戦争は,始めることより終わらせることが重要。前向きな停戦交渉をしようと思ったが,拒否されたので,やむなく軍事的措置を継続
ミリタリーストラテジーゲームは,扱うテーマの規模で分類できる。一つの戦場の1シーンを切り取り,小隊や戦車1両1両の機動に注目する戦術級。一地域における軍事行動の経緯を描く作戦級。国家と国家の闘争という視点で戦争を扱う戦略級。これらはそれぞれ焦点の当てどころが異なっていて,戦術級では国の外交方針など問題にならないし,戦略級では戦場の末端で1個小隊が飢えていることをつぶさに再現したりしない。
そのような考え方と合致するが,強いていえば戦略級のジャンルに入る「シヴィライゼーション4」(以下,Civ4)では,やはり個々の戦域における機動の妙味に力点が置かれているわけではない。Civ4の戦争で一番大切なのは,事前にどれだけの準備をしているかであり,いつ終わらせるかである。
Civ4の戦争は「不利なほうが乾坤一擲の大勝負を打つ」ためのギミックではない。戦争は「勝つべくして勝つ」「どう考えたって負けない」ものであるべきで,そのために必要なのは技術進歩であり,都市の機能分担と発展であり,資源確保であり,適切な規模の軍備であり,時宜を得た外交なのである。
では,Civ4で軍の機動に関する妙手はまったく楽しめないのかといえば,そんなことはない。多方面からの攻撃で本来的な戦略目標の防備を低減させたり,開戦直前に敵の隣接文明と相互通行条約を結んで側面を突いたりといった大きなプランニングは,優れてミリタリーストラテジー的であるし,副次被害を与えるユニットで攻勢の勢いを殺いだり,足の速いユニットを用いて敵国の戦略資源をカットしたりといった,ユニット単位での機動もある。そして,各文明に用意されたユニークユニットの相対的に高い能力が,攻勢の発動時期を左右する戦略的なアクセントとして機能する。
ユニークユニットでさえゲーム全体から見れば枝葉末節にすぎないのが,このゲームの優れた点ではあるのだが,それでもやはりプレイヤーはユニークユニットに思い入れを持つものである。また,人によってはユニークでなくとも,特定のユニットに思い入れがある場合があろう。
今回はそのなかでも戦場に重大な変化をもたらす「戦車」のユニークユニット,「パンツァー」を語ってみたい。
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パンツァー誕生の瞬間。3ターンに1ユニットくらいのペースで作れると,攻勢の継続にはかなりよい |
パンツァーのスペックは基本的に普通の戦車と変わらない。だが,戦車戦がやたらと得意な戦車なのである |
戦車の特性を語るに先立ち,Civ4における戦争の概略を述べておきたい。Civ4での戦争は基本的に,街をめぐるものが中心になる。攻撃側は街を囲んで攻め落とそうとし,防御側は街のあるマスにユニットを積み上げて,これを防ごうとする。
副次効果で4ユニットを巻き込んだところ。もっとたくさん巻き込むことも可能
それ以外の戦闘発生機会として,ハイスタック(スタックとはユニットを重ねること。ボードゲーム由来の用語)で街から街へ行軍する侵略軍に対する攻撃,資源発生スクエアをめぐる攻防,国境沿いでの野戦などがあるが,やはり戦闘の中心は街をめぐるものとなりがちだ。
さて,街をめぐる戦闘だけに,基本的に防御側は有利である。まず街自体による防御ボーナスがあり,町が丘に建っていれば丘によるボーナスが付く。兵種によって付加される都市防衛ボーナスがあるほか,さらに「防御」を固めていた時間によるボーナスもある。
一方,攻撃側にとって有利な材料もある。攻撃側は都市をぐるりと囲む形でユニットを敷き詰めても,基本的に攻撃効率が変わらない(場所によっては渡河修正がかかるため,布陣したくないところも出来るが)が,防御側は街というマス一つに,全防衛ユニットをスタックしなくてはならない。したがって,砲撃や爆撃による副次効果は,防御側のほうがより多く被りやすい。
そうなると,攻撃側にとっての理想的な展開は,まず砲撃によって都市の防御を減殺し,しかるのちになるべく大火力を持った,副次効果付きの攻撃部隊を突入させる,ということになる。
ところがこれを,ゲーム序盤から中盤に実践するのはたいへん難しい。砲撃で都市の防御を減らすまではともかく,カタパルトにしてもカノン砲にしてもあまり大火力の兵器とはいえず,突入部隊に付けた場合,相応の被害を受ける。幸いカタパルトの生産コストは剣士と同程度という安さなので,カタパルトを大量生産して防御側戦力を削るのが基本戦術となるだろう。ただし,カタパルトやカノン砲は極端に足が遅く,攻撃部隊が大きな被害を受けた場合,コンスタントに補充をし続けていないと攻勢の手が緩むことになる。
現代機甲部隊は安定して使える。が,性格が平板すぎて愛が感じられないという気持ちも,分からなくはない
さて,ここでいよいよ戦車の話だ。戦車は,上述の「カタパルトとカノン砲のジレンマ」を抜本的に解消する。単体でその時代における最大火力を誇り,副次効果を発生させられ,かつ足が速い。都市攻略によし,資源エリアに対するゲリラ的攻撃によし,そのうえ防御に回っても必要十分な能力を持つ。まさに軍人の夢を詰め込んだ兵器であるといっていいだろう。
もちろん,戦車といえども万能ではない。都市の防御ボーナスを落とす砲撃は行えないし,ゲーム的にいえば28戦力のユニットにすぎない。敵が数を頼みに押し寄せてくれば,たとえそれが槍や剣を手にした部隊であれ,撃破されることもある。これが同時代の兵科,例えば「海兵隊」ともなれば24戦力を有しており,ちょっとした防御ボーナスが付くだけで,オッズはぐっと低くなってしまう。
戦車のアップグレードバージョンである「現代機甲部隊」の40戦力なら,歩兵相手にそうそう苦戦することはなくなるが,黎明期から第二次世界大戦期の戦車は,まだまだ弱点も多い兵科として設定されているのである。
パンツァーを先頭に押し立てて前進前進。まだカタパルトがちらほらしている日本など,相手にもならない
さて,この戦車タイプのユニークユニットが,ドイツの誇る「パンツァー」である。火力は戦車と同じだが,パンツァーには「対機甲+50%」というボーナスが付いている。1対1なら戦車に負けることはないし,現代機甲部隊といえども,防御に入ったパンツァーを破壊するのは容易でない。
それはそうとしてこのパンツァー,格別に強いのは機甲ユニットに対してだけで,相手が騎兵隊であっても,数で押されるとやっぱり落ちる……。実に簡単に落ちる。相手が戦車だったときの頑張りを見てしまうと,そりゃないだろといいたくなるくらい簡単に壊れるのだ。ロシアのコサックの群れに突っ込ませて返り討ちにあったりするのは,ある意味ヒストリカルといえばヒストリカルだが,冬のロシア以外でドイツ戦車のそのような光景を拝むと,非常に寂しい気分になれる。
当然,海兵隊や歩兵相手にも,相手が森や丘で防御を始めたら,いいだけ苦戦する。前述のとおり海兵隊の基本戦力は24,丘陵防御と「防御」の継続によるボーナスが付いて,そこに渡河ペナルティが重なったりすれば,勝率は簡単に50%を割り込む。まぁ,そんな地形に踏み込むほうが悪いわけだが。これはパンツァーという名前の自走型対戦車砲なのですか? と,聞きたいところである。
飛行機が実用化されるまでは,長距離砲に都市攻略のお膳立てを任せるしかない。だが,あきれるほど足が遅い
また,これはパンツァーと戦車に共通する問題だが,都市の防御度を下げるためには,「長距離砲」の支援が不可欠だ。攻略すべき都市が沿岸にあれば戦艦などによる艦砲射撃に期待できるが,せっかくの戦車の機動力は,長距離砲の足の遅さに引っ張られてしまう。
この弱点を解決する最も適切な手段は,戦車の開発(産業主義とライフリング)の後,可及的速やかに航空戦力を開発/生産することだ。戦闘機であっても都市の防御に対する戦略爆撃は可能だし,無線機まで開発して爆撃機を生産できるようになれば,対空準備のない都市の防御はあっという間に0になる
また爆撃機によるユニットへの爆撃は,戦車の攻撃効率も向上させる。Civ4では,爆撃だとユニットの戦力を50%までしか減らせないが,副次効果を持った戦車の群れにとってみると,最初に突入する戦車が破壊されないくらいにまで,敵を弱体化しておくことが最も大切なのだ。一度勝ち始めてしまえば,パンツァーによる複数回攻撃と副次効果の組み合わせは,旧時代のテクノロジーによる防衛をあざ笑うかのような破壊力を見せつける。電撃戦ここにあり,である。
海兵隊とパンツァーで戦隊を組んでみたところ。このゲームでここまでする意味は,ほとんどないのだが
一方で,敵の空軍は逆にパンツァーの天敵である。確かにパンツァーには対機甲+50%があるが,単純計算で戦力を半減させられた後から+50%したところで,得意の戦車相手でも21戦力にしかならない。パンツァーも戦車と同じく「防御」の継続によるボーナスはないので,都市の守りに入ったパンツァーが,ひとたび制空権を奪われて爆撃を浴び始めるや,実に脆いのだ。2倍の数の戦車相手に対等以上の働きをするパンツァーといえども,いかにも連合軍的な航空支援+歩兵を中心とした物量作戦には,やはり敵わないのである。こんなミニマルなところでヒストリカルでなくてもいいと思うのだが。
さらにいえば,発展型の歩兵である「機械化歩兵」は,あくまで歩兵でありながら32戦力を持つので,パンツァーは真正面から戦って軽く敗退する。第二次世界大戦に詳しい人であれば,自動車化/機械化された歩兵というのは最終的にドイツ軍機甲部隊を押しつぶすのだなあという,感慨に浸るのもいいかもしれない。
さてそんなパンツァーだが,時代を経て現代機甲部隊が生産できるようになると,次第に現代機甲部隊へと置き換わっていく。戦場に残った歴戦のパンツァーは,やがて第一線を退き,しかし現代機甲部隊へとアップグレードもされないまま,しばしば都市防衛の任務につくことになる。相手が現代機甲部隊であったとしても,歴戦のパンツァーが持つ防御能力は,新兵が操る最新鋭の戦車ユニットを上回るのである。時代遅れになった戦車がトーチカの中に埋められて防御砲台になるのは,Civ4の中でもよく見られる光景というわけだ。
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スキルの取らせ方次第で,対歩兵戦を重視したパンツァーにも育てられる。カスタム可能とでもいうべきか |
ドイツの指導者その1,ビスマルク。こちらはちゃんと戦争できるヒト
ドイツの指導者その2,フリードリッヒ。戦争できないわけではないが,不向き
パンツァーがどれほど愛らしい兵器かはさておいて,ドイツの指導者は戦争向きとはいいがたい。ビスマルクはまだしも,フリードリッヒは文化勝利を目指すにふさわしい能力の持ち主である。対PC戦でドイツが敵に回った場合,プレイヤーとしてはできるだけ彼らがパンツァーを生産できないような状態に追い込みたい(つまり早期に叩いてしまいたい)と思うものだが,とくにフリードリッヒは,そういった積極攻撃策の前に脆い傾向があるように思える。
冒頭で述べたとおり,必ずしも相手を滅亡させるところまで戦争を続ける必要はない。潜在的な敵対文明に希少な資源(石炭やアルミニウムなど)を輸出している場合はともかく,再起不能なところまでへこませれば,「いつでも食べられる」ものだ。ドイツをそうやって放置しておいても,パンツァーを生産できるようになるまで,彼らは決して重大な危険にはなり得ないし,そうなるまでにはかなりの時間がいる。
仮に生産できたとしても,2都市程度にまで押し込まれてしまっていれば,脅威というほどの脅威でもない。戦車は航空機と組み合わさってこそ本当の怖さを発揮するものだし,Civ4の常として,数の揃わない軍隊は根本的な脅威ではないのだ。
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フリードリッヒでは文化勝利しやすい。あえて戦車生産ラインまで技術を進め,パンツァーを防御的に使うのもよい |
文化勝利を収めたところ。とりあえず,観光資源として最高の場所であろうと推測される |
思えばドイツという国は,ヨーロッパ近代史において「苛められて逆ギレする」役どころであった。Civ4においては――もちろんゲーム全体の流れのほうが常に重要であるものの――とくに対PC戦におけるドイツは,早めに苛めておいて損をしない相手といえる。自分で戦争をするのが損であれば,技術一つくらいを代償に,モンテスマあたりをけしかけておくとよい。それくらい,防御的に使われたパンツァーは嫌な存在なのだ。
Civ4は,大局としてのヒストリカル性を重視した作品ではない。だが小さな歴史要素の積み重ねが醸し出す面白さもまた,この作品の大きな魅力になっているように思える。なるほどパンツァーはあらゆる観点においてCiv4の中心にあるものではないが,しばしば「神は細部に宿る」ものだ。
まあしかし,仮に細部に神が宿るなら,せっかくだからもっとパンツァーのグラフィックスをリアルにできなかったものかとは思う……。ともあれ, パンツァーのグラフィックスだけを変更するMODが出ているくらい,絵柄のイマイチさ加減が世界で共有されているというのも,ある意味パンツァーが愛されていることの証左といえよう。