米軍潜水艦で,オールスターキャストの日本海軍と戦いを交えてきた本連載も,ついに最終回。最後に扱うMISSION 10「LAST TARGET」で沈めなければならないのは戦艦「大和」だ。いずれかの戦艦でも大和級戦艦でもなく,「大和」そのものである。なぜならミッションの設定時期である1945年2月13日時点で,姉妹艦の「武蔵」はすでに沈んでいる。第5回で扱った「捷一号作戦」に殉じ,シブヤン海の藻屑と消えたのである。
レイテ沖海戦で損傷を受けた「大和」は,呉に戻って修理を受けたあと,1945年4月に沖縄戦を支援すべく出撃,鹿児島の南西で米軍機の空襲を受けてその生涯を終えた。「菊水一号作戦」と命名されたこの作戦は,米軍機を引きつけることで沖縄方面における航空戦闘に寄与し,首尾良く米軍の防備を突破できた暁には,沖縄本島に乗り上げて米陸上部隊を砲撃せよという,およそやぶれかぶれなシロモノだった。
実際,米軍の迎撃をしのいで沖縄に到達できる可能性は限りなくゼロに近いと見積もられていた。むしろこの作戦は,日本が敗れようとしているのに,連合艦隊の象徴たる「大和」が,為すところなく港に係留されたままで終わるわけにはいかないという形式主義,今後日本国民すべてを巻き込む(予定だった)特攻戦闘の先駆けという,精神主義的な発想で実施されたものなのだ。
そんな,ゲームをしのぐ荒唐無稽さと悲惨さで構成された史実の話はさておき。ミッションでは「大和」が帰投した呉軍港に潜入し,停泊中の「大和」を沈めなければならない。非常識極まる作戦目標に思えるが,史実で大和級3番艦として建造が開始された装甲空母「信濃」が,横須賀海軍工廠から呉への回航中に米軍潜水艦の雷撃を受けて沈んでいることを考えると,それほど非現実的ではないのかもしれない。
ミッション開始時刻は20:00,四国と九州を分ける豊予海峡のすぐ南に浮上した状態からスタートである。乗艦は,ガトー級の改良型であるバラオ級。ここから,基本的に水上を全速航行して呉を目指す。第二次世界大戦当時の潜水艦では,さすがに豊予海峡から呉軍港まで潜りっぱなしで移動するわけにはいかない。QUICK MISSIONでこそ珍しいが,本作のキャンペーンであるCAREERモードでは毎回のように採る方策である。
海図画面で瀬戸内海までの道のりをプロットし,続いて両舷全速を下令する。蓄電池ではもたないにせよ,重油をケチる必要はとくにない。また,対水上レーダーは意図的にオンのままで進む。レーダーの通性として,目標探知限界の外側からでも逆探知される危険があるので,真に隠密性を重視するならオフにすべきなのだが,この時期の日本海軍を,そこまで警戒する必要もあるまい。むしろ,不意に島陰から現れた民間商船に目撃される危険のほうが大きいと判断し,それを避けることを優先した結果だ。
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ミッション開始時刻は20:00。夜のうちに豊予海峡を抜けて瀬戸内海に入り,呉軍港に侵入するのだ |
スタート地点は四国と九州の間,豊予海峡の入り口付近。ここから潜航していたのでは,蓄電池がもたない |
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いざとなったら深く潜れる地点をたどって,佐田岬のあたりまで航路をプロットする
水上航行では速度が出せるため(19ノット),航路は順調に消化されていくわけだが,いかんせん広島湾までは時間がかかる。ゲームの進行速度を随時128倍くらいまで上げてプレイを進めたほうがよいだろう。敵艦が見えたりした場合,乗組員から報告が入って進行速度が自動で1倍に戻るので,とくに心配はいらない。
豊予海峡に向けて突き出した佐田岬にさしかかるあたりから,しばしば日本の船舶が視界に入る。通常のパトロールであれば,相手の針路を割り出して接触を図るところなのだが,今回は逆で,相手に近寄ることを避けねばならない。
自艦の現在位置と予定航路,速度を勘案して,敵船舶の後方を迂回できそうであれば,随時左右に舵をきって進む。相手を十分にやり過ごしたら,海図画面の下にある「RETURN TO COURSE」ボタンをクリックして,予定航路に戻ればOKだ。
相手の針路とこちらの予定航路が正面からぶつかり,ちょっとした迂回では距離をとれないと判断した場合,潜航して通過を待つことになる。船団を守る駆逐艦など,複雑な機動を行う艦と異なり,このミッションにおける民間船舶はただ直進し続けているようなので,米軍潜水艦ご自慢の位置保持装置を併用すると,敵との位置関係は比較的簡単に把握/調整可能だろう。
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敵船舶を発見しても潜航せず,針路と速度を見定めてから回避方法を決める |
敵船舶を避けるために,いったん東に迂回,その後予定の航路に戻るところ |
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レーダーからの情報で,予定どおり進むと敵船団に出会ってしまうことが判明。このあと航路を西に変更した
そんなこんなで艦は瀬戸内海に入った。海図に示された海の深さをたよりに,なるべく深いところを選んで航路を設定する。万一敵に見つかって攻撃された場合,深々度の取れない水域では逃げきるのが難しいからだ。
敵船舶を避けつつ,比較的間隔の空いた怒和島と中島の間を抜けて安芸灘に入ろうとしたのだが,ここでレーダーが中島沖を西に向かう輸送船団を嗅ぎつけてしまう。このまま進めば,襲撃に最適な直交コースだけに残念至極だが,まあ仕方ない。急きょ予定航路を西に寄せ,屋代島と津和地島の間を抜けることで,船団のはるか前方を通過するようにした。
安芸灘に差しかかったところで夜が明けてしまう。陸地も近いので,以降は潜航して進む
安芸灘に入ったところで,あとは潜航して進むことにする。さすがに陸地が近いので,潜航しないとどこで発見されてしまうか分からない。潜望鏡深度にやや足りない浅い海が続くため,ときどき水深を測りながら,水面下50〜60フィートという,かなりぎりぎりの深さで進むのだが,どうしてもしばしば艦体上部が露出してしまうようで,地上から散発的な攻撃を受けることもある。
損傷箇所は適宜修理させつつ,広島湾に面した廿日市市と広島港を避け,海軍兵学校の所在地として有名な江田島を回って,北西方向から呉軍港を目指したのだが,あとから考えるに,倉橋島の北を抜けて南西からアプローチするのが正解だったかもしれない。
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呉軍港までの最終アプローチ。江田島を回って軍港へ向かうという,ある意味豪華なコースだ |
沿岸にはところどころに防御施設が。十分に潜航できないため,油断していると射撃を浴びる |
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海図画面で確認した呉軍港の様子と,目標艦の位置。雷撃距離をとるには,ぎりぎりの狭さだ |
軍港の入り口から,目標艦である「大和」を確認。手前に隣接する形で小型タンカーも見える |
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それはさておき。呉軍港の入り口から奥に向かって潜望鏡で見渡すとほぼ中央に,艦首を出口に向け,左舷に小型タンカーを従える形で「大和」が鎮座ましましている。
雷撃に最適なポジションをとるべく,目標の艦首方向から右舷中央に向けて接近。微速後進で自艦と目標の角度を合わせつつ,魚雷の信管が作動するのに必要な距離(約400m,つまり1300フィートほど)を置くべく,ゆっくりと遠ざかる。右舷中央部をほぼ垂直に狙える位置で艦を停止,前部発射管の魚雷を一斉に発射する。いつものように魚雷の馳走深度は11m,このシチュエーションではあまり関係ないが,高速モードに設定した。
海面に白い航跡を描きつつ,魚雷は次々と目標艦に吸い込まれていき,やがて大きな水柱が連続して上がる。「大和」は炎上し,メッセージログには「target destroyed」(目標撃破)という報告が流れてミッション完了である。
派手に爆発・炎上するわけではなく,大きく傾いて海中に消えるでもなく,まして「轟沈シテ巨体四裂ス」る様子も見られなかったが,これで「大和」は非戦力化された。来たるべき本土決戦に備え,呉鎮守府最強の浮き砲台とすべく「男たちの大和引き上げ作業」が実施されるかどうかは,とりあえずプレイヤーの関知するところではあるまい。
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魚雷発射直後,目標に向けて航跡が走っていく |
「大和」を撃沈して,無事にミッションを完了する |
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そんなわけで,太平洋戦争のかなりの部分を一人で戦ってきた気がする,ある意味不遜な連載もこれにて終了である。考えてみれば空母戦にせよ水上砲撃戦にせよ,水平線(4kmほど)より向こう(砲撃戦は10km以上,航空戦では200km以上離れているのが普通)の敵艦との間で行われるため,敵の艦影を間近に見据える機会などそうそうあるものではない。敵艦の偉容を堪能しながら進められるのは,潜水艦戦ならではの特典(?)なのである。
企画の性格ゆえに派手な部分だけを追い回した結果,リサーチと再現の穴を不必要に突いてしまった感もあるので,この機会にあらためて述べておきたい。本作は「Silent Hunter III」が着手した乗組員要素の再現と,プレイヤー独自の戦歴を築いていくキャンペーンプレイ,より具体的な雷撃過程のプレイ要素化という課題を引き継ぎ,順当に進化させた作品として,高く評価できる。
細かなバグフィックス(これについては,開発サイドにいろいろ複雑な事情があるようだが)を通し,作品としての齟齬を解消することはもちろん,できれば今作での経験と実績を生かす形で,Uボートや伊号・呂号潜水艦などをモチーフとした新作が企画されることを,同時に祈ってやまない。
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軍港侵入時に艦首側から見た「大和」の艦影と,至近距離から見た一番,二番砲塔。甲板にいる人と比べることで,その巨大さが見てとれる |
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