このところ,ナイーブでセンシティブなミュージシャンであるはずのエディーが,必要以上に逞しくなっている。見るたびに生傷が増え,リュートを弾くためというには,不釣合いなくらい腕に筋肉がついて太くなっているのだ。うーむ……これは。
ハードなライブツアーをこなすためにトレーニングでも始めたのかと思って聞いたところ,驚いたことにリュート演奏の合間に中つ国を守るための戦いに参加しているというではないか。とんでもないミュージシャンだなあ,もう。というわけで,そんなエディーから聞いた,血湧き肉躍る戦いの思い出話をお送りしよう。いや,ほんとにミュージシャンなんですよ,彼。
さーて,あれは,ブリー村での話だね。踊る子馬亭でのライブが終わってから,打ち上げで飲んでいたんだ。ホビットは宴会が好きだからね。そしたらさ,「近ごろブリー村に幽霊が出る」とかいう話になったんだ。幽霊だって,皆さん。
バタバー親父の言うことには,ブリー村の南門の近くの寂しい通りに,夜な夜な幽霊が出て,そこを通りかかった人を恨めしそうな顔で見つめるんだそうだ。というわけで,酒の勢いもあったんで,ひとつキモ試しに行ってみようってことになったのさ。懐かしいねえ,キモ試し。
いくらなんでも与太話だろうと思ってたんだけど,そしたらさ,ほんとに出たんだよ,幽霊が。いやー,びっくりしたなあ。一緒に行ったバンドの連中ときたら,とたんにみんな泡食って逃げ出しやがって,情けないヤツらめ。え,オイラ? おいおい,こう見えたってスローハンドのエディー様だぜ。幽霊の恨めしそうな顔を,こう,ぐっと睨みつけて言ってやったんだ。「なんか言いたいことでもあるのか」ってね。
そしたら何が起きたと思う? 幽霊のやつ,身の上話を始めたんだ。なんでも,自分のことを怖がりもせずに話を聞いてくれたのは,オイラが初めてだったんだとさ。で,聞いてみると,なんでも仲間が成仏できずにさまよっているのが気になって自分も成仏できないでいるんだって。“骨男”っていうヤツが仲間の魂を握って,こき使っているらしいんだよね。聞いているうちに,まあ,酔ってたせいもあると思うんだけど,妙にその骨男ってヤツに腹が立ってきてさ,じゃあオイラが一肌脱いでやろうじゃないかってことになったわけさ。
調べてみたところ,骨男はブリー村の西にある塚山ってよばれる丘陵地帯の奥の方にいるらしいってことが分かった。
塚山には,あちこちに古墳やら石碑やらがあって,大昔の戦争で死んだ戦士達が,今でも夜になると合戦をしているとかなんとか。山賊どもさえ夜には絶対に行かないくらいの超デンジャラスな場所さ。
さすがに,そんなところに一人で行くのは無謀だから,村で血の気の多い連中を集めたわけ。どう? オイラでもたまには頭を使うでしょ? で,5人ほど集めて意気揚々と繰り出した。まあ,本当はちょっとおっかなびっくりでもあったんだけど。それにしても,なんだっけ……そうそう,骨男ねえ。
塚山をずんずん進んでいって,もう古森との境に近いあたりだ。神殿かなんかの廃墟のあるところに,なにやら白いものがふわふわしてた。で,出た!
茂みに隠れてそっと近寄ったら,その白いものというのはなんと骸骨のお化けさ。周りにも似たような幽霊がたくさんいて,そいつらにあれこれと命令してるんだ。さすがのオイラも,ちょっと怖かったけど,仲間を集めた手前もあるんで,とりあえず後先考えずに突っ込んで行ったさ。
仲間のみんなも最初はびびってたみたいだったけど,さすがに戦いが始まったらみんな生き生きとしてきた。ついでにオイラも熱くなってきて,久しぶりにホットなリュートを弾きまくったよ!
なかなかの激戦だったけど,まあ,どうにかこうにか骨男を倒したら,とたんにヤツの周りに群がっていた幽霊どもがいっせいに散りだした。やっぱり骨男が,たくさんの死んだヤツらの魂を握っていたんだな。
それからその足でブリー村に戻り,例の幽霊に話してやったら,えらく喜んでねえ。ありがとう,ありがとうって何べんも言いながら消えていったよ。きっと心残りがなくなったんで,成仏できたんだろうなあ……。
オイラもすっかり嬉しくなって,戦いに行った連中と一緒に成仏できた幽霊を祝って朝まで飲み会さ。おかげで,翌日は二日酔いで大変だったけど,いやあ,いいことをすると気持ちがいいなあ。
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この幽霊から貰えるクエストで訪れることになる塚山は,ほかの多くのクエストの舞台ともなっている。そのため,レベル20前後のプレイヤーでいつも賑わっている場所だ。
アンデッドが多数徘徊する危険な場所だが,ここの西側は古森と繋がっている。塚山から古森へ続く道を抜けると,原作小説でフロド達を助けた,あのトム・ボンバディルの家の真横に出るのだ。まあ,だからどうしたと言われても困るのだが,ちょっと得した気分になれる。
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今度は,オイラが中つ国を周っていろいろ体験してきた事件の中でも,飛びきりの話をしようかな。名づけて“風見が丘奪還作戦”さ! タイトルだけでもすごそうでしょ。
知っている人もいるだろうけど,ブリー村を出て東に数日行くと「見限りの宿」っていうとんでもない名前の宿屋があるんだ。実はそこの親父にライブを頼まれてね。宿のほうは名前の通りに半分壊れかけてボロボロだったけど,中は客でごった返して,結論を言えばライブは大成功。客のノリも良かったしギャラもはずんでくれたしで,なんか調子が良かったんで,ホクホクしながら翌日さらに東に足を向けてみたんだ。
街道を進んでいくうち,一人の男が数匹のオークと戦っているのに出くわした。すかさず加勢して,オークどもに速弾きリュートを食らわして叩きのめしてやったんだ。
ケガをしていたその男を,そいつのテントまで運んで手当てをしたりしてるうちに日が暮れちまったんで,ヤツのテントに泊まることになった。
男の名前はカンダイスっていって,なんか気のいいヤツでさ。すっかり意気投合しちまって,何日かそのテントで世話になってたんだよ。ところがある晩,いきなり寝ていたオイラを起こして,ぜひ手伝ってくれって言うんだよ。
なんでも風見が丘ってところがオークに占領されちまって,そのままだとブリー村とかも危ないから,ぜひともオイラの力が必要だって。
そういう事情ならイヤとは言えないやね。風見が丘の麓に行ったら,オイラ達のほかにも何人かが集まってた。カンダイスの言うとおり,オークやゴブリンやワーグといったやばい連中が大挙して風見が丘を占拠し,頂上に前線基地を築こうとしてるらしいんだ。一刻の猶予もならないってんで,オイラ達はそいつらを叩きのめして,風見が丘を取り戻すことにしたのさ。
あの晩,満月がやけにキレイだったのをハッキリ覚えてるよ。
月明かりの中,風見が丘の頂上に向かってオイラ達はひたすら登っていったんだ。
頂上まで半分くらいのところかな,道の先がバリケードでふさがれてるんだよ。おや,っと思った途端,周りからばらばらとゴブリンが出てきやがった。どうやらオイラ達の動きはヤツラにすっかり読まれてて,待ち伏せされてたらしいんだ。大ピンチじゃないか!
もう,親の仇にでも会ったような勢いでリュートを弾きまくったね。仲間もなかなか腕の立つ連中ばかりだったから,なんとかそいつらは倒すことができた。退くか進むかちょっとだけ考えて,やっぱり進むことにした。するとまたバリケードがあって,次のゴブリンが襲ってきた。とにかくもう,次から次へっていう感じ。道は暗いし,足場は悪いしでかなりの激戦だったなあ。オイラのリュートは止むことを知らなかったって感じかな。
やっと頂上の手前まで来たところで,ついにここを仕切っているボスが出てきた。そんとき初めて見たんだけど,そいつがウルク・ハイっていう,オークを何倍も強くしたヤツだったわけだ。
さすがにこいつは強敵だ。なんでも,オークの中から選りすぐられて鍛えられたヤツらしく,何回ももうだめかって思ったくらい強かった。でも,それまでの戦いでチームワークを身につけていたオイラ達には,さすがのウルク・ハイもかなわなかったわけだ。だけど,やっとヤツの息の根を止めてホッとした途端,すっげぇうなり声がしたと思ったら,なんと今度はマウンテントロルが飛び出してきやがったんだ!
ビックリしたねえ。なにしろトロルなんて遠い国での話だと思ってたからさ。まさか目の前に出てくるとは思わないよね。オイラの何倍もあるようなでっかいヤツで,人ひとり分ぐらいある大きな棍棒を軽々と振り回すんだぜ。オークのヤツら,このトロルを最終兵器として隠していたんだよ。
そっから先は,よくおぼえていない。何時間も闘ったような気もするけどね……。とにかく,果てしなく戦いが続いたことは確かだよ。
こちらの気力もほとんど尽きかけてて,もうダメかとも思ったとき,ついに仲間の剣がヤツの心臓を貫き通したんだ。さしものマウンテントロルも心臓を一突きされちゃあたまらなかったらしく,がっくりヒザをついたと思ったら,地響きを上げて倒れこんだ。オイラ,もう精根尽き果てちまってさ。情けない話だけど,その場にへたり込んじまったよ。
あとは夜が明けてから,カンダイスの仲間が大勢来て,風見が丘に建てられていたオーク達の陣地を壊していった。そこで,オイラは初めて気づいたんだけど,カンダイスは野伏の一員だったんだ。
野伏っていうのは,人に知られないように中つ国を周って情報を集めたり,オークやゴブリンなんかと闘ってたりする連中だ。でもまあ,本物を見るのは初めて。
オイラの故郷のホビット庄も,じつはそういう野伏の連中がひそかに警護していたおかげで,今まで平和に暮らしていけたんだって。何のためにそういうことをしているのかまでは教えてくれなかったが,野伏の連中ってとっつきにくいけど,実はみんな良いヤツばかりさ。口数が少ないから余計なことは話さないものの,ハートが熱いんだよね。
熱いハートを持ったヤツに,悪いヤツはいないよ! それから,オイラは野伏を見かけることがあると,ツアーで回っている途中で耳に挟んだことを教えたり,逆に彼らから情報を貰ったりするようになったんだ。いやー,野伏って本当にナイスな連中だな!
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この風見が丘の奪還クエストは,レベル20台における山場の一つといえるクエストだ。
プレイヤー達は,オークによって占領された風見が丘を麓から攻め上るという形で戦いは展開する。夜の山道をひたすら登っては,波状的に襲ってくるゴブリン達と戦わねばならない。
そして,最後の最後にプレイヤーを待ち受けるのがマウンテントロルだ。その士気はなんと1万3000を超えるとか。見た目も中身も文字通りのモンスターで,闘っているうちにプレイヤーの気力が尽きてスキル攻撃ができなくなってしまうのは必至。そんなわけで士気を回復できるポーションがあれば,たくさん持っていこう。
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最近,中つ国もなんだか物騒になってきてねえ。オイラみたいにあちこちを旅してると,いろいろな話を耳に挟むんだけど,とくにゴブリンやオークといったヤツらの動きが目立つような気がする。大丈夫かねえ,本当に。
オークといえば,北連丘でヤツらのでっかい砦が見つかって,そこを攻撃したときのことが思い出されるなあ。いやあ,アレもオイラが大活躍しちゃったんだよね。えへへ。
エステルディンっていう野営地が北連丘の東のほうにあるんだけど,そこには野伏がたくさんいて,彼らの慰問のために大きなライブが開かれてね。おいらも,そのライブに出演したってわけだ。
で,いよいよオイラの出番ってとき,急に会場がざわめきだしたかと思ったら,見ていた野伏の連中がみんなどこかに行っちゃうんだよ。おーい,お客さーん。
なにがなんだか分からずにいたら,知り合いの野伏がオイラを呼びに来て,オークの砦が発見されたから,これから急襲するって言うのさ。
なんでもヤツら,砦の中にどデカイ攻城兵器をたくさん用意していて,それでもって町や村を襲おうと計画しているらしい。こっちは,いざ本番というときにライブが中止になってかなり頭にきてたから,二つ返事で急襲部隊に加わることにしたんだよ。え,逆恨み? そんなことないってば。
いくつかの部隊が編成されたんだけど,オイラの部隊の仕事は砦に侵入してヤツらの攻城兵器に関する情報を集めてくるっていうものだった。一刻の猶予もないっていうんで,とりあえずリュートだけ引っつかんで飛び出したのさ。
ヤツらの砦は,森のはずれに作られてた。これまで見たこともないようなでかい砦でさ,あれを見たとき,あいつらマジでオイラ達に一戦しかける気なんだって分かったよ。
オイラ達の部隊は,砦の指揮官を狙う本隊のための陽動も兼ねていたんで,表門から乗り込んでいった。もう最初っから大激戦さ! とにかく敵の数が多くて,次から次へとまさに湧いてくるっていう表現がぴったり。
敵を見つけてはぶっ倒し,ヤツらの兵器を見つけたら調査するっていう繰り返しさ。攻城戦用の兵器だから,どれもでっかいんだ。ちょっとした家よりも大きくてさ,どうやってあれを動かすんだろうね? とにかく,あんなもんで攻めてきたら,いかに頑丈な門でも一たまりもないだろうね。
二十台目くらいの攻城兵器の調査が終わったところで引き上げのラッパが鳴り,そこで作戦は終了となったんだ。オイラ達も急いで引き返したんだけど,帰り道はオークの死骸が山のようになってて,よくもまあこんなに倒せたもんだと我ながら感心したくらいさ,へへへ。
でも作戦自体は,実は失敗だったんだよ。指揮官を倒しに向かった本隊がトロルの大群に阻まれちまって,砦の中心までたどり着けなかったんだって。なんでも小山のようなトロルが群れになって押し寄せてきたらしい。一騎当千の野伏の連中も,さすがにあのトロルの大群にはかなわなかったんだろう。
でもまあ砦自体に大打撃を与えられたから,作戦の半分は成功したといえるかな。あれだけの被害を立て直すには,かなり時間がかかるだろうからね。で,こんどは,こっちの番ってわけさ。
大部隊を率いての戦いでは被害が出てしょうがないってんで,少数精鋭の部隊を砦に忍び込ませて指揮官を狙うことにしたみたいだよ。
もちろん,オイラもその作戦に志願したさ。この美しい中つ国で,あんなオークやトロルどもが大きな顔をしてるのには腹が立つからね。おいらのライブを潰してくれた代償は,きっちりと払ってもらうつもりさ。見てろよオークの野郎! オイラの熱い演奏をまいりました,ってほど聞かせてやるぜ。
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北連丘はブリー村の北,溝脚橋を過ぎたあたりに広がる丘陵地帯だ。アンデッドのさまようフォルノスト野を見るあたりで,街道は大きく東へ向きを変え,やがて野伏達の野営地エステルディンに至る。
エステルディンの北にはドワーフが暮らすオスリカーが,南には東から逃れてきたエルフの隠れ里リン・ギリアスがある。
北連丘はクエストの宝庫だ。レベル20半ばくらいから,ここでクエストを始めていればレベル30の半ばくらいまでは楽に到達できるだろう。ぜひがんばってほしい。
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Illustration by めざし
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さて,ミュージシャンというよりは,まるで冒険者のようなエディーの活躍ぶりはいかがだったろうか。どうやらこのところエディーの心境には微妙な変化があるらしく,中つ国の将来を真剣に考え始めているようだ。なにはともあれ,ただただエディーの無事を祈るばかりである。
とはいえ,こんなにハードな冒険をしているにもかかわらず,なぜ相変わらずポッチャリ体型なのか? と聞いてみたところ,ホビットは一日に6回は食事をすると言いながら,特大の穴ウサギパイをぺろりと平らげてしまった。ダイエットという言葉は,ホビットの辞書には載っていないようである。
さて,「今日のエディー」だが,いつも「イマイチだぞエディー」というところばかりお見せしている気がしてしょうがないので,今回は彼の戦いっぷりを堪能していただくことに。戦闘もちゃんとこなすエディー,そして戦い合間にリュートを奏でるエディーの愁いを帯びた姿もなかなかいいんじゃないかと思うが,そうでもない?