レビュー
青軸採用で4桁円台後半。Razer初のメカニカルキーボードは買いか?
Razer BlackWidow
Razerブランドのキーボードといえばメンブレン方式,という認識の人が多いだろう。Razer USAはBlackWidowの発表にあたって,「現在市場にある“ゲーマー向けメカニカルキーボード”は,一般用途向け製品のシールを貼り替えただけで,キーの動きが硬く,操作に骨が折れる」という表現をし,これまでメカニカルタイプのキーボードを出してこなかった理由と,採用に踏み切った理由を同時に説明している。要するに,同社を満足させられるキースイッチが見つかった,というわけだ。
ちなみに,BlackWidowの上位モデルとして,本体側面にサウンド入出力端子やUSB端子を備え,さらにキートップ文字の表示用にLEDバックライトを搭載した「Razer BlackWidow Ultimate」というモデルも用意されている。キーボードとしての基本機能に違いはないので,上位モデルの購入を検討している人も,本稿をチェックしてもらえればと思う。
Razerらしい「見た目重視」のデザイン
ずっしりと重く,安定感は抜群
まずはBlackWidowの外観を見ていこう。本製品は,英語104キー配列に準拠したUSB接続のキーボードだ。
本体は光沢加工済みの黒で,美しい仕上がりになっている半面,指紋や埃(ほこり)はとにかく目立つ。一方,キートップは非光沢だが,印字は特殊な小文字フォントと,よくも悪くもRazer製品らしい印象になっている。端的に述べて,好みはハッキリと分かれそうだ。
BlackWidow。光沢のある本体に,マットな質感のキーを組み合わせた,英語104キー配列準拠のキーボードだ |
一方,いい意味でRazerらしくないのが本体サイズ,とくに専有面積だ。本体サイズは実測で470(W)×180(D)mm。決して「小さい」とは言えないが,上の写真で示しているように,メインキーの左に追加のキーが並んでいることと,Razerの“実績”を踏まえれば,コンパクトなほうだと評してよさそうである。
高さはキートップを除いた状態の公称値で30mmだが,実測では最も高い奥側が32mm,スペースキーが配置されている列で同20mm,一番手前は同14mmと,奥側から手前側にかけて傾斜がついた形状となっている。ちなみに,チルトスタンドを立てることで,奥側を約47mmまで高くすることも可能だ。
キーボードの高さは手前が14mmで,奥側が約32mm(キートップ含まず)。スタンドを立てると,奥は47mmとなる。キーの高さが約6〜8mmなので,背はやや高めといったところか |
滑り止めゴムは手前に3つ,奥側に2つ装備。チルトスタンドにも滑り止めが施されている |
ケーブルは布巻き加工済み。コネクタは金メッキ仕様だ |
USBケーブルは布で巻かれており,やや固いため取り回ししづらくはあるが,耐久性は高そうだ。ちなみに,Razerブランドのキーボードで布巻ケーブルが採用されたのはこの製品が初となる。
キーは浅い押し込みで反応
体感の押下圧はスペックより軽い
[Fn]キーは右[Alt]キーの右側に配置されている |
Gameモード有効時は本体右上の「G」マークが緑に光る。[Fn]+[F11]キーでオン,オフが可能 |
ちなみに,[Fn]キーには,[Fn]キーとほかのキーとの同時押しに特殊な機能が割り当てられている。ボリューム調整やミュート,再生や停止,早送り,巻き戻しなどのありがちな機能も備えているが,[Fn]+[F11]キーに割り当てられている「Gaming Mode」については触れておいたほうがよさそうだ。
[Fn]+[F11]キーを押してGaming Modeに切り替えると,右上の 「G」インジケータが点灯し,左[Windows]キーと[アプリケーション]キーが無効化される。この切替はゲームプレイ中も可能で,この2つのキーが邪魔になりそうなときはワンタッチで無効化できるという,なかなか便利な機能だ。
本体左にマクロ登録用のキーを5つ装備する |
キースイッチには通称“Cherry青軸”を採用。押下圧50gのリニアなバネと,押したときのクリック音が特徴。付属のMaster Guideによれば5000万回以上の押下に耐えるとされており,耐久性は高そうだ |
一般的なキースイッチの場合,押し込めば押し込むほど荷重が大きくなるのに対し,Cherry青軸は「押し込んでも荷重が変わらないため,すっと押し込める」のが特徴。その効果と,2mm程度押し込んだところで反応する感度の高いキースイッチの効果もあって,スペック上の「50g」という数字より,ずっと軽い印象だ。軽く,浅く押し込むだけでスイッチが反応し,1000Hzのレポートレートもあってか,反応は確かに良好である。
BlackWidowにおいて,キーストロークは約4mmで,キースイッチがオンになる深さは2mm前後となっている。キーの押下圧は公称50gとなっており,錘(おもり)を用いた実測でも同程度だった。
ヘッドセットやヘッドフォンを常用する人なら気にならないと思われるものの,同居人がいて,かつ夜遅くゲームをプレイするような場合は,まず間違いなく苦情が出るレベルなのも確かである。
設定用ソフトウェアはかなり使いやすい
……が,「ゲームで使うか?」というと微妙
先ほど後述するとしたキーカスタマイズ周りは,専用ユーティリティ「BlackWidow Configurator」で行う。
キーの割り当てを設定する画面。キーボードの盤面が表示されており,直感的に設定ができる。設定項目は上部のタブで選択する |
●デフォルトキー
キーをデフォルトに設定。デフォルトでキーの割り当てがされていない[m1]〜[m5]キーは,割り当てなしとなる
●単一キー
単一のキーを割り当てる。[Shift]や[Ctrl]などのキーも設定が可能だ
●マクロ
マクロを割り当てる。あらかじめマクロ登録をしておく必要がある
●プロファイル切り替え
キープロファイルの切り替えを割り当てる
●プログラムの起動
PCにインストールされているプログラムを起動する
マクロ登録画面。非常にシンプルで,[レコード]ボタンを押して操作を実行,停止ボタンを押すと,そこまでの操作がマクロとして登録可能 |
プロファイル管理画面。登録できるプロファイルは最大10個で,[Fn]+[1]〜[0]キー同時押しによる手動切り替えと,アプリケーションの起動をトリガーとする自動切り替えから選択できる。なお,後者の[1]〜[0]は,画面内に見える「コード」と対応 |
また,マクロ登録後は1ミリ秒単位で任意の位置に遅延の挿入ができるほか,コピー&ペーストなどの操作が「基本コマンド」,ウインドウを閉じるなどの操作が「追加コマンド」としてそれぞれ用意されているので,それらを挿入することもできる。「基本コマンド」と「追加コマンド」はWindowsの操作に関わる機能でゲームには無関係と考えて構わない。
これらのカスタマイズしたキー内容はプロファイルという形で保存され,BlackWidow Configuratorのプロファイルの管理タブから任意のプロファイルを変更,追加できる仕組みとなっている。
登録できるプロファイル数は最大10個で,プロファイルの切り替え方法は,アプリケーションの起動に合わせて切り替わる自動設定と,[Fn]+[1]〜[0]キーを押して切り替える手動設定との,どちらかを選べる。
クイックマクロ登録中は本体右上の「m」マークが赤く光る |
[Fn]+右[Alt]キーを押して,クイックマクロ登録モードに切り替えると,本体右上の「m」インジケータが点灯するので,この状態で,キーやマウスボタン操作を行い,再度[Fn]+右[Alt]キーを押下。「m」インジケータが点滅するのを確認したら,[m1]〜[m5]キーのいずれかを押すと,操作内容がマクロとして登録されるという流れだ。
On-the-fly Macroで記録したマクロは,「New MacroN」(Nは1から始まる数字)という名前で記録され,BlackWindow Configuratorのマクロタブにも反映される。ゲーム中にOn-the-fly Macroでマクロを記録しておき,あとからBlackWindow Configuratorで編集してチューニングを加えるといったこともできるわけだ。
……と,自由度の高いキーカスタマイズ機能持つBlackWidowだが,キーカスタマイズをするにはドライバのインストールが必須で,これらの機能はすべてソフトウェア制御による機能だという点は注意したい。かつては内蔵フラッシュメモリ「Razer Synapse」で,キーマクロをドライバレスで実行できることにこだわりを見せていたRazer USAだが,ここ1〜2年は方針転換。許可されたアプリケーションでのみ利用可能となるよう,ソフトウェアベースのマクロ機能が採用されている。アンチチートツールをかいくぐれなくなった,とも言えるが,“チート呼ばわり”されることなく,ほとんどのゲームで安心して使えるようになったのも確かであり,このあたりは評価が分かれるところだろう。
同時押しは6キーまで可能だが
完全同時押しができないのは難あり
ハードウェアとソフトウェアを概観したところで,実際のゲームタイトルを使ってテストしてみよう。今回は,筆者がよくプレイしている「Enemy Territory: Quake Wars」(以下,ETQW)と「Left 4 Dead 2」の2タイトルに加えて,現在αテスト中の「QuakeWarsOnline」,そして,音楽ゲーム「LR2」(Lunatic Rave 2)のβ3版も交えた4タイトルで,実際のところを確認してみたい。
……結論から先に言うと,キーの反応は非常にいい。1000Hzのレポートレートが効いているかどうかは,正直なところ体感では感じ取れなかったが,リニアな荷重と浅い押し込みでキースイッチが反応するため,押下圧50gという数値よりもキータッチは軽い印象である。個人的には「もう少しバネが軽くてもいいかな?」とは思うが,十分に素早く操作が可能だった。
「4Gamer Keyboard Checker」(Version 1.0 Beta)実行結果 |
ただ,BlackWidowには,注意すべき点がある。それは,2つ以上のキーを押すときには,ごくわずかに時間差を付けないとキーが認識されないケースが散見された点だ。
Nキーロールオーバーを謳うキーボードの多くは,たとえば[W]と[R]を同時に押しても両方のキーの押下が認識される。だが,BlackWidowでは[W]を押した後わずかに時間差をつけて[R]を押さないと両方のキーの押下が認識されない。その意味で厳密には「同時押し対応ではない」という言い方もできるだろう。
少々ややこしくなるが,普通のキーボードでは時間差をつけても付けなくても2キー以上の押下が認識されない場合があるので,「BlackWidowは,一般的なキーボードよりは,複数のキー押下を認識するキーボード」とは言える。6キーロールオーバーの定義が「6個までのキーの押下を認識する」ということであれば6キーロールオーバーの定義にもあてはまる。ただし,厳密には同時押し対応ではない,というわけだ。
そのため,しゃがみ移動中の武器交換やリロードなど,その操作手順からして押下に時間差がつく――例えば[C]キーを押しながら[W]キーを押している状態で,さらに[C]キーを押す――ような局面では,BlackWidowを使っていても,とくに問題はない。しかし,LR2のように,複数キーを完全に同時押しせねばならない状況が頻発するケースだと,BlackWidowではほとんどまともにプレイできなくなってしまうのである。
Razerは,「同時押し対応」を謳うキーボード製品で,「Anti-Ghosting]という謳い文句を好んで使うのだが,BlackWidowの紹介文にその記載がないのは,“そういうこと”なのかもしれない。
キータッチ&ユーティリティは満足できる
打鍵音と同時押し問題に納得できれば選択肢に
BlackWidowの製品パッケージ。Razerおなじみとなる黒地に黄緑のデザインだ |
まず難点から挙げるが,最大のものは,なんといっても打鍵音。チッチッチッチッ……という音が非常に気になるのだ。職場で操作していたら気が引けるくらいの音がするため,正直,これだけで導入をためらってしまうほど。もう少しなんとかならなかったのかと思わずにいられない。
また,問題となる条件が限定されるものの,完全なる同時押し対応が実現されてはいないという点も,人を選びそうだ。
とはいえ,キースイッチやキーのレスポンス感が,いずれも高いレベルにあるのは確か。重量のある本体は安定感があり,ヘビーなゲームプレイにも順応してくれそうだ。また,ユーティリティのBlackWidow Configuratorも,ぱっと見で分かりやすく,使い勝手はいい。それでいて実勢価格は8000円前後(※2011年2月10日現在)なのだから,コストパフォーマンスは良好と評すべきだろう。また,2月15日から日本語配列モデルも販売開始となり,好み応じてキー配列を選択できる。
「明らかなマイナスポイント」を許容できる人にとっては,有力な選択肢となる。打鍵音が気になるかどうかは,Razer Eliteショップの店頭で確認してみることを勧めたい。
Razer日本語公式サイトの「Razer BlackWidow」製品紹介ページ
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