映画を撮影し,公開することで得られる興行収入により映画スタジオを経営していく「The Movies」。1920年代の手回しカメラで撮影したモノクロ映画から始まり,ゆくゆくはCG技術を取り入れた映画撮影も可能になるなど,映画の歴史も体験できるところが面白い
誰もが憧れる夢,映画制作。ここ数年は日本人のホラー映画監督がハリウッドで成功を収めているようだが,基本的に誰でも叶えられるような夢ではない。豊富な資金だけ,抜群のアイデアだけ,超人的な才能だけ,あるいは人並み外れた根性だけあっても映画は作れない。そのすべてがあり,さらに膨大な労力を注ぎ込んで,初めて映画は完成するのだ(と,思われる)。
さて,そんな途方もない夢をあっさり叶えてくれる人といったら,それはもうピーター・モリニューしかいないだろう。かつて,我々を神や悪の魔王や遊園地のオーナーにしてくれた彼が,今度は我々をハリウッドの映画スタジオ経営者に,そして映画制作者にしてくれるのだ。
映画スタジオ経営シミュレーションゲーム「The Movies」は,1920年代に設立されたハリウッドの映画スタジオ(映画会社)のオーナーとなり,大ヒット映画を生み出すべく運営していくというゲーム。目指すは評価五つ星の映画スタジオだ。
本作は経営シムとして楽しめるだけでなく,自分自身が映画監督となり,オリジナル映画を作れるところが大きな魅力の一つ。しかも,作成した映画をムービーファイルとして出力し,開発元であるLionhead Studiosの「The Movies」公式サイト(英語)で,世界中の映画ファンに向けて公開も可能だ。観てくれたファンは,内容に応じて星五つで評価も下してくれる。
公式サイトでは,すでにスティーブン・スピルバーグやピーター・ジャクソン顔負けの一流映画監督達が,自作を次々と発表している。公式サイトで自作を公開すると,「Virtual Credits」というポイントが得られ,ゲーム中で使えるセット,装飾品,衣装などを買えるようになる。これが目当ての監督も多いことだろう。
さてこの連載,本当であれば「The Movies 日本語版」の発売に合わせてやろうと目論んでいたのだが,ご存じのとおり発売が3月に延期されてしまった。現在,正確な発売日が決まっていないのだが,せめて連載中に発売されないかな……という淡い期待を胸に抱きつつ,本作の魅力をお伝えしていこうと思う。
というわけで連載1回めでは,映画スタジオを建設し,監督や俳優を雇い,映画を撮影し,とりあえず公開するまでの基本的な流れを解説しよう。
徐々に充実度が増してきた映画スタジオ。向かって左側に撮影セット,右側に施設をまとめてみた。中心に施設を集めて周りをセットで囲んだり,見栄えも考えた映画スタジオを作るなど試行錯誤してみよう
ゲームの基本は箱庭チックな経営シムということで,敷地内にさまざまな施設を建てて,映画スタジオとしての機能充実を図る。しかし本作は,施設の取捨選択によって頭を悩ませる心配はほとんどない。だいたいどの施設もまんべんなく必要であり,不要なものはほとんどない。施設の建て方によって収益が変わるようなこともほとんどないので,片っ端から建ててもOKだ。
中でも最低限必要になるのが,監督や俳優,エキストラを雇う「俳優養成所」,撮影クルーを雇う「クルー用の設備」,脚本家に脚本を書せる「脚本部」,映画のキャスティングを行う「キャスティング事務所」,撮影した映画を公開する「制作部」だ。
そして映画の撮影にはSF(宇宙),戦争,田舎,西部,郊外などの「撮影セット」も必要になる。これらは設置しただけでは工事中のままなので,「スタッフオフィス」から建設員を雇って建設させ,あとはそれぞれを道で繋いでいく。
こんな感じで,新しい施設が登場するたびに,設備や撮影セットを次々と建設していけば基本的には大丈夫だ。「テーマパーク」のようなシビアさはないので,そこは安心してほしい。
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撮影セットは大きなものもあり,映画スタジオのスペースを圧迫する。うまく押し込むのも経営者の腕次第 |
周辺の環境を悪化させる設備やセットも存在し,映画スタジオの格を落とす。周りに植物などを配置して補う |
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監督や俳優の気分値は仕事に対する疲れ,人間関係,欲求,不満などで上下する。気分が乗らなければロクな仕事をしないので,そのへんを解決してやるのも経営者の仕事。ワガママなヤツらばかりで頭が痛い
映画を撮るためには,もちろん多くの人材が必要だ。中でも一番重要なのが,監督と俳優である。ほかのスタッフは「経験」だけ気にしていればいいが,監督と俳優は経験のほかに感情や欲求など,いろいろ面倒なものを心配しなければならない。このパラメータにより「気分値」が変化し,気分値が低くければ仕事に支障が出てくる。
監督と俳優には映画ジャンル(コメディ,アクション,SF,ロマンス,ホラー)ごとに得意不得意がある。また彼らには年齢があり,年齢によって見合うジャンルも変わるし,観客の反応も変わる。コメディ一筋だった80歳くらいの俳優に,派手なアクション映画の主役をやらせるのは無茶な話である。
監督や俳優には人間関係があり,信頼している監督であれば俳優も最高の演技をするし,嫌いな監督であればストレスを感じて途中で撮影を逃げ出してしまう。ときにはマウスカーソルで持ち上げて強制的に会話や食事をさせるなど,意図的に人間関係を築いてやることも必要だ。
一番頭を悩ませるのが,監督や俳優のご機嫌取りといった部分。雇ったばかりの頃は,仕事(映画の撮影)をもらえることに喜びを感じ,映画が公開されただけで大喜びして気分も上々なのだが,スターになればなるほど「ギャラが少ない」「キャンピングカーを豪華にしろ」「配役が気に入らない」など,ワガママ言い放題。不満が大きくなると仕事を放棄したりもするので,ときには解雇という苦渋の決断を下し,新たなスターを育てる道を選ぶもよし。
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映画セットで稽古させることで経験を積める。時間が空いていて気分が良さそうであれば,どんどん稽古させよう |
監督と俳優のトラブルで撮影が止まる。俳優が撮影を放棄して,いじけていた。まったくもってトホホな世界だ |
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映画を撮影する流れは,一度覚えてしまえば簡単だ。あとはある意味,延々とこの作業を繰り返していくことになる。それこそ何十年も,だ。
脚本部
まずは脚本ありき。生み出すには「脚本部」で脚本家に書かせる方法と,「オリジナル脚本部」でプレイヤーが自ら脚本を作る方法がある。脚本部には初級,中級,上級と設備が用意されており,当然,上級になれば質の高い脚本が完成する。脚本家にも得意なジャンルがあり,脚本家の能力で脚本の完成度も変わる。脚本家の人数が多ければ,脚本が書き上がるのも早い。
キャスティング事務所
脚本完成後,「キャスティング事務所」で監督と俳優を決める。脚本の内容により,映画ジャンルに見合った監督や俳優を抜擢する。俳優が一人の映画もあれば,主役と脇役が一人ずつ必要な映画もあるため,やはり主役クラスの俳優とは別にオールラウンドに対応できる脇役を育てておくと便利だ。キャスティングが決まったら,リハーサルののち撮影に入るが,撮影前に使用するセットで稽古させていると映画の完成度が上がる。
セットにて撮影
撮影は勝手に進められるので,基本的には放っておいても構わない。撮影風景を覗いてみると,撮影クルーがカメラを持って走り回り,監督がメガホン片手に指示を出し,俳優がセットで熱演をしている。なかなか調子よいじゃんなんて油断していると,監督と俳優が言い争いをしたり,途中で抜け出して勝手に行動したりして,撮影が止まってしまうこともしばしば。その場合は無事に映画の撮影が終わるように強引にセットに連れ戻したり,機嫌を直したりといった手回しが必要になる。
制作部
映画が完成したら「制作部」で完成した映画をチェック。1920年代の映画はモノクロだし,フィルムにはノイズがチラチラ入る。時間経過や研究で新しい技術が開発されると,カラーになったり,セットが豪華になったり,映画に反映されてくる。カット編集などが必要なら公開前に「ポストプロダクション」で編集できるし,公開せずにフィルムを売ってしまうという手もあり。まあ普通は,いよいよ映画公開だ。
できの良い映画ほど公開期間は長くなり,多くの興行収入も望めるが,とりあえずどんな駄作でも制作費以上の興行収入は得られる。とはいえ,駄作ばかりを公開していても,映画スタジオ拡張分を補えるほど儲からないし,何より映画スタジオの評価は下がる一方だ。やはり人気映画を生み出さねばダメなのだ。
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映画を公開すると評価が分かる。スターチャート上位にいるメンバーで挑むだけでは良い映画にはならない |
1920年代の映画はモノクロでノイジーだ。ロマンス映画なのに,配役を間違えると怪しい雰囲気の映画になる |
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5年ごとに開催される「ライオンヘッド映画賞」で多くの賞を受賞できる映画スタジオにしたい(できれば総ナメ)。受賞者ボーナスは次の映画賞まで有効となり,今後の活動を少しだけ楽にしてくれるはず
こんな感じで映画スタジオを充実させ,映画を撮影し,公開しながら最高の映画スタジオを目指していくわけだ。入場料やポップコーンの価格設定といった,箱庭経営シムにありがちなコマゴマした要素は本作には存在しない。ハリウッドでは映画の興行収益こそすべてであり,はした金になど目もくれないのだ。
さて,今回はゲーム内の脚本家が次々と生み出す,微妙に奇妙な脚本をもとに映画を撮影した。これがどれくらい微妙かは,本作をプレイしたときにイヤというほど思い知らされることだろうが,とりあえずサンプルムービーを2本掲載しておく。いやもう,こんなのばっかり!
次回からはお待ちかね,「オリジナル脚本」にスポットを当てていく。あんなゲーム内の脚本家には任せておけない! やはりThe Moviesは,自分で映画を作るためのゲームなのだ。というわけで,寝食を忘れて取り組んでしまうオリジナル脚本編,お楽しみに。
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「オリジナル脚本部」では,映画を撮影するかのような感覚で独自の脚本を作れる。経営者としてでなく,制作者として手腕を振るってほしい |
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The Moveisではウンザリするほど何度も観ることになる,ドジな銀行強盗の話「ライブタゲットデッドレコニング」と,むしろ人間が残虐なホラー映画「教会区の犬たち」。脚本家は,こんな脚本を量産するのである。(3.54MB:1分32秒,2分8秒,WMV) |