― 連載 ―

剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜
第11回:グレムリン(Gremlin)

 グレムリン(Gremlin)といえば,1984年にジョー・ダンテ監督による映画「グレムリン」で,一躍有名になった存在である。クリスマスが迫ったある日,主人公は父親から「モグワイ」という不思議な生き物をプレゼントされる。これを飼育するにあたっては,水に濡らさない,明るい光に当てない,夜12時以降は食べ物を与えないなどの決まり事があるのだが,それを守らなかったために,モグワイは凶暴化。グレムリンとなってさまざまな悪さをはたらくというストーリーで,大ヒットした(1990年には「グレムリン2 新種誕生」が公開されている)。
 とはいえ,グレムリン自体は映画から生まれたオリジナルではなく,れっきとしたモンスターである(変身する条件や設定はオリジナルだが)。今回はそんなグレムリンにスポットを当ててみよう。

 グレムリンは妖精の一種で,ゴブリンの亜種であるとの説が有力だが,それでは少々面白くないので,ここではグレムリンを一つの種族として取り上げてみたい。グレムリンといえば,人間よりもはるかに小さい種族で,イタズラ好き。鍛冶職人の家や蒸気機関など,とにかく道具や機械がある場所を好み,それらを隠したり故障させたりする。そして人々があたふたするのを物陰から見て楽しむ程度で,人を殺すような残忍な真似はしないとされている(そもそもそこまでの力がないのかもしれない)。
 また,まれに気まぐれで人々を手伝うこともあるようで,彼らの助力を得た発明家が,優れた成果を挙げるという話もあり,このあたりのシチュエーションは,RPGのシナリオ作りなどにも生かせそうだ。
 モンスターとしてゲームに登場するグレムリンは,おおむねレベルの低いザコとして扱われる。たとえ戦闘になったとしても,粗末な武器や,鋭い爪で攻撃してくる程度で,新米冒険者でもさほど苦戦することはないはずだ。
 ゲームによっては,(映画に登場したグレムリンのように)数に物をいわせて襲いかかってくる場合もあるが,パーティで戦えば,容易にあしらえるに違いない。

 

 グレムリンの歴史は非常に浅く,その名前が広まったのは第二次世界大戦くらいのこと。イギリス軍の兵士の間で,「飛行機などの故障はグレムリンのせいである」という噂が広まったのである。フライト中の飛行機の翼の上にグレムリンがいたとか,グレムリンが燃料を飲んでいたなどという目撃例もある。整備したはずなのにネジが緩んでいたとか,計器類が急におかしくなったとか,そういったトラブルは全部グレムリンのせいというわけだ。こうした機械的な問題/不具合のことを,グレムリン効果(Gremlin Effect)と呼ぶこともある。
 グレムリンという名前の由来は諸説あって,どれが本当なのかは分からないが,「カッセル英語俗信・迷信事典」に面白い説があるので紹介しておこう。同書によればグレムリンという名前は,イギリス空軍のある兵士がつけたという。
 その兵士が所属していた部隊の倉庫には,フレムリン醸造所(Fremlin's Brewery)のビールしかなかったという。このフレムリンと,童話でおなじみのグリム兄弟(Brothers Grimm)の名前を合成したのが,グレムリンというわけだ。
 こうしたルーツを持つことから,グレムリンよけのまじないとして,ビールの空き瓶を置いておくといいとするものがある。グレムリンは空き瓶を見つけると姿を現さない,あるいは中に入ってしまい,おとなしくなるというのだ。ほかにも,飛行機の部品の納品時には,グレムリンのご機嫌をとるために一粒だけキャンディーを同梱するなどの風習も見られる。実に興味深い。
 なお,グレムリンがいたずらをするようになった理由として,次のような説がある。グレムリンは本来は人々に協力する優しい存在だった。器用なグレムリン達は人々の発明や作業に手を貸していたのだが,いつのころからか人々は,グレムリンへの感謝を忘れ,自分達の力だけですべてを成し遂げたのだと勘違いするようになった。これに対しグレムリン達は怒り,やがて人々に悪さをするようになったという。
 文明の発達に伴って住処を追われるモンスターは多いが,グレムリンは文明とともに地位を確立し,存在感をアピールした特異な存在。機械が増えれば増えるほど,彼らの活躍の場も増えそうである。

 

次回予告:ケンタウロス

 

■■Murayama(ライター)■■
前回の著者紹介で,「MurayamaのメインPCのハードディスクは11月7日に壊れる」と書いたが,実際には11月5日に壊れた(ちなみに,新しいハードディスクを例のツールで調べたところ,2007年の5月に壊れるそうだ)。幸い,データのバックアップはある程度済ませていたそうなので,今回の連載は(若干遅れたが)無事に掲載できたわけである。しかし,このタイミングでグレムリン効果を持ち出すなんて,ファンタジー野郎の鏡ですね,まったくもう。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/011/sam_monster_011.shtml