGはゲームの枠を超えていると思うのです。あれは仮想世界だと思います。

 

4Gamer
 同意します。

 

宇田川氏

MMORPG市場の成長要因が,まさにRMTの発生に寄与しているという,社団法人 中央政策研究所の見解。ジーエムエクスチェンジの会見資料より

 仮想世界にはさまざまな人間がいて,欲望もあれば見栄もある。そうした,もろもろの人間の感情が集まっている一つの箱なので,主催者側がすべてをコントロールすることはおそらくできない。
 であればこそ,自由度を与えているんだと思います。その自由度によって発生したRMTというものを,依然として一方向からだけしか見ずに否定し続けることは,少なくとも,プレイヤーの気持ちの100%を汲み取ってはいないことになるんじゃないかな,と思います。

 

4Gamer
 うーん,僕がしゃべることじゃないですが,別に頼まれているわけじゃないないですよね? メーカーさんに。

 

澤氏
 そう,だから仮想世界なら仮想世界で,それを作った神様に無断で商売したら「天罰」が下るぞ,という話になるような気がします。

 

宇田川氏
 うーん,神様であればもちろんそうですけれども。

 

澤氏
 神様ができないところをやってやろうと思って,バベルの塔を建てたら,天罰を喰らいますよ。そういう考えで行くならば。

 

4Gamer
 ただし,そこには一方で住人がいるわけですけどね。

法と公序良俗,そして現実

澤氏
 そこに需要があるのも分かる。先ほどから「規約違反は重々承知で」という意味のことを言われていますが,要は,規約違反だけど法律違反じゃないから商売できているんです。

 

宇田川氏
 ええ。

 

澤氏
 例えば中学校や高校の校則があります。そこでリーゼントが禁止されているとしましょう。先生に呼ばれて髪の毛にシャンプーを掛けられるのが,アカウント停止に当たるとする。
 ところが,床屋さんとしては「リーゼントにしてください」というお客さんが来たら,せざるを得ないと。RMTはそういう商売なんですよ。だからといって,高校生に働きかけて「明日からみんなリーゼントにしようぜ,カッコいいよ」と言うような活動をされたら,守るものも守れないんです。

 

宇田川氏
 じゃあその例で言うと,一方ですごく大きな暴走族の集団がいます。「みんなどんどん俺達の仲間に入ってくれ」と言っていて,事実どんどん人数が増えています。憧れて入る気持ちは分かるけれど,それで入ると学校もやめてしまったりして,一層悪い方向に行ってしまうとする。
 学校側はその暴走族に対して,さすがに恐いから手を出せない。そもそも,どこにいるか分からないし。そういう状況が放置されているところで,とりあえず床屋は潰すとして,ほかは仕方ないだろうと考えているように,僕の視点からは見えてしまうのです。

 

4Gamer
 なるほど。

 

澤氏
 だから,そういうところで床屋を潰すのも大事なんだけど,ハイファイブでやりたいと言っている啓蒙活動は,インターネット上で生活するための基本事項を,ゲームをしていく中で学んでいくべきだという話です。RMTというものがあるのは知っているけど,容易に手を出さない人を育てることは,ゲーム会社として大事なことだと思っています。
 そうして内側に訴える半面,外側に対して――見えないRMT市場にどうやってくさびを打っていくかというと,実体があるものから打っていくしかない。それはジーエムエクスチェンジさんという姿かもしれないし,掲示板という姿かもしれない。
 ただ,それを日本で取り締まろうと思っても「法律ではない」という一言で,潰そうにも潰せないことになっている。もしくは,潰したとしてもアンダーグラウンドに潜っちゃって,個人間でこそこそやることになるという事態は,まあ生じると。そこまでは見えているけど,とりあえず見えるものについては――法律を変えてもらうか,作ってもらうか分からないけど――なくさせなきゃ。

 

4Gamer
 ところで先ほどの床屋さんは「リーゼントはダメなんだよ」と,ちゃんと言っているんですか? 高校生に。

 

宇田川氏
 床屋さんの範疇で言えば,仕事はそこの部分の啓蒙じゃないですよね?

 

澤氏
 床屋さんとしては,校則で禁止されているはずの高校生が来たら,喜んで髪の毛を切ってやるんじゃなくて,許可されている作品のゲーム内通貨とかを,じゃんじゃん売ってください。それは問題ないし。だけど,禁止されているところには,やはり配慮がないとおかしいんじゃないかと。
 ええと,たとえ話で進んでしまったので,逆にポイントが分かりづらくなっているけど,それは「規則だけど法律じゃない」ことで,商売ができているだけの話ですから。

 

4Gamer
 話の最初のほうで「規約違反だからやめてね」と言ってきたメーカーにお返事を出したというのがありましたよね。それは,実際にそのメーカー/作品の商品取り扱いをやめてから返事を出したんですか?

 

宇田川氏
 いえ,そうではありません。「やめて」に対して「なぜですか,これはこういう形で問題解決できると思います」というお返事を出させていただいてます。

 

4Gamer
 対応としてはちょっとおかしくないですか? 規約違反だからやめてくれと言ってきたメーカーさんの言い分を聞かずに,逆に要望を出すというのは。

 

宇田川氏
 うーん。どうでしょう。

 

 

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