連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第12回:ケンタウロス(Centaur)

 ギリシャ神話出身のケンタウロスは,上半身が人間,下半身が馬という姿の種族。独自の文化や社会を持ち,草原などで集団生活をしていることが多い。人間と対立関係にあるわけではないものの,一般的に粗野な種族であるため,状況によってはトラブルが発生することもあるだろう(ギリシャ神話では酒癖が悪いことでも知られている)。
 ケンタウロスには,武器の扱いに長けた優れた戦士が多く,有事の際には棍棒や槍,弓矢などを用いて戦う。また,馬の下半身を持つことからも想像できるように,足場のしっかりした野外での戦闘においては,その機動力と突進力が恐るべき武器となる。
 近接戦闘に際しては,高所から振り下ろされる武器に加え,蹄による蹴りにも注意が必要だろう。よく,脚力は腕力の3倍といわれるが,それは人間に関しての話。馬以上の脚力を誇るケンタウロスの蹴りだけは,食らいたくないものである。
 なお,「ケンタウロス」を半人半獣という意味で用いているケースもあり,人間と馬ならヒッポケンタウロス(Hippocentaur),人間と竜をドラコケンタウロス(Dracocentaur),人間とイルカ(魚)をイクテュオケンタウロス(Ichthyocentaur),人間とロバをオノケンタウロス(Onocentaur)と呼ぶほか,人間と牛,人間と獅子など,さまざまなバリエーションがあるようだ。

 

 ケンタウロスの出自については,ギリシャ神話の中に次のような逸話がある。テッサリアの王イクシオン(Ixion)がゼウス(Zeus)の妻ヘラ(Hera)に惚れてしまい,ヘラを誘惑しようとした。だがそれを知ったゼウスが,ネペレ(雲?)をヘラの姿に作り変え,そうとは知らないイクシオンはそれと交わる。そうして生まれたのがケンタウロスだったというのだ。
 粗暴な種族と前述したが,ケンタウロスの賢者と名高いケイローン(Cheiron)のような例外もある。彼はティタン神族の末弟クロノス(Cronus)と女神ピリュラ(Philyra)との間に生まれた存在。クロノスが妻レアの嫉妬を避けるため,馬に変身して交わったことから,ケイローンはケンタウロスとして生まれたという(ピリュラが牝馬に変身して交わったとする説もある)。
 不死で賢かったケイローンは,太陽神アポロンや女神アルテミスに学び,とくに医術に長けていたことから,ペリオン山で研究をしながら多くの病人を治療したという。ほかにもアキレウス,アスクレピオス,イアソン,ヘラクレス,カストルなど,多数の英雄達に医術や武術を教えた。
 しかし,不死の存在であるケイローンにも,最期のときがやってくる。あるとき,英雄ヘラクレスとケンタウロス達の間で争いが起こり,そのときにヘラクレスが放った矢が,ケイローンに命中してしまったのだ。おまけにその矢には,多頭竜ヒドラの不治の毒が塗ってあったため,不死の肉体を持つケイローンは,死ぬこともできず未来永劫苦しむことになってしまったのだ。
 そこでケイローンは不死の力を放棄して死を選び,天に昇って射手座になったという。ちなみに,射手座と混同されがちな星座にケンタウロス座がある。そちらもケイローンが元だとする説があるが,一方で,ケイローンと同様特殊な(粗野ではない)ケンタウロスであったポロス(Pholos)が元だとする説もある。

 

次回予告:ゾンビ

 

■■Murayama(ライター)■■
先日,1リットル3000円もする「水」に関する記事を書いたというMurayama。執筆にあたり,販売元に電話をかけて商品写真の提供をお願いしたところ,対応してくれたおじさんは「記事を書いてくれるなら,味わって書いてくださいな」と,その水を1ダースも郵送してくれたそうだ。……えーと,今回の著者紹介は不幸なオチがないようです。次回は不幸ネタでお願いしますね,著者紹介が締まらないので。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/012/sam_monster_012.shtml