― 連載 ―


祢々切丸(ねねきりまる)
 世界有数の太刀 

Illustration by つるみとしゆき
 巨大な刀剣と聞いて,どんな剣をイメージするだろうか。ツー・ハンデッド・ソード(ドイツ語ではツヴァイハンダー)や,スコットランドのクレイモアーあたりを思い浮かべる人も多いだろう。とくにツー・ハンデッド・ソードなどは,全長180センチを超えるものもあり,まさに「大剣」の名前にふさわしいものといえる。
 大剣というと,巨大な刀身から「一撃必殺」を連想しがちかもしれないが,実際の訓練では,振りの大きな連続技や,コンパクトに攻撃を受けてからの突きによる反撃といったテクニックの習得が基本だったという。しかも熟練者になると,ホバーク(Hauberk)などの鎧を着用したまま大剣を振り回すというのだから,実戦で大剣を振るう戦士の身体能力たるや恐るべきモノがある。
 日本の「太刀」は,西洋のそれよりも小振りなイメージがある。しかし資料を調べていたところ,西洋の大剣を凌駕する大太刀の存在が確認できた。それが今回紹介する祢々切丸(ねねきりまる)である。日本最大の太刀である祢々切丸とは,いったいどんな刀なのであろうか。

 二荒山神社と御神刀 

 栃木県の日光市に二荒山神社(ふたらさんじんじゃ)がある。この神社には,国宝や文化財などが多数保管されていて,刀剣だけでも130本以上の国宝/重要文化財があるという。保管されている刀剣類には,鎌倉時代以降のものが多いそうで,「祢々切丸」「瀬登太刀」「柏太刀」の三振りは,御神刀として祀られている。
 さて,今回紹介する「祢々切丸」だが,これは正式名称を「山金造波文蛭巻大太刀(やまがねづくりはもんひるまきのおおだち)」とする大太刀。銘がないので作者は不明だが,室町時代に鍛えられたという説が有力だという。とにかく驚かされるのはその存在感で,全長3.4メートル(!),刃長2.2メートル(!),重量22.5キログラム(!)と,マンガや小説の中でもあまり見かけないほどの大太刀なのである。
 そのスペックを見る限り,とても人力で使いこなすのは不可能なもので,誰かが使いこなしたという記録も残っていない。だが,祢々切丸は,人の手を必要としない大太刀であったのだ。日光に残されている伝承によれば,祢々切丸は人の手を借りることなく,自ら鞘から抜けて妖怪を斬り殺したとされている。その活躍によって山金造波文蛭巻大太刀ではなく,祢々切丸と称されるようになったというのだ。早速その逸話を紹介してみよう。

 妖怪,祢々 

 はるか昔のこと。日光のとある山中に「ネーネー」と鳴く虫の妖怪がおり,周囲の住民に害を与えていた。人々はこの妖怪を「ねね」と呼んで恐れ,悲嘆にくれていたが,ねねを討伐しようとする者は現れなかった。
 そんなとき,二荒山神社の拝殿に安置されていた山金造波文蛭巻大太刀がひとりでに動き始め,なんと鞘から抜け出すと,一直線にねね目がけて飛んでいったのである。
 ねねと山金造波文蛭巻大太刀の追いかけっこはしばらく続くことになった。ねねは山を追われ,大谷川の対面の沢を追われ,結局二荒山神社の神前に追いつめられると,ついにその場で退治されたという。人々はねねの住んでいた山を「鳴虫山」,ねねが逃げる途中に通過した沢を「祢々が沢」(現在の安養院沢),太刀を「祢々切丸」と名付けた。
 なお,ねねの姿には諸説あって,前述した虫の妖怪とするものもあるし,祢々が沢に住んでいた河童であったとする説,また鵺(ぬえ)が訛って,ねねとなったというものまでさまざまだが,鳴虫山のネーミングを考えると,虫の妖怪とするのが一番スマートなように思える。また,これは蛇足だが,ねねという言葉は,山津波・土石流を形容したものだとも言われ,そうした自然現象を妖怪化したものが,ねねの正体だという説もある。
 現在,祢々切丸は二荒山神社に展示されていて,一般拝観も可能である。また同神社の弥生祭では,「祢々切丸」「瀬登太刀」「柏太刀」の三本の御神刀を用いたイベントも催されているので,興味がある人はチェックしてみるといいだろう。

 

リンドンの剣

■■Murayama(ライター)■■
先日,実家に電話をかけたMurayamaは,母親から「たまごっち」に関する質問攻めにあったという。理由を聞くと,実家で営んでいる店にたまごっちを忘れていった小学生がいたらしく,「取りにくるまでに死んだらかわいそうだ」と思い,必死にプレイしていたそうだ。一方父親は,近所の子供を集めて「PC寺子屋を作る」とか,「世が世なら,俺がバーチャファイターを作っていた」とか,なかなか熱いことを語っているらしい。いろいろと突っ込みポイントはあるが,それはさておき,さすがMurayamaの両親,といったところか。

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sandm/048/sandm_048.shtml