― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第6回:自由にして独立した国家として(アメリカ)

 世界のさまざまな国が関わり,巻き込まれた第二次世界大戦を再現するストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」で,どんな戦後を迎えるか心配なリプレイを展開する本連載,今回は押しも押されぬ大国,アメリカからお届けします。

 

 世界大恐慌をニューディール政策で乗り切ったアメリカという言い方をしばしば耳にしますが,この簡略にすぎる説明には大きく二つの欠陥があります。一つめは,ほかの国をも取り巻く当時の状況について,前提となる説明が欠けている点。もう一つは,アメリカが採った施策を,達成した成果と直結させすぎている点です。

 

 1920年代末から30年代に世界経済を襲った異変は,世界大恐慌だけではありません。金本位体制の段階的な崩壊と,イギリスポンドからアメリカドルへという基軸通貨の長期的な代替わり,とくにイギリスポンド体制の凋落を,加えて考える必要があります。
 世界大恐慌をきっかけとして起きたのは,単なる不景気ではなく,世界的な貿易の機能不全でした。第一次世界大戦の戦時経済体制を抜けた主要国は金本位制に復帰しますが,そこに世界大恐慌に端を発する,金融危機が訪れます。金(正貨)と通貨の交換が保障された金本位制は,当然ながら各国の通貨の価値,つまり為替を安定させる機能を持ちますが,それは同時に,各国の通貨供給量が金準備高に制約されるということでもあります。結果として,景気浮揚のための財政出動が難しくなってしまうのです。
 不景気は脱しなければならないが,マネーサプライは動かせない。この状態を嫌って各国は,次々に金本位制を放棄,変動相場制に移行して,必然的に為替関係は不安定なものとなります。そして,不幸なことにこの時期までには,かつて英ポンドが備えていた安定性までもがグラついていたのです。英ポンドから米ドルへという,長期的な基軸通貨の移行タイミングにこれらの混乱が重なったことは,不運としか言いようがありません。

 為替の不安定さは,民間企業の事業リスクを大幅に高めるだけでなく,政府の財政にも大きな影響を与えます。互いに安定した貿易が行えない状況の打開策として,個々の国同士が貿易収支を均衡させていく,つまりある国に輸出した分だけ,その国から輸入する求償主義政策も試みられますが,これもうまく機能しません。例えば,世界の貿易構造には通貨基軸国(貿易収支は赤字/保険・利子・配当が黒字,が正常)とそれ以外の国(貿易収支は黒字/保険・利子・配当が赤字,が正常)という,異なる役柄があります。あらゆる二国間貿易を均衡させられるわけではないのです。また,「在外資産」という言葉が端的に表すように,ある貿易に関わる国籍関係と資本関係は必ずしも一致しません。自由経済を前提にする以上,国同士で均衡を図ろうにも,そこに関わる資本の利害は当事国にもコントロールできません。もともと貿易とは,一定レベルの不均衡を内在させたうえで,うまくかみ合うところで動くものなのです。
 原料と製品の輸出入,輸送や保険,そして資本の輸出入がうまく機能しないとなると,国内経済も回らなくなるのが近代以降の国家です。この状況を,植民地との経済関係で打開しようとするグループと,新たな対外進出で景気を刺激しつつ植民地の獲得につなげようとするグループが,正面からぶつかったのが第二次世界大戦であると,まとめることも可能でしょう。

 こうした状況に直面してアメリカが選んだのは,大規模な公共事業によって雇用を創出し,購買力を生み出して景気を浮揚させようというニューディール政策でした。やがて景気が回復すれば,公共事業でかさんだ分も税収で取り戻せるし,うまく調整すれば大枠で失業のない完全雇用を達成できる……提案した経済学者の名をとって,この手法は以後ケインズ財政と呼ばれますが,周知のようにこうした政策は戦後,福祉国家の基本路線となっていきます。
 テネシー川総合開発計画などを目玉とするニューディール政策が,景気浮揚に大きな役割を果たしたのは事実です。しかし,その前提として,当時のアメリカがもともと貿易依存度の低い,農工兼備の大国だったことを見落とすべきではありません。ケインズ主義の社会工学的な意義は多とすべきですが,アメリカの成功理由を,国内経済の整ったアメリカという舞台と切り離して,政策のみに求めるべきではないのです。

 ここでクエスチョンです。経済成長を遂げたアメリカは,マーシャルプランによる復興支援とNATOの結成によって戦後西側世界を主導し,世界の警察官の地位に収まりました。しかし,第二次世界大戦に突入したばかりの時期,多くのアメリカ人にとって,自国がそうした役割を果たすことは自明の選択ではありませんでした。アメリカにとっての戦後世界には,どれだけのバリエーションがあり得たのでしょうか?

 

常識からいえば二正面作戦は愚の骨頂だが,史実におけるアメリカは二正面で戦っている。本国が直接叩かれることがまずないという地政学的なメリットと,圧倒的な国力があってこそ,できることだろうか

 

自由主義陣営の武器庫,その実力とは

 昨今の風潮に便乗して「勝ち組」「負け組」で論ずるなら,第二次世界大戦におけるアメリカは最大級の勝ち組である。技術力と生産力,つまり「質」と「量」の両面にわたって,並みいる国々を圧倒する巨人の力は,文字どおり計り知れない。普通にプレイすれば,まずは手堅く勝利できるだろう。
 しかし,せっかくさまざまな可能性が開かれた「ハーツ オブ アイアンII」である。ここはぜひ,アメリカにしかできないプレイを試みたい。というわけで今回の目標は「アメリカで秘密兵器を作りまくって,とても第二次世界大戦とは思えない戦いを目指すこと」にする。原子力戦艦やヘリコプター師団といった,現代を先取りする兵器や,構想されながら実現しなかった種類の兵器が,乱舞し疾駆する戦場とはいったいどんなものか,見てみよう。

この時点で戦争に参加していないため,−75%のペナルティがついてもIC112。これだけで十分普通の“一等国”クラスだ

 なお,この連載は第二次世界大戦に関わったいかなる国や民族,集団あるいは個人をおとしめる意図も持っていない。ときとして過激な表現が出てくることもあるが,それはあくまでゲームの内容を明確に説明するためのものなので,あらかじめご了承いただきたい。
 いたって軽妙なノリで始めてみたアメリカだが,これがもう,絶句モノの強国である。平時のIC修正−75%がついたうえで,IC100オーバー。な,なるほど,ちょっと桁が違う。技術開発力はというと,スキル6で適性ボーナスが3項目以上ある(研究の種類によっては全項目にボーナスがつく)程度では「いまいち」。スキル7〜8かつボーナス3項目が標準で,スキル9がいくつかあるという感じだ。
 今までプレイしてきた国々を思い出すにつけ,「これはいくらなんでもずるくないかー!?」という水準である。

 

綺羅星のごとき研究チームの陣容。ため息のひとつも出ようというもの。実は若干陸軍が弱くなる傾向があるかも。それとて誤差程度だが

 

アメリカ1936年の技術開発状態。ゲームスタート時点で,すでにこんなにてんこもり。ほぼ全分野にわたって,当時最新鋭の実力を持つ

 

 おまけに,その地政学的位置から,ゲーム序盤で一気に滅ぼされたりする危険性は皆無。最初に持っている海軍も十分に強力だ。それなのに,PCがアメリカを使うとなぜいつもああなのか,厳しく問いただしたいところである。
 というわけで,はなっから楽勝ムードでゲームを始めたのだが,そこには意外な落とし穴が待っていた。
 アメリカは確かに強い。でもさすがに,アメリカだけで世界大戦を戦い抜くことはできないだろう。アメリカだけを見て,その面倒をみているうちに,ふと気がつくと世界でいろいろな異変が起こっていたりするのだ。

 

1945年には強制的に死んでしまうルーズベルト。途中何回も選挙イベントがあり,ルーズベルトではないアメリカになることも可能だが,とてもじゃないが怖くて試せなかった。これ以上孤立主義に傾いたら,参戦自体難しくなる

 

いまだ戦争に参加しておらず,IC277でまだ本気ではない国,アメリカ。負けるほうが不思議な国といえよう 戦時体制のアメリカ。圧倒的すぎるほどの生産力。こんなの相手に戦争するほうが間違ってるわけで……
アメリカ抜きの世界は,ファシズムが席巻

中国の銀を買い支えるピットマン法のイベント。これだけで中国国民党を救えるわけではない。というか,間接的アプローチもいいところである

 今回最初の誤算はアジア情勢。中国国民党に対する無償援助は,イギリスやソビエトへのレンドリースと同様にゲーム内のイベントで勝手に実行されると思っていたら,援助イベントは1回しかなく,物資は手動で逐一送らねばならない。
 ということに気がついたころ,すでに南京は陥落。国民党が国共合作を選ばなかった(!)こともあって,各軍閥は瞬く間に日本軍に各個撃破されていった。結果,中国全土を日本が統治するという悪夢がいきなり到来する。まあ,中国共産党だけは要塞に頼って生き延びていたが……。

 

国民党への支援は総じてイベント化されていないようなので,きちんと物資や資源を送りつけたほうがよい。まあ,アメリカの勝敗にかかわる問題ではないのだが

 うーん,太平洋を挟んで日本と対峙するアメリカにとって,これはかなり微妙な情勢だ。幸い,中国から石油がほとんど出ない(ターチン油田が発見されたりはしない)ため,資源の面では日本の弱点をさほど補うことにならない。したがって,蘭領インドネシアを攻略されない限り,戦車や艦隊の動きは鈍いままだ。
 というわけで,戦車2個師団と海兵隊4個師団を前もってフィリピンに上陸させておき,日本軍への対策としよう。フィリピン攻略が遅れれば,インドネシアが落ちるまでの時間も稼げるだろう。これまでのプレイ経験から,日本がインドネシアを取ることはまずないだろうと踏んでいたのは秘密だ。きっと,FBI長官のジョン・エドガー・フーバーも同意見に違いない。

 

ちゃんとちゃんとの対フランス戦。枢軸側でプレイしているときに限ってこの「ちゃんと」をしてくれないことが多いような……

ちゃんとちゃんとのバルバロッサ。これでドイツが史実どおり押されてくれれば,話はさらに楽だったのだが

 そうこうするうちに,次の誤算が。予定調和的に進むヨーロッパ史のなかで,ドイツ軍に踏み込まれたソビエト,冬とともに反撃に出て,手すきになったモスクワをあっさり攻略される……。歩兵の布陣薄いよ,なにやってんの! である。これ以降ソビエトはずるずると押される一方。レンドリースで武器を送ろうにも,レンドリースイベントが起こるまでは粘ってもらわねばならんのですよ。中国国民党の教訓があったので,あり余る物資をソビエトに投下しておいたのだが,A.I.の下手な機動の前には無意味である。
 それにしても何が空しいといって,例えば物資を5000単位で無償援助すると,物資を出すから資金をよこせという貿易交渉がやってくる。つまり横流しというやつですかね,これ。あまりのことに腹を立てて全物資を5000ずつ送ってみたが,なおも「物資20.0出すので資金3.0ちょうだい」とかいう貿易提案ばかり。いやもういいですから,きちんと戦争に使ってくださいよ〜。

 

モスクワ,あっけなく陥落の図。ここからソビエト悪夢の日々が始まる。広大なソビエトは,ドイツ軍の進撃に蝕まれていく

 世界がだいぶ予定外の方向に走り始めたところで,戦況を整理してみよう。中国は日本がほぼ完全制圧。無謀にもシャム(タイ)が対英宣戦布告してイギリスに踏み潰されたため,史実でインパール作戦が展開されたビルマあたりで日英がにらみ合いをしている。
 一方ヨーロッパは,ドイツとイタリアによって完全に制圧される。こんなときに限ってスペインはファシスト政権。北アフリカとイギリスが連合国のすべてである。うーん,これは普通「負けた」とかいいませんかね?

 

バクー油田を奪いに行くナチス・ドイツ。これ以降,ドイツ軍は一気に活性化,シベリアを戦車と機械化歩兵が駆け抜けていく イギリスはこのイベントで30個師団くらいの部隊を手に入れ,それをすべてロンドンにスタックしていた。ちゃんと戦争しようよ
それでも合い言葉は「リメンバー パールハーバー」

 そう思いつつも,あらためて手元の戦力を見てみると,勢いで量産ラインに乗せていたエセックス級空母10隻に,戦艦6隻,巡洋戦艦は20隻オーバーの大機動部隊が完成し,なおも艦艇を量産し続けている。連合国がアメリカだけになり「ていうか「連合」ってなに?」という状態に陥っても,戦争に勝てるんじゃないのか? と思わせる充実ぶりだ。

対日石油禁輸。いや,このイベントの前から,アメリカプレイヤーとして日本に石油は渡してませんけどね,もちろん

 やがて日本が真珠湾攻撃を実施し,太平洋戦争が開始される。いったん戦争が始まれば,のっけから物量作戦の開始である。潜水艦40ユニットなどという非常識な数を引き連れて,おおむね70ユニット前後の艦隊で太平洋をうろうろしては,軍港のある島に揚陸作戦を繰り返す。揚陸を阻止しようと艦隊が出てくれば,70ユニットで袋叩き。出てこなければ,日本本土に爆撃機の拠点が近づくだけだ。
 サイパン上陸作戦のときに日本の機動部隊主力がアメリカ機動部隊に捉まって,日本海軍は戦艦全滅,空母2隻を沈められるという大損害をこうむる。この瞬間,日本海軍は海賊以上の存在ではなくなった。

 

そして太平洋戦争の幕開け。幕が開く前から結果が見えている戦争というのが,実に切ない。空母で2倍,戦艦で約3倍の戦力比だ

 

総勢14個艦隊からなる,アメリカの太平洋艦隊。数の暴力とは,こういうことをいいます 珍しくもインドネシアに侵攻する日本……でもなぜか,オランダ軍に撃退されてみる日本

 

空母がいるだけの海賊になってしまった日本海軍。大和轟沈シテ巨体四烈ス……(中略)……彼ラ臨終ノ胸中ヤ如何

 それでも一応,日本には空母2隻が残され,中国近海でアメリカの日本本土上陸用舟艇を襲っては逃げるという,水上ゲリラ戦術を繰り返していたが,これもついにはウラジオストク沖で捕捉されて全滅する。そもそも,大陸と日本をつなぐ海域に40ユニット近い潜水艦がウルフパックしていたのでは,何もできまいて。
 中国南方におけるイギリス軍とのにらみ合いに全力を投じていた日本は,内地にほとんど防衛戦力を残しておらず,海兵隊がやすやすと東京に上陸を果たす。続いてパットンの戦車軍団が日本を蹂躙。なんともはや,な光景である。
 日本全土を占領したところで和平交渉に臨むが,日本はまったく応じようとしない。いや確かに中国全土は日本のものだが,本土決戦はすでに終わっているんですけど。

 

硫黄島もあっけなく陥落。史実における,血で血を洗う激戦はどこに行ったのか,守備隊さえいない。オリンピック乗馬競技で名を馳せた,「バロン西」こと西少佐もいなかった模様 東京上陸作戦成功。もうちょっと抵抗があるかと思いきや,実にあっさりと上陸を許した日本。普通はこのあたりで,降伏の二文字が頭に浮かぶと思うのだが。大本営は松代に逃げたころか

 

パットン,満州に散る。コメントし難いが印象的なシーン

 日本の外交方針をいぶかしみながらも朝鮮半島に上陸,決戦の舞台は満州へ。そして今回もまた,最強の敵は満州だった。
 あきれ返るほどの数。それなりに高いクオリティ。シャム・日本・満州連合軍が守る満州に攻め入ったパットンは,かつてのジューコフと異なり満州国国境を破ることには成功したが,ハルビン郊外の戦いで名誉の戦死を遂げる。パットン以外にも,実に4名の熟練指揮官が戦死するという,凄惨な戦いだった。
 しかし,それでも自由と民主主義のためには戦わねばならぬ。パットンの遺影を抱いて,アメリカ軍は満州を制圧,北からの圧力に対処を強いられて軍を北上させた日本は,南方戦線が崩壊し,イギリスとアメリカが中国大陸で日本軍をサンドイッチにする展開となった。

 

日本の内地でシャム軍と戦っていた,在りし日のパットン将軍。どういう無作為抽出をすればこんな文章になるのか,書いてて不思議だが,実際にそうなったのだから仕方ない
無敵というより無用の,ハイテク兵器攻勢

テーマが秘密兵器となれば,作らざるを得ない一品。本文でも言及したが,やはりこれは高価なオモチャにすぎない。これを作るくらいなら通常兵器で戦ったほうが,世のため人のためだろう

 いちど敵の戦線が崩れてしまえば,あとは押し進むのみである。そのころ,シベリアを突破したドイツ軍が粛々とモンゴル方面から攻め上がってきたが,プレイヤーには万全の勝算があった――かつてソビエトでモンゴル方面から中国に攻め入った記憶からいえば,機甲部隊は中国西北部の山がちな地域では,十分な力を発揮できないのだ。
 案の定,破竹の進撃を続けてきたドイツ軍は「地形」に足をとられ,米英によるドイツ封鎖線の完成を許してしまう。
 さらにここで,「神の一手」がドイツを襲う。ジェット戦略爆撃機(当然ながら,現実の第二次世界大戦中には実現しなかったシロモノ)に積み込まれた「リトルボーイ」が,ベルリンにきのこ雲を湧き上がらせたのである。ベルリンは総統官邸もろとも機能を停止し(政府要人がいなくなったりはしないが),すべてのICと生産能力が失われた。

 

ベルリンを核攻撃。対ナチという意味では最も理に適った使用なのだが,それでも意味があるかどうか。戦後の大議論は必至だ

 

アメリカ軍がノルマンディに上陸して,パリを解放する。まだこの段階では4個師団×2の,8個師団のみ

 奇策の後は,アメリカの横綱相撲が始まる。ドイツ軍はアジアに全兵力を投入した結果,ヨーロッパには脆弱な軍隊と守備隊しか残せなかった。そこで,アメリカの豊富な資源と膨大な生産力を活かし,二正面作戦を行ったのである。
 ほぼ毎月のように生産される4個師団の戦車と海兵隊(重砲つき)。たった8個師団でヨーロッパ要塞に乗り込んだアメリカ軍は,次の月には16個師団,その次の月には24個師団と,何があろうとも一定のペースで増強されていく。ドイツ軍にとっては,打ち破り甲斐のないこと,このうえない。
 圧倒的な物量を背景にして,瞬く間にパリを陥落させると,そのままドイツ軍のお株を奪う電撃戦でベルリンに直行。師団の消耗が重なったら増援と交代させるという,ぜいたく極まりない進軍方法で,ベルリンを連合国支配下に置いたのである。

 

ベルリンへの攻撃が政治的なものとすれば,こちらは軍事的な意味合いの一撃。バクーの油田地帯をシャットアウト。資源生産はじわじわと回復するが,以後ICBM通常弾頭と,バグダッド基地から飛び立ったジェット戦略爆撃機による焦土作戦を展開する

 だが,それでもドイツ軍は中国戦線で執拗な抵抗を続ける。かくしてアメリカは2度目の「神の拳」を振り上げた……今度はヒューストンから発射された1発のミサイルに搭載された核弾頭が,バクー上空で炸裂したのである。
 石油生産力50のバクーを一瞬で焦土にされたドイツ軍は,主力である機械化歩兵の補給を絶たれて崩壊した。彼らにとって唯一の救いは,さんざん攻めあぐんだ山々が,退却時において連合軍の効果的な追撃を阻んだということだろう。

 ……と,いうわけで,ほとんど一人相撲で圧勝だった。
 原子力戦艦も作ってはみたが,なにしろ技術開発が終わったときには,世界中探しても海戦してくれる相手がいない。原子力戦艦で通商破壊とか,もう何をしてるやら。世界一硬い拳を鍛え上げたはよいが,そのころには振り下ろす先がなかったという始末だ。

 

原子力戦艦。燃料消費量0.0のナイスガイだが,開発完了時点で世界に海軍はイギリスとアメリカのみ こちらは,通常のテクノロジーで作れる最高水準の戦艦。確かに原子力戦艦は,これよりも強い

 

ヘリコプターは強いか弱いか,非常に微妙。山岳地帯では強かったが……それはそれで何か変な気もする。アフガニスタンのソ連軍は,それなりに苦戦していたし

 ヘリコプタ−も作ってはみたものの,新しいものを作ろうとして生産ラインを崩すくらいなら,戦車と歩兵を量産していたほうが,圧倒的に効率がよい。確かに中国の山岳地帯でアドバンテージを握るには便利だったが,まあ普通にいって,あれが戦況を一変させることはないだろう。

 「ハーツ オブ アイアンII」のバランスだと,おそらくはアメリカといえども核開発は経済的でないという点を,改めて強調しておくべきだろう。核開発をしている間,最大で5本しかない研究ラインの1本が埋まる。おまけに核爆弾製造のための原子炉建設には,IC50.0が1年にわたって必要になる。総ICが50に達しない国も多い,このゲームで,である。

 

どうにも役に立たない秘密兵器シリーズの中で,唯一素晴らしく便利なのがこれ。研究修正+5%は大きい。1941年まで待てばノイマン博士が研究チームに登場するので,研究はそれからでもよい

 核開発および核兵器生産にかかる時間と労力を,通常兵器の開発と生産に充てていれば,戦争はもっと早く終わっていたに違いない。こと「ハーツ オブ アイアンII」というゲームにおいては,核を作るほうが,その間にトータルで失われる人命が増える気がする。まあゲームの性質上,いったい何人が犠牲になったかカウントすることは不可能だが……。
 史実において,連合軍の勝利がほぼ動かなくなってくると,アメリカやソビエトの首脳部は,互いの最新鋭装備を探るよう指示を出したという。果たして核は,戦争を終わらせるための切り札だったのか,次の戦争の最初の一発だったのか。1953年までプレイできるアドオン「Hearts of Iron II-DOOMSDAY」のリリース予定も含め,ゲームデザイナーの皮肉な笑みが垣間見えるような気がしたプレイだった。

 

ゲームセット直前のアメリカ空軍には,戦略爆撃しか仕事がない。そして,ベルリンを占領した後の余剰ICは78。ドイツとフランスの工業地帯を占領したためだ。この状態で本土には戦車8個師団と歩兵8個師団が船を待っている。TCがきついのは仕方ないが,ベルリンを破壊しなければ,ICはもっと増えていたはず……
■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
史実の中からアイロニーを探させたら,およそ右に出る者がいないゲームライター。この連載の最終打ち合わせはいつも電話で行っているのだが,ゲームがゲームだけに,議題は常にカイロ,カサブランカ,ヤルタ会談もかくやという物騒なシロモノ。合意事項以外が読者のみなさんの目に触れることはないので説明しにくいものの,ある意味この打ち合わせこそ,ストラテジーゲームのクレイジーさを最大限に発揮している気もする。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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第二次大戦に勝者なし(上)ウェデマイヤー回想録
アルバート・C・ウェデマイヤー著。欧州方面兵站計画の担当から中国戦線米軍総司令官に転じた軍人による回想録。戦後体制まで見通した分析が見どころ。