
アンダードッグな哀愁がマニア心をくすぐる「Fallout」。一年後の1998年には「Fallout 2」がリリースされ,その後もInterplayで「Fallout 3」が企画されたものの,発売には至らず。2005年のPlayStation 2専用「Fallout: Brotherhood of Steel」が最後の作品となっている
今もそんなに状況が変わっているわけではないが,当時のコンピュータRPGといえば,オークやゴブリン,そしてガーゴイルからドラゴンまでが登場する,“ハイファンタジー”と呼ばれる世界観のもので溢れていた。そんな中,Falloutはアポカリプス後の砂漠化したアメリカという,近未来な設定が目を惹いたゲームだ。
ゲームのオープニングムービーは,'50年代の冷戦期にアメリカで使われた政府の白黒テレビ広告のような雰囲気で,戦時中の様子がにこやかに(?)語られる。アメリカと中国が,原油とウラニウムをめぐってアラスカ・カナダの争奪戦を展開し,2077年には2年越しの核戦争に発展したというバックストーリーだ。
Vaultと呼ばれる核シェルターに避難していたものだけが生き延び,地上世界は,ミュータント化した生物や盗賊のたぐいで溢れている。主人公(プレイヤー)は,現在の南カリフォルニア近辺にあったVault 13内部で,世代交代しながら100年近く仲間と共に生活していた。ところが,浄水用機器が壊れたことから“ウォーターチップ”という部品を探し出すよう長老に求められ,まだ見たことのない外界を旅することになる。
Falloutで特筆できるのは,キャラクター作成の多様性だ。Steve Jackson GamesのGURPSシステムを採用しており,バーサーカー系のMax Stone,アサシン系のNatalia,そして科学者系のAlbertという3人の汎用モデルから,さまざまに調整していける。
キャラクターの基本性能は,StrengthやCharisma,Agilityなど7種類で,中でもLooks(ルックス……つまり見た目)がユニーク。このパラメータが低いと,ゲーム中に出会うNPCから毛嫌いされて,良い情報が引き出せなかったりということが起きるのだ。
そのほか,レベルが上昇するたびにポイントを振り分けていくスキルと,固定能力としてプレイヤーキャラクターが習得できるOptional Traitsという要素もある。スキルは,軽火器,重火器,メレー武器といった戦闘系から,治療,スニーク,ロックピック,兵器修理といった系統,面白いところではNPCとの会話を有利に進めるスピーチや,コンピュータなどにアクセスできるサイエンス,そしてカジノでの勝率を上げるギャンブルまで,実に豊富に用意されている。
攻撃時の命中率やダメージは,キャラクターのスキルや,モンスターとの距離などによって異なってくる。頭,胸,手足など,部位によってもダメージが変わるのが,当時としては斬新だった。

Falloutは,ターン制になっている。性能が格段にアップした現在のPCでプレイすると,街の散策中はリアルタイムなのかターンベースなのか分からないほどサクサク進んでいく。ただ,敵が近くなれば,移動やアクションを行うごとにインタフェース右下のTurnキーを押さなければならない。
村やシェルターなどポイントからポイントへの移動は拡大マップで行い,旅の途中でランダムにモンスターと出会うという,ファミコン世代にはお馴染みの「エンカウント式システム」だ。
クエスト内容は,村人の救出や,輸送キャラバンの護衛といった感じ。クエストはNPCから得られるが,受けるか受けないか,どのように解決するかはプレイヤーの選択次第。うまくいけば,経験値や報酬を得られるわけだ。こういったクエストや,敵と戦って得たアイテムを売るなどしてお金を稼ぎ,武器やアーマーに投資していく。ウォーターチップを探すのが主な目的だが,あちこち寄り道して,いろいろ試したくなるのがFalloutなのである。

Falloutは,映画マッドマックスの舞台のような核戦争によって荒廃した大地で,新たに胎動し始めた人間文明を描く。カジノでの資金調達や,大量殺人,売春の斡旋まで体験できる,ハチャメチャなゲームだった
Falloutのストーリーや設定が“異色”なら,その内容はとにかく“奇抜”。プレイヤーの思うがままに行動できるのだ。善良に生き,クエストを黙々とこなしてもいいし,カジノに入りびたって資金を調達してもいい。とにかくなんでもありで,ゲーム開始直後から次々とNPCを殺戮し,ゲーム中の自分以外のすべての生き物を消してしまうという遊びだって可能なのだ。
村には無邪気に走り回っている子供達がいるが,持っているBBガンを取り上げて,さらには殺してしまうこともできる。今では考えられない仕様だが,さすがにヨーロッパでは当時も問題視され,イギリスやドイツ版ではパッチで子供キャラクターそのものが取り除かれたほど。ほかにも,ヨーロッパ版は死体からの流血がないなど,Falloutが“大人向け”だったのが分かるエピソードが多い。
メッセージにはInterplay特有のブラックユーモアが満載で,ある程度の英語力があれば,かなり楽しめるはず。車やバイクが登場しない,映画「マッドマックス」風の世界がベースかと思いきや,ローブをまとった科学者軍団やエルビスのポスターをつけた宇宙船も登場し,主人公はエネルギー系の銃をも扱えるようになる。裏技も多く,インターネットのウワサを頼りに,さまざまな仕掛けを見つけ出すのも楽しかった。
ただ,これら設定や内容のユニークさとは裏腹に,「Jagged Alliance」や「X-Com」を連想させる伝統的なターン制のゲーム進行が古臭さを感じさせたのは確かで,このあたりがマウスクリックのレスポンスの良さが斬新だったDiabloと命運を分けたようだ。また,とにかくバグが多く,突然NPCが襲い掛かってきたり,口を利いてくれなくなったりするし,パーティメンバーになるNPCにドアや袋小路に立たれて移動できなくなったりする。やはり,どこか一流になれきれないアンダードッグなゲームだったのである。
しかし,アンダードッグなだけに,どこか愛着が湧いているタイトルなのも事実。「ダメな子ほど可愛い」というやつだろうか。
このFalloutシリーズの版権は,Interplayの倒産ののちに,The Elder Scrollシリーズでお馴染みのBethesda Softworksの手に渡った。近々「Fallout 3」の制作発表が行われるだろうことは,昨年のE3で同社ブースにあったポスターからも察することができる。
雪に耐えて梅花麗し。DiabloやBaldur's Gateという超大作の重みに耐えてきた“永遠の佳作”は,やがて雪の中から麗しい花を覗かせることができるのだろうか。