レビュー : 現代大戦略2007〜テポドン・核施設破壊作戦〜

今度の焦点は核施設。悪夢の想定で進む現代戦ストラテジー

現代大戦略2007
〜テポドン・核施設破壊作戦〜

Text by 田村真治
2006年12月27日

 

ほとんどのシナリオに自衛隊が絡む
極東重視の仮想キャンペーン

 

 今年も,システムソフト・アルファーの「現代大戦略200x」シリーズが発売された。「現代大戦略2007〜テポドン・核施設破壊作戦〜」と,いつにも増してセンセーショナルなタイトルで,パッケージもミサイル基地を攻撃/破壊する自衛隊のF-2と,まことにもって刺激的である。
 まあもともと,現実の世界情勢をベースに,それが最悪の方向に向かったらどうなるかという仮定で作成されたシナリオが目玉のシリーズであるため,日本をめぐる今年の軍事情勢のなかで最も注目を集めた,北朝鮮の核問題が中心になるのは必然だろう。
 これに,昨年に引き続いて竹島周辺を扱ったシナリオや,尖閣諸島問題,日中国境の海底資源問題を扱うシナリオなどが脇を固める。中東問題やイランの核開発,さらにはドイツやフランスにおけるナショナリストの過激化に関連したシナリオもあるにはあるのだが,全体として東アジア方面重視の印象が強い。

 

 兵器データに関しては,昨年版から32種類が追加されており,1300種類と過去最大を誇る。それに対してゲームシステムとルールは,「大戦略パーフェクト」シリーズベースのターン制で,昨年版と比べたとき,大筋に変更はない。ただし,大戦略パーフェクトシリーズの進化に伴って導入された新ルールがある。それが「マイ部隊」だ。
 マイ部隊とは「大戦略パーフェクト2.0DX」から導入されたルールで,あるマップをクリアした時点で生き残った自陣営の部隊を「マイ部隊」として登録しておくことにより,あとでほかのマップをプレイするとき,新規のユニット生産と同じ要領で投入できるというものだ。
 マップクリアまで生き残ったということは,それだけ経験を積んだということで,新規に生産する部隊と比べて経験値やレベルなどの面で有利になる。初期戦力ではクリアが難しそうなマップで,戦力的な不利をカバーするといった使い方ができるわけだ。
 また,従来のようにシナリオに初期配置された部隊を利用してプレイする通常モードのほかに,今回はシナリオに用意された各勢力とは別の勢力として参戦できる「転戦モード」が加わった。そこで新たに与えられる部隊を運用して,各勢力と同盟を結んだり敵対したりして,マップクリアを目指す。もともとのシナリオの目標に沿った戦い方のみならず,反対勢力側に回ってちょうど逆の勝利条件で戦えるなど,楽しみ方がより広がっているのだ。

 

収録シナリオは全部で24本。恒例の極東情勢ネタに加え,今回は中東ネタが2種(6本)とヨーロッパネタ1種(3本)。日本が絡まないのはヨーロッパだけだ 各シナリオの開始時に表示されるブリーフィング。まるでスポーツ新聞の見出しのような演出の煽り文句とともに,現在の情勢と,その中でプレイヤーが果たすべき任務が説明される 竹島奪還シナリオをクリアしたところ。韓国軍は対馬侵攻に踏み切り,正規軍だけでなくゲリラ(民兵)も登場する。海上/航空戦力だけでは対応できず,いよいよ陸上部隊の出番である

 

画面はシリーズ従来作品とほぼ同様。マップのスケールも大/中/小の3種から選べるし,部隊表や現在選択しているヘックスの情報などが分かりやすく整理されている 「北朝鮮制裁発動・海上封鎖への道」において,アメリカの怖さが分かるのは,艦隊主力のラインナップを表示させたときだ。タイコンデロガ級巡洋艦とアーレイバーク級駆逐艦(どちらもいわゆるイージス艦)が多数投入されている。日本にとって虎の子といえるイージス艦が,アメリカにとっては当たり前の艦艇であるという,格の違いを見せつけられる場面だ

 

中東シナリオで,自衛隊は紛争地域からの避難民を護送するが,武装勢力の激しい攻撃を受ける ゲームにはトマホークのような巡航ミサイルや,テポドンのような弾道ミサイルも登場する。どちらも都市に対して使用すると,都市そのものを破壊してしまうため,ユニットへの補給など,このゲームで都市が本来持つ機能も失われる

 

 

「大戦略パーフェクト」の進化に合わせ
「マイ部隊」と「転戦モード」を導入

 

新しく加わった転戦モードでは,シナリオに用意された部隊とは別の勢力を率いて戦う。選べる兵器生産タイプは8種類,既存の勢力と同盟を組んでプレイする

 さて,「現代大戦略200x」シリーズの醍醐味といえばシナリオのケレン味だ。今回も,現実の国際情勢を大幅に超えるキナくさい状況が,これでもかとばかりに繰り広げられている。
 例えば昨年版の竹島関連シナリオは,自衛隊が奪還した竹島を防衛するという展開だったが,今回は2006年夏にあった海洋調査と絡めた内容となっている。日本の海洋調査に対して韓国軍が武力を行使,それに対抗して,日本の領土を「不法に」占拠している韓国を相手に奪還作戦を行うというもの。つまり,昨年のシナリオの直前の状況から始まる,竹島奪還作戦になっているのだ。
 また,朝鮮半島情勢をめぐっては,話がこじれて第二次朝鮮戦争ともいうべき状況になるシナリオ,なぜか祖国統一を果たした統一朝鮮が,これまたなぜか中国と戦争状態に陥るという,いったい何をどうしたらこうなるのか分からないシナリオなどがある。
 また,金融制裁や海上臨検などに対抗して北朝鮮が武力行使を開始し,弾道ミサイル発射の可能性が高まるという,微妙にシャレにならない展開のシナリオも用意されている。まあ,その状況に対する日本側の打開策が,タイトルにもなっている自衛隊のミサイル発射阻止作戦だったりするのは,あくまでこのシリーズゆえの展開だと信じたいわけだが。

 

 このほか,中国が経済的な破綻から内戦に陥るシナリオや,中東でイスラエルとヒズボラが衝突するシナリオなども収録されている。後者では,なぜか自衛隊が国連軍に参加し,戦闘に巻き込まれる。なんだか日々現実味が増している部分もある気がして複雑な感じだが,そこがまさにこの作品の狙いどころなのだろう。
 自衛隊が中心になるシナリオでは総じて,質 vs. 量の戦いになる。自衛隊側は苦しい戦いを強いられることがない代わりに,ユニットが高価で補給や生産の面が足枷になる。とくに北朝鮮と対峙するシナリオでは,(おそらく現実からかなり乖離した)北朝鮮側兵器の稼働率の高さに泣かされるだろう。
 もっとも,このシリーズをきっちり現実と比較すること自体,もともとナンセンスであることは今回も繰り返しておこう。例えば,AWACSの支援を受けたF-2のASM-1/2による飽和攻撃を,迎撃しきれる水上部隊など,現在のところ世界にアメリカ海軍くらいしかいないと目されている。また,自衛隊にはAWACSとイージス部隊による防空システムもあるため,F-2に対する護衛も十分である。だが,少し考えてみれば分かるように,これらを額面どおり再現したのでは,とてもゲームにならないのだ。
 その意味で本作は,あくまで北朝鮮風味,中東風味の軍人将棋にすぎない。過激すぎるシナリオ設定も含めて,そういうものだと思って楽しむのが正解だ。「転戦モード」にしても,「周辺諸国のうち,仮にここがしゃしゃり出て来たら」といった興味で,妄想満点のプレイができるギミックなのである。
 日本周辺を舞台にしたシナリオでは,日本が島国であることもあり,どうしても海上戦力と航空戦力の比重が高くなる。自衛隊の海上/航空ユニットは実に充実しているので,比較的優位に戦闘を進められるだろう。それに対して陸上ユニットは,やや見劣りする感じが否めない。
 このため,陸上戦闘が主で民間人移送などの任務がある中東シナリオは,極東シナリオと比べ少々難度が上がる。また極東でも,陸上戦力の働きが重要なシナリオでは,自衛隊側の優位性が薄まる。とはいえ,決してクリアできないような難度ではなく,全体に気を配ってプレイしさえすれば,勝利は難しいものではない。

 

 リアリティでなくプレイバランスの見地から判断するならば,本作はこれまでの実績を生かした形で,至って良好に仕上がっている。初心者からコアな大戦略ファンまで,広く楽しめるのは間違いない。シリーズ従来作品と同様,シナリオとは別に単体マップやマップエディタも備えているので,初期配置を変更したり,マップ自体に手を加えるなどしていろいろな楽しみ方ができるのも魅力だ。
 最後に老婆心ながら製品名のことなど。ご存じのように昨年版までこのシリーズは,発売年に合わせて命名されており,例えば昨年版は「2005」だった。ところが今年度版は「2007」である。2006が抜けているのは決して間違いではないので,シリーズで購入している人はお間違えなく。

 

転戦モードでは,ブリーフィングの最後にどの勢力と同盟を結んでプレイするかを選択する。初期設定どおり日本側で戦っても構わないし,相手側についてプレイしても構わない シナリオクリア後に生存していた部隊は「マイ部隊」に登録できる。マイ部隊は新しく兵器を生産する代わりに配置でき,以前のシナリオで積んだ戦闘経験のぶんだけ有利になる 北朝鮮軍の主力戦闘機としては,MiG-29ファルクラムが活躍する。現実には部品不足や整備技量の問題から,惨憺たる稼働率だというのがもっぱらの噂だが,そこはゲームである

 

勝利条件を満たすと,画面左のように表示されてシナリオが終了する。シナリオ終了後には,その戦いの結果,どのような情勢になったのかが画面右のように説明される シナリオクリア後には,要したターン数や損害状況などから評価が下される

 

タイトル 現代大戦略2007〜テポドン・核施設破壊作戦〜
開発元 N/A 発売元 システムソフト・アルファー
発売日 2006/12/14 価格 1万290円(税込)
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/mgs2007/mgs2007.shtml