― レビュー ―
ピーター・モリニューらしい映画スタジオ経営シム
The Movies 日本語版
Text by UHAUHA
2006年5月26日

 

映画スタジオ経営と映画監督の両方を楽しめる異色作

 

映画スタジオ経営とオリジナル映画制作の両方を楽しめる本作。やっぱり魅力は,比較的簡単にオリジナル映画制作ができてしまうところだ。凄い映画ができるか,はたまた駄作ができるか,プレイヤーの映画センスだけが問われるのだ

 奇才ピーター・モリニューが放つ,一風変わった会社経営シミュレーションゲーム「The Movies 日本語版」。プレイヤーは1920年に設立されたハリウッドにある映画スタジオ(映画会社)のオーナーとなり,映画撮影に必要な設備やセットを建設する。そして監督や俳優をスカウトして一流のスターに育て上げ,映画を制作,公開して大ヒットさせ,ハリウッドでナンバーワン,つまり世界一の映画スタジオを目指す。

 本作は映画スタジオ経営者として奮闘する「映画スタジオ経営」と,用意されたシーンを組み合わせて自分で映画を作れる「オリジナル映画制作」の両方を楽しめるのが特徴。映画スタジオ経営を楽しむのであれば,少ない資金で1920年からスタートする「新規ゲーム」でプレイし,オリジナル映画制作に専念したいのであれば,開始年代や初期資金などをある程度設定できる「フリーモード」をプレイするというのが,本作のプレイスタイルだ。

 The Movies 日本語版には,欧米で発売された「プレミアムエディション」に同梱されていた「ボーナスCD」と,一歩先を行く映画を撮るための「ヒント集」(小冊子)が添付されている。ボーナスCDには,追加コスチュームデータ10種,サウンドトラック20曲,コンセプトアート集,特典映像などが収録され,ヒント集にはオリジナル映画制作時のちょっとしたテクニックが掲載されているので,駆け出しの映画監督は参考にするといいだろう。

 なお,当サイトでは2005年末から,特集記事や連載記事「The Movies 目指せハリウッドの星」で本作を追ってきているので,そちらの記事も合わせてご覧いただきたい。

 

映画スタジオ内に設備,セット,装飾品を配置して,我が映画スタジオを作り上げる。箱庭シム的で結構楽しい 基本操作はモリニューお得意のゴッドハンド方式。人やアイテムをつまみ上げて目的の場所へ放り込むだけ スタジオチャートで最下位の我が映画スタジオ。ライバルと比べて何が足りないのか研究し,トップの座を目指す

 

ボーナスCDの10種類の追加コスチュームのバリエーションは微妙。もっと突拍子もないものが欲しかったかもしれない

 

 

スターに振り回される経営者の苦悩を味わおう

 

一番頭を悩ませるのが,スターのご機嫌取りと育成。スターだけは多数のパラメータが用意されている。このスターはストレスと取り巻き欲しさでイライラしている様子で,撮影中にもかかわらず,現場を抜け出して酒を飲んでいる。これでは撮影に余計な時間がかかるし,映画の品質も悪くなる

 映画スタジオの運営は,映画を公開して得られる興行収益が要。公開期間が長くなるようなロングヒット映画であれば,多くの興行収入が期待できる。そんな映画を作るには,映画スタジオ自体の注目度,時代のニーズにあった映画ジャンル(コメディ,アクション,SF,ロマンス,ホラーの5種類)のチョイス,映画の主役であるスターと脇役のエキストラの演技力,脚本の完成度,最新技術が使われているか,セットのメンテナンスは行き届いているかなど,さまざまな要素を高く維持する必要がある。

 映画スタジオの総合的な評価(格)には,スタジオ内の充実度も含まれる。映画スタジオに設備やセットを建設するのは当然として,このほか随所に装飾品を配置しての景観作りが必要になる。これ自体はお手軽作業で,設備に関しては基本的に不必要なものはなく,使える設備はどんどん建設して構わない。トイレなど景観を損ねるものもあるが,周辺に樹木を植えることで解決できてしまう。
 セットは敷地スペースの関係上,全種類を配置することは不可能だが,その都度,建て替えればOKだ。空いたスペースはさまざまな装飾品で埋めていけば,簡単に映画スタジオの充実度は上げられる。

 建設という部分では,ほかの箱庭シムにあるようなシビアさはまったくなく,作業的に感じる人もいるかもしれない。しかし,自由に自分なりにこだわった映画スタジオを作っていく作業は面白く,映画スタジオ経営を忘れて,景観作りに精を出してしまったほどだ(担当編集者からは「本当に?」と言われたが)。

 良い映画を撮るためにはスタッフやスター(俳優と監督)の育成が重要だ。撮影クルー,脚本家,建設員,清掃員,研究員といったスタッフの育成は簡単。彼らのパラメータは経験値のみ設定されており,経験を積めば良い仕事をしてくれるという単純なもの。体力などの値もなく疲れ知らずなので,強制的に仕事をさせていけば,どんどん経験が上がっていく。

 とりわけ難しく,奥が深いのがスターの育成である。スターには経験,ストレス,年齢,ギャラ,イメージ,キャンピングカー,贈り物,取り巻き,人間関係,依存症といったパラメータがあり,これにより仕事のやる気度を示す「気分値」が算出される。気分値は何か不満があると下がり,それが演技に表れて映画の品質を落とすことになる。それはおのずと,スター本人と映画スタジオの評価を下げることになるのだ。

 駆け出しのスターは,出演した映画が公開されるだけで大喜び。気分値も上々で次の作品への意欲も盛大だ。しかし少し売れてくると,ギャラが低いとか,キャンピングカーや取り巻きが欲しいとか,文句を言ってくる。少人数の監督と俳優で何本もの映画を休む間もなく撮影しようとすれば,スター達はヘトヘトになってしまう(スターだけは疲れるのだ)。これでは不満も爆発することだろう。得意ジャンル,人間関係などを考慮して監督,俳優のチームをいくつか作り,交代で撮影を繰り返すなど,工夫の余地がある。

 ハリウッドには「自分が成功するだけでは不十分だ,友人が破滅しなければ」という言葉を残した俳優もいるくらいで,本作でもスター達はお互いライバル心を抱いており,誰かのご機嫌を取ろうとすると,別のスターが「おいおいちょっと,俺は?」となる。ギャラを設定するときなど,あるスターのギャラを上げると別のスターが不満になり,そのスターを上げるとまた別のスターの不満度が……という具合に,ライバルと思っているスターがはっきり分かって面白い。このあたり,ハリウッドをユーモラスに捉えて作られているなぁと感心してしまった。こんな感じでスターのご機嫌を取りつつ,育成していくのが本作の経営部分なのだ。

 映画制作の工程は,基本的には「脚本部」→「撮影」となる。自分で作ったオリジナル映画をゲーム中で公開しても構わないが,自分で作った映画で高い評価を得るのは非常に難しい。どう考えても面白くない,脚本家に書かせた脚本の映画のほうがゲーム内での評価が高くなるのは,致し方ないところか。まあオリジナル映画は,あくまで友人に見せたり,ネット上で公開したりするためのものだろう。
 とはいえ,「初級脚本部」「中級脚本部」で書かれた脚本では,せいぜい三つ星止まりの映画にしかならない。それ以上を目指すには「上級脚本部」「一流脚本部」が必要になる。実は独自の脚本を作れる「オリジナル脚本部」もそうだが,こういった上ランクの脚本部は「功労賞」を達成しないと手に入らない。
 功労賞は九つ用意されており,目標を達成すると次の功労賞へチャレンジできる。一つ達成すると報酬として設備やセットが与えられるという具合だ。最初の報酬であるオリジナル脚本部は簡単に入手できるが,徐々に達成難度も上がり,上級脚本部を獲得するのは,かなり手強い。すべての功労賞を獲得するのは,相当厳しいので覚悟して挑戦してほしい。

 

映画スタジオ建設は非常に簡単。トイレなどの嫌われ系(?)アイテムは,植物などでごまかすのが基本だ 設備,セットへの行き来は道を利用するので,道の敷設には気を遣おう。アクセスが悪いとストレスになるのだ 映画スタジオの改善すべき部分は,制作部のスタジオのレビューで把握できる。ヒントらしいことは書いてないなぁ

 

スターとエキストラの経験を上げるために,セットで稽古させる。セットの種類により,経験が上がるジャンルが異なる 監督,俳優達の人間関係も重要だ。プレイヤーが強制的に話をさせてもいいが,良くなることも悪化することもある スターは撮影前に気分値を上げておくのがベストだ。映画の配役が自分にピッタリだとイメージアップでさらに喜ぶ

 

金額設定はスターのギャラのみ可能。ライバルスターのギャラが上がると不満が出る。将来の影響力にも影響する 徐々に達成条件が厳しくなるが,すべての功労賞を獲得したい。基本的には少しずつステップアップしていけばいい 5年に一度開催されるライオンヘッド映画賞。受賞するとボーナスが得られ,次の映画賞まで使える。狙うは総ナメだ

 

 

オリジナル映画で世界の映画監督達に挑戦

 

オリジナル映画を制作するために,シーンをつなげて脚本を作る。かなりのシーンが用意されているが,うまくつながらないものもあり,撮影後のカット編集作業でうまくごまかせるかどうかも腕の見せどころだ。もちろん超大作ほど,資金も撮影時間もかかる

 さて,本作のメインディッシュ,「オリジナル映画制作」を見ていこう。オリジナル映画は「オリジナル脚本部」で,セットとシーンを並べて脚本を作っていく。セットごとに多くのシーンが用意されており,中には300種類を超えるシーンが使えるセットもある。シーンとは登場人物の人数,俳優の動きや演技,カメラアングルが決められた「場面」のことで,一つ一つのシーンは細かい動作でしかないが,これらをつないでいくことで一本のストーリーを作り上げていく。
 シーンを並べていくだけで簡単に映画が作れてしまうのは,ある意味感動できる。脚本ができたら映画を撮影して,フィルムにアフレコ,字幕挿入,カット編集など手を加えて仕上げれば,オリジナル映画の完成だ。

 このオリジナル映画制作には,少々不満な点が目立つ。前述のとおり,シーンは膨大な数が用意されているので,組み合わせ次第でさまざまなストーリーが作れそうだが,個々のシーン自体に関する自由度はかなり低く,キャラクターの立ち位置やカメラアングルなどが,ほとんど固定されている。そのため数多くのシーンが用意されているにも関わらず,うまくつながらないものが多くて困ってしまった。もう少し,シーン操作に関しては融通が利けばよかったのだが。

 なお,2006年6月1日に欧米で発売予定の拡張パック「The Movies: Stunts & Effects」では,スタント撮影と特殊効果に関する設備やセットが追加されるとのこと。スタントマンの怪我を治療する病院なども登場するというから面白そうだ。また,新機能「フリーカメラモード」が付き,シーンを自由なカメラアングルで撮影できるらしいので,前述の不満点も少しは解消するはず。今から楽しみでならないが,現時点では拡張パックの日本語版の発売のアナウンスはない。ぜひ,日本語版の拡張パックも発売してほしいところだ。

 完成した映画を多くの人に見てもらい,評価してほしいと思ったら,迷わず「The Moviesオンライン」へオリジナル映画をアップロードすべきだ。ここでは世界中の人々に向けて,自分の映画を配信(アップロード)できるのだ。しかも映画をここで公開したり,公開した映画に観客(閲覧者)から評価が付くと,バーチャルクレジット(報酬額)が得られる。バーチャルクレジットを稼げば,プロップショップで小道具やセット,衣装など追加アイテムが購入できる。これは自分の映画で使えるのだから,やる気も上がるというものだ。

 世界中から集まっている参加者達はかなり熱心で,配信された映画に対して感想なども書いてくれる。すでに日本人映画監督の作品も多数配信されており,英語はもちろん日本語での感想が綴られているものも多い。「The Movies 日本語版」なら映画タイトル,監督名,字幕などに日本語フォントも使用できるが,外国人からの評価を得たいなら,なるべく英語を使ったほうがいいだろう。

 The Moviesオンラインでは定期的に映画コンテストが開かれており,応募条件を満たした映画を作れば,世界中の監督達と出来栄えを競い合える。2005年末にはクリスマスを題材にしたコンテストが開催され,つい最近では自動車メーカーのクライスラーが協賛するコンテストが開かれた。優勝者には「クロスファイア・クーペ」(日本で買うと約500万円!)が贈られるという豪華さだ。しかも,最終審査を行ったのが「ワイルド・スピードX2」のジョン・シングルトン監督,「プリティ・ウーマン」のゲイリー・マーシャル監督,「バイオハザード」のポール・W・S・アンダーソン監督,「シティ・オブ・エンジェル」のブラッド・シルバーリング監督,「スナッチ」のガイ・リッチー監督という顔触れだからビックリだ。本当の映画界への道が開く可能性も,なきにしもあらずといったところか。優勝作品などは「こちら」で見られるが,上手く作るもんだなぁと感心しきり。

 本作は,映画好きの人にはぜひプレイしてほしい作品だ。映画スタジオ経営,オリジナル映画制作の両方を楽しめるが,すべてのアイテムを使って映画を撮りたいために映画スタジオ経営をする……という人も多いかもしれない。やはり本作の醍醐味は,世界中の観客達に向けて自分の映画を見せつけられるところだろう。腕を磨いて世界に挑戦してもらいたい。

 

シーン選択時に詳細が見られる。説明にはない「使えるシーン」が含まれていることもあるので,必ずチェックしよう 映画撮影中にも演技や背景幕の変更が可能。背景幕は別のセットのものに替えられる。けど,あまり使わないかも シーンのメインを担う主役用マネキン以外に,予備の動きをフォローした黄色のエキストラ用マネキンも用意されている

 

脚本作成時,感情や動きの違いを数段階で変更できるシーンもある。感情などは変化が大きすぎるのが難点 撮影したらアフレコ,字幕,カット,BGM追加などの編集作業をして仕上げる。タイムライン編集なので分かりやすい 映画を公開すると,ゲーム内の評論家のレビューが出る。セットの品質やクルーの経験など,幅広くチェックされる

 

 

「スターメーカー」で自分好みの俳優を生み出せる

 

 本編については以上で終了だが,余談としてもう一つ。自分好みのスターを登場させたい場合は,「スターメーカー」というエディタで作成できる。ルックスやら性格,顔の作りを細かく設定できるので,自分のオリジナル映画に必要な容姿の俳優を作ったり,実在する俳優をモデルにしたりなどしてみよう。別の顔を合成したり,目の吊り上がり,頬のこけ具合,顎の張り出し具合,おでこの広がり具合などスライドバーで微妙に調整できるのが素晴らしい。

 

 

タイトル The Movies 日本語版
開発元 Lionhead Studios 発売元 ラッセル
発売日 2006/04/20 価格 オープンプライス
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/800MHz以上,メインメモリ:256MB以上,グラフィックスチップ:GeForce 3またはRadeon 7000以上,グラフィックスメモリ:32MB以上

(C)2005 Lionhead Studios, Ltd. Published by Activision Publishing, Inc.

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http://www.4gamer.net/review/movies/movies.shtml