連載 : 奥谷海人のAccess Accepted


奥谷海人のAccess Accepted

2007年6月29日掲載

 登録者数が全世界で800万人を超えたという,オンラインゲームの雄,「World of Warcraft」。しかし,その成長がついに下り坂にさしかかってきたようだ。今回は,ファンにとっては不安材料になるかもしれないニュースも織り交ぜて,最近のWoW事情をお伝えする。

 

どうなるWorld of Warcraft

 

WoWのアクセス者数が,ついに下降線に

 

このグラフは,「Census +」を導入したWoWプレイヤーのアクセス者数が月ごとにまとめられたものだ。2007年2月をピークに下降線をたどっている(WarcraftRealmsの資料より)

「World of Warcraft」(以下,WoW)の人気も,ついに斜陽を迎え始めたのだろうか? WoWは,拡張パック「World of Warcraft: The Burning Crusade」が2007年1月にリリースされて,その人気に拍車がかかっているのかと思いきや,ここ数か月はその勢いが沈下。プレイをやめている人が,多くなっているのではないかといわれている。

   なにを根拠にそんな話が出ているのかというと,WoW関連のデータ集計サイトとして有名なWarcraftRealmsのデータだ。このゲームサイトは,「Census +」という独自開発したUI MOD(ユーザーインタフェースMOD)を,北米および欧州のWoWプレイヤーに無償で提供し,それを通じてさまざまなデータを集計している。そのWarcraftRealmsが公開したデータによると,これまで右肩上がりで成長してきたWoWのアクセス者数が,2007年2月をピークに下がり始めているのだ。

 拡張パックのThe Burning Crusadeは,プレイアブルな種族や新しい土地などが追加される,プレイヤー達が待ちに待った大幅アップデートだった。発売初日で240万本の売り上げを記録したという実績からも,その期待の高さが分かる。まだThe Burning Crusadeの発売前よりもアクセス者数が多いので,WoWに陰りが見え始めたと考えるのは時期尚早かもしれない。本作は,北米MMORPG市場の55%を占めており,依然として現行サービスの頂点に立っていることに変わりない。だが,前述したように,The Burning Crusadeの発売からそれほど時間が経っていないのに,それまで増え続けていたアクセス者数が減り始めたのも事実だ。今後は「EverQuest」のように小刻みに拡張パックを出すといったファンサービスを的確に行っていかなければ,驚くほどのスピードで衰退していく可能性を否定できないだろう。

 

 

コミュニティサイト運営会社の悪い噂がもたらす影響

 

ファンサイトのセミプロ化は,最近のゲーム業界ではありふれた話ではあるが,元RMT業者が絡むとなると,事情は少々複雑だ。その真偽がどうであれ,その不透明さがWoWにとっては痛手となるかもしれない

 WoWの周辺には,どこかきな臭い話もある。先日,ZAM Networkという新興のMMOG専門メディアが,独立系のデータベースサイトとして知られているWowheadを,100万ドル(約1億2000万円)で買収したのだ。  ZAM Networkは,すでにAllakhazamThottbotMMO Interfaceなど,WoWをメインにしたオンラインゲームコミュニティの中核をなしてきたサイトを,次々と買収している。中国や韓国での展開もスタートしており,かなりアグレッシブに活動しているようだ。
 もちろんZAM Networkによる買収自体が悪いという話ではないし,そのビジネスにケチをつけようという気はない。なにが懸念点かというと,このZAM Networkの親会社がAffinity Mediaで,IGEを傘下にしていたことがあるという過去だ。IGEは,さまざまなゲームのゲーム内通貨を売買しており,多くのファンや業界関係者から問題視されている会社なのだ(RMT自体が問題かどうかは別に議論が必要だが,そういった行為を規約で禁止しているゲームで行っている以上,問題視されても仕方がないだろう)。

 Affinity Mediaは,IGEの経営権を創設者の一人に戻しており,現在は関係がないと表明している。だが,経営幹部達はゴールドファーマー(RMTを目的にオンラインゲームをプレイし続ける人)達の代弁者として,業界カンファレンスに出席することがあり,彼らがRMT業者とのつながりを断ち切れていない,という印象を持たれやすい状況だ。
 Affinity MediaとIGEが実際にはどのような関係なのかにかかわらず,このような話題の広まりは,コミュニティ育成のマイナス材料となり,新規プレイヤー獲得の足枷となる可能性が高い。これまで,ゴールドファーマーを含め規約違反と見なされる,さまざまなプレイヤーや業者を追放してきたBlizzard Entertainmentも,あの手この手で進化していく第三者の存在には頭を悩ませているようだ。
 プレイヤー人口があまりにも多く,Blizzardもすべてに手が回らない状態であるのだろう。だが,今後リリースされる数多くのライバルMMOにとっては,いまがチャンスでもある。WoWがファンサービスにもたつけば,その王座を奪い取る可能性が増えていくのだから。

 

 

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。度入りのサングラスを欲しがっていた,明るい太陽がサンサンと降り注ぐカリフォルニア在住の奥谷氏。誕生日にかこつけて奥さんの了解を得て,先日ついに手に入れたそうだ。その偏光レンズを使ったサングラスをかけると,これまで見えなかった,油の染みのような模様がガラスに見えるようになり,「どの車のガラスも違った模様があってキレイ」と,子供のようにはしゃいでいる。くれぐれも,対向車のガラスばかり見ないで,普通に運転してくださいね。


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