連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第17回:ヒドラ(Hydra)

 剣と魔法の世界に登場するヒドラ(Hydra)は,ドラゴンの亜種として知名度が高く,人気のモンスターである。
 一般的にヒドラといえば,湿地帯や荒れ地などに棲息しているが,容姿に関しては,翼や足の有無など,伝承によって微妙な違いがある。
 しばしば多頭竜と呼ばれることからも分かるように,最大の特徴は複数の頭を持っていること。首の数は5から100と,こちらに関しても,言い伝えによってさまざまである。すべての首は独立して動き,口からは毒を吐き出すので,手練れの戦士であっても苦戦することは必至だろう。
 ヒドラの毒はかなり強力で,毒が風に乗って街まで到達すると,そこの住人達は死に絶えると言われている。また(ギリシャ神話に登場する)ケンタウロスの賢者 ケイローンは不死の存在だったが,あるときヒドラの毒に侵されてしまい(連載12話参照),苦しみ抜いた末に,神に死を願ったという。医療に通じていたケイローンでも治療できなかったとは……。その毒性の強さは,推して知るべしである。
 ファンタジー世界では,多数の石像を見たらメデューサの存在を疑うのが基本(?)だが,なんらかの毒によって荒廃した土地を見つけたら,ヒドラの存在を疑ってみてもいいかもしれない。
 なお,ヒドラには眷属が存在し,有名どころでは炎を吐くパイロヒドラ(Pyro Hydra)がいる(パイロとは,ギリシャ語で熱を指す言葉)。八岐大蛇(やまたのおろち)も,ヒドラの一種と考えていいかもしれない。

 

 ヒドラという名前は,ギリシャ語で“水蛇”という意味である。ギリシャ神話ではテュポンとエキドナの子として生まれており,ヘラによって育てられたという。この経歴だけを見ると,かなりのエリートモンスターである。
 ギリシャ神話におけるヒドラといえば,ヘラクレス(Heracles)の12の難行が真っ先に思い出される。ヘラの嫉妬によって,ヘラクレスは狂気に包まれ,妻と二人の息子を殺してしまう。我に返ったヘラクレスはデルフォイの神殿に向かい,罪ほろぼしをしたいと願う。するとそこで下された神託は,ミュケナイ王エウリュステウスに仕えて,10の試練を一人で達成せよ,というものだった。
 こうして数々の試練に挑戦することになったヘラクレスは,試練の一つとして,レルネの沼に住むヒドラ退治を行うことになった。レルネの沼に到着したヘラクレスは,ヒドラの毒を吸わないように注意しながら激しい戦いを演じた。ヘラクレスは優位に戦いを進めたが,一つの首を切り落とすとそこから二つの首が生えてくるため,予想外の苦戦を強いらてしまう。戦いは膠着状態になったが,ヘラクレスの従者として同行していたイオラオスが,ヒドラの傷口を松明の火で焼けば再生しないことを発見。その助力もあって,ヘラクレスはヒドラの首を次々と切り落としていった。しかし,なぜか中心の首だけは不死だったため,ヘラクレスはその首を地中に埋めると,上に巨石を置いて封印したという。
 こうして試練は達成されたかに見えたが,イオラオスの助力を得て達成したため,神に認定されず,ヘラクレスはさらにもう一つの試練に挑戦しなければならなくなったのである。

 また興味深い話として,ヒドラの実在を示す記録がある。17世紀初めのイギリスの牧師 エドワード・トプセルが記した「は虫類の歴史」(The History of Serpents)によれば,紀元前550年に,ベネチアからトルコへヒドラが運ばれ,フランク王国のクロタールI世が,ダカット金貨6000枚で購入したとされている。さらに,ベネチアの貴族が七つの頭を持つ蛇の剥製を所有していたという記録も残っている。
 古来日本では,猿と魚を独自の技術で縫合して“人魚のミイラ”を作り出し,それを輸出していたという話がある。そうしたことを踏まえると,ひょっとするとヒドラも,どこかの国の輸出品だったのかもしれない……,と考えるのは少々野暮だろうか。

 

次回予告:ドッペルゲンガー

 

■■Murayama(ライター)■■
海外取材へ行くための飛行機に乗り遅れて自腹(20万円以上)を切ったり,区民税を滞納して銀行口座を一時凍結されたりと,お金に関するさまざまなネタを披露してきたMurayamaに,新ネタが。先日,友人と酒を飲み,ベロベロになってタクシーで帰宅したというMurayama。翌日目覚めてから財布を見ると,入れていたはずの数万円が消えていたという。必死になって記憶を辿ったところ,どうやらタクシーの運転手さんに,料金「数千円」ではなく,「数万円」支払ってしまったらしい。……うーん,やっぱり数万円の被害ではつまらないですね。次回はもっと凄いネタをお願いします。


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