連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第16回:マンドレイク(Mandrake)

 剣と魔法の世界には,植物系のモンスターも多く棲息している。なかでも有名なのは,マンドレイク/マンドラゴラ(Mandrake/Mandragora)だ。ファンタジーファンであれば,一度や二度は聞いたことがあるだろう。
 マンドレイクは人のような形をしている植物で,顔のような頭部を持ち,葉や根などは四肢のようにも見える。植物型のモンスターというと,近くを通りかかった人や動物を襲う,というイメージがあるかもしれないが,マンドレイクは比較的温厚(?)で,危害を加えなければ無害な存在である。
 しかし,無理矢理引っこ抜かれそうになれば,マンドレイクも黙ってはいない。この植物は地中から引き抜かれるときに,恐るべき悲鳴をあげるのだ。この悲鳴を聞いた者は死んでしまうか,気が狂ってしまうというのである。
 しかし,魔術師や錬金術師に高値で取り引きされることに目を付け,マンドレイクの採取を試みる者はあとを絶たない。中には工夫する者もいるようで,耳に綿や蝋などを詰めて防音したうえで,飼い慣らした犬にひもを付けてマンドレイクに結び,遠く離れたところから犬を呼ぶ,というアイデアも生まれている。この方法だと,悲鳴を間近で聞いた犬は死んでしまうが,本人は死ぬことなく,マンドレイクを入手できるというわけだ。
 ちなみに,悲鳴が純粋な音であるならば,サイレンス(沈黙)の呪文などを使ってから引っこ抜くという手も考えられる。ゲーム(主にTRPGか)によっては有効かもしれないので,機会があったら試してみるのも面白いだろう。

 

 マンドレイクといえば,ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」にも“大地から引き抜かれるマンドレイクのごとき金切り声,それを聞いた者は気が狂う……”といった表現がある。
 またグリム兄弟の著書「ドイツ伝説集」にも,興味深い話が書かれている。同書によれば,“盗賊の家系”“盗みを働いた女性”“無実でありながら(拷問などによって)罪を認めてしまった者”などが童貞や処女だった場合,処刑に際して流れた体液の跡から,アルラウネ(Alraune)という植物が生じるという。このアルラウネは,古くは“Alruna”と綴り,“ささやき/ざわめき”を意味するとのこと。魔力を秘めるといわれるルーン文字(Rune)と,同じ起源であるとする説もある。またアルラウネは,絞首台の小さき人という意味の“ガルゲンメンライン”(Galgenmannlein)と呼ばれることもあるそうだ。
 アルラウネの特性はマンドレイクとほぼ同じ。前述したような,犬に抜かせる逸話なども残されているので,まず同じものと考えて良さそうだ(一説によれば,マンドレイクの根の部分をアルラウネと呼ぶらしい)。
 アルラウネを手に入れたら,赤ワインで洗浄した後,布に包んで箱に入れ,金曜日ごとに入浴させたり,新月の日に新しい服を着させたりすると,予言や秘密を聞かせてくれるという。なお所有者が死んでしまった場合は末子が相続し,末子が先に死んだ場合は長男が相続しないといけないらしい。このあたりの逸話は,TRPGのちょっとしたシナリオなどにも使えそうである。
 ちなみに,マンドレイクは実在する植物である。といっても,実在のそれは単なるナス科の植物で,学名をMandragora officinarun Lという。もちろん人型ではないし,抜いたからといって金切り声をあげることもない。ただし,毒性の強い成分を持つアルカロイドが含まれているので,古くからさまざまな使われ方をしていたそうだ。この植物のアルカロイドには幻覚作用があるものも含まれるので,マンドレイクを摂取した人が幻覚を見てしまい,人型をしたマンドレイクの伝承が生まれたのかもしれない。

 

次回予告:ヒドラ

 

■■Murayama(ライター)■■
著者紹介を読み返してみると,やたらと不健康そうなネタが多いMurayamaだが,起床時間は毎日7:30AMで,きちんと朝食を作っているという。生活のリズムが乱れがちなライターとしては,かなり常識的なライフスタイルに思えるが……,夜中(というか朝方)の4時,5時にメッセンジャーの発言が残っていたりするので,微妙なところかもしれない。とりあえず,原稿が早めにもらえれば文句はないので,次週もよろしくお願いします。「DAoC」にはまって,夜更かしばかりせぬように。


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http://www.4gamer.net/weekly/sam_monster/016/sam_monster_016.shtml