― 連載 ―


小豆長光(あずきながみつ)
 軍神・上杉謙信 

 甲斐の武田信玄と川中島で熾烈な戦いを繰り広げたことで知られる上杉謙信(1530-1578)は,戦国時代きっての名将である。希代の戦上手であったことから,軍神/越後の虎/越後の龍とも称され,多くの武将から恐れられた。
 上杉軍の軍旗には「毘」と「龍」の字が書かれたものがあり,前者は「刀八毘沙門天の旗」と呼ばれて軍神毘沙門天と共にあることを示し,後者は「懸かり乱れ龍の旗」と呼ばれ,総攻撃時に掲げられたという。どちらも上杉軍の勇猛さを象徴するものといえよう。
 謙信は信仰心の厚さでも知られており,自らを毘沙門天の転生と信じ,戦の前には春日山の毘沙門堂に籠もって祈祷を捧げ,たった一人で戦略を練ったという。また仏教への帰依も深く,青年期までは曹洞宗,上洛時には臨済宗を学び,晩年には真言宗を学んで,最高位の法印大和尚・清胤から,阿闍梨権大僧都の階位を授かっている。

 上杉謙信と日本刀 
Illustration by つるみとしゆき

 謙信は日本刀のコレクターとしても有名で,とくに備前刀を愛用していた。備前長船長光や兼光などを好んでいたようだが,そうした中で注目したいのが,小豆長光(あずきながみつ)である。小豆というネーミングは,なかなかに奇妙な感じがするが,これにはちょっとした逸話がある。
 ある日のこと。上杉謙信の家臣は,みすぼらしい身なりの一人の男を見かけた。男は小豆の袋を背負い,腰には鞘の割れた刀を帯びていた。どうも背負っている小豆袋には穴が空いているようで,ぽろぽろと小豆はこぼれていたが,よく見ると小豆は,鞘からむき出しになった刃にあたり,真っ二つに切れているのだ,これに驚いた家臣は男から刀を買いあげると,謙信に献上したという。
 以後,謙信は小豆長光を愛刀として腰にさすようになったそうだ。また,脳髄(なづき)を一刀両断にしたことから,なづきがあずきに変化して小豆長光になったとする説もある。
 なお,川中島の戦いの名場面に,武田信玄の本陣に単騎で切り込んだ上杉謙信が,馬上から愛刀を振るい,それを信玄が軍配で受けるシーンがあるが,ここで振るわれた刀が小豆長光だと伝えられている。

 残念なことに小豆長光は現存していない。資料によれば,上杉謙信亡き後に研ぎに出されたが,そのまま行方不明になってしまったそうだ。押形も存在しないとのことから,どのような刀であったのかは謎に包まれている。

 上杉謙信・女性説 

 さて,戦国時代最強の武将と称されることが多い上杉謙信だが,意外なことに女性説も存在する。真偽のほどはともかく,いくつかの根拠もあるので,紹介してみよう。

 女性説といっても,肖像画を見れば男であることは明白と思う人もいるだろうが,実は謙信の肖像画は,彼の死後,想像で描かれたものであり,謙信が絵師を呼び寄せて描かせたとされる肖像画は人物像ではなく,赤い大きな木盃の上に,雲に乗った独鈷(とっこ/密教で使う仏具の一種)があるという奇妙なものなのだ。「古語拾遺抄」によると,当時杯は女性の隠し言葉とされていたことから,実は女性では? と深読みできるというわけだ。
 なお,後世に描かれた肖像画については,実は江戸時代に外様大名であった上杉家が,女性城主を認めていなかった徳川家に,過去にさかのぼって難癖を付けられることを防止するために,わざわざ男性にしたとの説がある。
 また容姿については,身長が五尺二寸(約156センチ)程度であったにもかかわらず「大柄」と表記されており,これは女性としては大柄だったのでは? と考えられる。さらに,好んで着用した服は女性が好みそうな赤いモノが多かったという。とくに上杉神社に保管されている「紅地雪持柳繍襟辻ヶ花染胴服」(くれないじゆきもちやなぎぬいものえりつじがはなぞめどうふく)などは,男性が着用するには珍しいものとなっている。

 謙信の死因も興味深い。上杉謙信の死については,多くの書物で「越後景虎,大虫にて卒す」と書かれているのだ。大虫とは古語で「更年期障害からくる婦人病」を指していて,男性では決してかからないのだ。ただし婉曲表現として「虎」を「大虫」とすることもあるそうで,寅年に生まれて寅年で亡くなった謙信を前述のように表現した可能性もある。
 それから,当時スペインの使者がフェリペ2世に宛てた書簡の中で,「会津の上杉景勝が“伯母”の上杉謙信が発掘した佐渡の金を隠し持っている」と記述しているほか,戦国武将に似つかわしくなく,謙信は源氏物語を読み,上京した際には時の関白に和歌懐紙と「三智抄」という和歌集を所望。謙信自信も優れた恋歌を詠み,周りを驚かせたそうだ。公家に関連のある武将であれば,珍しくはないのだが,越後の武将が風情のある和歌を詠むというのは,非常に珍しいことである。ほかにも,謙信を女性として歌った歌詞が残されているなど,謙信女性説を後押しできそうなネタは多い。

 最強の武将と称される一方,どこか女性的な側面も持ち合わせていたようで,そうしたことから女性説が生まれ,物議を醸しているのだろう。とはいえ,女人禁制の高野山に2回も登山しているし,位牌の戒名も男性名が書かれているので,男性を強調する証拠も多い。
 しかし,愛刀・小豆長光を片手に単騎で武田陣営に突入し,あの信玄に一騎打ちをしかけた「軍神」が女性だったとしたら……。川中島の名場面だけでなく,小豆長光にも,さらなる輝きが宿るというものである。

 

ロムルスの槍

■■Murayama(ライター)■■
大のファンタジー/ゲーム好きであるMurayamaに,個人的に期待しているオンラインRPGは何かと聞いてみたところ,「Warhammer」(旧題 Warhammer Online)のタイトルが挙げられた。メジャーなオンラインRPGではなく,Warhammerを挙げるあたり,Murayamaらしいコアなチョイスといえるだろう。同作のデベロッパであるMythic Entertainmentから直接仕事を受けることもあるMurayamaだけに,酒でも飲ませれば思わぬ新情報が得られるかもしれない。タイミングを見計らい,スピリタスとアブサンのカクテルでも飲ませてみようと思う。

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sandm/050/sandm_050.shtml