果たして赤軍は勝利できるのか,なかなか難しい問題である。いやでも,そんな状況なら普通戦争は避けると思う……
ドゥームズデイの一つのウリが,第三次世界大戦を扱った仮想キャンペーン「DOOMSDAY」であることは間違いない。
第二次世界大戦が終結した直後から東西対立が高まり,アメリカは核爆弾を搭載した爆撃機をトルコに配備。この挑発に対しソビエトは,資本主義陣営に宣戦布告……という設定で始まるこのシナリオは,あくまでも「第三次世界大戦」シナリオであって,核の傘の下で行われた冷戦のシナリオではない。ゲームの主体はヨーロッパにおける陸戦で,また時代的にも1945年開始のため,革新的な兵器がぶつかり合う展開にもなりにくい。
このシナリオにおける最大の問題は,AIがアメリカとソビエトを担当したとき,つまりプレイヤーがこの両国以外をプレイした場合,ほぼ100%アメリカが圧勝することだ。純粋にICだけを比較した場合,連合国は共産圏のほとんど倍近いのだから,ある意味これは妥当な結果である。いかに共産圏がゲーム開始当初,数で倍する軍事ユニットを持っているといっても,戦略級であるこの作品で最後にどちらが勝つか,議論の余地はない。
このあたりについては,以前の連載「世界ふしぎ大戦」第6回(アメリカ)を見てもらえれば納得がいくだろう。ここでドイツをソビエトに置き換えれば,連合国側にとっての「最悪の状況」など,いとも簡単に覆るものと分かるだろう。そして,ソビエトの技術開発力はドイツより劣っているので,米英+英連邦諸国を中心とした連合国の凶悪なまでの技術開発力をもってすれば,あらゆる面で(いや,悲しいくらい文字どおりあらゆる面で)共産圏を圧倒するのは容易だ。
だが,本当に共産圏には勝ち目はないのか。どうにもダメなら,我々はシナリオエディタを使うしかないことになる。いきなり自力救済を始める前に,まずはこの一見したところのワンサイドゲームが,本当にワンサイドで終わるのか,試してみよう。
「この連載は,第二次世界大戦あるいはその後の歴史に関わった,いかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていません。ときに過激な表現が出てくることもありますが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものですので,あらかじめご了承ください。」
ゲーム開始直後,すでに爆撃機はモスクワ近郊まで到達している。いまさら阻止などできないわけで
さて,まずは現状分析から。連合国は実質,米英仏の3か国で構成される。このうち最大の敵がアメリカなのは論を待たないが,実はフランスがかなり強い。第二次世界大戦当時の認識でフランス軍と戦うと,悲惨な結果が待っている。
一方共産圏は,実質ソビエトしか存在しないといって差し支えない状況。一応,ポーランドとかハンガリーとかルーマニアとかブルガリアとか東欧諸国が傘下にあるし,モンゴルもいるが,このすべてを合計してもフランス1国にも及ばない。
ソビエトの技術開発状況。機甲の開発に関しては申し分ないが,歩兵が全体に大きく遅れている
ソビエト陸軍は数こそ多いが,末端には1941年式の歩兵が多量に含まれている。加えて,シナリオ開始時に部隊の多くは戦力消耗状態。1対1の戦いで連合国側に勝つのは限りなく困難だし,大攻勢で一気にカタをつけようとすると,気がつけば戦力全損ということもある。その一方,機甲戦力はかなり優秀で,技術開発状況も良好だ。できるだけ機甲を集中運用し,突破展開を図りたい。
次に空軍について。制空権は連合国側にある。敵の護衛戦闘機付き戦略爆撃機と,我が迎撃機がぶつかると,こちらが一方的にボコボコにされるとあっては,大戦末期の日本と同じで手の打ちようがない。戦術爆撃機などはそこそこ揃っているが,序盤でこれらを投入すると,戦力および指揮統制値を失うだけに終わりかねない。
それ以上に絶望的なのが海軍だ。なにしろ敵はアメリカとイギリス,この段階ですべては終わっている。シナリオ開始時に生産キューには大量の軍艦が載っていて,数か月以内に大艦隊が編成できるようになっているが,鉄屑を大量生産しても無意味だ。ICの無駄なので,すべてキャンセルしたほうがよいだろう。
そして,共産圏は未だ核爆弾を実用化できていない。原子炉も2基しか出来ておらず,これもしばしば空襲で失われる。原子炉の生産キューはシナリオ開始時に設定されているが,IC50は別の目的に使ったほうがよいかもしれない。
そうしたソビエトが,どこで連合国とぶつかるかといえば,ヨーロッパ,中東,朝鮮半島である。主戦場はやはりヨーロッパだが,中東はそれ自体産油地帯であるうえ,ソビエトの石油廠たるバクー油田にも近いため,戦略上軽視できない。朝鮮半島での戦いは数で圧倒できるし,連合軍を済州島に押し込んでしまえば,対岸に大部隊を1スタック置いておくだけで膠着状態に持ち込めるだろう。
最大の問題は,各戦域間の距離である。朝鮮半島からヨーロッパに戦略再配置を指示すると移動に2か月近くかかるし,ヨーロッパから中東方面への再配置でも,場合によっては1か月近くかかる。連合国と異なり,戦略再配置が「使える」ことそのものは素晴らしいが,これをもって内線の利というには,若干無理がある。
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ボーナスとして与えられた生産ライン。艦船はいずれも1か月以内に進水の予定だが,それをまかなうICはない |
朝鮮戦争が終結したところ。最終的に自力防衛をしてもらうため,占領した朝鮮半島は再独立させることに |
核攻撃開始。2発の核が国民不満度を26.55%まで跳ね上げる。これをなんとかするだけでも,ソビエト経済はいっぱいいっぱい
プレイ開始直後には,まず確実にモスクワと,シベリアの工場プロヴィンス1か所が核攻撃を受ける。これによるIC低下もさることながら,核攻撃1回ごとに国民不満度が跳ね上がることのほうに注意しなくてはならない。ソビエトの政治体制は20〜30%程度までの上昇で揺らぐものではないが,国民不満度は軍隊の戦闘効率に対するペナルティともなるため,無視できない。
技術開発力については,前述のとおりあまり良好ではない。世界的に見れば恵まれた部類に属するが,ひとたび連合国と比較するや,悲惨の一語に尽きる。連合国に勝る部分は一つもない。
それに対して,資源生産は全般的に良好だ。ただし,石油生産がバクー油田一極集中であることには注意が必要だろう。陸軍ドクトリンの効果で自動車化歩兵生産の必要ICは低減しているが,歩兵は逆に増加しているので,つい自動車化歩兵を中心に生産したくなるが,産油地帯を脅かされると全軍が燃料切れになりかねない。第2次世界大戦と異なり,ソビエトに石油を輸出してくれる国などないことは,よくよく肝に銘じておきたい。
初期状態で人的資源が1000あるものの,既存部隊の戦力消耗を回復させるだけで500くらいまで下がることは憶えておきたい。もっとも,それでも英仏に比べればかなり恵まれている。
ソビエトはICが350を超える工業大国だが,プレイが始まれば間違いなく連合国の戦略爆撃を受けるため,額面どおりのICはまず達成されない。またそもそも,米英仏3か国のIC合計と共産圏のIC合計は比較にもならない大差だ。なにしろアメリカ1国でICは400オーバー。戦争が長期化すれば,共産圏にまず勝ち目はない。
ざっと並べてみたが,要するに,「いま目の前にある陸軍師団の数」「いま目の前に存在する機甲師団の数」「いま目の前にある人的資源」以外,共産圏に優位点はない。なるほど,AIソビエトが勝てないはずである。
それはそうなのだが,なんだかんだいってシナリオ開始時に与えられている陸軍師団の数は凄まじいものがある。なんとかこの数を生かして,恒常的な優位を形成するしかないだろう。
ブレーメンに積み上げられた米軍のハイスタック。質量ともに世界トップクラスであり,通常兵力での除去はほぼ無理
ソビエト軍をどう動かすか,大きく分けて二つの方針があり得る。一つは既存の戦力を温存しつつ,ゆっくりとした攻勢を行う方針。もう一つは消耗を意に介さず,師団の新規生産によって損害を埋め合わせつつ前進する方針だ。
常備軍でなく徴兵制側に大きくシフトしているうえ,末端では1941年式歩兵を多量に含む現実を鑑みるに,理屈では後者のほうが効率的に思える。仮に戦力損耗状態から回復したとしても,1941年式歩兵では戦力としてあまり期待できず,それでいてTCと物資消費には負荷となる。たとえ長期間かけて1943年式歩兵にアップグレードしたとしても,旧式歩兵の範囲から抜け出せない。
とはいえ,戦力がいつどこでどれくらい消耗するかなど,コントロールできない。戦力損耗が原因となって思わぬ戦域で敗北を喫し,大規模な戦線崩壊を呼び込む危険は常に残されている。
実に悩ましいところだが,今回は既存戦力を温存する方針を採ることにした。また,プレイ開始直後のソビエトには,兵力生産以外のIC必須投入分野が多すぎるため,現実的な規模で新規戦力を送り続けることが不可能ではないかと判断したためでもある。
生産スライダーを見ていただければお分かりのように,あまりにも多方面にあまりにも大量のICが必要。何かを切り捨てねばならない
なにしろ開始直後の核攻撃で,ソビエトの国民不満度はいきなり20%超。このままでは戦闘効率とIC生産にかなりの悪影響が出るため,消費財生産に大幅なIC割り当てを行わねばならない。
またシナリオ開始時の資金が0であることも,消費財へのIC割り当てを要求する要素となる。資金がなくては技術開発が阻害されるうえ,外交も諜報も不可能となる。
部隊の数だけは多いため,物資生産に対する要求ICも高い。部隊の改良に必要なICが4ケタに達しているのは見なかったことにしても,必要最小限の戦力補充(戦車の戦力補充)は必須だ。
ゲーム開始時点では350を超えるソビエトの実効ICは,核攻撃と戦略爆撃で290近くにまで低下する。戦力の完全補充に必要なICが600という段階で気が遠くなりそうではあるが,それでも「いまあるものを使う」ほうが,戦線全体の安定度は高まる。
ちなみに空軍の編成も,かなり無茶苦茶である。一つの航空隊に戦略爆撃機/戦術爆撃機/戦闘機/近接攻撃機が詰め合わせになっているのは,器用貧乏もいいところ。この手の「混成飛行部隊」の再編も,重要な作業の一つとなる。
ソビエトの影響下にある統一ドイツ(共産党支配)。技術開発力は高いのだが,青写真を出し惜しみするのが難点だ
開戦直後の地上戦は基本的にソビエト有利で進む。というか,ここで有利じゃなかった日には,ゲームにならない。
それでも米軍,英軍の機甲部隊は割とやっかいな相手だ。きっちり戦車を揃えて攻撃しても,進撃先に足の速い敵の機甲部隊が結集していて,追い返されることがよくある。とくに中部から西部ヨーロッパは,インフラ整備率が高く部隊の移動が速いため,自動車化が行き届いた歩兵部隊や機甲部隊が多いと,思いがけない大部隊が思いがけない方向から集まってくるので油断できない。
初期状態のソビエト軍は戦車+歩兵で軍団を編成していることが多く,どうしても全体に動きが重くなる。戦車だけを切り離して再編成することで,包囲網形成に向いた部隊も構築できるにはできる。だがこれをやると,諸兵連合効果を失って火力が落ちるだけでなく,残された歩兵が極端に弱くて,戦線維持に支障をきたす場合がある。実際,地形ペナルティのない状態で,歩兵8個師団で連合軍の自動車化歩兵3個師団に攻撃を仕掛け,それが跳ね返されたときには呆然とするほかなかった。
さて初期攻勢においても,大きく二つの選択肢がある。一つは道なりにフランス北部を目指す方針。キール付近には米軍を中心とした大兵力が待ち構えているので,あわよくばこれを包囲殲滅し,それが無理だとしてもハイタワー包囲による戦線膠着を狙う。
もう一つは,機甲戦力を少しずつユーゴスラビア方面に展開させ,イタリア北部を通路にしてマルセイユを目指す作戦。連合軍主力がベルギー方向に残ってしまうため,戦力配分のバランスが難しいが,突破のしやすさは格段に上だ。ただしフランス南部の海岸線防備を維持しながらの戦争になるので,攻勢限界線が思うより早く訪れる可能性は高い。
この問題は,さらに大きな規模での戦略的選択をも発生させる。フランスを陥落させるのは,たとえそれが可能だったとして,その後長大な海岸線を守るという課題が発生する。連合国/共産圏の国境線よりも,フランスの海岸線のほうが長いし,スペインは意外と馬鹿にできない勢力として存在しているので,ピレネーの防備も欠かせない。
にらみ合いに入ったら,IC差からいって最終的に共産圏が押しつぶされることは疑いない。だが,国境線に沿って要塞を建設していけば,終戦まで膠着を維持することも不可能ではない……。現実の戦後史と比較するなら,例えば共産主義のもと統一されたドイツと朝鮮半島,それにイタリアあたりを傘下に収めれば,十分に「勝った」といえるのではなかろうか。
シナリオ開始1か月でヨーロッパには冬が訪れる。大規模な攻勢はかなり困難に
この「消極的勝利」を選択したくなるもう一つの理由として,シナリオ開始時期の問題がある。このシナリオは1945年10月1日の開始で,ヨーロッパの冬は目前だ。冬&凍土のペナルティを受けるようになってしまえば,攻勢はとても維持できない。そしてひと冬あれば,連合国側は十分以上の防衛(反撃)体勢を整えてしまう。
結局,これは「解けないパズル」といってよい。連合軍側は「大規模な生産力」という戦争の王道を歩むだけでなく,「核」という新しい軸線を導入することにも成功している。これに対して共産圏が何らかの成果を挙げるには,共産圏もまたこの戦争そのもののパースペクティヴ(展望)を変えるしかないのだ。
フランスで赤色クーデター成功。これによってフランスはこの戦争から脱落し,ヨーロッパ戦線はソビエト有利が確定する
「現実の戦後史と比べて大きな成功」を目指すのも手だが,そこで立ち止まってはいささかもったいない。ソビエトには,戦争の軸線を変える力が十分にある。それは諜報戦である。
ドゥームズデイキャンペーンでソビエトが置かれた状況は,諜報活動にとても向いている。国民不満度20%超を解消するために大量のICを消費財生産に回せば,副産物たる税収で資金は潤沢に確保される。それをつぎ込む先として,諜報は最も効果的な分野なのである。
まずは丹念に米英仏へスパイを送り込み続ける。のちのち何をさせるにせよ,敵の戦力確認だけでも有益である。それぞれの国に潜入したスパイの数が10人に達したところで,世界革命作戦(“同時”さえ付けなければ,スターリンも許してくれるに違いない)の開始だ。
最初のターゲットはフランス。アメリカを直撃して戦争を終わらせたほうがいいんじゃない? と思われるかもしれないが,このシナリオにおいてソビエトの直接的脅威はフランスである。実際,さまざまな国で何度かこのシナリオをプレイしてみたが,ヨーロッパの覇者になるのはたいていフランスなのだ。アメリカを転覆させれば,長期的に見て戦争の帰趨は決まるが,その季節が訪れる前に共産圏が食い破られない保証はない。対米工作は,フランスを転覆させたあとでゆっくりとやればいいのだ。
政体スライダーを「介入主義」に寄せ,閣僚も,クーデターの費用を下げるとともに成功率を高めるメンバーに交代させていくと,だいたい600〜700資金でクーデターが1回試みられるようになる。これを時間にならすと,だいたい1年間に6〜7回ということになる。成功率は10%(5%+閣僚による5%修正)なので,勝算は十分だろう。
果たして1948年2月,開戦から3年目にしてついにフランス政府は転覆。欧州的フェビアニズムなぞどこ吹く風,一気にスターリン主義を標榜する共産主義国家となった。
これによって,果てしない塹壕戦と軍拡と戦略爆撃と核攻撃が繰り返されていたヨーロッパ戦線の様相は一変する。何よりも大きな変化は,連合国がフランスの飛行場を利用できなくなったため,戦略爆撃の範囲が大きく制限されたことだ。
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余剰戦力を南に回してイタリア攻略を開始。イタリア北部の空軍基地を押さえることで,連合軍の戦略爆撃範囲はそれなりに狭まる |
ギリシアを空挺降下で制圧。パルチザンがかなり激しいので再独立させる。もっともその程度でどうにかなるTCではないが |
これを受けて共産陣営陸軍は,フランス国境に守備隊だけを残して大きく配置転換,イタリアを軍事的に屈服させ,さらには空挺降下でギリシアも降伏させた。これによって連合軍の戦略爆撃圏から東ヨーロッパが外れ,それまでIC一桁で呻吟を続けていたドイツ,ポーランド,ハンガリーといった国々が40程度に復活,続々と歩兵の生産を開始する。ソビエト軍は諜報工作の資金捻出および核攻撃による国民不満度上昇の解消のため,新規部隊の生産はほとんど行えていなかったが,ソビエトから渡った青写真を利用して開発された最新式の歩兵や自動車化歩兵師団が,続々と衛星国から提供されるようになったのである。
クーデターが成功したフランスと軍事同盟を組むことも考えたが,熟慮のすえこの案は棄却した。フランスが中立でいてくれなければ,やはり共産陣営は守るべき海岸線を増やすハメになる。
共産圏の軍隊の「数」は,いわば張子の虎である。だが,いかに張子とはいえ,敵軍の5〜6倍近い数が揃っていれば,それはただの張子ではなくなる。この数的有利を維持するために,戦線正面は常に最小で維持されねばならない。
さて,戦争の流れがプレイヤーも驚くほど一気に共産圏有利になった半面,仕事を失った連合軍の戦略爆撃機部隊が新たなターゲットを発見する。そしてこれはソビエト軍崩壊までのカウントダウンを刻む,致命的な攻撃となった。
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イタリア共産党による新国家。それでも支配者はムッソリーニ。イタリア人がそれでいいならいいのだが |
南北に分断されたイタリア。北イタリア共和国と共和国派の歴史を思い出すまでもなく,南北問題消滅 |
赤軍最大の危機。バクー爆撃によって石油生産力が0にまで低下。分かっていた弱点なのだが,対策が後手に回りすぎた
連合軍爆撃機部隊が選んだ新しいターゲットは,バクー油田だった。ソビエトの領土は広いが,その石油生産力はほぼバクーに限定されている。ここに向かって間断なき戦略爆撃が行われることで,バクーの石油生産力は0にまで低下。ソビエトの石油収支は,1日あたり−100近くの大赤字を出すようになる。
この段階でソビエト軍の石油備蓄は1万程度。単純計算で100日後にソビエトの石油は底をつく――ソビエト軍の打撃力は戦車によって支えられているうえ,同盟国の歩兵は1945年式以降のもの(石油消費0.1)が多く,石油の枯渇は全共産軍の崩壊を意味する。
飛行場を「生産」,バクー北のマハチカラに設置し,ありったけの迎撃機で防空戦闘を行うが,ソビエト最後の日が1か月くらい延びるだけのことで,抜本的な解決になっていない。
これを解消する手段はただ一つ。中東の産油地帯を押さえるとともに,中東に展開している連合国空軍基地を占領していくことである。トルコからペルシアまでを完全に制圧すれば,連合国の爆撃機がバクーの空を埋め尽くすことはなくなるし,アバダンの石油資源を利用できるようになって,問題は自然に解決する。
だがいかんせん,残り時間が足りない。わずか3か月強では,砂漠と山岳を越えていく中東での軍事行動にはまったく足りない。進退窮まったとはこのことである。
フランスからの石油供給によって延命したソビエト。旧式歩兵を中心とした軍隊で中東を踏破,バクーの安全を確保する。石油生産は25%程度まで回復
この,共産圏最大の危機を救ったのは,またしても「中立国」フランスだった。フランスは,世界でも数少ない「戦争をしていない」国である。国土には大規模な軍隊がいるものの,その活動は停止している。そのうえ国内には,かつてアメリカから供与されていた石油がほとんど手付かずのまま残されている。共産フランスとソビエトの友好度は最高値の+200,パリからモスクワまでは陸路でつながっているため,貿易を阻害する要素は何もない。
かくして2万単位近い石油がフランスからソビエトに輸送され,ソビエト軍は命脈を保つことに成功した。そして,この輸入によって獲得された6か月という時間は,トルコを併合し,イランを踏破してアバダンを支配下に置くには十分な時間となった。共産圏は危機を脱したのである。(次回に続く)