連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年7月20日掲載

 主催者,参加者ともにドタバタ気味だった新生E3,E3 Business and Media Summit 2007が終わった。多くの問題を抱えたE3をより良いものとするべく生まれ変わったイベントのはずだったのだが,結果としてより多くの問題を露呈させてしまった。今回は,取材の内情を少々暴露しつつ,メディアという立場からみたE3 Business and Media Summit 2007の実情をお伝えしよう。

 

E3 Media and Business Summit取材外伝

 

大騒ぎのイベントが,
じっくりゲームを見る静かな環境へ

 

プレスルームは,初日からガラガラだった隣部屋の受付よりも狭かった。カーテンで仕切られた右隣がカンファレンスセンターだが,300人ほどしか収容できずに,人で溢れることがしばしば。優雅なはずなのに……

「E3は死んだ」
 これは,E3 Business and Media Summit (以下,E3 Summit)の会場内のアチコチから聞こえてきた声である。E3 Summitには,大きなモニターに映し出されるムービー,人の声が聞き取れないほどの大音響,そしてコンパニオン達やノベルティをばらまく広報スタッフの姿はなく,これまでの“ゲーム業界最大のお祭り”というイメージとは程遠いものになっていた。死んだかどうかはともかく,E3 Summitは,我々の知るE3ではなかったのだ。

 E3 Summitは,これまでと同じく3日間にわたって開催されたが,全体的には間延びした感が否めなかった。注目作を持つゲーム会社はほぼ参加しているとはいえ,参加企業が400社から37社に絞り込まれたことで,取材対象が減ってしまったのだ。参加者も5万人の“業界関係者”から,メディアを中心にした5000人となり,各メーカーのミーティングルームもがら空き状態であることが多かった。
 これまでのように,ブースからブースの間を人ごみを縫って渡り歩くような,足を使って動き回る取材とは一転,取材の合間にノートPCを開けて,原稿を書き始められるほどだった。

 E3 Summitは,開催前から様子がまったく違っていた。完全招待制となったことで,参加資格が回ってきたマスコミ関係者は,FIFA ワールドカップのチケットでも入手したかのような気分だったに違いない。しかし,当然のことながら各メディアは取材人員を大幅に削減せざるを得ず,どこも不満が大きかった。
 これまでのE3では,出席者は商談や取材で忙しい業界関係者ばかりのはずなのに,「Half-Life 2」のムービーを見るのに2時間も並ぶ人達や,任天堂からノベルティを受け取るために,1時間以上も待っている余裕がある人達が大量にいるなど,プロ以外の人達が混ざり込んでいた。その人達全員が,“プロを装った野次馬”とはいわないが,E3 Summitでは完全招待制になり参加人数が絞られたことで,楽に取材できるはずだった。

 

 

移動時間と待ち時間の無駄使い

 

E3 Summitは,プレスルームのあるFairmont Hotel,展示会場となっていたThe Barker Hangar,そして各社がミーティングを行う海岸近くのホテル群と,3か所で開催された。おのずと,シャトルバスの中ですごす無駄な時間が増えた

 しかし,いざフタを開けてみると,そんなことは一切なかった。セキュリティチェックは非常に厳しく,参加パスに顔写真まで貼り付けられた。とくに初日は大変で,どこを通るにもパスを警備員の眼前に上げて,自分の身分を明らかにせねばならないほどだったのだ。
 しかも,プレスカンファレンスの多くは予約制になっており,前もって参加を要請していないメディアは,門前払いにあうか,開催ギリギリまで外で列を作って待たされるというような仕打ちにあった。そもそも,イベント自体を完全招待制にしているのに,カンファレンスの入場者を制限する理由が分からない。任天堂,Sony Computer Entertainment,そしてMicrosoftといった集客力のあるプラットフォームホルダー3社のカンファレンスならまだしも,ほとんどのソフトウェアメーカーのカンファレンス内容は大したものではなく,個別のアポを取って補足しなければ,記事にできないような情報しか発表されなかったというのが実情だ。そして,各カンファレンスの細かな問題よりもジャーナリスト達が一番の不満に感じていたのは,開催会場の不便さである。会場は,大きく分けて

  • (1)プレスルームとカンファレンスルームのあるFairmont Hotel
  • (2)各社のミーティングルームがあるハイウェイ10号の西端にあるホテル群
  • (3)ゲームの展示が行われていたサンタモニカ空港内の格納庫

 の三つだ。それぞれ歩くのには遠過ぎるので,主催者側からシャトルバスが用意されていた。ところが,シャトルバスの本数は少なく,20分も待たされることなどは当たり前。途中のホテルに立ち寄るといったことも多く,到着までにさらに20分もの無駄な時間を費やすなど,取材をスケジュール一杯に詰め込んだ我々にとっては,もったいない時間が流れていく。おのずと,ミーティングやプレスカンファレンスに間に合わないといった支障も出たわけだ。

 

 

何のための招待制,セキュリティチェックだったのか

 

 E3 Summitの主催者であるESA(Electronic Software Association)は,当初「静かな環境で影響力のあるマスコミ関係者にじっくりとゲームを見てもらう」ということを考えていた。ゲームを見せる側はホテルで寝泊りし,朝になったらミーティングルームに下りていく……,というのは確かに理想的だ。大音響の中で,誰とも分からない人に向かってゲームを説明する必要がなくなり,ずいぶんと楽になったはずだ。

 

E3 Summitの主役であるESAメンバーの19企業は,サンタモニカのホテルのミーティングルームを借り切ってゲームのデモを行う。写真は,ビーチに隣接したCasa DelMarに陣取っていた2K Games

 しかし,これだけ移動や待機に時間をとられてしまっては,招待制で参加人数を削られているメディア側にとっては大変な労力と時間の無駄となる。結局,「静かな場所でじっくりゲームを見る」といっても,ほとんどのミーティングは30分ほどであり,ムービーだけを見せられて終わることも多かった。
 これなら,わざわざマスコミに旅費と時間を捻出させることもなく,インターネットにムービーを流して直接ファンに情報提供する,という手段が本気で検討されてもおかしくはないだろう。実際,各プラットフォームホルダーは,カンファレンスの模様をウェブでライブ中継しており,ジャーナリストが記事にするよりも早くファンの手元に直接情報が届くようになっていた。この手法は今後も増えていくはずであり,E3 Summitが今回のような形を取る限り,その影響力は大きくなるだろう。しかし,それは,とりもなおさず,E3 Summitの必要性低下の裏返しでもあるのだ。

 

 そもそも,ジャーナリストは完全招待制,というのはいかがなものだろう。多くのメディアやフリージャーナリストらは,招待を受けるのが難しかったのは事実であり,ファンからは「ESAや参加企業にとって利益になるメディアしか呼ばれていない」と受け取られかねない。人数制限がかかったことで,どのメディアも情報を網羅するのは不可能に近かったはずだ。
 ジャーナリスト達からの不満が爆発したのか,2日目からはセキュリティが途端に甘くなり,警備員は誰もパスをチェックしなくなった。筆者は三日目にパスを忘れてしまったのだが,コンピュータやリストから身分照会をするまでもなく,即席のストラップを巻かれてラクラク取材を継続することができたほどだ。時間に遅れても,アポを取っていなくても,気軽にミーティングルームに入れてもらえるようになっていた。
 某メーカーのプレスカンファレンスでは,予約しておいた筆者達の並ぶ列よりも,予約をしなかった人達が先に通されるなど,各社の不手際も目立っていた。こういったことをなくすために,入場できるメディアの数を減らしているのに,これでは意味がない。E3 Summitをメディアへのお披露目やアピールを目的とするのであれば,もっとジャーナリストにとって取材しやすい土台を作ってほしいものである。

 

 

ゲーム産業の「閂」,としてのE3の価値と今後

 

ほかの場所からとくに離れていたのが,展示会場だったThe Barker Hangar。テロの脅威が猛威を振るうご時世に,空港内部でゲームショウをやる意味が分からない。セキュリティが物々しく並んでいたが,内部の展示は各社とも力を抜きすぎ

 北米市場の強さや各企業の堅調さから見て,E3 Summitの縮小をもって,北米ゲーム産業の弱体化を叫ぶのは気が早過ぎる。E3 Summit特集記事「番外編:新しく生まれ変わったE3 Summitに見る,ゲーム産業新時代の幕開け」でも述べていることだが,このE3 Summitの変化は,ESAに参加する企業19社を中心にした,「メディアへの露出の優先化」であると見るべきだ。
 また,各プラットフォームホルダーはもちろん,E3 Summitに参加していたパブリッシャでさえ,独自にプレスイベントを開くようになってきているのも事実である。E3 Summitの直前だけでも,Electronic Arts,Ubisoft Entertainment,Sony Online Entertainment,Bethesda Softworksなどが,そのような“完全招待制”の会合を開いているのだ。こちらのほうが,各社にとって費用,時間,情報コントロールなどにおいて,都合が良いのはいうまでもない。
 プラットフォームホルダー3社を含める,大手ゲーム企業が顔を揃える「ゲーム産業の祭典」としての重要性は,今でも十分に評価できるだろう。今回のE3 Summitが不評だったからといって,アメリカにおけるゲームイベントそのものがなくなってしまうことはないわけで,来年もE3が開催されるのは間違いないのだ。しかし,今回の状況を考えると, 招待客だけのトレードショウが存続することに意味があるのかどうかを,ESAはもう一度考えなければならないだろう。

 次世代機が出揃い,モバイルゲームやオンラインゲームが世界中に浸透し始めているほか,カジュアルゲームやシリアスゲームなど,ゲーム産業は多角的に進化している。それを束ねるゲームイベントがあってもしかるべきだが,今年のようなE3 Summitにその役目が担えているとはいえない。さらに良くなるのか,もしくはほかのゲームイベントが台頭するのか……。ゲームファン,そしてメディアの人間として,その動向を見守っていきたい。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。E3 Summit取材中,夕食2回をロサンゼルス界隈に展開する吉野家で食したという奥谷氏。日本では考えられないほどのサービスの悪さで,混んでもないのに10分近くも待たされたという。オーダー五つをさばけずにアタフタする店員のヴィンセント君を見て,同じく取材に加わっていた松本と共に,「ここで働けば大成できそうだ」と転職を考えてたとか,いなかったとか……。


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