― 連載 ―

誰もがRPGを愛していた
自由であるとは,自由であるべく呪われていることである(サルトル)

Illustration by よりと

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 基本的人権の一つで,日常生活でもしばしば耳にする“自由”とは,一体なんだろうか? この原稿のテーマを考えているうちに気になり,辞書を引いてみたところ,「強制や束縛を受けずに,自らの意志で行動すること」とある。
 では,ゲーム世界における“自由”は,どうだろう。例えば,目的も与えられずにいきなり広大な世界に放り出されて,あとは「自らの意志」で,街を見つけたり敵を探したりお金を得たりするゲームだとしたら……。確かに自由だが,多くの「普通の人」は,すぐさま途方に暮れるか,しばらくプレイして飽きてしまうだろう。また,一見するとこれを実現しており,かつ面白いというゲームもあるが,大抵の場合はそう見えるだけで,実は色々と制限があるものだ。

 しかしこの世は,何もかも自由というわけではない。世の中には,自由の対義語である“束縛”と,そこから派生する“責任”も存在する。
 例えば,言論の自由というものがある。例えば筆者がこの場で何を書いても,ある程度までは“自由”の範囲内だが,度を超えて何かを罵倒したり執拗に批判したりすると,不法行為(営業妨害など)とされ,罰せられるといった具合である。ここでいう法律が束縛,実際に法律に基づいて罰せられることが責任というわけだ。
 話をゲームに戻す。先ほどの自由の話に,束縛と責任という要素も入れて考えてみよう。
 簡単な例として,主人公が武器を持ち,一般人の中から敵を見つけ出して倒すゲームを想定する。敵を倒すことが前提(目的)で,武器を好き勝手に振り回して,一般人を含めて誰にでも攻撃できる(自由)が,一般人を攻撃すれば警官が現れ(束縛),警官から攻撃されて体力が減ってしまう(責任)。
 さっきの例に比べて,ずいぶんゲームらしくなった。このように,自由と責任を両立させて,ようやく“ゲームらしさ”を持たせられるのではないだろうか。

 今回取り上げる「英雄伝説VI 空の軌跡」(以下,空の軌跡)も,自由と責任をうまく使い分けて構成されたゲームだと筆者は思っている。英雄伝説といえば,昔からのファンも多い人気シリーズだ。その現時点での最新作について,自由と責任に着目しつつ,魅力を探っていきたいと思う。

 

英雄伝説VI 空の軌跡

メーカー:日本ファルコム
価格:4800円(税込)

“それは,小さな英雄達の壮大な物語―――。

 ロレントという地域に住む主人公エステルと,その義理の弟であるヨシュアが,準遊撃士(見習いブレイサー。ブレイサーとは,この世界の警官のようなもので,モンスターから民間人を守ったりする)の称号を与えられ,正遊撃士となるための旅に出るところから本作の物語は始まる。50年前の「導力革命」や,10年前の「百日戦役」と呼ばれる侵略戦争などの歴史をもつ世界で,旅立った二人の行く末には一体どのような運命が待ち構えているのだろうか……。
 本作は,メインとなるシナリオを軸にして,遊撃士協会(ギルド)にある依頼(サブクエスト)をこなしながら進む,クエストクリア型のRPGだ。章ごとにメインクエストが数本用意されており,それを順にクリアしていく流れなので,“今やるべきこと”を見失わずにストーリーを進められる。
 いくら本筋から外れた行動をとってもシナリオに変化がないのが少し残念だが,一本道シナリオの良さを生かして,物語全体を通してキレイに仕上げられている点は評価できる。

 

ギルドに貼り出された依頼。詳細な説明を見て,受けるかどうか決めよう クエストの報告。結果報告をしなければ,お金も経験値ももらえないので注意

 

 詳細なゲームシステムについては次項「お勧めポイント」を見てもらうとして,ここでは簡単に主要システムの概要を紹介していく。

クオーツはセピス(画面左下)を一定量以上消費して作る。良いクオーツを作るには,それだけ多くのセピスが必要となる

 本作の中でも特徴的なのが,「クオーツ」というアイテムを用いて能力を上げる「オーブメントシステム」。敵から奪った「セピス」(宝石)を合成してクオーツを作り,各キャラが持つ「オーブメント」と呼ばれる装置(?)にセットすると,さまざまなアーツ(魔法)が使えたり,MPの最大値が変化したりするのだ。
 そのほかにも,食材を集めて回復アイテムを作る「料理システム」,戦術性の高い戦闘を楽しめる「ATシステム」などなど,魅力的な要素がふんだんに盛り込まれている。

 

 物語を盛り上げてくれる脇役キャラ達にも注目したい。お気楽キャラ,元気いっぱいのキャラ,堅物キャラなどなど,キャラクターごとの性格や考え方がしっかり設定されており,やりとりを見ているだけでも十分に楽しめる。
 なお,脇役キャラといっても,それぞれ「過去」と「現在の目的」を持っているので,各キャラの「心の動き」に注目すると,より一層楽しめる。
 プレイ時には,本作のシステム的な魅力と,各キャラの過去の物語,そして舞台となるリベール王国で起こっている事件の真相を,それぞれ楽しんでほしい。

 

謎に満ちたヨシュアの過去とは……? 温泉での一コマ。両親のいないティータを想って……
一筋縄ではいかない,自由というモノの難しさ

作戦の目的/役割の説明。よく聞いておかないと,自分が今何をやっているのか分からなくなるかも

 人気のあるゲームというのは,つまり,何かしら人を惹きつける要素を持っているはずである。それは魅力的なシナリオの存在であったり,キャラの描き方がうまかったり,音楽がカッコ良かったりなど,“ほかのゲームにはない”,もしくは“ほかのゲームより優れた”要素があって,初めて人気ゲームとなり得るのだ。
 本作においてもそれは例外ではなく,物語全体を通して人の心を魅了する“仕掛け”がたくさん用意されている。中でも日本ファルコムの手腕が一番発揮されていると筆者が感じたのが,「自由と責任の関係」である。

 

 空の軌跡“らしさ”といえる要素は多くあるが,そのどれもが「自由であること」に重点を置いて開発されている。それは,「オーブメントシステム」を例に挙げるとよく分かるだろう。

 

実際にクオーツをオーブメントにセットしてみる。色々試して,クオーツの持つ効果と相性を探っておこう

 オーブメントシステムは前述のとおり,クオーツを用いて使用アーツを決めるものだが,そのクオーツは「地」「水」「火」「風」「時」「空」「幻」と,実に7属性(+各属性に1〜3のレベル)もある。
 また各属性には,攻撃力アップや攻撃範囲の拡大などの通常効果に加え,特殊効果として,敵を石化状態にしたり,確実に敵を戦闘不能にしたりといったボーナスを付加してくれるクオーツまで用意されている。
 まぁ,ただ列挙しただけではピンと来ないかもしれないが,実際に本作のオーブメントシステムに触れると,その奥深さに驚くだろう。回復/攻撃/状態変化アーツを使い分ける万能型にするのか,クオーツを単一属性にして強力なアーツを生み出すのか,多種の属性を用いて敵の弱点をピンポイント攻撃できるようにするのか……。すべてはプレイヤーの戦略次第であり,“選択の自由”という名のもとで“自由に選ぶことの難しさ”を同時に実感することだろう。
 それだけに,実際の戦闘で自分の選んだアーツを使って勝利したときには,何ともいえない爽快感を味わえるのは言うまでもない。

 

移動隊列,戦闘隊列,そしてSブレイクは,あらかじめ登録しておける。とくに戦闘隊列は,実際の戦闘での生死に関わってくるので,重要項目だ 武術大会のイベント。決勝ではそれまでにないほどの死闘が展開されることに……

 

 さて,忘れてはいけないのが,この自由に対する「責任」である。かなり自由にアーツを変更でき,(限界はあるが)思いどおりのパーティ戦力にすることが可能だが,その半面,クオーツ管理をおろそかにしてしまうと痛い目に遭う。
 「戦闘は白兵戦のみで乗り切る」ことも戦略に違いはないが,物語後半(とくにボス戦)を,アーツの恩恵を享受せずに乗り切ることは難しい。クオーツ管理を怠ったばかりに,「ここぞ」という場面で苦戦を強いられてしまっても,それはプレイヤーの責任であり,最終的に自らの痛手となってしまう。
 このような状況に陥るのを避けるためにも,オーブメントシステムは物語序盤から積極的に活用し,慣れ親しんでおくことを強くお勧めする。クオーツの特性を理解し,こまめにアーツを見直すことで,初めて同システムを味方につけることができ,戦闘を有利に進められるのである。

 

作戦の目的/役割の説明。よく聞いておかないと,自分が今何をやっているのか分からなくなるかも ブレイサークエスト。すべての依頼とその進行状況は,ここに記載されている

 

 ほかにも,個人的に「自由」だと感じる例を挙げておこう。戦闘では,必殺技の「クラフト」という要素がある。CP(クラフトポイント)を消費して使うクラフトは,通常のもの以外に,CPを全消費して使う強力な必殺技「Sクラフト」,行動順を無視して瞬時にSクラフトを発動できる「Sブレイク」がある。このため,必殺技と一口に言ってもその選択肢には幅があり,その場面でどう戦うかは,プレイヤー次第というわけだ。通常攻撃やアーツと組み合わせれば,採れる戦略は,無数にあるといえる。

 

Sクラフト使用時のカットイン。各キャラクターに設定されている Sクラフトを使ったところ。ご覧のとおり演出はド派手で,ダメージも大きい

 

 このように,本作では,さまざまな場面でプレイヤーに多くの選択肢が与えられている。そしてこれは,同時に多くの「責任」があることを意味している。先述したクラフトでいえば,強いからといってSクラフト/Sブレイクをむやみに使用すると,CPを全消費するだけでなく,行動順も最後になり,敵の攻撃を受けやすくなってしまう。
 また,本作では依頼(サブクエスト)の受ける/受けないもプレイヤーの自由だが,何一つ受けないでいれば,資金が底をついて装備やアイテムの購入が困難となり,また準遊撃士としてのランクも上がらなくなってしまう。
 自由であるがゆえに,その責任も自然とついてくる。サルトルの言葉を拝借すれば,“自由であるとは,自由であるべく(その責任に)呪われている”のである。

 

 本作の場合,この「自由と責任」のバランスが良く,ゲーム性を高めていることは間違いない。これが,本作が多くの人に愛され続けている理由だろう。
 2006年3月には,続編にあたる「英雄伝説 空の軌跡 SC(セカンドチャプター)」の発売が予定されている。こちらもまた,かなり魅力的な作品に仕上がりそうだ。このSCの予習という意味でも,まだ本作をプレイしていない人は,この年末年始に遊んでみてはいかがだろうか。
 SCでも,良い意味で「自由と責任」に悩まされることを願ってやまない。

 

■■氷霧(ゲームライター)■■
ライターが持ち回りで担当する当連載を開始するにあたって,真っ先に手を挙げてくれたのが,この氷霧氏だ。4Gamerレビューコンテストの第5回の,佳作受賞者である。実は現役の学生で,情報系の専攻ながら,プログラムは苦手分野だとか。ちなみに彼の年内の目標は,「マイクロソフト フェイブル:ロスト チャプター」をクリアすること。そして2006年の目標は,本文でも触れた空の軌跡 SCと,「マイクロソフト エイジ オブ エンパイア III」をやり込むことだとか。学生の本分という言葉は,どこにいったのか……。
タイトル 英雄伝説VI 空の軌跡(Vista対応版)
開発元 日本ファルコム 発売元 日本ファルコム
発売日 2007/03/29 価格 4800円(税込)
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/550MHz以上(PentiumIII/800MHz以上推奨),メモリ(Windows98/Me)192MB以上(256MB以上推奨),メモリ(Windows2000/XP) 256MB以上(384MB以上推奨),空きHDD容量 1.9GB以上

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http://www.4gamer.net/weekly/rpg/004/rpg_004.shtml