― 連載 ―

シヴィライゼーション4 (午前)3時のおやつは文明道
Tサイド最終回:子供と遊ぶ「シヴィライゼーション4」

こういった1枚の絵から話題が自然に紡ぎ出されることもある。対戦型アクション以外にも,子供と一緒に楽しめるゲームはあるのだ

 ここまで「シヴィライゼーション4」(以下,Civ4)のさまざまな楽しみ方を紹介してきたが,最後にやや年齢層の高い読者に向けて,いささか毛色の異なる提案をしてみたい。タイトルそのままだが,子供と一緒にCiv4を遊んでみようというお話である。
 ちなみにここでいう子供とは,小学校低学年程度を想定している。というのも,私事になるが我が家には今年小学校に入学したばかりの子供がおり,実際に遊んでみた体験に基づいて,この原稿を書いているからである。とはいえ,筆者は教育関係のことにとんと疎く,普遍性について万全の保障ができるわけではないことを,前もってご了解いただきたい。

 

子供にも理解しやすいCiv4のビジュアル

 じゃあやってみようじゃないかと思う前に,筆者の場合と同じ年頃の子を持つ読者は,少なくとも以下の2点について疑問を抱くのではなかろうか?

 

  • 子供はCiv4のような複雑なゲームを理解できるのか
  • Civ4に飽きずにつきあってくれるのか

 

この画面には最初インパクトがあるものの,最終的には色分けされたマップ,つまり状況がつかみやすいほうを優先的に見るようになるようだ

 1.については,実際試してみたところ問題なかった。Civ4のルールは複雑だし,戦術は多様だが,ゲームの目的自体は明確で,いま自分達が勝っているか負けているかも一目瞭然だ。そして,なにより「いま何をやっているか」分かりやすいのがポイントと思われる。大人にとって見通しのよいインタフェースとゲーム性は,子供にとっても同じなのだ。
 2.については,ゲームの進行速度を変更すれば問題ない。また,進行速度を変えなかったとしても,きりのいいところまで進めてセーブし,続きはまた今度,と約束すればよい。Civ4ではプレイの節目節目にビジュアル的/音楽的な変化があるし,子供の興味をひきつける要素も豊富だ。これについては,あとで詳しく解説する。
 さしあたり理屈はこれくらいにして,実際に子供とどのようにCiv4が楽しめるのか,見ていくことにしよう。

 

この手のカットインは総じて子供に好評だ。世界遺産完成時のムービーも同じく。ただし,一度見たのはもう見なくてもいい,と言われることもしばしばだが

 

MODの導入で見やすさを改善しておく

MODを導入しているところ。詳しい導入方法はそれぞれのMODに付属するテキストを参照のうえ,あくまでも自己責任で

 プレイを始める前に,まずは“仕込み”をしておきたい。筆者が便利だと思うのが,日本でも愛用者が多いと思われる有名MOD「YetAnotherUsefulGameplay」の導入である(編注:MODの導入はあくまで自己責任の下で実施してください)。
 このMODにはいくつも利点があるのだが,子供と一緒に遊ぶことを考えた場合,とくに役立つのが以下の3点である。
 まず,「エネルギー」(日本語版の表記に準拠。ただしこれは英語版における「Power」の誤訳である)のグラフを常時メイン画面に表示してくれること。ほかの文明からの突然の宣戦布告と,軍事的な敗北には大人であっても萎えるのだから,子供も当然ながら萎える。かといって,仮想敵国よりも優れた軍備を維持し得ているか,頻繁にグラフを見て確認するのは,大人にも子供にも面倒だ。
 各文明の外交上の態度を,メイン画面にアイコン表示してくれる機能も便利だ。もちろん,MODを入れなくても外交担当官の画面に切り替えれば全関係が一目で分かるし,カーソルを各文明の名前の上にロールオーバーさせれば文字で関係が表示される。だが,画面の切り替えはプレイのテンポを悪くするし,文字による関係表示はいささか素っ気ない。また,先ほどの「エネルギー」もそうだが,マウスの主導権が親子どちらにあるにせよ,いますぐ知りたいという必要を満たしてくれる点で,これはたいへん有用なのだ。
 最後に,偉人誕生時のグラフィックス表示。これは些細だが好ましい追加である。プレイ終盤の,平坦になりがちな展開において,偉人が誕生するごとに画面に変化が生ずることにより,子供が飽きる危険が減る。またゲームプロセス上,通常状態だと,偉人が誕生した瞬間にそれがどんな人物かシヴィロペディアを開いて解説するといったことはできない。英文ではあるが,誕生した偉人の簡単な経歴が表示されるのは,非常にありがたい。

 

MODの恩恵。偉人の誕生がちょっとしたイベントになるので,子供の興味を惹く

 

 要するに,大人にとって退屈だったり煩雑だったりするものは,子供にとっても同じということなのだ。子供のほうが飽きっぽいかどうかは一概にいえないが,そもそも退屈の原因が解消できるなら,前もって解消してしまったほうがよい。

 

迅速かつ低難度の設定,子供の選択を尊重

難易度を最低に,速度を最高に。これでも十分ゲームを楽しめる

 さて,次にゲームの設定を確認する。まず難易度設定は必ず「開拓者」つまり最低レベルにする。自分である程度Civ4をプレイしているなら「開拓者」で負けることはないし,トップが取れない可能性も低い。「エネルギー」で上回っていれば,まず他国から侵攻されることはないし,技術で後れをとることもないので,戦争が起こった(起こした)としても技術格差で容易に克服できる。
 逆にゲーム速度は「迅速」にしている。これだと戦争をしなければ1プレイ2時間前後で決着するので,1回30分をめどにして4回のプレイでゲームが終了する。戦争を1〜2回したとしても,3時間程度でカタがつく。プレイ時間もさることながら,ゲーム速度が迅速だと,各都市における生産予約から生産完了までの時間が短くなるため,現在進行している事柄の因果関係が掴みやすくなるのだ。
 使用するマップは,Continentsがよいと思っている。Fractalではあまりに偏った地形が出来ることがあるし,海洋系のマップは上陸が面倒で,子供に都市の新設を任せづらい。「だったらPangeaでもよいのでは?」と思うかもしれないが,子供と遊ぶときはできるだけモンテスマのように好戦的な文明指導者と隣同士になる可能性を下げたいのだ。
 気候,沿岸,海面水位などは初期設定のままでよいだろう。ゲームレベルが開拓者なら,ここの設定で大きな差は出ない。

 

かなりデフォルメのきつい人物像が多いせいか,あっさりした外観のキャラクターが子供に「ジャケ買い」(?)されることが多い

 プレイする文明と指導者の選択は悩みどころだが,筆者はちょっと時間をかけて子供に選ばせている。ビジュアルで選ぶこともあれば,聞いたことのある名前を基準に選ぶこともあるようだ。子供にとってみれば,指導者はゲーム内における「自分」なので,ここで親の意思をあまりに強く介在させるべきではないと思う。

 ゲームが始まったら,まずは細かなオプションの設定を済ませてしまう。ゲーム開始前にも設定できるが,その方法だと顔グラフィックスを見ながらの指導者選択ができないのだ。
 加えてお勧めしたいのは「軍隊のスキル自動獲得」のオンである。正直いってこれはプレイを不利にするのだが,軍隊を生産するたびにどうかすると2〜3個のスキルを選ばなければならないのは,戦争を主眼としないプレイにおいて無用で煩わしい作業である。ばっさりと切り捨てたほうが合理的だ。

 

目に見えるタイミングでやって見せる

 設定を終えて本編が始まったら,簡単にこのゲームが何をするものなのか説明する。ここで大上段に振りかぶっても仕方ないので,筆者としては「これは歴史のゲームで,ゲームが終わったときに,ここにある点数が一番高ければ勝ち。点数を増やす方法は後で説明する」と,ざっくり伝えた。勝利条件が複数あることや,このゲームが文明シミュレーションであることなど,細かい部分を最初から述べ立ててもあまり意味がない。
 むしろ重要なのは,何かを説明したかったら,なるべくその画面が現れたときに述べるという原則を,しっかり守ることであろう。目の前にないものについて御託を述べられても困惑するだけというのは,年齢を問わない話である。

 

大人がプレイするときにはたいへん便利な街の情報表示だが,子供と遊ぶときにはなくてもかまわない

労働者を自動化しておく。金融志向のときは正直悩ましい動きをしてくれるが,「伐採」による建造速度向上などは,とくに意識しなくても大丈夫

 ゲームの序盤は,親がお手本を見せることにした。操作だけで見ると,開拓者レベルのCiv4は,街(開拓者)と,労働者と,技術の研究と,軍隊で出来ている。街を増やし,労働者をその周辺で働かせ,街でさまざまな施設や軍隊を生産し,技術を開発することで,得点が伸びていくことを見せる。勝利条件を説明したあとには,勝利条件を達成するための手段を提示するというわけだ。
 各都市における細かな設定は,なるべく画面を切り替えず,メイン画面から参照できるボタンだけで処理するようにした。またどうしても都市の細かな設定をしたいときは,いま何をしているのかをきちんと説明するようにした。理解を強要する必要はないにしても,「お前は知らなくていい」という態度は,一緒にゲームを遊ぶ相手に対して失礼にすぎる。

 

 ちなみに労働者の管理も自動化している。初めの頃こそ「ここに畑を作る」「こっちに街」「ここに牧場」と盛り上がれる要素なのだが,都市の数が四つ五つと増えてくると,子供にとっても面倒が先に立つようだ。AI任せだと,指導者が金融志向なのに氾濫原に農地を作るなど,いささか理解に苦しむことをするが,さほど問題になるわけではない。

 

子供を主君に戴きつつ摂政に徹するノウハウ

 さて,ある程度処理を自動化し,ちょっとした固有名詞の説明(シヴィロペディアが便利だ)をしながら,ゲームの進行手順を見せることをメインに10分ほどお手本プレイを続ければ,子供はだいたいこのゲームをどうやって進めればいいのか,そして自分達が何をしているのかも分かってくる。

 

「YetAnotherUsefulGameplay」MODの効用の一部。この段階でテクノロジーについて解説する機会はあまりないが,便利には違いない

 

 子供に「やってみる?」と聞いて,うなずいたならマウスを任せる。何をしていいのやらさっぱり分からない段階なら,「やりたい」とは答えないものだ。そういう場合,説明を重ねて無理に子供に主導権を移譲するより,どんどん自分でやって見せるのが正解である。優れたゲームであれば,隣で見ているだけで,いったい何を目的とするゲームで,そのために何をすべきかが,漠然とでも分かってくるもの。Civ4はその点,十分に優れたゲームである。
 子供に全部の操作を任せると時間がかかりすぎるようなら,ゲームが強制的に停止するポイント,つまり「外交上の返事をどうするか」「次に何の技術を開発するか」「次に都市で何を生産するか」といったところだけ,子供に判断を任せるのもよい。
 外交上の選択については,「この人と仲良くする?」と聞いて,その意思を反映するようにはしている。もっともこの質問は,いわゆるマジシャンズ・チョイスで,そう聞かれれば回答はほぼ間違いなく「仲良くする」になってしまうわけだが。開拓者レベルでは,わざわざ戦争したり,ある文明をほかの文明にけしかけたりしなくても,宇宙船負けを喫するような可能性はまずない。徹底した非戦路線を貫いても大丈夫なので,安心して子供の判断を尊重できる。

 

都市の専門家は自動配分させてしまうのが無難。生産も自動化してしまってかまわない。極端な話,3,4か所で自発的な選択ができれば,それで十分だ

 問題は技術研究と生産である。子供は例えば「瞑想」といわれても何のことか分からないし,逆に「哲学」とは何かと,親に向かってとびきりの難問を投げかけてくることもある。まあそれ以前に,そもそも漢字が読めないことだって多い。
 だが,それは大した問題ではない。子供にとって漢字が難しいなら,読んであげればよい。概念が理解できないなら,子供に分かるよう(でもあまり長くなりすぎないように)説明してあげればよい。説明できそうにないなら,別に分かりませんと答えてもかまわないのだ。子供だって別に親が全知全能だと思っているわけではないのだから。また,複数日に分けてプレイする前提なら,前回のプレイで「分かりません」だった部分については,次のプレイまでに調べておけばよい。いやもちろん,子供はそんなことをすっかり忘れているかもしれないが……。

 筆者の場合,ある程度割り切った説明すら難しい事柄の場合,「難しい問題であって,自分にも分からない」と言うか,もしくは「いまの君には難しすぎるから,大きくなって君がもっと勉強したらちゃんと教えてあげる」と,約束することにしている。前者は高度に形而上学的な疑問,後者は理解の前提として必要な知識があまりにも多すぎる疑問に対する答えである。
 面白いのは,子供はこちらの説明を意外と興味津々で聞いてくれることだ。分からないことが分かるようになる,知らないことを知るというのは,子供にとっても楽しいことなのだろう。

 

意思の尊重と危険の回避,リスク説明

心の中では青銅器か神秘主義を……と思うが,「図書館が建てたい」の一言で筆記を優先

 ゲームの進め方が分かってくるにつれ,子供は都市の建築物や軍事ユニットの生産に関して,自分の趣味を100%前面に押し出してくる。本が好き,お芝居が好きだから,図書館と劇場はプレイの効率と関係なく建造する,といった具合だ。
 しかしながら,いかに開拓者レベルであっても,例えば隣が宗教違いのモンテスマで,「エネルギー」がダブルスコア負けということにでもなれば,彼らはかなりの確率で攻めてくるし,時期によってはそれで自文明が敗北することもあり得る。そういったことを鑑みて,親は密かに自文明の手綱を握ることになるのだ。
 そのための一番楽な方法は,ある程度以上の生産力を持った都市(場合によっては二つくらい)に,生産の自動化を設定しておくことだ。これによって,「エネルギー」が低くなりすぎているときは,自動的に軍隊の量産体制に入ってくれる。
 またイザベラやモンテスマのように,宗教に関して不寛容な指導者が近隣にいる場合,「このおばさん(おじさん)と喧嘩しないで済むようにするね」と言って,国教や政治体制の設定も変えてしまうようにしている。宗教を合わせると彼らは魔法のように友好的になるので,子供も割と驚くようだ。いまのところ「なぜさっきまで戦争寸前だったのが,突然仲良くなれたのか?」と聞かれてはいないが,聞かれたら難しくも興味深い問答をしなくてはならない気配濃厚で,親として非常に楽しみである。

 文化遺産の建築に関しても,完全に子供任せである。建てたくないと言えば建てないし,これが綺麗だから建ててみたいと言われれば,最大限の努力をする。偉人の投入などは親が面倒を見ているが,誰か別の人(文明)が先に建ててしまったら,もう自分では建てられないということは説明している。
 登場する建造物はたいがい有名なものなので,子供でも名前くらいは聞いたことがあるようだ。逆に妙な知識を仕入れていることもあって,ピラミッドを建てられる状態で,建てるかどうか聞いてみたところ,「人がたくさん大変になるから嫌」という答えが返ってきた。なるほど言われてみれば,子供用の学習漫画にはピラミッドや巨大古墳の建設に否定的な意見が書かれているものも多かった気がする。そういう点で,古代文明や遺跡についてのDVDタイトルを見せてからCiv4をプレイするのも面白いし,一緒にCiv4を遊んだうえでそういった映像作品を見てもいい。予習復習は何においても有用なのだ。

 

この手のアニメーションは,やはりそれなりにウケがよい。アニメーション目当てで世界遺産を建てさせられることも少なくないだろう。でも首都にアンコールワットとかは勘弁を

 

 これは自戒の念も込めてのことだが,子供のプレイ方針が最適解と違っていても,それを理由に口出しすべきではない。これほど子供のやる気を簡単に削いでしまうことはない。
 例えば国境が競り合っている都市で,隣はフリードリッヒ,自分はエカテリーナであれば,その都市には可及的速やかに劇場そのほかの文化産出建造物を建てて国境を前進させるか,時期によってはコサックとカノン砲を結集させるべきなわけだが,それを即座に理解せよいうのは酷な話だ。少しくらいゲーム的に不合理な行動をとっても負けないための,開拓者レベルなのである。

 

プレイ上不合理極まりない国家経営をしても,このとおり負ける要素はない。ちなみに軍隊が分かりやすく整列しているのはMODのおかげだ

 

「負うた子に教えられ」?

ゲーム中盤以降「汽車を走らせたい」といった即物的な目的に合わせて,ルートを自動設定させてしまうのも便利だ

 さて,子供とCiv4を遊ぶ最大の楽しみは,いうまでもなく「子供と遊ぶ」というその一点が核だ。これについては補足も例外も具体例も一切不要だろう。そのうえで,それに負けないくらい有意義な要素といえるのが,自分の無知を思い知らされることだ。
 ここまでで再三述べてきたように,Civ4を遊ぶ子供が発する問いかけは,ときにとてつもない難問となる。とくにシヴィロペディアを開いて世界遺産や技術の説明をする段では,とうてい答えられない問いが増える。アレクサンドリア大図書館が何であったかを説明するのはまだよいとして,そこで「なんで昔の人は図書館を壊しちゃったの?」などと聞かれた日には,観念的かつ安易な言葉に逃げることなく答えるのが,いかに難しいかに気づかされる。
 確かにシヴィロペディアには,アレクサンドリア大図書館が「原理主義者の手によって破壊された」とある。だが少し調べれば,アレクサンドリア大図書館がなぜ破壊されたかについては,いまもって明確な答えが出ていないことが分かるはずだ。
 この二つのことを,子供にどう伝えればよいのか。歴史にはたった一つの正解があるとは限らないということ,また,原理主義とはいかなるものであり,図書館とはいかなるものである(あった)かということを理解し,それを子供に平易な言葉で語るのは,なかなかの試練であり,知的感興をそそられるチャレンジである。

 

子供いわく「オリンピックの人」。アテネオリンピックの印象かと思いきや,オリンピックがアテネで始まったことを知っていた。児童書「マジックツリーハウス」シリーズ恐るべしである

 また,子供は意外といろいろなことを知っているし,意外なことを知らない。これを確認していくのも,なかなかに面白い。いまはテレビがあり,本があり,子供はそれらに自由にアクセスできる。結果として,子供は大人が思うよりも多くのことを知っている。固有名詞が非常に多いCiv4の中ですら,子供が「名前は聞いたことがある」ものは,意外にたくさんあるのだ。
 一方で,Civ4の中でごく普通に表現されているにもかかわらず,子供が知らないこともある。筆者が一番驚いたのは,日本の歴史関係の漫画を読み,徳川家康にタヌキというアダ名があることを知っているにもかかわらず,飢饉とはどのようなものか理解していなかったことだ。ちなみにこれは,都市の「飢餓状態」を説明したときに判明した。
 それに関連した事柄だが,外交で絹と米を交換するという選択をしたときに,別の事実も明らかになった。筆者の子供の意識の中では,市場やスーパーマーケットは「何があろうとも常に物がある」場所だったのだ。筆者が交易の仕組みを説明して,「うちにはまだバナナがないね」という話をしたら,「街には市場があるから,そこで買えばいいじゃない」と言われて,親のほうがようやくそれに気づいたというわけだ。
 なるほど,確かに非常に大きな国際都市の市場であれば,国家間協定で貿易が成立していなくても,バナナがあるかもしれない。だが,問題はそこではない。さらに掘り下げて聞いてみると案の定,「市場やスーパーマーケットから,そもそも物が一切なくなってしまうことだってあり得る」ことまでは,理解していなかった。
 もちろん,小学校1年生に食料自給率の問題,ひいては国家戦略物資について理解しておけというほうが無理だ。筆者としては,こういった概念が今後いつ子供のなかに形成されるのか,興味深く見守っていきたいと思っているし,いつまでも形成されないようなら何らかの対策が必要だろうとも思う。

 

いわゆる感想戦の部分。このときは合計で2時間程度のプレイ時間となった

 

ゲームを文化として享受し,継承する

都市の名前をいろいろと変えてみるのもよいだろう。できることはなんでもやってみるのも面白い

 念のために書き添えておきたいが,この記事は決して「全家庭でぜひCiv4を子供と遊びましょう」という性質のものではない。宗教上,政治上のポリシーゆえにCiv4を受け入れられない家庭だってあるだろうし,それはそれで尊重されるべきである。
 子供と遊ぶゲームとしてCiv4を選ぼうが選ぶまいが,とにかく重要なのはその選定に際して「子供だからこの程度でいいだろう」と考えてはいけないことだ。そういう態度を,子供は最も嫌う。優れたゲームであれば,テーマやビジュアルに関係なく子供はきちんと面白さを感じ取るし,理解する。「子供だまし」を喜ぶのは,大人だけなのである。
 時間がある限り子供とは外で遊ぶという考え方も筆者は否定しないし,筆者も機会を捉えて外で一緒に遊ぶようにしている。ただ,子供と遊ぶときの選択肢から,わざわざゲームを排除する必要はないと思う。
 もちろん,眼精疲労やそのほかさまざまな身体上の問題も関与するので,あまり長時間にわたるプレイは望ましくないとはいえ,「過ぎたるは及ばざるがごとし」なのはPCゲームでなくても同じことだ。そもそも子供だって,親と遊んでばかりはいられないのである。

 


勝ったあと好き放題やらせてみるのも,一つの方法である。ワールドビルダーを使うのも便利だ。いずれにしても,作業する人にとって楽しくて負担の低い方法が無難である

 ゲームは文化である。その本質は,歌舞音曲や書画文筆と変わらない。子供に遊ばせたくないゲームもあるというのは,子供に読ませたくない文芸作品がある,というのとなんら変わらない。
 むしろ我々は,もっと危機感を持つべきではないのだろうか? 文化は発信する側にとって一大事であると同時に,受信する側にも相応の力量を要求する。我々は文化を呼吸しており,発信と受信は切り離せないのだ。ゲームを趣味としてきた我々は,果たしてゲームという文化を“楽しむ作法”を,きちんと育ててきただろうか? 一度は育てたはずのそれを,立場やら忙しさやらに流されて,忘れてはいないだろうか?
 ゲームを語るに当たり,制作者や制作手法に注目が集まるのは当然の成り行きである。だが,「ゲーム」という言葉の指示内容すら急速に変容しつつあるいま,遊び手がゲームとどう付き合っていくのかを,遊び手自身が問われているのではないだろうか。

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
今回の記事で一児の父であることを,初めて明かしたゲームライター。いやまあ,いままでも別に隠していたわけではないのだが。核抑止力の成立/発達史やら,文化相対主義やら,フィンランドへの愛着やら,カードゲームビジネスの現在やら,いろいろと業の深そうな興味を抱え込んだこのヒトが,我が子とどのように対しているのか,失礼ながら興味の尽きないところである。箸の持ち方を直すといった,オーソドックスな場面が逆に面白そうだ。
タイトル シヴィライゼーション4【完全日本語版】
開発元 Firaxis Games 発売元 サイバーフロント
発売日 2006/06/17 価格 オープンプライス
 
動作環境 OS:Windows 2000/XP(+DirectX 9.0c以上),CPU:Pentium III/1.2GHz以上[Pentium 4/2GHz以上推奨],メインメモリ:256MB以上[512MB以上推奨],グラフィックスチップ:GeForce 2 MX/Radeon 7500以上,グラフィックスメモリ:64MB以上[128MB以上推奨]

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