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印刷2013/05/18 00:00

テストレポート

仮想現実HMD「Oculus Rift」の開発者向けキットを入手したのでさっそく使ってみた。これがゲームの未来か?

Rift Development Kit
Rift
 2013年4月のGame Developers Conference 2013(以下,GDC 2013)で実機デモが行われ,大いに話題を集めた(関連記事),Oculus VR製のヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)「Rift」。従来の民生用ヘッドマウントディスプレイが,基本的にはAV志向であったのに対し,組み込まれたポジションセンサーによって頭の動きにHMDの映像を追従させられる,ゲーマー向けの仮想現実(Virtual Reality)志向が大きな特徴だ。クラウドファンディングサイト「Kickstarter」に登場し,瞬く間に目標金額を達成したという話は今でも語りぐさになっているので,聞いたことがある人も少なくないだろう。

 そんなRiftの開発者向けキットが,「Rift Development Kit」(以下,RDK)として,4月上旬頃から,Kickstarterで一定額以上を投資した人のところへ届き始めている。そして4Gamerでもそのうちの1台を入手できたので,今回はファーストインプレッション的に,RDKの概要や,2013年5月時点で何ができるのかを紹介しつつ,この新世代デバイスが持つインパクトを考察してみたい。


そもそもRiftとは何なのか


 GDC 2013のレポートで,Riftについてはかなり突っ込んだところまで説明済みだが(関連記事),あらためて「Riftとは何か」をまとめておこう。

バーチャルボーイ(E3 2012のレポートより再掲)
Rift
 冒頭でも述べたように,Riftはゲーマー向けのHMDシステムだ。HMD自体はかなり古くからあるデバイスで,ゲームとの縁も浅くはない。とくに日本では,任天堂が,「バーチャルボーイ」いう先駆的なHMD型ゲーム機を1995年に出していたので,記憶している人も多いだろう(※正確を期すと,バーチャルボーイは覗き込んで使うデバイスであり,「ヘッドマウント」とはいえないのだが,構造的にはほとんどHMDなので,本稿ではHMD型デバイスに含めて扱っている)。

 バーチャルボーイのような,目を完全に覆うタイプのHMDを,一般に「没入型HMD」と呼ぶが,没入型HMDを使うと,余計なものが視界に入らないため,映像世界に深く入り込むことができるようになる。また,両眼の視差を活用した,クロストーク(≒残像感)のない自然な立体映像を表示できるという点でもゲーム向きだ。
 しかし,バーチャルボーイに代表される初期の没入型HMDは,技術的な制限から,あまり好意的には受け入れられなかった。

 最大の制限事項は解像度だ。頭に取り付けるという没入型HMDの仕様上,大型のパネルは使いづらい。しかも,初期の頃には小型で高解像度を実現できる表示デバイスそのものが存在しなかった。
 たとえばバーチャルボーイの解像度は384×224ドットで,しかも色は単色(4階調)。得られる映像は1995年当時としても相当に貧弱で,バーチャルボーイが成功しなかった理由の1つとなったが,当時,「現実的な価格で市場投入できるゲーマー向け没入型HMD」の表示デバイスが持つ性能はその程度だったわけだ。

 また,ゲーム用として本気で使う場合,目の前に映る映像が頭の動きに追従するのが望ましいというのは説明するまでもないだろうが,以前はセンサーが大がかりとなってしまい,また,CPUやGPUが持つ性能の制約から,頭の動きにリアルタイムで追従するような映像を生成するのが難しいという問題もあった。

ソニー製HMD「HMZ-T2
Rift
 しかし今日(こんにち)だと,有機ELパネルを採用したソニー製のHMDシリーズ「HMZ」が,十分に高解像度だといえる1280×720ドット仕様の小型表示デバイスを搭載することに成功。またセンサー側でも,スマートフォンの普及によって,多軸の加速度センサーや地磁気センサーなどが小型の1チップになったり,小型デバイス向けCPUコアやGPUコアの性能も,頭の動きに追従して映像を表示させられるレベルにまで高まったりしている。ゲーマー向けの没入型HMDを実現するための十分条件が満たされたのである。
 Riftは,そんな状況に合わせて,いち早く登場してきたHMDというわけだ。

 ちなみに,Riftを開発したOculus VRは,Palmer Luckey氏らが中心になって創業した,「ゲームで利用できる仮想現実」の実現を目指すスタートアップ企業だ。Epic GamesやValveといった大手のゲームデベロッパの協力を得て2012年に事業をスタートさせたが,早くもRDKの出荷にこぎ着けるなど,今のところは順風満帆といった感じである。


RDKを見てみよう〜その中身は?


 前置きが少々長くなったが,ここからは4Gamer編集部が入手したRDKを見ていくことにしよう。
 前述のとおり,RDKはあくまでも「開発者向けキット」である。そのため,中身の構成やHMD本体のデザインはもちろんのこと,液晶パネルの解像度といった根幹部分のスペックすら,最終的に市販されるであろう“製品版Rift”とは大きく異なっている可能性がある。そこを十分理解したうえで,以下のテキストを読み進めてもらえれば幸いだ。

 というわけでRDKだが,下の写真に示すような樹脂製トランクに入っており,トランクを開けると,HMD本体やケーブルなどが,緩衝材となったスポンジの間にみっちりと詰め込まれているのが分かる。

Rift Rift
トランク。サイズは実測でざっと310(W)×160(D)×310(H)mmと,「小さいがけっこう厚い」感じになっている
Rift Rift
トランクを開けて,さらに内容物をすべて取り出したところ

 トランクの内容物には1つ1つビニールが被されていた。それをすべて取り出したのが下の写真だ。詳細は後述するが,ケーブルや変換アダプターなどが充実している。

ケーブルや変換アダプターが妙に充実している
Rift

 ただ,実際に使うケーブルはこの一部だったりするので,まずは肝心のHMD本体からチェックしていくことにしたい。
 Riftの本体となるHMDは,「Control Box」と呼ばれる小さな箱にケーブルごとつながっており,切り離しはできない。ケーブルの全長は実測約1.8mで,HMDを装着したまま立ち上がってうろうろしようとすると不自由に感じるが,机に座ってゲームをプレイする程度なら十分な長さだともいえる。

Riftの本体であるHMD(右)とControl Box(左)
Rift

HMDの重さを支えるバンドは2本用意される
Rift
 HMD本体のサイズはざっと170(W)×120(D)×120(H)mm(※突起部,バンド除く)で,実測重量はケーブルを重量計からどかせた参考値で約390g。人間の頭を左右から押さえるバンドに加え,天頂部から重さを支えるバンドの2本で本体を支える構造になっている。
 実際に着用したイメージが下の写真だが,正直,390gという数字ほどの重さは感じないので,バンドはうまく機能していると述べていいだろう。

マネキンに取り付けたところ。2本のバンドを使って,頭から被るように装着するイメージだ。ケーブルが垂れ下がって首に巻き付いたりしないよう,本体後方へ流すための機構も用意されている。なお,写真だとマネキンの耳をケーブルが覆っているように見えるが,これはマネキンの頭が少々小さいため。人間の成人が被ると,バンドは耳の上を通る
Rift Rift

HMD本体を覗き込む側から見たところ
Rift
 写真からも分かると思うが,最終製品版ではないということもあり,高級感とは無縁の外観だ。樹脂製の無垢で飾り気もまるでない外見だが,そのおかげで400gを切る本体重量を実現できているのだとすれば,それはそれでアリだろう。
 むしろ気になったのは,顔に当たる部分がどこにでもある感じのスポンジであること。長期間使っていくと,皮脂や汗の付着による衛生面や強度の劣化が少し心配だ。

 顔と触れる部分について触れたので続けると,実際に覗き込むことになるところには,交換可能なレンズが設けられている。これについては後述したいが,このレンズを外すと,その奥に液晶パネルが用意されているのが分かる。
 この液晶パネルは,Oculus VRによると,解像度1280×800ドットの7インチモデル。このスペックはASUSTeK Computer製Androidタブレット「Nexus 7」と同じなので,Nexus 7の液晶パネル部が“レンズの向こう側”に用意されているというイメージをすると,内部構造が分かりやすいかもしれない(※言うまでもないと思うが,本当にNexus 7が内蔵されているわけではない)。

覗き込むところには,着脱可能なレンズユニットを2個搭載。右の写真は実際に片方のレンズユニットを外したところで,グレア(光沢)加工を採用した7インチ液晶パネルが見える
Rift Rift

 液晶パネルのほかにも,HMD本体には,頭の動きを検出するための6軸加速度センサーと,頭の移動を検出できる地磁気センサーも内蔵されているという。つまり,頭の回転だけでなく,頭の移動(=身体の移動)も原理的には検出できるわけである。

 HMD本体につながるControl Boxは,実測サイズが105(W)×90(D)×20(H)mmと小さく,実測重量も約100gと非常に軽い。天板部に並ぶボタンは電源オン/オフ×1,コントラスト調節用×2,輝度調節用×2と,特殊なものはとくになく,非常にシンプルだ。

Control Box。ケーブルのテンションに引っ張られて動いてしまうほど軽い
Rift Rift

Rift
接続インタフェース。左からHDMI,Dual-Link DVI-I,USB Mini-B,ACアダプター用となっている
Rift
接続イメージ
Rift
付属のACアダプター。5V 1.5A仕様という標準的なものだった
 PCからの入力端子はHDMI×1,Dual-Link DVI-I×1。切り替え機能は用意されていないため,入力は同時利用せず,片方だけを使うよう,マニュアルに注意事項が記載されていた。
 ちなみに,上でさまざまなケーブルが付属すると述べたが,RDKにはDVIケーブルが1本とHDMIケーブルが2本,さらにはHDMI−DVI-D変換アダプターが同梱されているので,ケーブルが足りないという事態にはまず陥らないと思われる。

 接続インタフェースとしてはそのほか,ACアダプター用とUSB Mini-Bが用意されるが,USB Mini-BはPCへのセンサー出力用だ。当然のように,USB Mini-B−USB標準A変換ケーブルが付属している。

 ちなみに,付属のマニュアルは実質3ページしかない簡素なもので,必要最小限のことしか書かれていなかった。PCに接続した後の使い方についてはOculus VRの開発者向けサイトを見るようにということなのだろう。


使用前の準備〜人によっては面倒かもしれない視度調節


 PCとの接続は簡単だ。付属のDVIケーブルかHDMIケーブル,そしてUSBケーブルで,Control BoxとPCをつなぐだけである。
 RiftはPCから解像度1280×800ドットのディスプレイとして普通に認識され,センサーも,HID準拠デバイス×1,USB×入力デバイス×1という,これまた一般的なデバイスとして認識される。いずれも特別なドライバは不要だ。

RiftはPCからだとごく普通のディスプレイデバイスとして認識される(左)。センサー出力も標準的なHIDデバイスとして認識されるので,デバイスマージャーを見るだけだと,ほかのUSBデバイスと紛れてしまい,分からないかもしれない(右)
Rift Rift

 PC側では,2基のグラフィックス出力を持ったグラフィックスカードを用意し,プライマリに液晶ディスプレイなどの一般的なディスプレイデバイス,セカンダリにRiftをつないでおくことを勧めたい。これはなぜかというと,RiftのHMDを覗き込んでWindowsの操作を行うのがほとんど不可能だからだ。

 Riftの技術的な概要はGDC 2013のレポートに詳しいが,あらためて説明しておくと,HMDで仮想現実感を高めるには,視野いっぱいまで映像を広げて表示させるのが望ましい。そして,そのためには曲率の高いレンズが必要になるが,曲率の高いレンズだと,映像のレンズ歪曲収差が大きくなってしまう。

単純な3DグラフィックスをRiftの立体視表示用にレンダリングさせた例。このように歪んだ映像を生成することで,レンズ歪曲収差を抑えるような実装になっている
Rift
 一般的なHMDでは,映像の歪曲収差を抑えるのに,高額で特殊な非球面レンズを用いている。それに対してRiftでは,コストを抑えるために,レンズの歪みを抑える処理をGPU側に任せているのだ。歪んだレンズを通して見たときに正常に見えるよう,GPU側に映像を変形させる手法を採用することによって,特殊で高価なレンズを使わなくとも歪みのない映像が見られる,というわけである。
 ……というのは,理論上の話。現実はそううまくいかないようで,工作精度の問題か,歪みの抑え込みを完全に行えているわけではなかったりする。

デスクトップに4Gamerロゴの並ぶ画像を表示させたところ。レンズを取り外すと,液晶パネルに書かれている文字が読める(上)。下はレンズを取り付けたところで,距離を置いても,相当に歪んでいるのが分かると思う(右)
Rift
Rift
 また,「光学系がシンプルで曲率が非常に大きい」ということから想像できる読者も多いと思うが,視野中央の映像だとはっきり見えるものの,周囲にはピントが合わず,ボケて見えるようになっている。
 もっともこちらは「人間の視界は,周辺部も見えているようでいて,実のところ,色や大まかな形状,物体の移動が分かる程度にしか判別できていない」という特性があるので,HMDの映像内で周辺がぼけていても,立体視映像を見ていくうえでの実用性に問題はない。ただ,平面のWindowsデスクトップだと,この問題が顕在化してしまう。

 なので,Windowsデスクトップの場合,目の正面にあるウインドウやメニューは読めるのだが,そこから外れたところのウインドウやメニューはほとんど操作できないという事態に陥る。したがって,Riftとは別にもう1台,Windows操作用のディスプレイデバイスを接続しておいたほうがいいというわけだ。Windowsデスクトップの操作は普通のディスプレイでできるようにしておいたほうが圧倒的にラクである。
 なお,ディスプレイデバイスとRiftを複製表示させたほうがいいのか,拡張表示させたほうがいいのかという点は,やや込み入った話になるので,後述することとしたい。

Control Box側の接続イメージ。DVIからHDMIのディスプレイケーブルとUSBケーブルをPCと接続し,さらにACアダプターをつなぐだけである
Rift
 いずれにせよ,ここまでは簡単だ。ただ,次に行う視度調整は,ことによると手間がかかるかもしれない。
 標準的な視力の人や,コンタクトレンズを装着して矯正してある人なら,HMDをかぶるだけで,とくに問題なく見えるだろう。しかし,普段からメガネをしている人や,両目の視力が極端に異なる人は,対策が必要になる。

 あらかじめ述べておくと,RiftのHMDは内部が大きめに作られているので,極端に大きなフレームのメガネでもない限り,装着したまま利用することは不可能ではない。
 ただ,この「不可能ではない」というのがなかなかにクセモノで,まず,メガネをかける位置によってはHMD側のレンズとぶつかる可能性がある。また,そうでなくとも,メガネの焦点とHMD側レンズの焦点がずれると,映像がボケるるという難点もあるのだ。Riftの場合,頭を動かすのが前提となるので,内部でメガネはずれやすく,そうなると画像がボケボケになってしまう。

 なので,基本的には裸眼かコンタクトレンズを装着した状態で覗き込むことになるわけだが,裸眼の場合には,視力に応じて,レンズユニットを交換するというカスタマイズを行うことになる。
 標準で取り付けられているレンズは中サイズの弱近視用だが,RDKのトランクにはそのほかにも遠視用と近視用が用意されていた。このなかから,自分の視力に合いそうなものと交換して,試行錯誤することになるわけだ。

Rift
付属のレンズユニット。左から遠視用,弱近視用,近視用で,いずれも2枚ずつ用意される
Rift
レンズの脱着は簡単。筒のところを捻って本体側のツメから取り外したり,ツメに差し込んだりするだけである

 また,レンズの交換後,さらに調整が必要な場合は,左右独立した視度調整ダイヤルを使って微調整できる。このダイヤルはコインを使って回すタイプで,動きはかなり硬い。一度調整し終えたら動かさないという前提で設計されている印象を受けた。

HMD部の側面に用意された視度調整ダイヤルをコインなどで回すと,目とレンズとの距離を広げられる。左右両眼用で独立しているため,左右の目で視力が異なる場合でも対応を試みられる
Rift Rift

 映像が見えづらい状態のままではゲームプレイに大きな支障が出るので,見えづらい場合は,ここで手間を惜しまずに調整したほうがよさそうだ。


サンプルアプリですら体験できる強烈なインパクト


 やっと試すところまでやってきた。
 すでに述べたとおり,RiftはRDKの頒布が始まって2か月も経っていない状況にある。なので,開発者以外の一般ユーザーができることというのは正直に述べて多くない。この点は押さえておいてほしい。

 ともあれ,RDKを手に入れた人はまず,Oculus VRの開発者向けサイトでユーザー登録を行い,SDK(Software Development Kit,ソフトウェア開発キット)を手に入れることになるだろう。原稿執筆時点である5月17日時点で頒布されていた主な開発キットは次の3種類だ。

  • Oculus SDK(Version 0.2.1):DirectXを利用したネイティブ開発用SDK
  • Unity 4 Integration(Version 0.2.1):ゲームエンジン「Unity 4」の拡張パック
  • Oculus - UDK(Version 0.1.5):ゲームエンジン「Unreal Engine 3」の拡張UDK

 Unity 4は拡張パックによりRiftをサポートできることから,いまオンライン上で手に入るデモやサンプルの多くはUnity 4ベースのものが多い。また,Unreal Engine 3にもRift専用のUDK(Unreal Development Kit)が用意されており,Free-to-Playのオンライン専用ロボットアクション「HAWKEN」という実際の採用例もすでにある。

 Oculus SDKは,UnityやUnreal Engineといった対応ゲームエンジンを用いずに,DirectXを用いたネイティブ開発を行うためのものだ。Oculus SDKにはサンプルプログラムが付属しているので,すぐにRiftの仮想現実世界を体験したいなら,Oculus SDKに付属するサンプルプログラムを実行してみるのが手っ取り早い。

OculusWorldDemo。ちなみに前段で示した「単純な3DグラフィックスをRiftの立体視表示用にレンダリングさせた例」がOculusRoomTinyの画面だったりする
Rift
 実際に映像が表示されるサンプルは「OculusRoomTiny」「OculusWorldDemo」の2種類。どちらも室内を描くデモだが,後者のOculusWorldDemoのほうがインパクトは大きい。
 初めてRiftを使った人は,おそらくこのOculusWorldDemoに強烈な衝撃を受けることだろう。頭の動きに応じて,洋風建築の屋内を自由に見渡せるのはまさに圧巻。冗談抜きで,まるでコンピューターグラフィックスの世界に降り立ったかのようだ。

OculusWorldDemoで表示されるグラフィックス。中世風の建物で1階にいる設定で,頭を動かすと部屋の周囲を見渡せる。頭の動きに応じて自然に展開される映像はまさに圧巻で,強烈なリアリティがある。上を見れば天井からぶら下がるシャンデリアがあり,近くの椅子などは手を伸ばすと本当に触れそうな錯覚を覚えるほどだ
Rift Rift Rift

 実際に体験している様子を収めたムービーも示しておきたい。横には「体験者が見ている映像」をクローン表示させている。最後のほうで頭を動かしすぎてディスプレイにぶつかっているのはご愛敬だが,それだけ被験者はRiftへ表示される映像に没入しているともいえるだろう。


 なお,上のムービーを見てもらえれば分かるが,OculusWorldDemoは頭の動きに対応するのみで,前後の移動などには対応していない。本稿の序盤で,Riftは加速度センサーと地磁気センサーを搭載するため,原理的には前後左右の移動も検出できるとしたが,実のところ,SDKのドキュメントを読む限り,現時点でセンサーから拾えるのは頭のX,Y,Z軸回転,航空用語でいうヨー,ピッチ,ロールのみ。前後左右の動き(=X軸やZ軸の移動量)は取れないのだ。
 もっとも,もともとHMDとControl Box間のケーブル長は1.8m程度しかなく,プレイヤーが前後左右に動ける範囲は限られている。また,周囲が見えない状況で動くと危険ということもあるだろう。そういう理由で,前後左右の移動は無視されているのかもしれない。

 また,これはGDC 2013のレポートでも指摘済みだが,解像感は低い。片目あたり640×800ドットと,まずまずの解像度を持つRiftではあるが,映像が視野めいっぱいまで引き伸ばされることもあり,最もはっきり見える中央部すらドットを確認できるレベルになる。もう少し解像度が高ければ,リアリティはもっと高まるだろう。

 ちなみにムービーで登場しているのは4Gamer編集部の若手・Orecchiで,これからRiftのテストをすると言ったら「MMOですか?」と屈託のない笑顔を浮かべながら聞いてきたつわものだが,人生初のRiftを体験したら「すごいすごい」と繰り返していた。Riftに関する予備知識がまったくない人でも,体験しただけでその強烈なインパクトを理解できるというのは大きい。

 では,ゲーム側の対応状況はどうなっているだろうか。


Team Fortress 2はRiftにほぼ完全対応


 繰り返すが,RDKが配布され始めてからまだ2か月ほどしか経っていない。そのため,Rift対応を正式に謳うタイトルはまだ多くない。

 ただ,コミュニティは活況で,ゲームデベロッパのなかにはRiftへの対応を進めていると公表しているところがけっこうある。とくに積極性を見せているのがValveで,同社は看板タイトルの1つである「Team Fortress 2」(以下,TF2)をいち早く対応させ,最近になって「『Half-Life 2』もネイティブ対応させた」と発表している。
 どちらもゲームエンジンはValve製の「Source Engine 2」なので,ValveはSource Engine 2をOculus Riftに対応させたうえで,個別タイトルのチューニングを行い,対応を順次発表するという形をとっているようだ。

TF2はSteamでタイトルごとの「プロパティ」から起動設定に「-vr」を追加するだけでRift対応を果たす
Rift
 今回はTF2をプレイしたので,ここではその話をしたいと思うが,TF2は最新バージョンがRift対応となっているので,起動オプションとして「-vr」を付けるだけでRift用の立体視映像が表示されるようになっている。
 グラフィックスカードからディスプレイデバイスとRiftに映像を出力する場合,マルチディスプレイ設定は複製,拡張どちらでもOK。複製を選ぶと両方に同じ画面が表示され,拡張を選んだ場合は,自動でRiftだけにゲーム画面が表示されるようになった。

 結論から先にいうと,TF2のRift対応はびっくりするほど完成度が高い。ゲーム画面に登場するオブジェクトやキャラクターの深度にも違和感はなかった。開発コンソールを開いて「vr_calibration」というコマンドを実行すれば深度調整は可能だが,ほとんどの人は特別な調整なしにプレイできるのではなかろうか。

 しかもそのインパクトたるや。
 Rift対応版TF2は頭の動きに画面を追従させられるので,移動しながら前後左右上下の全方向を見渡せる。2つに分かれた通路の片方に向かって一直線でダッシュしながら,もう片方の通路にちらっと目をやるとか,“2階”と“1階”にいる敵の両方を視界内に捉えながら片方にAIMするとかいったことが造作もなく行えるというのは,いままでのFPS体験にはなかったものだ。
 下に示したムービーは,TF2をプレイすること自体が始めてというOrecchiにプレイさせているところだが,とくにこれといった説明を行っていないにもかかわらず,自分の意志で下を覗き込んだり,左右を見渡したりしている点に注目してほしい。


Rift
HMDに映し出されるTF2のメニュー画面。解像度の制約から,一部の文字は潰れて読みにくいが,読めないほどではない
Rift
F2のトレーニングモードで撮影したスクリーンショット
 ただ,実際にプレイしていくといくつかの問題点にも気づく。一番分かりやすいのは「入力デバイスが見えない」というものだ。RiftのHMD部を少しずらしてキーボードとマウス,あるいはゲームパッドの場所を確認しなければならないが,とくにキーボードはキーの配置を把握するのに手間取った。ゲームパッド対応ならゲームパッドを積極的に使ったり,あるいはキーの数が限定される左手用キーパッドを使ったりする必要があるかもしれない。

 また,マウスと頭の動きの関係を把握するのが難しい。Rift対応版TF2でも,AIMにマウスを使うというのは何ら変わらないので,頭を横に向けて敵を確認してからマウスとキーボードで敵の方向へ移動を開始したりすると,頭が横を向いたままになってしまって,なんともおかしな具合になってしまうことがある。実際,上で示したムービーでも終盤でそうなってしまっているのが見て取れる。

 さらに,頭を動かしてもマウスを振っても映像は動くので,両者の兼ね合いで3D酔いする可能性が高くなるという問題もある。頭と連動する映像はリアルだが,マウスやキーボードを使って動かす映像は乗り物に乗っている感覚に近いわけで,両者がごちゃごちゃになると脳が混乱して酔いやすくなるようだ。

 ちなみに,とくに酔いやすいのは上下の動きで,マウスを振って行う上下の動きと,頭の動きとの間に違いが生じると,“グッ”とくる。ただ,TF2では3D酔い対策として多少のカスタマイズが加えられていることも確認できた。具体的には,マウスを使って上下に動かせる範囲が,一般的なディスプレイデバイスにゲーム画面を表示させたときよりも抑えられていたのだ。
 たとえば,プレイ動画でも確認できるが,プレイヤーの眼下に見える敵は,一般的なディスプレイデバイスに表示させているときはマウスの移動だけで視界に入れられるのだが,Riftでの表示時だとマウス操作だけでは視界に入らず,頭を下方向へ動かす必要があった。Valveはとくに説明していないものの,これが,マウスによる上下範囲が大きすぎると酔いやすいということへの配慮ではいかと思われる。

 いずれにしても,頭の動きを最小限に留めようにするのがコツになる。それさえ心がけておけば,頭の向きと進行方向がどんどんずれていったり,3D酔いしたりする問題が生じにくくなった。

スクリーンショットでも分かるが,解像度が低いため,ゲーム内のメッセージは読みにくい。ただ,それほど気にならないのも確かだ。3D酔いさえ克服できれば,とてつもなく面白いゲーム体験ができる
Rift Rift Rift


TF2以外のゲームはまだまだこれから


 Valve以外の対応状況もまとめておこう。TF2と同様にネイティブ対応を謳っている代表的なタイトルとして前出のHAWKENが挙げられる。TF2と異なり,HAWKENはRiftの接続が検出されると対応映像を出力するため,オプションなどの設定も不要だ。

HAWKENのメインメニュー。スクリーンショットでは左上にメニューが見えるが,レンズの特性上,ここにあるメニューはレンズ越しだとまったく読み取れない
Rift
 ただ,動作上の問題がいくつか確認できた。1つはマルチディスプレイを複製モードにするとRiftの接続が検出されず,対応の映像も出力されないということ。プライマリとセカンダリのディスプレイを拡張のモードにしておかないとプレイできないのだ。
 ただ,そういう出力仕様にもかかわらず,Riftに表示されるゲームのメニューは“はるか上空”に表示され,頭を動かしてもメニューは追従してくれないため,メニュー操作が行えない。先に述べたとおり,視野の中央部分以外はフォーカスが甘いので,何が書いてあるのかすら把握できなかった。

Rift
DirectX APIをフックするツール,Perception。プルダウンから「Oculus Rift」を選択すると,DirectXタイトルの映像をRiftへ表示できるようになる。なお,2つあるプルダウンの下段はヘッドトラッキングの設定項目だが,現状ではまだRiftに対応していない
Rift
Vireioを常駐させた状態のSkyrim。「FOV(視野角)は110度に設定するよう推奨」とされているので,そう設定してある。それっぽい絵が写っているが,Riftから見ると両目用の映像がズレていて正常な立体視にならない
 TF2やHAWKENはネイティブ対応だが,そうでない動きもある。
 現在,DirectX APIを横取りしてOculus Riftにゲームを対応させるサードパーティ製のドライバも開発が進んでおり,「Vireio」や「VorpX」といったドライバの存在が確認できた。これらのうち,普通に入手できるのはVireioのみのようだ。

 Vireioは,入手できるアーカイブに同梱のアプリケーション「Perception」を起動させることで,DirectX APIを横取りし,Rift向けのに立体視映像を出力させるドライバだが,残念なのは,現状でヘッドトラッキングに対応していないこと。なので「映像が出るだけ」だ。
 しかも,その映像も立体視になっていないタイトルがまだ多い。たとえば対応タイトルとされる「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)は,正常な立体視になっておらず,プレイできる状態にはなっていなかった。

 Vireioのような手法なら,Riftに対応しないタイトルでも遊べるという利点があるが,今のところ完成度はまだまだという印象が否めない。これからに期待といったところか。
 なお,上記以外にも,Riftでプレイできる,または体験できるゲームやデモが「RiftEnabled」というサイトにまとめられているので,興味がある人は参照してほしい。


まずは対応タイトルの拡充に期待


 たいていの“新機軸デバイス”というのものが最初に突き当たる壁は,対応タイトルの数だ。対応タイトルの数が片手で足りるほどの状況で正式発売の日を迎え,そのまま沈んでいったデバイスというのはいくつも思い当たる。

Rift
 その点Riftは,正式発売どころか,開発者向けの正規販売ルートすら満足に確保されていない時点で,ほぼ完璧に動作するタイトルが存在し,複数のデベロッパが対応を表明済みと,散っていった先駆者達とは置かれている状況がかなり異なる。おそらく今後,対応タイトルの数が増え,頭を動かす動作がゲーム操作において重要な意味を持つ,分かりやすいタイトル,たとえばレースゲームのようなものが登場してくると,一般への認知はさらに広まっていくのではなかろうか。

 とくに日本では,据え置き型ゲーム機でRiftがサポートされれば一気に認知度が高まりそうだ。Rift自体は「ディスプレイ+HIDデバイス」というシンプルな機器なので,PlayStation 3やXbox 360でも対応することは不可能ではない。さらにいえば,PlayStationシリーズを手がけるソニー・コンピュータエンタテインメントは,東京ゲームショウ2012で,「PROTOTYPE-SR」という仮想現実のデモを行っていたりもしたので(関連記事),Riftに刺激を受けた別のメーカーが……などということにもつい期待してしまう。

 いずれにせよ,いまの調子で進めば,Riftネイティブタイトルが次々と登場することにも十分期待できる。開発コミュニティは間違いなく盛り上がっているので,ゲーマーとしても今後の動きを注視していきたいところだ。

Oculus VRの開発者向けページ(英語)

  • 関連タイトル:

    Rift

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