連載 : Silent Hunter 4 鉄底海峡冬景色


Silent Hunter 4 鉄底海峡冬景色

第5回:レイテ沖海戦と戦艦「金剛」

 

 米軍潜水艦で,太平洋戦争における日米海戦史を追っていく本連載,今回はいよいよ大詰めのレイテ沖海戦である。1944年10月,米軍はフィリピンの奪回を目指して大規模な艦隊戦力と輸送船,陸上兵力を投入,10月17日には上陸作戦が始まる。
 これに応じて日本海軍は「捷一号作戦」を発動。米軍の大規模な陸上兵力と補給物資に,揚陸が完了する前の段階で大損害を与えてフィリピン奪回を頓挫させるべく,集結した米国の輸送船群を叩くのが直接の目標であった。
 日本軍のフィリピン防衛計画としては元来,北部のルソン島を舞台にした持久戦が企図されていた。米軍の艦砲射撃が届かない内陸に十分な陸上戦力を配置できるのがその大きな理由であったが,米軍のフィリピン上陸直前に起きた台湾沖航空戦で大戦果を収めたと思いこんだ(不慣れな爆撃機搭乗員による誤った戦果報告が大半を占め,見るべき戦果は挙がっていないことが,のちに判明するのだが)日本軍は急きょ,ルソン島よりずっと南のレイテ島を,反撃の舞台と定めたのである。

 

 米軍輸送船団および港湾を攻撃する手段は,実に特徴的なものだった。連載前回でも触れたとおり,日本機動部隊はマリアナ沖海戦で事実上壊滅している。残る大戦力は戦前の日本が大きな期待をかけて育て上げた戦艦群(と,優秀な水雷戦力としての駆逐艦群)のみである。船団攻撃の任務は,「大和」「武蔵」「長門」「扶桑」「山城」「金剛」「榛名」といった錚々たる戦艦群と,多数の重巡洋艦を擁する第二艦隊(栗田艦隊)の手に委ねられた。
 とはいえ,すでに世は空母機動部隊の時代である。いかに戦艦の水上砲撃力が大きくても,その射程の10倍も向こうから発進した多数の艦載機に襲われれば,ひとたまりもない。現に米軍はフィリピン方面に,正規空母9隻を基幹とする機動部隊を指向している。

 

ミッションの舞台となるパラワン水道。スマトラ島にあるリンガ泊地から進撃してくる,栗田艦隊を迎え撃つ

 これを誘き出して,栗田艦隊の針路から遠ざける陽動部隊となったのが,正規空母1隻,軽空母3隻を核とした第三艦隊(小沢艦隊)であった。
 艦載機の搭乗員も十分に集めきれておらず,すでに米機動部隊に決戦を挑めるだけの戦力を持たないと,日本軍自ら認識していたがゆえに,小沢艦隊の任務ははじめから囮である。とはいえそこまで明確に事情をつかんでいない米軍からすると,日本の空母は十分な脅威であり,撃滅するにふさわしい目標となる。
 この奇策はみごとに図に当たり,ハルゼー大将率いる米機動部隊は小沢艦隊のあとを追って,レイテ前面の防備には間隙が生ずる。小沢艦隊は作戦意図の完遂を無電で報告,あとは栗田艦隊のレイテ湾突入を待つばかりとなるのだが,どうしたわけか栗田艦隊は小沢艦隊の無電を受信できず(戦場からはるか後方,呉の連合艦隊司令部では,問題なく受信できている),そこまでの会敵状況から陽動作戦は失敗したと判断して,レイテ湾突入直前に引き返してしまう。これが戦史に名高い「栗田艦隊謎の反転」である。結局,日本軍は投入した空母すべてを失って,作戦は水泡に帰した。

 

 この大がかりな逆転劇を舞台としたMISSION 2「AMBUSH IN PALAWAN PASSAGE」で,プレイヤーの潜水艦が果たすべき役割は,敵主力たる栗田艦隊に大損害を与えること,ひいては栗田艦隊に,自身の作戦意図がすでに見抜かれていると思わせ,退却を決断させることなのである。

 

黎明に浮かび上がる,巨大な艦影の数々

 

 そうしたわけで,フィリピン西部のパラワン水道で多数の戦艦を含む敵艦隊を視認したところからミッションは始まる。製品マニュアルのミッション説明に,かなり詳しく書かれているとおり,時刻は4:51,黎明である。ミッション目標は「Sink any enemy battleship」(いずれかの敵戦艦を撃沈せよ)と,実にシンプルだ。battleship(戦艦)という単語を,warship(軍艦),capitalship(主要戦闘艦,戦列艦)などと混同することなく,明確な艦種区分としての「戦艦」だと正しく理解してさえおけば,ほかに特筆すべきことはない。

 

 乗艦であるガトー級の攻撃用潜望鏡で彼方を見渡すと,すでに主力たる戦艦群も視界に入っている。これにより,周囲を警戒しながら動きまわる護衛艦に煩わされることなく敵主力の正確な針路を割り出せるし,護衛艦の大まかな布陣も把握できる。どうやら敵は,ごくシンプルな護衛隊形しかとっていないようだ。
 そこで,敵主力と直交するよう針路を定め,いつものように深度200フィート以下を無音航走で進む。直近の護衛艦のスクリュー音を追跡させつつ,自艦の近くを通過した(急激に音源の方位が変わった)ことを確認したら,しばらく余裕を置いて潜望鏡深度に移る。護衛艦群が二重三重の布陣とっていないため,これで十分だ。

 

暗くて見づらいが,ミッション開始時点で敵艦とその艦首波が潜望鏡の視界に入っている 深度200フィートで無音航走,自艦の266度方向,つまりほぼ左真横を敵護衛艦が通過した瞬間

 

レティクル縦線の右側に扶桑級戦艦が,左側に金剛級戦艦が見える

 潜望鏡を上げると,2000〜5000フィートくらいの距離に,日本海軍の名だたる戦艦が群れをなしているのが分かるはずだ。金剛級,扶桑級,大和級などなど。それらのなかから最も手近な目標に向けて集中的に魚雷を放つと,このミッションは瞬く間に終わる。
 大型艦攻撃時のセオリーに従って,魚雷の馳走深度を11m,速度を高速に合わせておくこと,最も排水量の小さい金剛級で2本前後,大和級なら5本前後の命中魚雷が必要なことさえ憶えておけば,とくに難しい条件はない。
 ただし,戦艦群には多数の重巡洋艦,軽巡洋艦がつき随っているので,ときどき意図せぬ艦に魚雷が当たってしまうことがある。発射管から出た魚雷は,ある程度の距離を走ってから予定の針路をとることを意識して,目標との間によけいな艦が入らないよう周囲の艦の動向を見たほうがよい。また,外れる魚雷や不発の魚雷もあることを見越して,必要な魚雷数をやや多めに見積もっておけば,より確実だ。

 

いわば教本どおりの角度で,金剛級戦艦を捉え,発射のタイミングを合わせる 魚雷2本の命中により,金剛級戦艦を撃沈してミッションは完了。ややあっけない

 

 

うっかり3隻も沈めたりすると,こんな戦果に。難度の低いミッションなのは承知だが,これはさすがに……

 ここまでプレイしてきた結果を踏まえると,QUICK MISSIONは,設定時期と難度の兼ね合いで番号が振られているように思えるのだが,既述のとおり本ミッションは1944年10月のくせに2番目である。それゆえ,あっさり味なのは仕方ないのかもしれないが,満足な空母戦力もなくこの戦いに臨んだ日本軍の悲壮な決意を考えると,ちょっと可哀相な気がしてくる。
 護衛空母すらいない丸裸の水上部隊であることに加え,目的地に向けてほぼ一直線に進む状況となると,護衛艦が賢く動かない限り,こうならざるを得ないのは分かるのだが……。

 

 むしろこのミッションでは,ゲームのオプション設定をリアリズム100%,つまり手動照準に切り替えて,黎明の視界で高速な敵艦隊を狙うという,よりハードルの高い展開にしたほうがよいのかもしれない。敵艦の進行方向や速度を,暗がりのなかで把握する難しさを加えれば,また違った緊張感のあるドラマに見えてくる気がする。

 

最上級重巡洋艦に,魚雷を当てて「しまった」ところ。史実におけるパラワン水道の戦いでは,多数の重巡洋艦が潜水艦に沈められているが,水雷防御が固い戦艦を狙うよりも,本来は現実的な戦術かもしれない

 

 

■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
連載開始以来,たまの日曜日はすべて海中で過ごしていると嘆く4Gamer編集部の耐圧船殻担当編集者。「せっかくの休日だというのに,すべて犠牲になっているんですからね,文句の一つも言わせていただきたいものだ」と語る口元が妙に嬉しそうなのがやや不気味だが,それでは日曜日に何をやりたいのかと聞いたところ,「うーん……メインタンクブロー」と背中を向けてしまった。どうやら,いくら考えても何が犠牲になっているのか思いつかなかったようである。
タイトル Silent Hunter 4: Wolves of the Pacific 日本語マニュアル付英語版
開発元 Ubisoft Entertainment 発売元 イーフロンティア
発売日 2007/04/27 価格 6090円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP/Vista,CPU:Pentium 4/2GHz以上[Pentium 4/3GHz以上推奨],メインメモリ:1GB以上[2GB以上推奨],HDD空き容量:6GB以上,グラフィックスカード:DirectX 9およびPixcel Shader 2.0 対応製品,グラフィックスメモリ:128MB以上

(C)2007 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Silent Hunter, Silent Hunter 4: Wolves of the Pacific, Ubisoft, Ubi.com, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries.


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