
タンクが敵をひきつけ,DPSがその敵のヘルスを削り,ヒーラーは減ったタンクのヘルスを回復する。この良い形を維持するためには「アグロマネージメント」の知識が不可欠だ
「スレット」(threat=脅威)とは,プレイヤーキャラクターから攻撃を受けることで上昇していく,Mobの持つパラメータの一つだ。
Mobは,自分に対して最も多くのスレットを与えてきたプレイヤーキャラクターを攻撃目標にする。スレットはMMORPGプレイヤーの間では「ヘイト」(hate=憎しみ)とも呼ばれているが,WoWではスレットがツールチップのテキストなどで使われるオフィシャルな用語になっている。
プレイヤーキャラクターから攻撃を受けた敵の中では,攻撃してきたキャラクターに対する「スレット」という内部パラメータが上昇していく。基本的には,ダメージを多く与えれば与えるほど,その敵の中の自分に対するスレットは高まっていく。また,現在戦闘中の敵の中の自分に対するスレットは,敵を攻撃すること以外に,パーティメンバーに回復魔法をかけることでも上がっていく。Mobはこのスレットの量を用いて,敵の(つまりプレイヤーキャラクター達の)脅威度を判定し,その格付けを行っている。そして最も脅威度が高いと見なしたプレイヤーキャラクターを,Mobは攻撃目標に決定する。
ダンジョンでのグループプレイでは,防御力の高いメインタンクが敵の攻撃をすべて引き受けるのが理想的だ。ヒーラーとしてもヒールする対象をメインタンクのみに集中できれば,仕事がとてもやりやすい。つまり,常にメインタンクが敵にとって最も脅威度が高いプレイヤーキャラクターでいられれば,その戦闘は安定したものになる。
敵に最も多くのスレットを与える方法は,基本的には最も多くのダメージを与えることだ。しかしほとんどのタンクは,ダメージを与える能力でDPSに遅れをとる。だからDPSが何も考えずに全力で敵を攻撃すると,与えるスレット量があっという間にタンクを上回り,敵の攻撃目標になってしまう。
そこでDPSは,敵のターゲットをタンクから奪わないように,自分のダメージディーリング能力を少し抑え目にして戦う必要がある。そうすれば敵の攻撃目標がメインタンクから外れることなく,戦いは安定した安全なものになる。
また,味方をヒールすることで敵に与えるスレット量は少なくないので,プライマリーヒーラーは,ヒール以外の行動をとる場合,やはり力加減を考える。Manaの節約にもなるし,自分が敵の攻撃目標になってしまう可能性も低く抑えられる。
アグロマネージメント
……以上がスレットに関する基本的な考え方だ。この考え方を軸として,戦闘時にスレットを,ひいては敵の動きを能動的に管理することを,MMORPGでは「スレットマネージメント」(threat management),あるいは「アグロマネージメント」(aggro management)などと呼ぶ。
ちなみに「アグロ」というと,日本では非アクティブ状態のMobをアクティブ状態にする行為のみを言うが,海外では最近,メインタンクなどがMobのスレットを集めて攻撃を自分に向けさせる行為を「アグロをとる」(get his aggro)などと言ったりする。

ターゲットを次々に変更して周囲の敵すべてにスレットを与えることで,すべての敵の注意を自分に引きつけ続けようと試みるタンク
グループを組んだときにメインタンクになる可能性のあるクラス「Warrior」「Paladin」「Druid」(Bear form)は,自分が与えたダメージ量以上のスレットを対象に与える能力を持っている。グループが1体の敵と戦っているとき,タンクがこの“より多くのスレットを与える能力”を適切に使った場合,DPSやヒーラーはそれほど行動に神経質にならなくても大丈夫なことが多い。メンバー全員が同じ1体の敵を攻撃するだけなので,タンクはそのMobをガッチリとキープできて,ほかのDPSは気兼ねなく攻撃を行える。またこの状態でならばヒーラーがタンクに対してどれほど回復魔法をかけても,Mobがヒーラーに向かってしまうことはないだろう。
ただ,これは“1体の”敵と戦っている状況限定のことであり,インスタンスでは一度に多数の敵を相手にするのが普通だ。その状況下では,グループメンバー全員が現在のエンカウント内のスレット状況を考えながら行動しなくてはならない。
複数の敵を同時に相手にする場合,タンクは,目の前の一体の敵だけでなく,周囲にいるすべての敵の攻撃目標も,自分に集中させるように気を遣わなければならない。そうしないと,タンクが手を出していないMobは,ヒーラーがタンクをヒールした瞬間,ほぼ確実にすべてそちらに向かってしまう。ヒーラーが直接手を出していなくても,Mobはヒーラーの行動を見ているのだ。
タンクはヒーラーを守るために,エンカウント内のすべてのMobに対してスレットを与えていかなければならない。そのために有効な方法の一つは,複数の敵に対して同時に攻撃を加えられるアビリティを頻繁に使うことだ。
ただ,これだけでは限界もあって,さらに強力に周囲の敵を自分に引きつけ続けたい場合は,ターゲットを頻繁に変更して,ターゲット単体に対して多量のスレットを与えられるアビリティを,1体1体使っていく必要がある。
そのように気を遣っても,なおMobの一体がタンク以外のメンバーのところに向かってしまうことはある。そんなときはやはりターゲットを変更して,敵を自分に引きつけるための適切なアビリティを使う必要が生じる。
このような事情があるため,WoWのタンクは頻繁に自身のターゲットを変更する必要がある。だからWoWでは,「ターゲットの選定はメインタンクの仕事。DPSはメインタンクをアシストして攻撃していればOK」という考え方は危険だ。各個撃破のための目標選定には,別の方法を使う必要がある。
複数の敵を相手に戦うときは,一体ずつ各個に倒していくのが望ましい。そうすれば戦闘が終わるまでにグループが被るダメージの総量を減らせるからだ。敵を各個撃破するには,DPSメンバーが同一の目標に攻撃を集中させればよい。そうすれば敵を素早く撃破できる。またDPSの攻撃を一点に集中させることには,タンクがアグロマネージメントしやすくなるという利点もある。

レイドターゲットアイコンはグループリーダーが敵や味方の頭上に付けられる
ではWoWで攻撃を一体に集中するにはどうすればいいのか。ひと昔のMMORPGではメインタンクがターゲットの選定役(メインアシスト)を兼任することが多かったが,WoWのタンクがそれに向いていないことは前述のとおりだ。
なのでメインアシストが必要であれば,それはDPSの誰かが担当したほうがいいだろう。ただ筆者の経験では,グループを組んだときに「メインアシスト役を決めよう」という話は基本的には出ない。実際のプレイでは,DPS達は各々の裁量でターゲットを決めている。
そのとき少しでも早く敵の数を減らすため,残りのヘルスが少ないターゲットを優先的に攻撃したり,やっかいな魔法を使ってくるキャスター,ヒーラータイプの敵を優先して攻撃したりといった意識が共通して働いていれば,攻撃目標はおのずと揃ってくるようだ。
またグループによっては,グループリーダーがレイドターゲットアイコンをうまく使って,敵を倒す順番やクラウドコントロールプランを指示することもある。レイドターゲットアイコンとはグループリーダーが敵や味方の頭上に表示できる○型や□型,あるいはドクロマークなどのアイコンのことだ。
手慣れたプレイヤーの中には「○アイコンをシープして,□アイコンをサップ,残ったドクロアイコンを真っ先に倒そう」といったように戦闘プランを提案して,グループをリードしてくれる人がいる。その作戦が理にかなったものであれば,皆で協力してそれ実行するというのはかなり有効な戦闘方法だ。