ファンタジーの世界を舞台に,伝説の剣や古代の魔法を駆使して強大な敵と戦うアクションRPG……そう聞くと,「何を今さら」と思う人もいるかもしれない。「ダンジョンロード」は,ひと言でいえば,アナクロなRPGである。MMORPGではないし,最新のテクノロジーが使われているわけでもない。見てのとおり,グラフィックスも最新のクオリティとはいえない。そのため正直にいって,シングルプレイRPGの黄金期を経験していない若いゲーマーには,お勧めできない。
しかし,筆者にとっては,実に“好み”のゲームである。まずはその概要から説明していこう。
本作でプレイヤーが操作するのは,一人の冒険者である。プレイヤーはゲームスタートに先立って,名前はもちろん,種族や性別,パラメータやスキルを自由に設定してキャラクターを作成できる。画面を見れば一目瞭然だが,三人称視点の3Dグラフィックスが採用されており,プレイヤーは自分のキャラクターをマウス&W/S/A/Dキーで操り,広大な世界で冒険していく。
戦闘がアクションになっているのも,本作のウリの一つ。キャラクターのスキルによって出せる動作は異なってくるが,いずれは側転やバク転などで敵の攻撃をかわしたり,ド派手な魔法で周囲のモンスターを一掃したり,華麗なコンボ技で敵を翻弄したりできる。
また本作は,8人までのマルチプレイにも対応している。協力プレイのみだが,シングルプレイがメインのRPGらしい“作り込まれた物語”を,友人と協力し合って進めていくのは,MMORPGのパーティプレイとはまた少し違う感覚で楽しめ,一興である。
さて,ここまでは,「最近では少なくなったタイプ」とはいえるが,まぁ“普通”である。では何が筆者に「好み」と言わしめているかというと,RPGとしての“お約束”部分が,しっかり作られていることだ。RPGのイデアを体現しようとしている作風に,非常に好感が持てる。言い換えれば,RPGとしての“面白さ”とは別に,“楽しさ”にも注意が払われているのである。
このあたりの“RPGファンのツボを突く要素”は,実は1点に集約できる。作者が,D.W.Bradley氏であるという点だ。
1980年代前半,当時テーブルトークRPGとプログラミングの両方を趣味とする若者だったBradley氏は,趣味で,とあるPCゲームを作り始めた。そのゲーム「Dragon's Breath」は彼の職場で評判となり,自信をつけた彼は1984年,このソフトをWizardryシリーズの開発元であるSirtech Softwareに送った。それから4年後,同作は「Wizardry V: Heart of the Maelstrom」と名前を変えてリリースされ,数多くの賞に輝く(日本で人気の高い“外伝シリーズ”は,このWizardry Vをベースにしているものが多い)。
このD.W.Bradley氏の名をさらに高めたのが,次の作品である。
彼が一からプログラムした「Wizardry VI: Bane of the Cosmic Forge」(BCF)は,Wizardryシリーズの1〜5作のすべてを合わせたよりも多くの賞を獲得。またコンシューマゲーム機向けを除いて計算すれば,1〜5作のどれよりも多く売れたタイトルとなった。彼はさらに「Wizardry 7: Crusaders of the Dark Savant」(CDS)という怪作を生み出し,続く「Wizardry 8」の開発途中にSirtechに別れを告げ,新天地Heuristic Parkで「Wizards & Warriors」を世に送り出した。本作ダンジョンロードは,彼の輝かしい歴史の中で,現時点での最新作である。
(BCFが“踏み絵”になってしまった)日本での評価はさておき,世界的には後期Wizardryも高く評価されており(まぁ「Wizardry 8」に関しては,GameSpy.comの「過小評価されているゲーム」ランキングに入ったこともあるが),D.W.Bradley氏は,優秀なRPGの作り手(もしくはストーリーテラー)として実に有名なのである。
よってダンジョンロードは,このD.W.Bradley氏が作っていること自体が,最大のウリといっても過言ではない。

さてこのBradley氏,筆者ごときが言うまでもないが,理想のRPGを形にするのが実にうまく,その手腕はダンジョンロードにもいかんなく発揮されている。少なくとも筆者から見て,ダンジョンロードは「楽しい」ゲームである。
では,何が楽しいのか? まず,キャラクターメイキング/キャラ育成が楽しい(Version 1.4で,キャラメイク時の選択項目がグッと増えた)。本作では,敵を倒すたびに経験値とは別に「成長値」というものが増えていく。面白いことに本作では,属性値(パラメータ)を上げるにも,スキルを習得するにも,スキルのレベルを上げるにも,すべてこの成長値を消費して行うのだ。一方の経験値は,一定の値まで溜めればレベルアップするのだが,レベルが上がってどうなるのかというと,“成長値を大幅に獲得できる”だったりする。
そのためプレイヤーは,常に成長値の使い方に頭を悩ませることになる。細かく属性値を上げるべきか,溜めに溜めて,多くの成長値を必要とするスキルを覚えるべきか,得意とするいくつかのスキルのレベルをどんどん上げていくべきか。ちなみに属性値の「インテリジェンス」は,高いほどスキルを習得/レベルアップさせるのに必要な成長値が少なくなる。これがまた「成長値の使い方」を複雑にしており,実に悩ましい。この,「どうすれば最も効率良くキャラクターを強くできるのか」と悩むのが,筆者にとっては実に楽しいのである。
アクションで展開する戦闘も,もちろん楽しい。モンスターの出現頻度が高いため(オプションで変更可能),とくに序盤は「うざい」と感じることもあるものの,レベルが上がってくれば,ザコの集団なんて魔法で吹っ飛ばせばいい(クラスシステムもユニークで,その分説明が難しいが,ともあれ本作はスキル制なので,どんなクラスでも魔法を使用できる)。逆に,一見勝ち目のない強敵に,頭脳と指先を駆使して挑むのは,実に緊張感があって楽しいのだ。
以前プレビュー記事でお伝えしたように,宝箱のトラップ解除も楽しい。
実に33種類もあるクラス(侍や忍者はもちろん,カバリストや修験者まである),4タイプ109種類の魔法(バレットタイム状態になる魔法など,内容もユニーク)など,そのデータ量も十分あり,繰り返して遊ぶことにも耐えうる作品だ。ただ,楽しいゲームでなければ,繰り返して遊ぶ意味がない(面白いだけでは,飽きるのが早い)。本作ならば,2度3度とプレイできるだろう。
では,“面白さ”はどうだろうか。これは,希代のストーリーテラーであるBradley氏に対して失礼な問いだろう。同氏の作品ならではの,NPC達の長台詞や,なめてかかると手強い謎,物語性の高いクエストは,たまらなく魅力的で,面白い。こういった部分は,MMORPGに慣れた目には逆に新鮮に映るが,そもそも,本来RPGが持っていた面白さって,こういう部分ではなかっただろうか。
とはいえ,Bradley氏にももちろん欠点がある。それは“すべて自分で作ろうとする”ことだと筆者は思っている。彼は,今でもプログラミングから自分で手がけるのだが,もはや一人の天才がゲームを作る時代ではなく,そのため当然アラも出てくる。ダンジョンロードは開発が難航した挙げ句,英語版はバグ/未搭載機能が多い状態で出荷されてしまった。本作の評判が海外で思わしくないのは,このあたりの事情からだろう。しかし幸い,日本語版は最初からVersion 1.4であり,多くのバグ/未搭載機能がなくなっている。
それでもなお,先述したように,本作は万人に勧められる作品ではない。そのあまりにも“純然たるRPG”っぷりに,この手のゲームに免疫のない人は,少し触っただけで,「なんだか難しい」「よく分からない」「どこか古臭い」と投げ出してしまうかもしれない。
しかし,だからこそ,濃いRPGファンを自認する人に,本作をプレイしてほしい。この,“RPGエッセンスでできた結晶”のような作品は,そういう人達に,「RPGの楽しさ」を思い出させてくれるだろう。