連載 : キャラクターゲーム考現学


キャラクターゲーム考現学

第28回:ショコラ 〜maid cafe“curio”〜 Standard Edition

 

 今回のお題はテイジイエルの「ショコラ 〜maid cafe “curio”〜 Standard Edition」。もともとは2003年に18禁タイトルとしてリリースされた作品だが,PlayStation 2に移植されたバージョンをベースに,PC全年齢版タイトルとして逆移植/再構成されたものだ。

 この作品のPlayStation 2版では,後で説明するとおりゲームシステムが大きく改良されているわけだが,Standard Editionは前述のような経緯もあって,PC向けでありながら改良後の仕様となっているのが嬉しいところだ。
 また,フルリメイクされたBGMは昨今人気の「ave;new」が手がけ,テーマソングを担当するのは「I've Sound」と,さながらゲームサウンドクリエイター2大巨頭の競演となっている。

 

 

Character Side:メイドカフェを舞台にした「お約束」的ドラマ+α

 

プロローグ。家に来るというすずを迎えに行った主人公が,大きな荷物を抱えて家出してきた美里に,すずと間違えて声をかけたところ。こうして美里を雇うことに

 主人公はプロローグでいきなり,父親の経営するメイドカフェ「Curio」の店長代理にされてしまう。父親が再婚し,翌日から新婚旅行に出かけるためだという。唐突かつ期限付きなのが,いかにもゲームの設定らしいところだ。そしてまた,父親の再婚で新しい妹が出来るというのもお約束である。
 取り揃えられたキャラクターはいたってスタンダード。「訳あって」家出して仕事に困っていた世間知らずのお嬢様,姉御肌かつ世話焼きタイプで店を実質仕切っている主人公の元同級生,おっとりタイプの天然ボケお姉さん,不器用だが一生懸命なパティシエ,義母の連れ子で「兄妹」というものに慣れていない義妹……といった店のスタッフに加え,主人公の元同級生である無口な常連客と,お話としては実によくある役どころが揃っている。

 それぞれのキャラクターが展開するストーリーも,基本的に役どころを裏切らないのだが,それだけでは面白くないということか,少しヒネりが入ったパターンもある。若干先回りして言えば,メインヒロインらしいシナリオの持ち主は,パッケージに大きく描かれている美里ではないのだ。
 とはいえ,どのシナリオもきちんと順を追って展開されており,キャラクターのイメージが固まる前にお話がどんどん進んで,プレイヤーが置いてけぼりを食らってしまうようなことはない。

 

真名井美里

curioの新人アルバイト。箱入り娘で世間知らずだが,親から離れて自立したいと家出してきた。偶然主人公と知り合ったことから,なし崩し的にcurioで働くことになる。社会生活は初めてで最初は失敗が多いが,持ち前のまじめさで,成長していく。(CV:岡田純子)

 

結城すず

主人公から見て,父親の再婚相手の連れ子。実の父を事故で失っており,家族愛に飢えていて,新しい家族となった主人公に甘えまくり,過剰ともいえるスキンシップをとる。キャラクターゲームに欠かせない,ベタつくのが仕事の妹キャラである。(CV:鷹月さくら)

 

大村 翠

主人公の元同級生。中学からの腐れ縁で,さまざまな因縁(?)があるようだ。主人公の過去を知っており,よくからかっている。curioではアルバイトチーフを務め,実質フロアを取り仕切っている。(CV:松下 雅)

 

桜井真子

おっとりした天然系キャラで,いつもニコニコしているという,いわゆる「癒し系」である。その性格のためか,オーダーミスなども多いが,キャラクター的に許されているところがある。(CV:鳩野比奈)

 

橘 さやか

curioのパティシエ。菓子作りに関しては独創的なセンスを持ち,驚くほど凝ったものを,時間をかけて一心に作る。あがり症で不器用だが,一生懸命で,一流のパティシエを目指して努力している。(CV:かわしまりの)

 

秋島香奈子

主人公の学生時代の同級生で店の常連客。過去に主人公といろいろあったため,ぎこちない関係が続いている。主人公の父親が再婚してすずが家に来る前は,よく主人公の家に入り浸り,会話もせずに本を読み,そのまま泊まっていくこともあるが何もしないという,微妙な関係だった。(CV:乃田あす美)

 

チロル

ある条件を満たすと主人公の前に現れるようになる「アンティークの妖精」。なぜか主人公を「パパ」と呼んで慕い,役に立たない助言を繰り返しては,主人公にからかわれてばかりいる。 いきなりファンタジーな設定だが,実はほかのキャラクターのシナリオと密接な関係を持つ。(CV:三重野亜未)

 

会話に微妙な「ネタセリフ」が混じるのも,隠れた特徴。続編の「パルフェ」では,そうしたネタセリフのオンパレードになるのだが,それに比べればおとなしいほうだ

混雑した店内で両手にお盆を持ちつつ,スムースに客対応を進める翠。まあその,昨今指摘の多い「間違った」マニュアル敬語だけは,どうかと思うが

 

 

Game Side:システムのスリム化でテンポよくプレイ可能に

 

1日あたり2回,仕事場所を選ぶ。その場所にいるキャラが表示されているので,どこを選べばよいかはすぐ分かる。……なんというか,ご都合主義の極みだが,それがキャラクターゲームの本質かもしれない

 ショコラのゲームシステムは基本的に,1日の営業時間(昼と夜の2コマ)内に,自分がどこでどの仕事を担当するかを決めるのが核となっている。働く場所とキャラクター,そのほかの条件の組み合わせで,そのキャラクターに関連したイベントが発生するようになっているのだ。
 そのキャラクターのイベントに遭遇したり,同じ場所で仕事をしたりすることで好感度が上昇していき,ヒロイン選択イベントまでの間に規定の水準に達していれば,そのヒロインのルートが選べるようになる。ただしイベントのなかには,見ておかないとそのヒロインのルートが選択可能にならない必須イベントもあるので,注意が必要だ。

 18禁版およびDreamcast版では,毎朝2〜3個「店長の仕事」が生じ,これが12個溜まるとゲームオーバーになる仕様だった。このため,ときどき「店長室」を選んで仕事を片付け,溜まらないよう気をつける必要があった。
 PlayStation 2版ではこの概念がなくなって,プレイは全体として楽になった。パズル的な仕事のやりくりは不必要になり,一部のキャラクターを除くと,基本的に同じところで仕事さえしていれば,そのキャラクターのエンディングを見られるようになっているのだ。

 

店で足りなくなったモノを美里と買いに出たところ,雨に降られ,いろいろあってびしょ濡れになってしまった美里が「雨に唄えば」よろしく踊り出す。そして……。いかにもなシーンである

 各キャラのエンディングには,基本的にノーマルとトゥルーの二つがあり(香奈子のみバッドとトゥルー),最初はノーマルエンドしか出ないので,必ず2回プレイする必要がある。ただしヒロイン選択までのイベントやルートなどは,どちらのエンディングの場合でも同じなので,ここには少々工夫がほしかった。

 とはいえ,18禁版,Dreamcast版と比較してプレイアビリティが大きく向上している点は評価したい。とくにシステムの細かい操作性が改良されており,毎日の仕事場所選択の前にオートセーブが行われる(最大10個)ほか,画面右端にマウスカーソルを持って行くことでデータスロットを開き,左クリックでセーブ,右クリックでロードというように,最少の手間で操作できる。

 プレイを構成する要素は一つ減っているわけだが,ストーリーの出来が高く評価される一方,システムと操作性の評判は必ずしも芳しくなかった18禁版,Dreamcast版に対する改良としては,適切なものだと思う。
 この作品が最初に世に出たころに比べると,メイド喫茶もすっかり世間に定着したなあという感慨を禁じ得ないが,経営者の立場で,お客以上にドリーミィに振る舞えるのが,この作品の魅力といえるのかもしれない。

 

セーブ/ロードのために,メニューを開く必要もないという,かなりの親切設計だ

イベントが発生しない場合は,このようにちびキャラで仕事の状況が表示される

 

うっかりコーヒーをこぼしてしまった香奈子さんに,予備の制服を着てもらおうとしたところ,慣れていないために着方が分からず,手伝いに呼ばれたシーン。もちろん他キャラに目撃される

主人公が疲れて帰ってきたところ,悪い夢を見て寝付けなくなったすずが主人公のベッドに潜り込んでくる。いままで家族のふれあいに飢えていた反動とはいえ,これはさすがに……

 

一人だけ浮いた存在のチロルだが,その意味はチロルエンド後に判明する。その時点までにクリアした部分やチロルのセリフから,どのようにつながっていくか,ある程度推測はできるが

このゲームのシナリオでは,ほかのキャラが絡んでくることもままある。序盤はさておき,誰かのルートに入るとほかのキャラクターは背景と化してしまう作品が多いなか,評価すべき点だ

 

■■田村眞治(ライター)■■
キャラクターゲームばかりではなく,大戦略シリーズや,アメフトゲーム「Madden NFL 08」の記事を通して,意外な芸幅の広さを見せるPCゲームライター。しかし,題材といいアプローチといい,どれもこれも少々マニアックな気がするのは,この人が持って生まれた業なのか。1980年代くらいから国産PCゲームに詳しかった人は,気付くとマニアックな地平にいたという場合も,確かに多いものだが。
タイトル ショコラ 〜maid cafe“curio”〜 Standard Edition
開発元 テイジイエル 発売元 テイジイエル
発売日 2007/01/26 価格 7140円(税込)
 
動作環境 OS:Windows 98/Me/2000/XP(+DirectX 9.0以上),CPU:Pentium III/500MHz以上[800MHz以上推奨],メインメモリ:64MB以上[128MB以上推奨],グラフィックスメモリ:32MB以上

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http://www.4gamer.net/weekly/charagame/028/charagame_028.shtml