4Gamer:
例えばメーカーの保証に基づかず,損害はゲーム内の同等物で補填,などとすることは可能かもしれませんが,その場合でも,依然としてメーカーとの関係をどうする,という問題が残ります。
澤氏:
ええ。メーカーとして,プレイヤーさんがなくしたアイテムを保証することは,確実にできるわけではありません。ですからそこで,先ほどの「啓蒙」という話に戻るのです。ゲーム内の価値観と,現実の価値の違いについて,という。
ロールプレイングゲームで剣をなくしたら,プレイヤーが悔しがるのでなくて,プレイヤーキャラクターが「ああ,剣をなくしてしまった。悔しい」と思う……はずですよね。当たり前なんですけど,それくらい割り切った思考をしていないと,なかなか難しいですね。
4Gamer:
うーん,なるほど。
澤氏:
プレイヤーさんはオンラインゲームのキャラクターに愛着を持ってくれますから,そこが難しいのですが,どこまでも仮想世界なんだという認識が,一方で必要だろうと。
4Gamer:
逆の見方をすると,それだけ気持ちを込めてプレイするからこそ――ビジネスレイヤーの話はまったく抜きにして――今度は「ゲーム内のものをお金でやりとりするな」という反発も出てくる。それを含めて,RMTにまつわるさまざまな心情的問題を解決するのは,相当に難しい気がします。
宇田川氏:
いや,難しいと思いますよ。そうした問題がある一方で,もっと遊びたいのに時間がなくて,弱いモンスターとばかり戦っている人もいる。やはり,フラストレーションが溜まりますよね,同時にスタートした人がもっと先に行って,楽しそうに遊んでいるとなると。
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4Gamer:
よくお金でケリをつけるのは「不公平」といいますよね。ただこれは見方を変えれば逆も真なりで,時間でカタをつけるのも不公平なんです。どちらも間違いではないと思います。
ただ,現状のRMTビジネスについては,立ち位置が非常によろしくないんじゃないかと思うんですけどね。
澤氏:
そうですね。メーカーから見てRMTが問題になるのは――先ほどあえて切り分けをやる必要があったとおり,プレイヤーさんの心理的側面まで負う部分があるからでもあります。コミュニティ運営ですから。
しばしば規約で「現金売買を禁じます」とありますが,現実として運営側が規約違反を100%処罰しているわけではありません。なぜかといえば,運営者はコミュニティも管理するし,プレイ内容も管理するけれど,ゲームの外で起こることには,何ら拘束力を持たない存在だからです。つまり,RMTを禁ずる条文を入れてあること自体,範疇を越えたものについて,わざわざ定義していることになります。
プレイヤーさんから見たら,「禁止って書いてあるんだから取り締まれよ」と言いたくなるでしょうし,書かなければ書かないで「RMTを許可しているとはどういうことだ?」と思う人も出てくる。………今度の規約から削ろうかな?
一同:(笑)
澤氏:
いやもう,実際そうなんですよ。運営側はコミュニティがある以上,地方自治――そう呼んでいますけど――に近いことをやっていかなければならない。
4Gamer:
外側までは確かに,ね。
澤氏:
どこから先に解決していくか,ですよ。業者さんが認可制になり,世に認められるようになったとしましょう。そのときに,ものとしての価値の問題とかは,永久に棚上げでもいい。この場合,少なくとも認可されていないアンダーグラウンドの取り引きは問答無用だし,逆に個人間のごくごく小規模なやりとりは,OKになっていく。
アンダーグラウンド領域は残るかもしれないけど,潜るか潜らないかの境目あたりは取り締まれる。RMTでもうけたお金が海外送金されているとなれば,国税庁などの所轄業務として,ゲームメーカーの手からは離れます。
まあでも,そうそうすんなりとは行かないと思いますねえ。平行線なんじゃないかなあ,どこまでも。
4Gamer:
確かに,さまざまな周辺の要素が絡んできますからね。……どこが最初に動くべきですかね?
宇田川氏:
おっしゃったとおり,それぞれの立場で動けないこと,言えないことがたくさんあり,僕自身も今のところ,ゲームメーカーの方と積極的にお話をしようとは思っていないんです。なぜかというと,もし彼らが同じ席に着いてくれたとしても,言えないことのほうが多いですし,できないことのほうが多いので,逆に追いつめてしまうからです。
4Gamer:
ふむふむ。
宇田川氏:
例えば,現行法に照らし合わせて,先ほど出てきた利用規約の条文――ゲーム外のことまで規定すること――を検討すると,ちょっと嫌な方向に流れていってしまう。
4Gamer:
それはまあ,そうでしょうね。
宇田川氏:
両者が席に着いてしまえば,結局そういう話になる。だからまず,RMT業者としてできることを考えたい。自分達がどういう存在か――現行法に基づいて税金を納めていますとか,こういう形でビジネスを展開していますとか――を世の中に知らせていって,少なくとも倫理がある,「やばい存在じゃないんだな」ということをアピールしていく。 そして,我々だけでもできること――問題がある業者を調べたり,一定のルールを作っていったり――をやっていき,RMTに否定的な方にも「あそこまでやるなら仕方ない」と思ってもらえる土壌を作れて,初めて次のステップに進めるんじゃないかなあ,と考えています。