「Second Life」(以下,SL)で活躍するクリエイター(匠)達に取材し,さまざまな角度からSLの魅力に迫ろうという本連載。今回から,実際に“匠”を紹介していこう。一人目の匠は,純日本風な景観とコミュニティの構築に取り組んでいるRandy Kamabokoさんだ。
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オーナーのRandyさんは,昔ながらの日本の庶民生活を再現するのが,NAGAYAの目指すところだと説明する。確かにNAGAYAには,懐かしさを感じさせる日本の風景がいっぱいだ |
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NAGAYAのオーナー,Randy Kamabokoさん
NAGAYAは,JuhoというSIM(※1)の一角にある純日本風コミュニティ。2006年7月頃に始まったばかりという比較的新しいプロジェクトだが,目覚ましいスピードで制作が進んで,今では日本人街としては有数の人気スポットになった。Randy Kamabokoさんは,そのNAGAYAのオーナーだ。
それまでRandyさんとはインスタントメッセージのやりとりをしたことがあっただけで,その話し方からなんとなく侍風のイメージがあったのだが,実際に(SL内で)会ってみると,金髪,褐色の肌にサングラスの男性という風貌で,びっくり。私がテレポート地点に着くと,Randyさんのほか,NAGAYAの住人の皆さんが迎えてくれた。
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Randyさんのほか,4人のNAGAYAの仲間が迎えてくれた。Randyさんによると,皆がなんらかの方面の才能に秀でているという |
立ち話が長くなりそうだったので,ひとまず「なが屋」という小料理屋に案内してもらった |
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内部は,簡素だが味のある装飾がしてある。壁には,これまで来訪した人達のサインがずらり
立ち話しているのもどうかということで,まずは居酒屋へ。ここはお客さんとNAGAYAの人が共におしゃべりする場所だ。 壁には,今まで訪問してきた人達の色紙が並べて飾ってある。
ひとしきり雑談した後,早速全体を案内してもらうことになった。
NAGAYAの広さは約2.4万㎡。お客さんがテレポートしてくる地点が中央にあり,そこから北側が住居と観光区画,南側が商用区画(出店)になっている。東側は,Randyさんの販売しているプレハブ住居の展示場だ
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NAGAYAには,日本人はもちろん,外国人の訪問者も多い。取材中も,ずっと日本語と英語が飛び交っていた |
土産ものは後回しにして,まずはRandyさんにNAGAYA全体を案内してもらうことに |
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まずは北側の観光区画へ。ここには,Rumi Simpsonさんが作ったランドマーク的建築物「五重塔」や,紅葉の綺麗な小さな庭園があり,少し高くなったところには眺めのいい建物も用意されている。
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五重塔は,NAGAYAのランドマーク的存在だ。外国人の訪問者は,ここで記念写真を撮っていく人が多いという |
庭園は,季節ごとに装いを変えていくという。冬になればここは雪化粧されるのだろうか |
眺めの良い建物に上がってみた。ベンチが置いてあるあたりは,観光地の雰囲気だ |
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この建物からは,五重塔を別の角度から眺めることができる |
yosu Brownさんのコメントに凍りつくRandyさん |
この狭くなった路地の部分も,NAGAYAの皆さんのお気に入りの場所だ |
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続いて南側の商用区画へ。ここはRandyさんやRumiさんなどNAGAYAの人達のお店のほか,テナントとして外部から募集した人達のお店も並んでいる。
その中でもRumiさんの楽器店は最も人気があるとのことで,楽器演奏を体験させてもらった。
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小川には鯉が泳いでいる。BGM代わりの川のせせらぎの音が耳に心地よい |
Rumiさんが開いている楽器店で,小演奏会をすることに。するとRandyさんが何やら作り始めた |
あっという間にお座敷と紅白の幕が設置された。Rumiさんは琴,私は三味線を持って座る |
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演奏を始めると,ギャラリーが集まって賑やかになってきた |
yosuさんが太鼓担当で加わって三つの楽器のアンサンブルに |
私の体がちょっと浮いてるのを見ると,Rumiさんが座布団をその場で作って差し出してくれた |
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一番南側の道は参道と呼ばれていて,お祭りの出店が並んでいる。その先にはちょっとした神社があり,これからの時期,正月などにはイベントなどで賑わうスペースになるそうだ。
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参道の両脇には,小さなお店が並んでいる。ここに置かれている品物は,どれも人気商品だ |
地面に置いてある色のついた球体が,ポーズボール。これに座ると,アバターが色々なアニメーションをする |
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石の鳥居をくぐると,こじんまりとした神社が建っている |
年末から正月へ向け,NAGAYAはイベントの準備で大忙しに |
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一通り回った後,Randyさんにミニインタビューを行った。テレポート地点のすぐ近くにあるRandyさんの自宅に上がらせてもらい,じっくりお話を聞いてみた。
4Gamer:
では,簡単にインタビューしていきますね。まずはSLを始めたきっかけから聞かせてください。
Randyさん:
私は以前から,どのMMORPGでも,生産職でプレイしていました。そのため,SLでの生産にも,非常に興味を持ちました。SLならレベリングも材料集めも必要ないですしね。
4Gamer:
SL以外だと,どんなゲームをプレイしているんですか?
Randyさん:
「ウルティマ オンライン」や「Star Wars Galaxies」などです。
4Gamer:
生産職が面白いゲームの王道を行っていますね。
Randyさんの自宅にお邪魔した。はしごのような急な階段が,古風な日本家屋の雰囲気にマッチしている
Randyさん:
そうですね。なので,SLに対しても,とっつきにくさはまったくなかったです。
NAGAYAを始めるときは,同時期に始めた人達――もっとも彼ら全員と同じ方向に進むなんてSLではありえませんから,その中でも方向性の近い,かつ住居に困ってる人達――を誘って立ち上げました。
あと,なによりも,SL内で見る「間違った日本」が許せませんでした!(笑)
4Gamer:
外国の人が作ったものだと,確かに“どこか間違えているもの”も多いですね。
Randyさん:
僕らがどんなにがんばっても,西洋の文化や建築を完全には再現できないのと同じだと思います。
4Gamer:
それはありますね。ではRandyさんは,SLを始めて,すぐにNAGAYAに取り掛かったんですか?
Randyさん:
いや,やはり最初は色々とやってみましたよ。でも,作ってて一番楽しいのはこれだったので,ここにおさまってます。
NAGAYAは,元々は小さい区画だったんです。最初はこの近くの別のSIMでした。まとまった広さを買えるようになってこのSIMに引っ越しまして,物を作って売って,の繰り返しで資金を貯めて,ジワジワとここまで大きくなっています。
維持費もかかるし,闇雲に拡大しても自ら首を絞めることになるだけだから計画的にやろうと思っていたんですが,予想以上に反響が良く,かなりのスピードでここまできてますね。
4Gamer:
まだ,できて半年経っていないくらいでしたっけ。そう考えると,凄いスピードですね。しかもこのクオリティなので,反響が良いというのも頷けます。
Randyさん:
現代日本や近未来日本を再現した街はありましたけど,NAGAYAみたいなスタイルのところはこれまでなかったので,そこがポイントだったかな,と思います。
4Gamer:
NAGAYAには,何かルーツや,手本になっているものはあるのですか?
元は何もなかった部屋だが,Randyさんが即座にテーブルと座椅子を設置。あっという間に応接間に早変わりした
Randyさん:
これは資料集めから入りました。正直に言って,京長屋などの知識はかなり乏しかったんです。ただ,それぞれのメンバーが,RL(編注:リアルライフ。現実世界のこと)でなんらかの形で和というものに携わる職業であったことが,助けになりました。
4Gamer:
先ほど,NAGAYAを作り始めたきっかけとして,間違った日本を正すというようなことをおっしゃってましたが,今後やりたいことや目指している方向性はどのようなものでしょうか。
Randyさん:
もっと細かく作り込みをしていきたいのはもちろんですが,日本のクラシカルな庶民生活をより忠実に再現したいとも思っています。日本に住んでいて日本人なのに四季を感じない日々ですし,「男はつらいよ」は,もう完全に銀幕の世界のみになりつつあるし。
日本人が訪れると,どこか懐かしいと感じる,そういう空間にしたいですね。
4Gamer:
今のままでも十分懐かしいですよ。音も優しいし,落ち着いてリラックスできる空間ですね。
Randyさん:
そう言ってもらえると嬉しいです。また,海外の方にも,そういう部分が喜ばれているようですね。実は,アメリカのコアタイムにログインすると,質問攻めで大変なことになります……(笑)。
あと,雰囲気が大切なので,ここがPGエリア(※2)というのは大きな意義があると思っています。
4Gamer:
この雰囲気あってのNAGAYAですものね。
ところでこのNAGAYA,現時点で,Randyさんがやりたいことの,何パーセント程度まで実現しているのですか?
Randyさん:
おそらく100%はありえないですね。現時点では,総合的に見ると30%ぐらいじゃないでしょうか。まだ一年を通してイベントをリアルタイム進行させていませんしね。やはり,お正月に始まり,除夜の鐘でその年を締めくくってこそ日本だと思うので。
ただなんにせよ,イベント運営のノウハウなど,まだまだ経験も引き出しも足りてないです。
4Gamer:
現在は,どのような運営体制なのでしょうか。運営していくうえで苦労されていることはありますか?
まだやりたいことの30%しか実現できてないというRandyさん。今後のNAGAYAの発展が楽しみだ
Randyさん:
メンバー全員がオンラインで討議できる機会がないので,運営そのものはBBSが主体です。MMORPGのギルド運営に限りなく近いですね。
苦労というと,やはり景観と秩序の維持が相当大変です。皆さんがテレポートしてくる地点に,服装についての注意書きを置いているのですが,裸で入ってくる方もいますし,思いっきり戦闘態勢で乗り込んでくる方もいます。
4Gamer:
いろんな人がいますからね。
Randyさん:
ほぼ99%が海外の方なので,言葉の問題もあって,そのへんには非常にナーバスにならざるを得ません。
4Gamer:
景観と秩序の維持が要だと。
Randyさん:
どのSHOPさんもそのへんは苦労されているようですが,NAGAYAの場合,それがすべてと言っても過言ではないと思いますね。
4Gamer:
そのあたりも含めて,当初描いていた理想と現実の違いのようなものは感じますか?
Randyさん:
NAGAYAの場合だとさほどギャップはないと思います。ここは日本人が運営する日本の街だ,というアピールができるので,よそのように西洋文化の風習,習慣を強要されませんし。
(ここで,海外からのお客さんが突如乱入。インタビューは中断して,なぜか日本のポピュラー音楽の話で盛り上がる。しばらく話したあとでその人は退出)
Randyさん:
あはは。日々こんな感じです。
4Gamer:
なるほど,よく分かりました(笑)。
では次へ。ずばり,RandyさんにとってSLの魅力とは何ですか?
Randyさん:
(開発元の)Linden Labの謳う言葉なんですけど,「Your World. Your Imagination.」ですね。これって凄くSLを言い当てている言葉だと思います。想像力さえあれば,どんなことも可能。これに尽きますね。
4Gamer:
Randyさんの頭の中にあるイマジネーションに対して,SLは十分に応えられるだけのものを持っている,ということでしょうか。
Randyさん:
ツールは目の前にあるのですが,すべてを実現するには,もっと多くの人の理解と参入が必要だと感じます。既存の住人の方との協力関係を広げていくことはもちろんなのですが,SLにまだ手をつけていない方々が,「SL=ネットゲーム」という意識をなくして参加してくれれば,もっともっと世界が広がると思います。
4Gamer:
それがまさに次に聞きたいことだったんですよ。Randyさんは,SLをどういうものとして捉えているのですか? Webなどと同じ位置ですか。
Randyさん:
限りなく近いと感じます。よくNAGAYAのみんなと話すのですが,国内の実在する観光地の方々が参加して,そこをアピールするようなことって,まだどこもやっていないですよね。例えば京都の観光局などの方が興味をもってくれたら,とか真剣に思っています。
4Gamer:
それは興味深いですね。主に欧米とはいえ,現実の企業の進出は結構進んでいるようですが,観光関係はまだ全然ですよね。
長々と話し込んでいるうちに,だいぶ夜も更けてきた
Randyさん:
私も,企業さんのSIMを見て回っていますが,まだまだSLというものを持てあましている感じですね。
これから楽天のような感じで,実際の商材を売買できるようになる可能性もあると思うのですが。
4Gamer:
そのほか,SLに期待していることは何かありますか?
Randyさん:
それはもう,日本人プレイヤーの増加です(笑)。新しい人が参加する=新しいアイデアがもたらされる,ということだと思いますし。この世界にはベテランも新人もないので,まずは遊び感覚(観光気分)で,どんどん日本人に参加してほしいですね。
1ユーザーが大企業と対等に勝負できるゲームなんて,ほかにないですよね(笑)。あと,SLは単に気軽なチャットツールとしても相当面白いと思うので,ぜひもっと広めていきたいですね。
4Gamer:
もっともっと日本人にSLを知ってほしいですね。
本日はありがとうございました。
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外へ出ると,あたりはもう真っ暗になっていた。夜となるとまた違った趣がある |
最後は某TV番組のようなシーンになり,惜しみつつNAGAYAを後にした |
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※1……SIMとはSecond Lifeの土地の区画の単位で,1SIM=65536㎡。個々のSIMには名前がついており,一つのSIMに一つのサーバーが割り当てられている
※2……Second Lifeの土地には,PG(Parental Guidance)かMatureのどちらかのレーティングが付けられている。これは土地の管理者が決めるもので,PGは性的/暴力的な言動や表現などが規制されている区域。例えば,景観や雰囲気を大切にする土地に付けられている。逆にMatureは規約の範囲内であれば基本的に何をしても構わない,自由な土地である。ほかの土地を訪れるときは,そこがPGなのかMatureなのかに注意しよう