特集:「三國志 Online」プロデューサーインタビュー

「三國志 Online」プロデューサーインタビュー クローズドβテストの反応と,見えてきた課題

Text by 星原昭典 Photo by kiki 

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生産と採集について

 

4Gamer
 採集技能は特定の場所でのみ使えますが,その場所を探すのも,いまは頑張って探すか,あるいはほかのプレイヤーに教えてもらうか,という感じで,正直なところ少し難しめです。これも,達成感を得るための仕組みなのでしょうか。

 

上野氏
 いえ,私も,採集ポイントはもっと簡単に見つけられてよいと思っています。今よりも,パッと見で視覚的に分かりやすくしたいですね。通ったときに「あ,ここには何かありそうだぞ」と思えるようにしようと考えています。

 

4Gamer
 なるほど,それだとずいぶん楽になりますね。ところで,採集技能も生産技能も,いまは一つだけ選択できるようになっています。これは,製品版ではもっと多く採れるようになったりしますか?

 

上野氏
 しばらくは一つと一つでいきます。これは,生産のレシピと深い関わりがある要素で,レシピには現状,見直しが必要な部分もあると思っています。

 

4Gamer
 レシピといえば,今のところ,初めのうちは自分で採集したものだけでアイテムが作れますが,そのうち,ほかの人に材料を作ってもらったり,売ってもらったりしないと出来ないものも出てきますね。そういう相互依存関係があることは,意図されたものですよね。

 

上野氏
 はい,そうです。

 

4Gamer
 でも現状では,作ったものや採集したけれども自分では使わないものを売る方法,そしてそういうものを買う方法が,自分を「売却希望」や「購入希望」状態にして連絡を待つというものしかないですよね。それ以上のシステム,例えば無人販売の仕組みとか,オークションの仕組みなどはゆくゆく用意されるのでしょうか?

 

上野氏
 そうですね。まだ対面販売しかないですが,それ以上のものはこれから作っていきます。

 

4Gamer
 「信長の野望 Online」も初めは対面販売しかなくて,あとから販売品のリスト表示が可能になって,最近になって“楽市楽座”(無人販売)の仕組みが入りました。「三國志 Online」でも徐々に追加されていくということでしょうか。

 

上野氏
 状況を見ながら拡充していきたいです。材料は,「さあ生産をしよう」となったそのときに手に入ることが重要です。そういうことができる仕組みを,なるべく早い時点で入れていきたいと思います。その仕組みが具体的に何かは,まだお話しできませんが。

 

4Gamer
 それができると,かなり生産がしやすくなりそうです。

 

上野氏
 いま長安で,誰かが大声チャットで何か売りますと流すと,その人のところに人がわーっと集まったりしているのを,私もプレイヤーとして見ています。そのうえで,もっと売りやすい方法が必要だと思っています。クローズドβテストではそこまで販売関係が発展するとは思っていなかったので入れていなかった,というのもあります。

 

4Gamer
 今は,生産を実際に行ってみると,結構いっぱい材料が採れて,ドンドン作ってドンドンNPCに売るとお金がドンドン貯まる……という状態ですよね。ここはやはりこれから調整をするところなんですよね。

 

上野氏
 今のままだとどんどんお金が増えていくだけなので,お金を使うところも用意していかなければならないと思っています。ゲームの全体的な方針としては,お金をかけて生産技能を上げていくのではなくて,無理をしなくても生産技能を上げて好きなもの作れるレベルのお金の貯まり方にしたいと考えています。

 

4Gamer
 武器の耐久度の仕組みが入ったら,修理にお金を使うことになりそうですね。

 

上野氏
 耐久度は難しいですね。出かけるときに,武器が2個3個必要というようにはしたくないですので。武器の消耗と武器の生産は,表裏一体のものだと思います。ものが作りやすいのであれば,ある程度消耗しやすくても問題ないと考えています。

 

4Gamer
 技能のリストをざっと見ていると,食べ物や薬,霊符といった消費系のアイテムも,結構作れるようですね。こういったいろいろなアイテムが作れるのであれば,売り買いのための仕組みの充実も重要ですね。

 

上野氏
 そうですね。そういう必要性が見えてきたということも,βテストの成果の一つだと思います。

 

 

三國志 Onlineの今後

 

4Gamer
 では,そろそろまとめに入ります。今後のスケジュールは,どのようになっていますでしょうか。

 

上野氏
 まずは今回のいろいろなデータや情報をまとめて,どういう風に次のステージに持っていくかを考えなければなりません。そこに少し時間がかかりますね。

 

4Gamer
 これから手をつけていくところって,具体的にはどこですか?

 

上野氏
 戦闘のタイミング,クライアントの重さ,UIなどなど……あらゆるところでブラッシュアップします。富士登山にたとえると,車で登れるところまでは来ましたので,ここからは歩きです,という感じでしょうか。

 

4Gamer
 なるほど,ここからが大変ですね(笑)。では,オープンβテストはいつになりますか?

 

上野氏
 実は,次のテストをどういう形にするかは,今でも検討中です。まずは山のようにいただいた要望を消化していきます。テスターの方の大半は「βテストだから」という意識ではなくて,βテストでも製品並のクオリティ&バランスを期待されています。そういう目からいただいた意見はとても貴重です。それを使ってゲームを磨いていくのが先ですので,その後のことは……。申し訳ございませんが,今はまだ,はっきり「いつ何をする」とはお話しできる段階にありません。

 

4Gamer
 では,次のテストはすぐにはないと考えていてもよさそうですね。

 

上野氏
 ええ,次は,三國志 Onlineならではの部分をきっちり実装してからテストに入るつもりですので,それらの準備が整うまで,しばらくお待ちいただくことになると思います。

 

4Gamer
 具体的には,次のテストではどういう部分が変わってきますか?

 

上野氏
 クライアントのファイルサイズ(編注:300MB弱)を見ていただいても分かると思いますが,今回見えていたのは,このゲームのほんの一部分だけです。あくまで“クローズドβテスト”ですので。次の段階では……もう少し,各ロールの特徴を出していきたいですね。それと,武将ともっと頻繁に出会えるようになって,三国志らしさをもっと感じられるようになると思います。

 

4Gamer
 善し悪しはさておき,プロモーション目的の“テスト”も,日本では多いじゃないですか。でもこの「三國志 Online」のクローズドβは,“本来の意味でのβテスト”なんですね。

 

上野氏
 はい,そのとおりです。

 

4Gamer
 だからこそ,先のことは見えづらいという部分もあると思うんですよ。では,ちょっと質問を変えて……。今の世の中には,実にたくさんのMMORPGがあふれています。その中で三國志 Onlineは,ここが違うんだ,ここが凄いんだという,最も見てほしいポイントを教えてください。

 

上野氏
 いろいろありますので難しい質問ですが,プレイスタイルの点で言えば,テレビ番組一つを観るくらい,長くても映画を一本観るくらいの時間で,一区切りがつけられるゲームにします。MMORPGでは難しいのですが,リアル生活にやさしいゲームにしようと思います。

 

4Gamer
 上野さんは,「大航海時代 Online」の頃からそれをおっしゃっていましたよね。

 

上野氏
 そうですね。ネットワームゲームはそこをクリアしていかないと,どうしても人口が増えていかないと思います。昔はネットワークにつなげることを志向してきた人達だけがオンラインゲームをやっていましたが,いまはネットワークにつなぐことにちょっと興味を持った方達も,簡単にこの世界に入ってきます。そういった方達に対して,もっともっとハードルを低くしていく必要性を感じます。これはMMORPGが進化してきた方向性とは本来は異なるものです。なかなかこの二つを合わせるのは難しいのですが,それを合わせていけたらというのが一つの目標です。

 

4Gamer
 役割を変えられるというシステムも,既存のMMOゲームの持っている問題の解消を目指したものですよね。

 

上野氏
 これがファイナルアンサーだとは思っていないのですが,これによって多少は緩和できないか,という一つの試みですね。最初から明確な答えを持ってやっているのではない。もちろん一つのクラスに絞ったプレイの提案もできますが,それはほかのゲームでやっていますので,だとしたらそうでないアプローチではどうなんでしょうという,また別の提案です。
 自分でMMORPGをプレイしていて,「いまバッファー(Buffer:強化系技能の使い手)がいないから,バッファーである君のセカンドキャラを連れてきてよ」と言われても,ウンとは言いにくいですよね。今日自分がプレイしたいのはタンカー(Tanker:前衛での盾役)であって,バッファーじゃないんだと。でもしょうがないかな……と,それがある意味普通になってしまっている。でも,そういうのはあまり良くないと思っています。

 

4Gamer
 やはり,楽しむための“ゲーム”なんですから,「しょうがないもの」として,諦めたくはありませんよね。

 

上野氏
 正直に言えば,三國志 Onlineでも,それに似た状況が生まれる可能性はあります。ですが,キャラ自体を替えるのと,能力を切り替えるのは,気持ちのうえで結構違うと思います。役割のほかには,連合での経験値シェアを普段からできるようにしているというのも,徒党の人数縛り,グループの人数縛りが生みだしてしまうトラブルの解消を狙ったものです。

 

4Gamer
 一般的なMMORPGでは,メンバーが一人足りない,一人多い,という状況がよくありますね。

 

上野氏
 そうですね。MMOゲームを遊んでいくうえで,「“野良”を中心とした遊び方」と「“固定”メンバーとのプレイを中心とした遊び方」がありますが,“固定”の場合,例えば早く集まった5人で冒険に出かけてしまって,後から来た一人がもう今日は遊べない,なんていうことがよく起こります。でも三國志 Onlineの連合だったら,6人の場合(編注:本作の徒党は最大5人)も3人&3人の連合にしてしまえば問題は解決です。一人遅れても,あとから合流してちゃんと遊べる。メンバーを募集して6人以上の人が集まったとしても,連合で対応できるんです。この仕組みは積極的に使っていただきたいと思います。

 

4Gamer
 2人でのプレイ,3人でのプレイ,というのはどうでしょう?

 

上野氏
 現状でそれはできていると思います。なので,これから作っていかなくてはならないのは,5人用のインスタンスや,連合用(≒レイド用)のコンテンツです。レイドインスタンスを25人でしか攻略できない,としてしまうと,25人を集めないといけなくなります。そこをどうするか,さらに検討していきます。

 

4Gamer
 「ダンジョンには徒党でも連合でも挑める。そして,どちらで挑んだ場合でも手応えを感じられるようにしたい」と。

 

上野氏
 そうですね。

 

4Gamer
 インスタンスに入る人数によって敵が変わったり,とかでしょうか?

 

上野氏
 できるといいですね。でもまだ私の頭の中にある段階です。

 

4Gamer
 そこもこれからなんですね。あと,このゲームのウリといえるのは合戦だと思うのですが,いかがですか? この部分に注目しているプレイヤーは少なくないと思います。

 

上野氏
 合戦は確かに,三國志 Onlineにおいてとても大きなコンテンツですが,「合戦“だけ”が目的のゲーム」にはしません。合戦には興味がなくて,自分は中国大陸を駆け回って冒険がしたいんだ,という方にも楽しんでいただけるものにします。
 ただ,合戦の面白さを感じていただきたいとは思いますので,より手軽に参加していただけるような工夫はしていきます。目指しているのは「いろいろな方に,いろいろな趣向で,遊んでいただく」ということです。合戦で勝つことを目的としてもいいし,ダンジョン攻略を目的にしてもいい。生産や商売を目的にするのもいい。もしくは,単にチャットしているだけのモチベーションで遊ぶというのでも,私はいいと思っています。

 

4Gamer
 いまMMORPGのトレンドとして,「とにかく親切に」というのがあります。それはつまり迷わないように「こうしなさいな」と道を示して,それに向かってあまり悩むことなく進めていける,というデザインだと思うんです。でも三國志 Onlineが志向しているのはそうではなく,もっと「強要されない」ことであり,「多くの判断をプレイヤーにゆだねる」ことなんですね。

 

上野氏
 無論,個々のコンテンツに対しては,その遊び方を親切に示していくというアプローチを当然行っていきます。ですが,最終的にどれを選ぶかの選択は,各プレイヤーにお任せします。
 素直にプレイを進めていった場合は,勢力に属して合戦で頑張るというスタイルになるでしょう。これは見つけやすいモチベーションですね。生産や商売を志向するプレイヤーには,ある程度MMORPGの経験があって,初めから明確に「私は生産と商売がしたい」という目的を持った人が多いと思います。冒険を中心にプレイされる方もそうですよね,初めから「すべてのダンジョンを制覇して,良いアイテムも欲しい」という具合に,もう自分で方向性を見つけられています。そういういろいろな人達がいる。そしてその,どういう方でもプレイを続けていけるように,コンテンツを用意していきます。

 

4Gamer
 分かりました。完成を楽しみにしています。では最後に,読者へのメッセージをお願いします。

 

上野氏
 皆さんのご協力のおかげで,クローズドβテストを開催させていただきました。今回いただいた意見を集約して,よりよいものを作っていきたいと思います。今後もいろいろな情報をどんどん開示していきますので,応援をよろしくお願いいたします。

 

 

 

 今回,開発チームの中心にいる上野氏から長時間話を聞くことができたおかげで,この作品の,これまでよく見えなかった部分について,かなり具体的なイメージを持つことができた。
 大きな部分では,この作品が「管理」することよりも,「自由」であることを強く志向したものであることが分かってきた。インタビュー中にも出たが,MMORPGのトレンドの一つに,「非常に親切であること」がある。ゲームの中で,プレイヤーが体験する内容を明確にイメージし,そこから面倒だったり,迷いやすそうだったり,つらく感じそうだったりする要素を徹底的に廃していく。クエストでプレイヤーをぐいぐい引っ張って,作り手が意図したとおりの方向/遊び方に導く。プレイヤーのゲーム体験をシステマチックに「管理」する。いま世界で最も人気がある「World of Warcraft」などは,その方向性で成功を収めた一例だと言える。
 しかし三國志 Onlineは,そうではない。遊ぶための枠組み(ゲーム世界)と仕組み(戦闘や生産のシステム)を用意しますので,あとはその中で「自由」に遊んで,あるいは「自由」に新しい遊び方を発見してみてください,というのがこのゲームの根底にあるテーマであるようだ。だから,六つある技能の伸ばし方にモデルケースは用意されていない。とりあえず一つに絞ることでペースを上げることもできるし,大変だが六つ全部を均等に伸ばしていく選択もできる。それはプレイヤーの「自由」である。クエスト(依頼)中心で遊ぶこともできるし,まったく依頼をこなさず戦闘だけで生きていくこともできる。そこもプレイヤーの「自由」である。三國志 Onlineは,そういうスタイルのゲームとなっていきそうである。

 

 「自由である」ことは,同時にある程度「困難である」ことでもある。戦い方や育て方など,多くのものを,与えられるのでなく,自分達で編み出していかなければならないからだ。しかし,そこにはやりがいも生まれる。
 思えば,上野氏や4Gamerスタッフの世代が昔遊んでいたPCゲームには,そういったちょっとした難しさが,プレイヤーのヤリガイをかき立てるタイプものが多かった。難しすぎるのはちょっといただけないが,ある程度の難しさは,達成感をより大きなものにしてくれる。作り手のそういった,プレイヤーが立ち向かっていく気になる適度な難しさに対する嗜好が,どうやら本作に反映されているのかもそれない。

 

 今後注目すべきポイントは,そういったあり方が,ここ数年の「何をすべきか決められている」MMORPGに慣れたプレイヤー達にどのように受け入れられるか,という部分だろう。システムに手厚く保護され,導かれ,多くのご褒美を与えられることに慣れたプレイヤー達は,“自分で目的を見つけなければいけない”世界に,どんな魅力を見いだすのだろうか,あるいは見いださないのだろうか。コーエーの新たな試みから,まだしばらく目が離せそうにない。(2007年1月31日収録)

 

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タイトル 三國志 Online
開発元 コーエー(KOEI ENTERTAINMENT SINGAPORE PTE. LTD.) 発売元 コーエー
発売日 2007年内 価格 N/A
 
動作環境 N/A

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