連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年7月6日掲載

 映画やドラマではよく耳にするリメイクものは,“オリジナル作品を超えられない”というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。しかし,最近のゲーム業界では,数多くリリースされるリメイク作品が,それなりの成功を収めている。今回は,発売されたばかりの「Lara Croft Tomb Raider: Anniversary」など,リメイクゲームを分析してみよう。

 

リメイクゲームの持つ意味

 

Tomb Raiderオリジナル版のリメイクが盛況

 

すでにリリースされたPC,PlayStation 2版が人気のLara Croft Tomb Raider: Anniversary。今後,PSP,Wii,Xbox 360にも順次投入されていく予定だ。伝説のScionを追うアドベンチャーを再度体験できる

 ちょうど1か月ほど前に,Eidos InteractiveのLara Croft Tomb Raider: Anniversaryがリリースされた。これは,1996年11月にリリースされたTomb Raiderの第1作を,Tomb Raider: Legendのゲームエンジンで“リメイク”したタイトルで,開発は「Tomb Raider: Legend」を手がけたCrystal Dynamicsが行っている。
 北米とヨーロッパでは,PCとPlayStation 2でリリースされ,本場といえるイギリスでは,チャートで2位になるほどの人気を得た。リメイクでありながら,欧米のゲームメディアではおおむね好評で,ポジティブな内容のレビューなどが多く,セールスに良い影響が出ているようだ。
 Tomb Raider: AnniversaryのPC版は,SteamやGameTapといったデジタル販売が行われているほか,2007年中にはWiiやXbox 360でもリリースが予定されている。Xbox 360は,エピソディック形式で販売されるという。

 

 Eidos Interactiveにとって,Tomb Raider: Anniversaryのヒットは,全プラットフォーム合計で300万本という売り上げを記録した,Tomb Raider: Legendに続く成功だ。また,主人公ララ・クロフトの人気が衰えていなかったことを,再認識させてくれた結果ともいえるだろう。Eidos Interactiveという名前も,身売り先であるSCi Gamesのブランドとして存続していくことが決定し,現在はそのカナダ支部で「Deus Ex」の新作にも着手している。「Commandos」「Hitman」「Legacy of Kain」といったヒット作の権利を所有しているだけに,再びPCゲーム業界に,その名を轟かす日がくるかもしれない。

 Tomb Raider: Anniversaryは,ララ・クロフトのポリゴン数が500から7000に増えるなど,オリジナル版と比べビジュアル面で驚くほどの進化を遂げているが,ゲーム内容そのものは,良くも悪くもリメイク作品である。ペルー,エジプト,そしてアトランティスの島を駆けめぐり,クマやオオカミ,コウモリといった野生動物に悩まされるのも昔どおりなのだ。
 とはいえ,グラフィックス以外での変更点もあり,いくつかのマップや小部屋は削除されており,オリジナル作品よりも短くなっている。しかし,それゆえに無駄がなくなり,スピーディに展開していき,Legendばりのアクションになっているのは,遊んでいて悪くはない感覚だ。

 

 

失われかけたアイデアと経験をリサイクルできる
メディア

 

 このような,懐古趣味ともいうべきゲームソフトのリメイクは,昔から存在していて珍しいものではない。MODでは,「DOOM」や「Ultima」シリーズなど,以前からさまざまな作品がリメイクされているし,かなりゲーム性が変わったとはいえ,Sid Meier(シド・マイヤー)氏も「Sid Meier's Pirates!」(2004年)で多くのファンだけでなく,新しいプレイヤー達も熱狂させた。日本でも,1996年にリリースされた「バイオハザード」が,2002年にニンテンドーゲームキューブ版で登場しているし,1990年にファミリーコンピュータで発売された「ファイナルファンタジーIII」が,2006年にニンテンドーDSでリリースされ,日本だけでも第1週の売上本数が50万本近くを記録した。
 とりわけ,Xbox Live!などによるカジュアルゲームの勃興は,懐かしいゲームのリメイクにも拍車をかけているようで,新生パックマンの「PAC-MAN Championship Edition」でトーナメントが行われ,「Prince of Persia Classic」の復活に狂喜するプレイヤーが出ている。

 

1989年にPCゲームとして登場した,横スクロールアクションの金字塔を3Dで復刻させた「Prince of Persia Classic」。60分の制限付きとゲームは短くなっているが, Xbox Live!で堪能できる

 リメイクといえば,映画ではオリジナルを超えたという評価をなかなか得られないが,ゲームではそうでもない。そのことは,Tomb Raider: Anniversaryを含めた,上記の作品群の成功からも分かるだろう。だが,リメイク版が次々とリリースされる現状に対して,「ゲーム制作のアイデアが枯渇してきている」と考える人や,“安易な銭稼ぎの手段”と卑下する人もいるのではないだろうか。しかし,本当にそうなのだろうか?

 ゲームが映画などほかのエンターテイメント分野と大きく異なる部分は,その接点となるプラットフォームが数年に一度,劇的な技術進歩を遂げることにある。それまでに蓄積されてきたライブラリが,(新しく触れたいと思っている)多くの人には,過去の遺物のような存在になってしまうのだ。
 技術の進歩が著しい若いメディアである宿命かもしれないが,「DOOM IIとDuke Nukem 3Dはどちらも名作だ」とか「DiabloってRPGの概念を変えた作品だよね」などという話を聞いて興味を持ったとしても,レンタル店で探してきて手軽に遊ぶというわけにはいかない。
 大袈裟にいえば,ゲームにおけるリメイクというのは,ライブラリを構築できない進化過程にあるメディアが,過去の名作を再び表舞台に立たせるための手段なのである。昔の体験を懐かしむ古参のプレイヤーにとってのものだけでなく,過去の秀作のデキを味わってみたいという,新たなプレイヤー達の欲求を満たす方法だ。

 その点から見れば,Tomb Raider: Anniversaryのような質の高いリメイクが増えているのは,ゲーム業界にとって悪いことではないだろう。開発元や知的財産権を所有している側は,現在進行形の技術を使って昔のゲームを復活させることで,それなりの利益を得られる。面白いアイデアが何度もリサイクルされて,そのたびに古参のゲーマーを熱中させ,さらに新しいファンを獲得していく。そのような特質を見出したゲーム業界は,今後もリメイクを次々と投入していくだろう。もちろん,中途半端なリメイクものを乱発して,昔のほうが良かった,という状況は避けてもらいたい。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。最近,6歳になる息子さんに水筒をあげたという奥谷氏。奥谷家には,「ジュースは一日一杯,あとは水かミルク」という子供用ルールがあるそうだが,奥さんが食器を洗った際に,水筒の中身が水ではなくジュースだったことが判明したそうだ。奥谷氏は「将来は職場でお酒を隠し飲むようになるんじゃないか」と,かなり先の心配しているという。そんなことよりも,次回のネタを早く決めてくださいね。


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