― 連載 ―


アングラヘル(Anglachel)
 「シルマリルの物語」 
Illustration by つるみとしゆき

 映画化されて大ヒットした「指輪物語」(ロード・オブ・ザ・リング)は,J.R.R.トールキンが作った巨大な神話大系の中の,1エピソードにすぎない。彼の作った神話大系に属する物語といえば,ほかにもドラゴン退治をテーマにした「ホビットの冒険」や,シルマリルという宝玉を巡ってエルフや人間とモルゴスが争う「シルマリルの物語」が挙げられる。とくに「シルマリルの物語」は,「指輪物語」や「ホビットの冒険」で断片的に語られる英雄や神話について詳しく書かれたものであり,これを読むことはトールキンの世界観を理解するうえで重要な意味を持っている。
 「シルマリルの物語」は「創世神話」「神々の物語」「宝玉シルマリルを巡るエルフたちの物語」「第二紀の物語」「力の指輪と第三紀の物語」の5部からなっている。指輪物語で活躍する魔法の武器にまつわる逸話なども語られており,ゲームなどですっかり馴染みのマテリアル“ミスリル”は,実はトールキンの創作物である。また,マイナーではあるが“ガルヴォルン”という金属も彼の創作物だ。今回は「シルマリルの物語」から,ガルヴォルン(Galvorn)で作られたという剣「アングラヘル」(Anglachel)を紹介しよう。

 エルフの名鍛冶エオル 

 ファンタジー世界で鍛冶に優れた種族というと,ドワーフを思い出すだろう。むろんトールキンの世界でもその傾向が強いが,エルフの中にも優れた鍛冶はいた。それがエオル(Eol)である。彼はエルフとしては珍しくドワーフとの親交が深く,いつどこで鍛冶に魅せられたのかは知られていないが,ドワーフの二大都市の一つであるノグロド王国で鍛冶の技術を習得したとされている。ノグロド王国といえば指輪物語にも登場する,名剣ナルシルが鍛えられた場所。そこで鍛冶修行をしたのだから,かなりの腕であったことは間違いないだろう。
 エオルはエルフの都市で暮らすことを好まず,ひっそりとナン・エルモスという森の中で暮らしていた。そんなある日,炎をまとった隕石が落下する。エオルは隕鉄からガルヴォルンという金属を生成すると,アングラヘルとアングウィレルという,黒く輝く剣を鍛え上げた。この二振りの剣はあらゆる金属を切り裂けるほどの切れ味であったという。後日,アングラヘルは灰色王シンゴル(Thingol)に献上されている。
 エオルはゴンドリンから来たアレゼル(Aredhel)というエルフに一目惚れしてしまい,魔法の力を使って結婚し,マイグリン(Maeglin)という子供をもうけた。しかしマイグリンは日に日にゴンドリンへの思いが強くなり,母のアレゼルとともにゴンドリンへと逃げ帰ってしまった。これを追ったエオルは妻アレゼルを矢で射てしまい,その罪を問われて死刑となった。死の際にエオルが呪いの言葉を叫ぶと,彼がこれまでに鍛えたすべて武具は呪いに包まれてしまう。もちろんそれは,シンゴルに贈ったアングラヘルも例外ではなかった。

 呪われた剣アングラヘル 

 人間のトゥーリンは,8歳でエルフの王シンゴルに預けられた。いわば養子のような立場にあった彼は,エルフ達の教育を受けてすくすくと成長し,やがて青年になると17歳で国境警備の任務に就いた。そこで弓の名手であるベレグと仲良くなり,二人の間には友情が芽生えた。だが,平穏な日々は続かなかった。トゥーリンは,あるエルフといざこざを起こした末に殺害してしまう。これはのちに不可抗力であったことが判明して許されたが,トゥーリンは自責の念にかられてエルフの都市ドリアスを出奔してしまった。
 出奔したトゥーリンは各地を放浪していた。あとを追ってきた親友のベレグは,トゥーリンにドリアスへ帰るように説得したが,トゥーリンは拒否してしまう。このままでは帰れないベレグは,トゥーリンと一緒に冒険することに。だが,途中で知り合いになったドワーフの裏切りによってトゥーリンはモルゴスに捕らえられてしまい,二人は離ればなれになってしまう。
 捕らわれの身になったトゥーリンだったが,ある日,寝ているところを何者かに襲われ,とっさに敵の剣を奪うと相手を斬り殺した。だがよく見ると,そこに転がっていたのは親友のベレグの姿。トゥーリンは,決死の覚悟で救出にきたベレグを斬り殺してしまったのだ。このような勘違いが起こったのには理由がある。実はベレグは,ドリアス出発のときにエルフ王シンゴルからアングラヘルを借りていたのだが,アングラヘルが呪われていることを知らなかった。ベレグが寝ているトゥーリンに近づいたとき,剣の呪いによってトゥーリンは襲われたと勘違いしてしまったのである。
 失意のうちに放浪を続けたトゥーリンは,ナルゴスロンドでアングラヘルを鍛え直し,同時に友人の死を悼んでグアサング(死の鉄)と改名した。しかし,それで呪いが消えたわけではなかった。
 放浪の末,トゥーリンは記憶を失った女性と結ばれて幸せをつかむ。だが冒険の中でドラゴンのグラウルングを倒すと,死にゆくグラウルングの口から驚くべき事実を突きつけられる。それはトゥーリンの妻が記憶を失っているのはグラウルングのせいで,しかも彼女はトゥーリンの実の妹だったのだ。これを知った妹はショックを受け,崖から飛び降りて死んでしまう。トゥーリンもまた,地面に刺したアングラヘルに身を投げ,自ら命を絶った。すると剣は粉々に砕け散り,砕け散ったアングラヘルはトゥーリンと共に埋葬されたという。

 あらゆる金属を切り裂き,ドラゴンをも倒したアングラヘルは非常に優秀な剣だったが,悪意を持っており,関係するもの達に不幸をまき散らした。物語中では黒い両手剣として描かれており,アングラヘルという名前は,シンダリン語で“ang=鉄”+“lhach=踊る炎”という意味である。ちなみにグアサング(Gurthang)は,“gurth=死”+“ang=鉄”であるとされている。

 

紫金紅葫蘆

■■Murayama(ライター)■■
先週の渡米話の続き。せっかくアメリカに来たということで,アメリカ在住の松本隆一氏(かつての上司である)と話がしたくなったMurayama。「こちらの電話番号を教えるので,電話ちょーだい」とメールしてみたところ,返ってきたメールは「市内電話しか契約してないから,市外へは電話できない」というもの。松本氏はフレズノの外には友達がいないので,市外契約は必要ないらしい。

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/weekly/sandm/041/sandm_041.shtml