連載 : Silent Hunter 4 鉄底海峡冬景色


Silent Hunter 4 鉄底海峡冬景色

第1回:珊瑚海海戦と空母「翔鶴」「瑞鶴」

 

 資源に恵まれない島国かつ工業国の日本にとって海運は生命線であり,それは第二次世界大戦の前後においても同様だった。開戦直前の段階で,日本の保有船舶は輸送船とタンカー合わせて約600万総t。このうち,国民生活の維持に必要なのが300万総tで,作戦に回せるのは約半分である。開戦初頭の第一段作戦では大量の船腹を必要とするため,実際のところ半分を超える船舶が徴用されていたが,戦況の安定につれて順次解傭され,民需に必要な300万総tは維持できるという見通しだった。
 とはいえ,そんな見通しがまるで実現しなかったのはご承知のとおりだ。猪瀬直樹氏がルポルタージュ「昭和16年夏の敗戦」で大きく取り上げて以来有名になった,少壮官僚の研修機関(と捉えるべきだろう)「総力戦研究所」第一期の対米戦予測レポートでも,それについては明確な答えが出ていた。
 保有船舶量に建造可能量を足して,そこから予想される喪失量(ここの計算には当然,第一次世界大戦における通商破壊戦の結果が反映されている)を差し引くと,日本の商船団は軍需も民需もなく5年でほぼ全滅すると出ている。

 

 だからといって,その予測が日本の戦争方針を大きく左右することはなく,非情な現実はほぼ予測のとおり推移して食料すら欠乏するという,「ジリ貧を嫌ってドカ貧」を地で行く展開になった。実を言うと船舶建造量は予測をはるかに上回ったのだが,喪失量もまた,予測を大きく超えた数字になったのである。
 そうした日本の船舶被害の,立役者となったのが米海軍の潜水艦だった。太平洋戦争の期間中,日本が失った商船の合計は814万総t。このうち潜水艦によるものが実に486万総tで,59.7%にのぼる。この過酷な現実の再現に,一艦長として参加するのが「Silent Hunter 4 Wolves of the Pacific」(以下,Silent Hunter 4)というわけなのだ。

 

 

「QUICK MISSION」で日本海軍の有名艦艇を見まくる

 

 ……プレイ目標は分かったとして。ゲームとして見ればグラフィックス面や乗組員の定常的な管理が前作から大幅に改善されたSilent Hunter 4なのだが,プレイのノウハウ自体は前作「Silent Hunter III」とほとんど変わりない。前作の連載記事「Silent Hunter III 愛宕潜水学校」を見つつ,マニュアルを熟読していただければほぼ不足はないのだ。
 さりとて「ヘッジホッグもないし,レーダーは使い放題。太平洋戦線ウハウハ,オレ強ええぇぇぇ」とか叫んでばかりいるのも,なんとなく気が進まない……。製品の魅力をめぐって開発者もそこを強く意識したのか,今作では商船ばかりでなく日本海軍の艦艇が,かなり大きくフィーチャーされている。

 

 そこでこの連載では,「CAREER」(一艦長として転戦していくいわゆるキャンペーン)でも「WAR PATROL」(その場でありそうなシチュエーションが作り出されるインスタンスミッション)でもなく,史実戦である「QUICK MISSION」で,連合艦隊の偉容を楽しんでみようと思う。後で詳しく述べるとおり,再現度には少々問題があるような気もするが,このモードなら空母「赤城」だの,戦艦「大和」だのと,日本海軍の主要艦艇はオールスターキャストである。いやまあ,沈めなきゃいけないんですけどね。それを。
 「潜水艦の第一の任務は敵大型タンカーの撃沈」とした米海軍のドクトリンに照らして,いささか問題がある気もするが,さっそく大型戦闘艦見物の旅に出てみよう。

 

「Battle of the Coral Sea」ミッションで翔鶴と握手!

 

敵空母を沈めろとのお達し。どうやら独りで珊瑚海海戦をやらねばならないようだ

 今回題材にする「Battle of the Coral Sea」ミッションでは,名前のとおり珊瑚海海戦が扱われる。アメリカとオーストラリアの連絡戦を断ち切る,米豪遮断作戦の一環として,ニューギニア東部のポートモレスビーの占領を援護すべく,日本海軍は1942年5月,空母「翔鶴」「瑞鶴」,重巡洋艦「妙高」「羽黒」を基幹とする空母機動部隊を珊瑚海に出撃させた。これを迎え撃つのは米海軍の空母機動部隊で,「ヨークタウン」と「レキシントン」を主力としていた。
 空母同士による史上初の水上航空決戦は,日本が軽空母「祥鳳」を失い,アメリカは正規空母「レキシントン」を失うという痛み分けに終わったのだが,このミッションでプレイヤーに与えられる目標は,躊躇のかけらもなく日本空母の撃沈である。……ええと,一潜水艦にそれをやれとおっしゃる?

 

 そんなこんなで無理矢理作戦の帰趨を握らされたプレイヤーが戦場に降り立つのは,1942年5月8日の午前7時。史実では,この段階で両艦隊は互いの所在を掴んでおり,20分足らずのうちに,攻撃隊の発艦が始まるというタイミングだ。さすがクイックミッション,いきなりハイライトシーンからのスタートである。
 ミッションスタート時,自艦は潜望鏡深度で待機しているので,慌ただしく攻撃用潜望鏡を上げる。このぶんだとおそらく,会敵するのも間もなくだろうと思ったため,哨戒用でなく,いきなり高倍率のほうを使う。

 

視界に入ってきた敵艦。まだ艦種の見分けも難しい距離だ

 潜望鏡の前に移動するや否やのタイミングで,案の定敵艦発見の報告が次々と入ってくる。いやはや,間もなくどころの話ではない。潜望鏡深度のまま進撃を下命しつつ,魚雷の馳走深度を11mくらいに設定,速度を高速のほうに合わせる。
 前の連載でも触れたが,魚雷は艦底近くで炸裂させたほうが浸水がひどくなるので効果的だ。相手が正規空母となれば大型艦であり,喫水線下もそれなりに深い。マニュアルにも明記されているとおり12mを基準とすべきだが,Mk-14魚雷の精度の低さに鑑みて,すこし浅めに設定した。せっかく命中コースに載っても,艦底通過で磁気信管も感応しないとなったら,骨折り損のくたびれもうけである。
 おまけに正規空母はやたらと足が速い。「翔鶴」級ともなると,平気で34ノットとか出したりする。魚雷なので敵の未来位置に向けて発射するのは当たり前だが,敵がここまで速いと,魚雷が到達するまでの航走距離もえらく長くなり,照準誤差が大きくなりすぎる。そこで,魚雷も速度優先の設定にして,少しでも誤差を縮小しようというわけである。
 ちなみに,Mk-14の高速モードは46ノット,低速モードは31ノットである。いや,別に敵艦を後ろから追いかけさせるわけではないが,そもそも低速モードでは敵艦より遅いという体たらくなのだ。ここは高速モード以外に選択肢はないだろう。

 

ダイヤルを回して,魚雷の馳走深度を11mくらいに合わせる。高速モードへの切り替えも忘れずに クイックミッションではあまり関係ないが,作戦地図を見てみる。ニューギニアの東,ソロモン諸島の南だ

 

縦目盛りの左側,ゴミみたいに見えるのが敵機。この位置に水上機以外の単発機がいるなら,艦載機に違いない

 しばらく直進していると,右舷23度方向に敵機が5〜6機。潜望鏡で見えるシルエットから艦載機と判断し,まだ艦型がはっきりしない敵艦複数から,空母を見分けるべく目を凝らす。護送船団と違って大型艦の移動方向も一定でないため,どれが空母で,どっちを向いているのか判断がつかない。発艦中の空母であれば,対気速度を最大にすべく,風上に向かって全速航行しているはずなのだが,悲しいことに風向の情報はない。おとなしく敵艦が迫ってくるのを待つしかないようだ。良くも悪くもゲーム的な場面である。
 ゲーム的といえば,敵艦のシルエットもそうだ。水蒸気による揺らぎの影響は,おそらく現実よりもずっと小さいと思うのだが,そもそもグラフィックスで再現された敵艦のシルエットからは,奥行き感が感じ取れない。とにかく敵の接近を待ち,独特の艦型を念頭に置きつつ空母を見分け,艦首波の出方で方向と速度を見極めるしかない。

 

このくらい近くなれば,艦首をこちらに向けた空母と分かる 識別マニュアルと引き合わせても,間違いなく翔鶴級だ

 

 自艦の右舷を,右側に大きく遠ざかりつつ通過すると踏んだところで,自艦に右回頭40度を命じ,回頭が終わるや否や前部発射管の魚雷4発を放つ。最適な発射位置を取りきれなかったものの,うち2発が命中し,ほどなく敵艦は大きく傾いて海に消えていった。
 空母「大鳳」みたいにガソリン庫に引火・爆発した様子もないのに,割とあっけない最期である。

 

空母「翔鶴」(瑞鶴?)撃沈!

 

 さて,画面を見たプレイヤーの方なら気付いていることと思うが,今回,魚雷の手動照準は断念している(Reality設定85%)。何度か試してみたのだが,敵艦の速度があまりに速すぎて所定の照準手続きはほぼ無理,目見当で撃つにも,確実に当てるには厖大な練習時間が必要と判断したためだ。前作,前々作で22ノットの兵員輸送船にはたびたび攻撃をかけていたのだが,30ノットオーバーは新たな領域であると痛感させられた。いや,まいった。

 

今回敵の速度がシャレにならないので,手動照準のみオフにした 空母1隻,2万8000tを撃沈して,ミッションコンプリート

 

 それと考え合わせるに,このミッションにおける空母は,わざと沈みやすく設定されているようだ。製品マニュアルによれば,米海軍のドクトリンで,大型空母の撃沈に必要な命中魚雷数は5発,推奨される散開斉射魚雷数は10発とされている。ええと,Porpoise級に属する我が艦の前部発射管数は4門,後部発射管にいたっては2門しかないんですけど……。
 目見当で撃つなら(どうかすると照準をシステム側に任せた場合でも),複数の魚雷が扇形を作る散開斉射を行わざるを得ない。散開斉射時の命中率が理論値どおり約50%と仮定して,狙い定めて放った4発のうち,命中は2発。よほど運が良くない限り中破がいいところだろう。そこで試しに命中魚雷を1発に限ってみたところ,ええもう,沈んでいきますとも翔鶴(瑞鶴?)サマがすごい勢いで。

 

目標達成後,第二目標のメッセージが。いや,魚雷を撃ち尽くしてから言われましても……。画面で健在なのは同じく翔鶴級空母。せっかくなのでもう1隻行っときます? ちなみに,敵艦隊に手を出さず,やりすごしてから少し待っていると,レキシントンかヨークタウンの艦載機が,日本艦隊を攻撃していく。これはこれで見物(みもの)である

 

 ……なんだか,いきなり書き割りの後ろの段ボールを見てしまった気もするが,なにしろアメリカ潜水艦である。イッツ・オンリー・ア・ペイパームーンであり,イッツ・ショウ・ビジネスなのである。さて,次はどんな有名艦に出会えるか,お楽しみに!

 

 

 

■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
過去に「サイレントハンターIII」の連載「愛宕潜水学校」でも教官を務めた,4Gamerの潜水艦担当スタッフ。「まさかこんなマニアックなタイトルで,再び連載することになるとは……メインタンクブロー」と,戸惑いつつも潜る気は十分といった様子。先日,編集部の人間に「ゴールデンウィークに映画観たいんですが,何かオススメないですか」と聞かれたGuevaristaは,「非常に重苦しい映画ですが,『世代』『地下水道』『灰とダイヤモンド』の“抵抗三部作”というのがありまして……」と答え,相手をどっと疲れさせていた。
タイトル Silent Hunter 4: Wolves of the Pacific 日本語マニュアル付英語版
開発元 Ubisoft Entertainment 発売元 イーフロンティア
発売日 2007/04/27 価格 6090円(税込)
 
動作環境 OS:Windows XP/Vista,CPU:Pentium 4/2GHz以上[Pentium 4/3GHz以上推奨],メインメモリ:1GB以上[2GB以上推奨],HDD空き容量:6GB以上,グラフィックスカード:DirectX 9およびPixcel Shader 2.0 対応製品,グラフィックスメモリ:128MB以上

(C)2007 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Silent Hunter, Silent Hunter 4: Wolves of the Pacific, Ubisoft, Ubi.com, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries.


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/silenthunter4/001/silenthunter4_001.shtml



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