― 連載 ―

ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!
第0回:二次大戦を地球規模で再現するモンスターゲーム

第二次世界大戦をフルスケールで再現する「ハーツ オブ アイアンII」のオープニング画面,チャーチル,ルーズベルト,スターリンと,ヤルタ会談を思わせる顔ぶれだ

 今週から,第二次世界大戦がモチーフのストラテジーゲーム「ハーツ オブ アイアンII」の魅力を紹介する連載記事,「ハーツ オブ アイアンII 世界ふしぎ大戦!」がスタートする。執筆するのは,当サイトでParadox Entertainment作品といえばこのヒト,アトリエサードの徳岡正肇氏だ。記事名に違わぬ,奇想天外なWWII絵巻を見せてくれるだろう。今回はそれに先立ち,Paradox Entertainment作品にあまり馴染みがない人に向けて,どんなゲームなのか,ゲーム内でどんなことが可能なのかを中心に,ハーツ オブ アイアンIIの概要を紹介していこう。

 サイバーフロントから明日(12月2日)発売されるハーツ オブ アイアンIIは,第二次世界大戦を全世界規模で再現した,セミリアルタイム制の戦略級ストラテジーゲームだ。プレイヤーは175か国という膨大な選択肢の中から一国を選んで担当し,陸・海・空軍はもとより,外交と内政,産業と貿易までもコントロールして勝利を目指す。
 Paradox Entertainment作品らしく,「この国,事実上第二次世界大戦に参加してないじゃん!」という国も含めて,地球上のほぼすべての国家が選べてしまう。一口に世界大戦といっても,各国の関わり方はまちまちだ。特定陣営のために死力を尽くすのも,スケールの大きいお金儲けの機会と捉えるのもプレイヤーの自由である。

基本操作はシンプルだが,さまざまな要素が絡む戦闘

ノルマンディ上陸作戦をドイツ軍側で迎えてみたところ。フランスの北部沿岸地域を中心に,悲鳴のような報告が相次ぐ。有効な反撃は可能だろうか?

 マップはプロヴィンス(province。州)単位で区切られ,それを奪い合う形でプレイが進む。陸上戦闘は,敵のいるプロヴィンスに自軍を進ませるだけで開始され,いったん始まったら自動解決される。途中で援軍を送り込むことも可能だが,基本操作はいたってシンプルだ。
 とはいえ,戦闘の勝敗や損害の判定までシンプルなわけではない。このゲームのユニットは基本的に師団規模だが,指揮官の持つさまざまな能力と指揮可能な部隊数,補給状況や塹壕の構築具合,両軍の戦術ドクトリンなど,戦闘に影響を及ぼす要素は多々あって,単に最新の兵器を数揃えてぶつければ勝てるというものではない。そこはストラテジーゲームらしく,事前の計算と準備が大切だ。
 細かなルールを挙げていくときりがないので,実に第二次大戦らしい要素を一つ挙げておくと,「防戦支援」というルールがある。このコマンドを部隊に与えておくと,敵が攻めてきたプロヴィンスに急行し,反撃してくれるのだ。プロヴィンスに攻めてくる側は基本的に地形効果を利用できないため,思わぬタイミングで強力な反撃を受けると窮地に陥る。分散配置されていたはずの防御側が,あるタイミングでまとまって反撃に転ずるというのは,実に有効な戦術なのだ。第二次世界大戦モチーフが好きな人なら「マンシュタインのバックハンドブロー」と言えば,ピンと来るだろうか。
 海軍のルールはいささかおおざっぱに過ぎるし,派手さのないのが玉にキズだが,陸・海・空軍が連携した立体作戦の効果もきちんと再現されている。なかなかあなどれない戦争ゲームなのである。

 

青い矢印で示されているのは敵のいない地域での移動,赤い矢印は移動後に戦闘が待っている場合。移動=戦闘のシンプルなルールだが,戦闘にはさまざまな要素が絡んでくる。例えば複数の隣接プロヴィンスからの攻撃や,空挺降下,艦砲射撃を交えた集中攻撃は,かなり有効
工業力を中心に第二次世界大戦をうまく抽象化

戦闘ユニットの生産や,防御施設,生産施設の建設と拡充には,資源やIC(工業力)を消費する。そして,この画面で今しも生産しているのは,敵の資源/IC収入にダメージを与える,通商破壊戦用の潜水艦だ

 第一次大戦以降,主要国間の戦争は総力戦の時代に入った。戦争が,実際に従軍する人だけの問題にとどまらず,国内の産業や金融資本,どうかすると宗教まで動員し,その余波が庶民の生活に直接影響を与えるようになったのだ。戦争が長引けば,石油や金属はもちろん,布や革や紙類まで不足し,物価は高騰する。第二次世界大戦とは,そういう戦いだった。
 そうした関係で,ハーツ オブ アイアンIIでは一国の産業すべてを(抽象的な形ではあるが)再現している。国のその時点での生産力はIC(工業力)という指標で表され,これは国内にある「工場」の規模と,資源供給の状況で決まる。
 兵器や部隊,それが消費する物資を作るにも,国民生活に必要な物を作るにも,このICが使われる。このゲームで戦争に勝つためにはICを伸ばし,維持していく必要があるのだが,ICに必要な資源の確保は,多くの場合,産出地域を軍事的に支配することで実現する。もちろん貿易で平和裡に資源を手に入れるのが理想だが,そもそもそれがうまくいかない国があるからこそ,戦争になるのだ。
 ハーツ オブ アイアンIIでは,あらゆる部隊に補給と補給線の維持が必要とされる。また,それ以前に国民生活に十分なICを割けないとなると,国内の情勢すら不安定になっていく。
 そして,第二次大戦といえば(第一次大戦もだが),部隊への物資補給と,産業のための資源輸送の双方を妨害する通商破壊戦や戦略爆撃も忘れてはならない。ハーツ オブ アイアンIIでは,いちいち輸送船が何隻沈められたといった処理こそなされないものの,潜水艦や航空機による通商破壊/戦略爆撃任務が物資/資源の流れに損害を与え,それを運ぶ/活用するためのインフラストラクチャーを破壊していく要素が盛り込まれている。まさに総力戦のゲームというわけだ。

弾道ミサイルや核兵器,新戦術も研究可能

ポルシェ社を「研究チーム」に指定して,超重戦車「マウス」を開発させてみる。役に立つかどうかは,かなり疑問な気もするが

 第二次世界大戦は長期にわたったためもあり,兵器や戦術のテクノロジーに飛躍的な発展が見られた戦いでもあった。機甲戦術と,それを支える強力な戦車/急降下爆撃機/機械化歩兵,レーダーを使った索敵と誘導,さらには艦砲のレーダー照準,対空射撃用のVT(近接)信管やホーミング魚雷など,その実例は枚挙にいとまがない。
 ハーツ オブ アイアンIIでも,そうした技術開発要素が戦闘に大きな影響を与える。新型兵器はもちろんのこと,戦術ドクトリンも研究の対象になっており,ある考え方を採用すると,それと対立するアイデアは研究できなくなるところなどはとくに面白い。実際,このゲームでは高度な武装と戦術で固めた歩兵師団が,(常識的な装備の)戦車師団による攻撃をものともせす,かえって戦車に痛打を与えることがよくある。きっと巧妙に塹壕を掘り,対戦車ロケットや吸着地雷などをフルに活用しているのだろう。
 そうした歩兵の装備や戦術を含め,このゲームでは「研究チーム」を指定して予算を投下することで開発が進む。研究チームは,便宜上実在の民間企業だったり公的な研究機関だったりするが,例えばドイツではブローム・ウント・フォス社や,クルップ社,メッサーシュミット社などが入っているというふうに,相応にマニアックだ。
 派手なところでは核兵器や弾道ロケットといった「秘密兵器」で一発逆転を狙うことも可能(?)だし,核技術は発電にも応用できる。史実(の年代設定)よりも微妙に広い応用分野が用意されているので,陸・海・空のどの軍,どの戦術にしても,特定のものに絞って研究を進めれば,期待しただけ活躍するかはともかく,見合う成果は得られるはずだ。

 

兵器はこのように,系統に沿って新型を開発していく。外交で他国から「設計図」を入手していれば,よりスピーディに開発が進む こちらはドイツ軍における「陸戦ドクトリン」の開発系統。分岐点で選ばなかったほうに属する技術については,開発を進められない
「イデオロギーの戦争」たる側面も再現

ドイツを担当して,アメリカの状況を見てみる。「我が国との関係」は,なんとも絶望的な−200。第二次世界大戦テーマだけに,アメリカの好戦性が0というのも(心情はともかく)納得できる

 さて,多くの国が登場するだけあって,それぞれの内政や外交のオプションも多彩だ。国内政治の方針は,「民主的 ←→ 独裁的」「自由経済 ←→ 中央計画経済」「介入主義 ←→ 孤立主義」といった二項対立のスライドバーで表され,1年に1項目,1段階分だけ変化させられるという,Paradox Entertainment作品でお馴染みの方式。これにより,国民の不満の持ち方,例えば強引な参戦にどのくらい抵抗感を持ち,反政府運動が起こる可能性があるか,といった事柄が変わってくる。その初期設定が各国の個性というわけだ。
 このように国全体の傾向を変えるのは容易でないが,プレイヤーは国務大臣を任免するという形でも,国政に自分の方針を反映できる。大臣の能力によって,特定分野の兵器の生産や研究が進んだり,国民がより窮乏生活を堪え忍んでくれたりするのだ。

 国内の政治体制の違いは,外交感情にも大きく影響する。第二次世界大戦が「イデオロギーの戦争」という側面を持つことは,今さら説明するまでもないだろう。自由主義陣営はファシズムとは共存できないと考えたし,共産主義陣営との間も,暫定的な協力関係に過ぎなかった。
 政治的な傾向によって,外交努力の成果も変わってくる。ただし,イギリス,ソ連,ドイツなど,それぞれの陣営の「盟主」たることがゲーム上定義されている国同士では,外交関係がほとんど機能せず,結局のところ相手を屈服させる以外にないのは,少々シニカルなところだが。チェンバレン(チャーチルの前のイギリス首相)やダラディエ(フランスの外務大臣。チェンバレンと並ぶ対ドイツ宥和論者)がいようといまいと,最終的には戦うしかないらしい。また,アメリカが最初連合国でないこと,ソ連が連合国と別陣営になっていることなど,なかなか唸らせられる外交システムといえる。
 外交では国の「好戦性」もキーポイントになる。これは正当な理由を欠く状態で他国に宣戦布告したり,他国を併合したりすると上がり,ほかの国からの外交感情が悪化する。無駄に侵略者の汚名を着ると損をするという,至極もっともなルールだが,ちょっとドイツの立つ瀬がない気もする。

 

ちなみにこんな国も入っている。もう内閣の顔ぶれからして,日本からの独立など考えづらいことこのうえない国だが 1944年6月時点で,ドイツが統帥権を持つクロアチアを見てみる。別にナチが好かれているわけではない,らしい

 

地味な画面で恐縮だが,ちょっとドイツの資源事情を覗いてみる。石油は産出も買い付けもなく,すべて化学合成。大バクチに出た背景が少しだけ分かる 1944年における,ドイツの空軍部隊を表でまとめて見てみる。V1飛行爆弾と迎撃機ばかりというのがなんとも。Bf109が迎撃機扱いなのは航続距離ゆえか

 

 

 このように,実に多岐にわたるゲーム内容を持つハーツ オブ アイアンII。操作性があまりよろしくない,AIの担当する国が,必ずしもその国らしい政策を採ってくれない(例えば,まるで戦車に興味のないドイツ軍を見かけることがある)など,いくつか弱点もある。ただ,前者はともかく後者については,ゲームとして,また“何があり得たかという歴史実験”として,より興味深いと見ることも可能だ。
 そしてその,Paradox Entertainment作品の醍醐味たる歴史実験の成果を,次週からお届けする。第1回は第二次世界大戦のオープニングにふさわしい(?)ポーランドでお送りしよう。史実では1か月足らずでドイツの電撃戦の前に屈したポーランドに,起死回生の策はあるのか? 次週を楽しみに待ってほしい。

■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
4Gamerのミリタリーに関する責任監修を一手に引き受ける編集者。たとえ話に軍事ネタを出すことを生き甲斐としており,「これはあれですね,終戦間際におけるハンガリーの国民感情のような状態ですね」とか「それはいわゆる,イスラエルが独自に兵器開発を行う理由と同じようなモノですね」などと言っては,まとまる話もまとまらなくさせて編集部を混乱に陥れている。
タイトル ハーツ オブ アイアンII 完全日本語版
開発元 Paradox Interactive 発売元 サイバーフロント
発売日 2005/12/02 価格 8925円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/450MHz以上[Pentium III/800MHz以上推奨],メインメモリ:128MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスメモリ:4MB以上,HDD空き容量:900MB以上

Hearts of Iron 2(C)Paradox Entertainment AB and Panvision AB. Hearts of Iron is a trademark of Paradox Entertainment AB. Related logos, characters, names, and distinctive likenesses thereof are trademarks of Paradox Entertainment AB unless otherwise noted. All Rights Reserved.


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http://www.4gamer.net/weekly/hoi2/001/hoi2_001.shtml



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アルバート・C・ウェデマイヤー著。欧州方面兵站計画の担当から中国戦線米軍総司令官に転じた軍人による回想録。戦後体制まで見通した分析が見どころ。