― 特集 ―
Microsoftに訊く,XNA Game Studio Expressの狙い

Text by 米田 聡 / Photo by kiki 

新しいゲームコミュニティの創造を目指すXNA 課題は日本語環境への対応

4Gamer.net:

 先ほどコミュニティの形成というお話が出ました。ゲーム開発コミュニティといえば,世界規模ではMODコミュニティがその代表例と言えると思います。XNAにおけるコミュニティというのは,このMODコミュニティのようなものを目指しているのですか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 MODコミュニティは,「活発なゲーム開発者コミュニティの例」として,XNAコミュニティが目指すものに似ています。ただ,MODコミュニティの場合,どうしてもゲームごとの小さなコミュニティが活動するに留まってしまうという課題もあります。
 これに対して,XNAでは,もっと幅広い人々がアイデアを共有し合うコミュニティを目指しています。たとえば,Spacewarのようなゲームがあり,Spacewarに対して,さまざまな人が意見やアイデアを出し合う。その結果,Spacewarが(シューティングですらない)まったく新しいゲームに生まれ変わるかもしれません。MODコミュニティのように特定のゲームに縛られないことが,XNAコミュニティの利点ですね。

4Gamer.net:

 しかし,コミュニティを形成するためには,一にも二にも人を集めなければならないと思います。米国では,Microsoftのサイト内にフォーラムが立ち上がって,活発に意見交換もなされているようですが,日本ではどうやって知名度を上げ,人を集めていく計画ですか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 将来的にはゲームのコンテストなどを計画しています。例えばコンテストで素晴らしいゲームが登場すれば,それを「Xbox Live Arcade」などで販売し,開発者に金銭的な見返りが得られるようにするという方向もあると思います。

4Gamer.net:

 今,目の前にある課題についてはどうでしょう? 日本では,英語が苦手という人がかなりいますから,「公式フォーラムに参加してね」と言われても,言語が壁になってしまうかもしれません。

デイヴ・ミッチェル氏:

 うーん。言語の問題は,さすがにすぐには解決できないでしょうね。
 ドキュメントやWiki,フォーラムといった,コミュニティのための「場」を提供しますので,日本のコミュニティから「翻訳しよう」という動きが出ることを期待しています。また,ローカライズに関する良いアイデアがあれば,我々にフィードバックしてください。全力でバックアップします。
開発した“Xbox 360用タイトル”を配布できるようになるのはまだ先

4Gamer.net:

 そろそろ時間がなくなってきましたが,最後に,Xbox 360関連の話をいくつか聞かせてください。
 XNA Game Studio Expressを使って作成したゲームは,PCでは自由に配布したり販売したりできますが,Xbox 360で動作させるには,Creators Clubに年間99ドル支払って入会する必要がありますね。入会すると,いったい何が提供されるのですか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 Xbox 360は,標準状態だと,市販のゲーム以外が動作しないよう,プロテクトがかかっています。Creators Clubに入会いただくと,Xbox 360を開発向けに使用できるよう,プロテクトの一部を解除するプログラムが提供されるとお考えください。そのプログラムを使って,PCからXbox 360に開発したゲームプログラムを転送して,動作できる状態にします。このほか特典として,サードパーティ製品を含む開発ツールのディスカウント販売なども検討中です。

4Gamer.net:

 今のお話を聞いて非常に気になったのですが,Creators Clubに入会して,Xbox 360用のゲームを開発したとしますよね。それを,Xbox 360を持つ友人に配布したりできるのでしょうか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 先ほどお話しした,XNA Game Studio ExpressのVersion 1では,PCからゲームプログラムを転送する必要がありますから,友人に配布するときは,その友人もCreators Clubに入会している必要がありますね。Version 2までは行かない,“Version 1.5”で,Xbox 360同士で,ゲームを共有できるようにしたいと考えています。

4Gamer.net:

 PCと比べると,「誰でもプレイできる」までには,ちょっと時間がかかるわけですね。
 一方,課題がデータ転送くらいだとすると,ゲームのソースコードはPCとXbox 360でほとんど同じになりそうですけども,そういう理解でいいですか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 もちろん,XNA Game Studio Expressで作ったゲームはPCででもXbox 360ででもそのまま動作しますが,ゲームによっては,一部コードの書き換えが必要になる可能性があることは,注意しておいてください。

4Gamer.net:

 どういうことですか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 例えば,Xbox 360はマウスをサポートしていませんね。このように,使える周辺危機がPCとXbox 360では多少異なるのです。また,Xbox 360のDirectXは,DirectX 9をベースに,DirectX 10の機能を一部取り込むといったカスタマイズが行われていますし,そもそもGPUだって異なります。どうしても,100%の互換性を実現するのは困難になるわけです。
 Microsoftとしてはこれらの非互換部分を全体の4%程度と見ており,残る96%の互換性をソースコードレベルで確保するよう努力しています。

4Gamer.net:

 となると,将来的にPC側のパフォーマンスがさらに向上し,PCとXbox 360の性能差が拡大すると,XNAで制作したゲームの動作に影響が出る可能性もありますよね。性能差を吸収するような設計にはなっているのですか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 いえ,現時点では,パフォーマンスの違いは考慮されていません。パフォーマンスの差は,開発者の皆さんに,コード側で吸収していただくことになるでしょう。

4Gamer.net:

 とはいえ,PCはまもなく,Windows VistaでDirectX 10世代へ移行します。現在のXNA Game StudioはDirectX 9ベースですが,来春の発売が予定されているProfessional版では,DirectX 10へ対応したりするのでしょうか?

デイヴ・ミッチェル氏:

 いえ,現在のところXNA Game Studioでは,ほとんどのユーザーが利用できる,DirectX 9にフォーカスしています。DirectX 10に対応する明確なスケジュールはないとも換言できますね。
 ただ,将来的にDirect X10を使いたいという声がコミュニティから寄せられれば対応していきます。あくまでコミュニティからのフィードバックを重視して,動きたいと考えています。

4Gamer.net:

 いろいろと答えづらい質問もあったと思いますが,ありがとうございました。最後に,国内の開発者に向けてのメッセージをいただけますか?

藤木清輝氏:

 すでに日本でも,XNA Game Studioに関する日本語の窓口を設けています(編注:XNA日本語公式ページにメール受付窓口が用意されている)。皆さんには,ぜひとも要望を寄せていただきたいですね。日本のマイクロソフトとしても,開発者のみなさんをバックアップしていくつもりですので,多くの方の参加を待っています。
日本語環境の充実次第では面白い存在になる可能性が

 開発者同士,そして将来的にはプレイヤーも含めた,新たなコミュニティや文化の創造。XNAの,そしてMicrosoftの目的は非常に明快だ。そのために,コミュニティに対してサポートを行っていくから,ぜひフィードバックを寄せてほしい――インタビュー中,ミッチェル&藤木両氏が繰り返し強調していたのはこの点だった。

 ただ,「どのようにコミュニティを形成していくのか」という点については,まだ試行錯誤の途中という印象も受けたことは述べておきたい。筆者もインタビュー中に指摘したが,おそらく日本では,XNA Game Studio Expressが英語版で提供されているという事実が,コミュニティ形成に当たっての大きな壁になるはずだ。ミッチェル氏は,“英語の壁”をコミュニティが自発的に乗り越えることを期待していたが,自発的に乗り越えるだけの力をコミュニティが得るには,参加者の頭数が絶対的に必要だ。
 国内の大学と提携したことで,ある程度の人数は集められるかもしれない。だが,XNAの普及を日本で図るのであれば,教育機関だけではなく,フリーウェアやシェアウェア,あるいは同人といった世界とも,積極的に連携を取ることが求められると思う。

 そして,難しいとは思うが,日本語版ドキュメントの整備を,日本法人のマイクロソフトが,(ある程度)早い段階で行っていく必要があるのではないだろうか。膨大なドキュメントの翻訳作業が同社の手に余ることは十分に理解できるが,コミュニティの活動をスムーズにスタートさせられるかどうかは,マイクロソフトが,どれだけ日本語環境を整備できるかにかかっていそうだ。
 今後行われるStarter Kitの拡充など,世界規模でのスケジュールは大変魅力的だ。それだけに,正式版がリリースされる2006年末までの“日本における最初の一歩”に期待したい。

タイトル ミドルウェア/開発ツール
開発元 各社 発売元 各社
発売日 - 価格 製品による
 
動作環境 N/A

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http://www.4gamer.net/specials/xna_interview/xna_interview_02.shtml