宇田川氏:
そうした状態を,衝突することで解消しようとした例が,ゲームソフトの中古売買だと思います。その結果,問題そのものがメーカーさんの手の届かないところに行ってしまった。RMTの問題も,弁護士といろいろ話してみると,そうなりやすい事柄だという話でした。
例えばこれが「著作物なのか?」といったときに,ACCS(社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会)さんが「そうではない」というリリースを出したりする。また,韓国や中国でRMTに関わる判決が出るときに,必ずしもゲームメーカーに有利な内容かというと,そうではない。RMT業者に有利な判決も,多く出ているのが現状です。
4Gamer:
韓国などでたまに見受けられますね。
宇田川氏:
日本ではまだ裁判が行われたことがないので,どうなるのかは分かりませんが,仮に行われて,RMT業者に非常に有利な判決が出てしまった場合,RMT業者は「じゃあ知ったことじゃない。俺達の勝手だ」と,動き始めてしまう。僕自身,オンラインゲームが好きですから,それは問題だと思うのです。
これに対して,現時点でRMT業者が歩み寄って“ショバ代”などのスキームを確立してしまえば,あとから追従してくる業者もその方法に乗っからざるを得なくなります。ですから,例えば認可団体があって,そこはRMT業者がしっかり運営していますといった形,中国にゴールドファーマーがいるけど,そうしたところとは取引していない,毎回毎回決算報告書も提出しますとか,そうしたモデルが一番いいんじゃないかと。
ゲーム運営会社にも利益が入ってきて,それがBotやチートの対策に当てられる。そうすることで,ゲーム内の秩序もより保てるのではないかと思います。確かに,プレイヤーには見せたくない部分なのですが,何をするにもお金はかかってしまいます。そこをRMT業者に負担させることは,理屈としてはアリではないかと。
RMT業者の中にも賛同する者がいますので,今のタイミングでそうした流れを作ってしまうのがよいのではないかと思います。
4Gamer:
そのお話,法的枠組みの議論で行くとすれば,そもそもRMTで扱われるものについて「物権」が成り立ち得るかがキーになると思いますが。ゲーム内でやりとりされるアイテムやゲーム内通貨については,まず運営側が条件を定めているわけですし。
澤氏:
うーん,例えば日本の運営会社さんには,ゲームの開発元でないところが多いわけですね。RMTに何らかの協力をするとして問題になるのは,技術的な保障や,データベース的な保障に,運営会社はまったく噛めないことなのです。
R.O.H.A.Nでも巻き戻りがあったそうですから,その後のプレイヤーの反応を知りたくて,現在調べている最中です。例えば,RMTが盛んに行われる土壌を作ったとして,そこでデータベースが飛んだらどうなるか。巻き戻る間にアイテムやゲーム通貨をやりとりした人のケアは,日本側パブリッシャではできません。
そうした点を考えると「アイテムは誰のものか」という所有権の部分を,契約によって切り分けて誰かに任せた場合にも,その保証はまったくできない。架空のものでしかないというところに,オンラインゲームにおけるデータのもろさがあると思います。
何日保証とか,巻き戻り保証を付けて,保険にも入れられるようになれば,とは考えます。ただ,絶対に保険の対象にならないような気もしますし,保険の対象になるくらいに世の中で認められて初めて実現する,というところがあります。
4Gamer:
ゲームデータの保険ですか……。
澤氏:
この先,例えばRMT業者が認可制になっていくとしても,それは例えばメーカーさんがどこかの業者さんと表立って協力できる環境になるわけではなく,当面は国税を徴収するためにしか機能しない可能性があります。そこからシミュレーションを組み立てていって,むしろ「業者さんがいるなら任せたい」となる状況までを考えてみても,データのもろさの問題は,どうあれ残る気がしてならないのです。
「EverQuest II」の海外サービスにおけるRMTサービスも,専用サーバーで行われてますよね? 開発会社が自分で運営していれば,データベースが飛んだ,何日前まで巻き戻るといった事態に際しても,データの確認がすぐできて,プレイヤーに還元できると思います。
その意味では,メーカーが直で運営するRMTには可能性があるし,日本のパブリッシャがやっているアイテム販売だって,プレイヤーからの買い取りこそないものの,似たようなところがあります。
むしろ,ジーエムエクスチェンジさんのソリューションをメーカーに売って,公式サイト内でゲーム内通貨を売買できるとかいったB2B(企業と顧客ではなく,企業間でのビジネス)として展開されれば,アリかな,という気がします。
4Gamer:
それは比較的,構図として分かりやすいですね。
澤氏:
ところが,サイトも別でプレイヤーさん同士が勝手にやられている間を仲介しているとなると,表から見えない。それをするくらいなら,「ソリューションを売ります,利用料金は毎月○○○円です」という形で打ち出したほうが可能性がある。
その場合,ゲーム運営会社側がデータベースの面倒を自分で見て,巻き戻りなどに対処する。支払いは……そうですね,何かのポイントを買う形になるでしょうね。
そうした形であれば,1年,2年という時間のうちに実現する可能性があると思いますが,現在のように,いわば自由経済的な発想で進めていくとすれば,技術的課題や保険の可否などさまざまな困難があります。
宇田川氏:
なるほど。
澤氏:
ゲーム内の通貨やアイテムについて,海外では資産として認める動きが出ていますけれど,僕は海外の裁判官のお勉強が足りないのではないかと思います。あくまで例えばですが,僕が明日サーバーのデータベースをリセットしたら,なくなっちゃうんですよ。これは,家に火を着けて燃やしましたというのとは,全然違う事態ですよね。そこへの理解――ゲーム内の通貨やアイテムを資産であると言ってしまったことに,僕は落ち度があると思います。
もちろん,プレイヤー側には資産として計上したくなる理由があって,それは時間なんですよ。
宇田川氏:
そうですね。
澤氏:
先ほどのお話にもあったように,仕事で忙しい人がゲームを楽しみたいから,ゲーム内通貨やアイテムを買う。つまり,プレイ時間を確保できない代わりにお金で解決するわけです。そして「僕は学生だし,休み=プレイ時間も十分ある」という人が売る側に回ることで,時間とお金を交換する思考が成り立っている。
でも,メーカー側で,あるアイテムに価値を付加するとすれば,ゲーム内で10万人に一人しか持っていない希少価値だとか,そうした形しかない。ドロップ率をいじったりする理由はそこです。プレイヤーさんが10時間かけて手に入れようと,プレイを始めて5分でポロっと出てこようと,それは関係ないわけです。
「アイテムは誰のものか」という問い以前に,「アイテムには価値があるのか」という問題が,すべてメーカーなり運営者なりの手の内にしかないというところに,価値観のもろさを感じるんですよ。誰から見ても価値があるものに値段をつけていくのとは,ちょっと違う。どちらかというと……骨董品みたいなものなのかもしれません。「客観的に見てこの壺にどんな価値があるか分からないけど,自分はこれに3万円出しても5万円出しても惜しくないんだ」という。それに近いノリを感じます。
違いの分かる人にしか売れない。いろいろある。そういったことは分かるんですけど,明日みんなの価値観が変わってしまう可能性もある。そしてその「明日みんなの価値観が変わってしまう」ようなことを,運営者はやれてしまうのです。
宇田川氏:
うーん,そうですね。
澤氏:
その意味で,今はたまたま価値観が成り立っているところで,RMTビジネスが成り立っているという,もしかしたら過渡期にすぎないのではないか。何も固まっていない中で,いいとか悪いとかずっと繰り返しているのが,ここ2〜3年の日本の状況ではないかと。
4Gamer:
まったく進歩がないですよね。しかし澤さんは,ゲーム内データを資産じゃないとお考えなんですね。
澤氏:
ええ,資産じゃないですよ。メーカーは価値でなく,価値観を提供しているんです。あくまでゲーム内で有効な価値観です。プレイヤーさん側に責任があるとすれば,それを現実の価値と混同して,お金に換えてしまうところにあると思います。
4Gamer:
なるほど。そもそもRMT自体,完全に混同したがゆえの産物ですよね。
澤氏:
ただ,そういう商売が出てきた時点で「それは価値じゃなく価値観だから,売るのやめようよ」という話じゃなくっているんですよ。
4Gamer:
需要ありきで,とにかく成立してしまった。
宇田川氏:
財物かどうかという定義はすごく難しいですし,僕もちょっと違うと思います。ただ,価値観の塊ではあるんですよ。それを売買することは,ほかのビジネスと比べたとき,サービス業に近い。
4Gamer:
言い得て妙かもしれませんね。
宇田川氏:
サービス業であればすんなり理解できるわけですが,仮想現実の中ではものが動いています。だから現実の「もの」とリンクしやすくなってしまって,RMTという考え方になってくる。これは人として自然な発想です。例えばその仮想空間が“国”であれば,為替として存在するわけです。
4Gamer:
なるほど。
宇田川氏:
ジーエムエクスチェンジのサイトで2005年夏に行ったアンケートに基づく,利用者の分布。20歳以下の利用者は割合としてかなり少ないことになり,また,半数以上を社会人が占める。ただし,これはあくまでRMTサイトでのアンケートに答えた人のみの数字であり,必ずしもRMTの全体的な傾向を反映しているとは限らない点に,注意してほしい
インターネットが成立して,以前は想像の中にしかなかったものが実際に出来てきたところでは,現状の定義だけでは追いつけない。その部分には,新しい考え方,新しい定義を付与していかないと,矛盾が出てきてしまいます。
例えばこの問題について「ゲームだからRMTはNG」という法律が出来たとします。そこへ,今度はゲームじゃなくて「バーチャルオフィス」つまり,インターネット上に空間を作って,世界中の人がそこにアクセスしています……といったビジネスが出てきたときに,その中で扱われているデータは,価値がないものかといえば,間違いなく価値のあるものです。
4Gamer:
ふむふむ。
宇田川氏:
ありとあらゆるものがインターネット上に展開されたとき,それを既存の定義に押し込んで当てはめるのはすごく危険だと思います。バーチャルワールドという新しい概念が出てきたのであれば,そこで成り立つ秩序を一つ一つ作っていく必要があるのではないかと。
4Gamer:
一理はありますね。
宇田川氏:
財物であるかどうかについてですが,私は以前インターネット上の,ショッピングサイトさんやプロバイダーさんなどのポイントを売買するビジネスをやっていました。これはゲーム通貨と似たようなものなのですが,一番違うのはあらかじめ引当金が用意されていることです。
4Gamer:
ほうほう。
宇田川氏:
大量のポイントが出回るのであれば,データベースが飛んだときにも保証できる体制を作る必要があったのです。
それに対してゲーム内では,モンスターを倒しただけでゲーム内通貨が発生してしまいます。緩やかなインフレーションが続いていて,ゲーム内通貨はどんどん増えて行っている。それをゲーム会社が現金で保証できるかといえば,当然ながらできません。ゲームのデザインごと変える必要があって,結果,すごく強いモンスターを倒しても,現金での価値は10円とかにならざるを得ない。
そうした点からも,ゲーム内通貨=現金としてしまうのは,待ったほうがいいんじゃないか。僕自身もそう思います。
澤氏:
まあ,そもそもゲーム内通貨=現金とはならないと思うんですけどね(笑)。
宇田川氏:
ええ。ならないです。
4Gamer:
であるとすれば,アイテムの実在すらもが,メーカーさんの保証いかんによる――それで初めて成立する,ということになりますね。
澤氏:
そうです。アイテムの実在を保証できる,そういったゲームにでもするしか方法がないんですよ。
4Gamer:
一方で,膨大な需要がある。でも,中立的に流通させようと思えば,何らかの保証をせざるを得ない。
澤氏:
僕がメーカーとして協力できない理由はそこです。もしかしたら,明日サーバーをリセットするかもしれない。会社の方針が変わるかもしれない。ハイファイブとして,ジーエムエクスチェンジさんに何の保証もできないんですよ。されても困るでしょうしね,明日から表示上のゼロを1個減らします,とか(笑)。
宇田川氏:
そうですね(笑)。