― 連載 ―


リンドンの剣(The Sword Rhindon)
 ナルニア国ものがたり 

Illustration by つるみとしゆき
 「ハリー・ポッター」や「ロード・オブ・ザ・リング」(指輪物語)といった小説/映画の影響もあって,世界的なファンタジーブームが到来している。次々と名作が映画化されることは,ファンタジーファンとしては非常に喜ばしいことで,2006年3月4日から公開される映画「ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女」に期待している人も多いことだろう。
 「ナルニア国ものがたり」は,英国の作家C・S・ルイスによって書かれた児童向けのファンタジー小説。1950年から1956年にかけて,下記の7作が出版されている。ちなみに1956年,「さいごの戦い」でC・S・ルイスは,イギリスで最も権威ある児童文学賞,カーネギー賞を受賞している。こうしたこともあって,本作は「ロード・オブ・ザ・リング」「ゲド戦記」と並んで,三大フェアリーテイルと呼ばれることもあるようだ。
 また挿絵は,J.R.R.トールキン著の「農夫ジャイルズの冒険」と同様,ポーリン・ベインズが手がけているという点も,ファンには嬉しいところだ。

 

  • 「ライオンと魔女」(The Lion, the Witch and the Wardrobe)
  • 「カスピアン王子のつのぶえ」(Prince Caspian)
  • 「朝びらき丸,東の海へ(The Voyage of the Dawn Treader)
  • 「銀のいす」(The Silver Chair)
  • 「馬と少年」(The Horse and His Boy)
  • 「魔術師のおい」(The Magician's Nephew)
  • 「さいごの戦い」(The Last Battle)

※ナルニア歴の時系列順にすると「6」「1」「5」「2」「3」「4」「7」の順になる

 

 このシリーズは,英国の少年少女が時空を超えた「ナルニア国」で冒険し,再び現世へ帰って来るという形で進行する。ナルニア国には,「ものいうけもの」,ケンタウロス,ドリアード,巨人など,多数の魅力的な種族が住んでおり,主人公はナルニア国の歴史の証人として活躍する。
 わざわざ「歴史の証人」と書いたのは,現世とナルニア国の時間軸は異なっていて,少年少女がナルニア国を再訪すると,かつての知人は寿命が尽きて亡くなっているなど,時間軸を利用した興味深い展開が多いためである。
 また,各ストーリーで主人公が異なる場合があることも,本シリーズの大きな魅力となっている。

 ペベンシー4兄妹 

 ナルニア国ものがたりの第一章「ライオンと魔女」は,ペベンシー4兄妹(ピーター,スーザン,エドマンド,ルーシィ)の活躍を描いたお話だ。
 第一次世界大戦のまっただ中,主人公のペベンシー4兄妹は疎開して,ディゴリー・カーク先生の屋敷で暮らしていた。兄妹が屋敷を探索していると,異世界に通じた大きなクローゼット(衣装だんす?)を発見する。
 異世界――ナルニア国は白い魔女の力によって冬が続いており,予言ではアダムとイブの子供達(人間の子供)が王座に就くとき,魔女は最期を迎えるだろうとされていた。そのため,ペベンシー兄妹が(王座に就くべく)ナルニア国に召喚されたのだ。しかし魔女は,これを阻止しようと,ペベンシー兄妹の次男エドマンドを魔法のプリンを使って捕らえ,ほかの子供達をも捕らえようとする……。

 ぜひ映画を観てもらいたいのでストーリーの詳細は割愛するが,やがて子供達は玉座に就いて魔女と戦い,ナルニア国には平和が訪れる。そして10数年間の統治を行ったペベンシー4兄妹は,元の世界を思い出して帰ることに。すると,ナルニア国で大人に成長していた4兄妹は,子供に戻ったのである(時間も,出発してからわずか数分しか経っていなかった)。
 なお第二章にあたる「カスピアン王子のつのぶえ」は,1年後のペベンシー4兄妹が再びナルニア国を訪れるというもの。なんと現実世界の1年後は,ナルニア国では1288年もの歳月が過ぎた後で,そのあたりが非常に面白い演出となっている。映画も公開されることだし,興味のある人はこれを機会に7巻読破してもいいかもしれない。

 サンタクロースと剣 

 第一章ライオンと魔女で,ナルニア国の偉大なる獅子アスラン(Aslan)は,ペベンシー4兄妹に使者を送ってさまざまな装備を届けさせたが,この使者にサンタクロース(Santa Claus)を起用したのは斬新なアイデアだった。
 このときサンタクロースは「これはオモチャではない」と念を押して13歳の長男ピーターに一振りの剣と獅子の絵が描かれた盾を渡し,小説ではこの剣はリンドンの剣(The Sword Rhindon)と記述されている。剣に関する記述が少ないのが残念だが,挿絵を見る限りでは,それほど大きな剣ではなく,13歳のピーターであっても無理のなく扱えるだろう大きさ。柄と鍔には装飾が見られる。

 わずか13歳のピーターが振るったリンドンの剣は,明確な記述はないものの,明らかに魔力を持った剣である。白い魔女の秘密警察長官を務める巨狼モーグリムを貫いて倒し,さらに白い魔女と戦ってこれを追いつめるという戦果を挙げている。こうした功績もあって,ピーターは騎士,将軍へと昇進し,やがては英雄王と称されるほどの人物に成長していくのだ。
 また第二章でピーターは,かつての王としてカスピアン王子を助け,敵対するテルマール王ミラスと一騎討ちをしたばかりか,テルマールの将軍であるソペスピアンの首をはねている。また五章の馬と少年では,王として巨人の討伐に遠征しており,このときもリンドンを携えて出陣しているようだ。
 リンドンの剣は,ナルニア時間にして1300年以上も存在し,ピーターから見ても13歳から28歳まで振るったとされ,実に長い間ピーターの傍らに存在した。とはいえ,始まりがあればいつか終わりが来るもの。やがてピーターにもナルニア国/リンドンの剣に別れを告げる日が訪れてしまう。その結末は小説を開いて自分の目で確認してもらいたい。

 

小豆長光

■■Murayama(ライター)■■
そのフットワークの良さを生かし,さまざまな仕事を精力的にこなしているMurayama。つい先日は,「ガレージキットシーンの最前線」であるところのワンダーフェスティバル2006を取材し,萌え系フィギュアの写真を900枚以上撮影してきたという。担当編集者は,その900枚以上の写真を見せてもらう約束をしたわけが,一番見たいのは,萌え系フィギュアを撮影しているMurayamaの姿だったりする。

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