連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年7月27日掲載

 期待作が多く出展されたE3 Media and Business Summit 2007 (以下,E3 Summit)では, Unreal Engine 3のライセンスを受けて開発が進められているゲームの多さが目に付いた。すでに30以上のプロジェクトが,プラットフォームを問わずに進んでいる。今回は,その快進撃を始めたUnreal Engine 3の近況について紹介しよう。

 

E3 Summitの「陰の主役」

 

E3 Summitの「陰の主役」

 

Epic Gamesのクリフ・ブレジンスキー(Cliff Bleszinski)氏。「Gears of War」などUnrealユニバースのデザイナーとして知られる。Epic Games作品に限らず,Unrealエンジン利用のゲームソフトはアチコチで確認できた

 E3 Summitの“戦後処理”が一息つき,欧米の各メディアでは“ベスト・オブ・ショウ”の文字が並び始めた。不評だったE3 Summitだが,主催団体のESA(Electronic Software Association)では,来年の計画がすでに進行している。不仲で知られていたESAとロサンゼルス郡との契約もついに満了。今後は,カリフォルニア州内の別都市か,大型イベントの開きやすい他州で開催されることになるようだ。

 さて,今回のE3 Summitを思い返してみると,数々のイメージの断片に必ず顔を見せる存在があった。MicrosoftやSony Computer Entertainmentのプレスカンファレンスはもちろん,各社のラインナップに必ず一つや二つは登場し,まさに「陰の主役」といえるほど重要な位置にあったもの……,そう,カジュアルゲームだ。
 というボケはさておいて,カジュアルゲームの本格的な浸透に負けない存在感を示していたのが,「Unreal Engine 3」で制作されているゲームだろう。Unreal Engine自体やゲームエンジンのライセンスビジネスに関しては,2005年に掲載した「第58回:Unreal Engine 3の快進撃なるか!」で詳しく書いているので,そちらを参照してもらいたい。今回は,実際に快進撃と断言していいほどE3 Summitのアチコチで見られたUnreal Engine 3のソフト群を中心にお伝えする。

 1998年にEpic Gamesが開発した「Unreal」のもとになり,ライセンス供与を目的に開発が続けられているゲームエンジンの第3世代にあたるのがUnreal Engine 3だ。このエンジンを採用して大ヒットを記録した「Gears of War」が発売された2006年以前から,Epic Gamesはマルチプラットフォーム戦略でアグレッシブなマーケティングを展開。現在,すでに30社近くとの提携を果たしている。

 

 

30本以上のUnreal Engine 3採用ゲームが発表に

 

 Unreal Engine 2,およびUnreal Engine 2.5世代では50作近いゲームがリリースされたものの,自社の「Unreal Tournament」や「Unreal Championship」,Ubisoft EntertainmentのTom Clancy'sシリーズ,そしてGearbox SoftwareのBrothers in Armsシリーズで,そのラインナップの半分近くを占めていた。
 しかし,Unreal Engine 3では30以上の会社と提携し,30本以上の制作発表が行われている。これまでのゲームとは異なり,どれも素人目にはUnreal Engineが利用されているとは分からないようになった。2006年11月の発売より10週間で300万本のセールスを記録したGears of Warの成功も,このUnreal Engine 3をゲーマー達に印象付けるのに貢献したのは間違いない。

 

Electronic ArtsがUnreal Engine 3を使って開発中のFPS期待作が,8月に発売される予定の「Medal of Honor: Airborne」だ。このエンジンをベースにさまざまなプラグインも利用しているようで,思考ルーチンや表情アニメーションは秀逸

 Unreal Engine 3のライセンスの提携相手は,BiowareやIrrational Games,Kaos Studiosといったアメリカで大きな注目を浴びている開発専門のメーカーだけでなく,セガ,カプコン,スクウェア・エニックス,コーエー,ミストウォーカーなど,日本のそうそうたる顔ぶれにも及ぶ。さらに,UbisoftやMidway Entertainmentから複数のプロジェクトでのUnreal Engine利用などの大口の顧客も獲得したほか,面白いことに数年前に「RenderWare」を買収したElectronic Artsや,id Softwareのゲームエンジンを優先的にライセンスできる立場にあるはずのActivisionも,Unreal Engine 3の使用権を取得したというニュースも入っている。

 

 

Unreal Engine 3の懸念点と今後

 

 もちろん,そんな快進撃を続けているUnreal Engine 3が抱える問題も表面化してきている。公式サイトで公表されているライセンス価格は,Unreal Engine 2.5で35万ドル(約4200万円)となり,これに加えて完成したゲームの売り上げ3%がロイヤリティとして徴収されるという仕組みだ。このロイヤリティを払わないようにすることができるが,その場合は75万ドル(約9000万円)が求められる。
 Unreal Engine 3のライセンス料に関する詳細は明かされていないものの,そのボリュームからこれ以上の価格帯であることは容易に想像がつく。
 また,Unreal Engine 3の開発そのものが遅れたため,ライセンスを受けたゲーム開発会社からの不満は高まり,カナダのSilicon Knightsはアクションゲーム「Too Human」の開発において,余計な経費を出費させられたとEpic Gamesを提訴した。Epic Gamesが自社のGears of Warの先行発売にとらわれ,ライセンスを受けた側を蔑ろにしたというのがSilicon Knightsの言い分だ。しばらく前には,ナムコも「Frame City Killer」というXbox 360用ソフトのプロジェクトをキャンセルしたが,これも同じような理由かもしれない。

 

Xbox 360専用タイトルだが,派手なアクションによる爽快感がウリのSiliconKnightsの「Too Human」。開発元のSilicon Knightsは,「BloodOmen: Legacy of Cain」や「Metal Solid Gear: The TwinSnakes」(GameCube)を開発した会社だ。Epic Gamesとの訴訟の行方はいかに?

 良くも悪くもゲーム開発の現場に大きな影響力を持ちつつあるEpic GamesのUnreal Engine 3。先日,MicrosoftがPCでのオンラインゲーム市場の統一化に乗り出したといえる「Games for Windows - LIVE」を,Unreal Engine 3がサポートすると発表された。その一方で,Sony Computer EntertainmentはEpic Gamesにプログラミング専門チームを送り込み,Unreal TechnologyのPlayStation 3への対応を強化させている。プラットフォームホルダー同士の間で,Unreal Engine 3をめぐった駆け引きが行われているようだ。
 GDC 2007(Game Developers Conference)では,このUnreal Engineの開発に当初から携わるTim Sweeney(ティム・スウィーニー)氏が「Unreal Engine 4」について言及。2008年頃から実質的な開発に着手し,5年越しで2012年には新世代になると発言した。過去のサイクルを考えると,この頃には新しいゲーム機が誕生している可能性が高い。ひょっとするとタイミングを合わせているのかもしれない。いずれにせよ,今後もしばらくは,Unreal Engineについてのニュースや同エンジンを採用した新作の話題が,ひっきりなしに続いていくことだろう。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近買ったばかりの度入りサングラスを愛用している奥谷氏。以前使っていたメガネは娘に踏まれて,使い物にならない状態になっているという。「普段はメガネを使わないので,買い替える気にならない」と話す奥谷氏だが,E3 Summitの取材時でカンファレンスに参加したときは,照明が落ちていたにもかかわらず,サングラスをかけたままだった。さらに,映画館の中でも度入りのサングラスを着用していたとか。やっぱり見えていないようなので,素直にメガネを買ったほうがよさそうですよ。


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