Text by Kazuhisa / Photo by kiki
4Gamer:
そういえばこのゲームって,戦闘,パーティプレイ,クエスト,発見,探検,お金稼ぎってあらゆる要素が入ってますよね。
渥美氏:
そうですね。
4Gamer:
投資とかって,ある意味攻城戦みたいなものじゃないかと思ってるんですよ,私。商人が祖国に目に見える形で貢献できる唯一のことなので,街行くたびに投資してます。
渥美氏:
商人の方はマメにやってますよね(笑)。
竹田氏:
大事ですよ,投資。交易品の価格は,商人にとって大事ですからね。関税率にしても,同盟国か否かでずいぶんと変わりますし。
4Gamer:
そんなこんなのいろんな要素が入っていて,一見まとまりがなくて"おいしいとこ取り"なんですけど,結構キレイにまとまってますよね。どのへんを気をつけてデザイニングしたんですか?
竹田氏:
一番気をつけた……というか,そうなった一番大きな要素として考えられるのは,私がいわゆる普通のMMORPGをできなかった人だったからですかねぇ。
| 投資する街と金額によっては,ご褒美ともいえる"レシピ"がもらえることも。投資によってしか入手できないレシピやアイテム,街の発展度合い,同盟など,さまざまな要素でみな投資に励む。商人の本領発揮だ |
4Gamer:
というと?
竹田氏:
MMOって普通,膨大な時間を必要とするじゃないですか。ちょっとだけ遊ぼうと思っても,事実上何もできないというか。あれがどうにも受け付けられなくて。本当にのめりこんでプレイして,本当に時間を割かないと,その中にある本当の楽しさにたどり着けないものが多い。
4Gamer:
そうですね。
竹田氏:
なので変な話,私みたいな人でも遊べるMMOがいいな,っていうのが基本理念です。理念っていうのもおかしいですが。
4Gamer:
もはや前向きなのか後ろ向きなのか分かりませんね(笑)。
竹田氏:
(笑)。でもそういう人って結構多いんじゃないかな,と思って。よく知人の話とか聞いてると,そういう部分で既存のMMOに馴染めない人も多そうだったし。
4Gamer:
そうですね……EQのRAIDやリネージュの攻城戦とか,膨大な時間を費やした人だけが得られる楽しさというものは結構多いですしね。
竹田氏:
ええ。しかもウチの抱えてる題材である「大航海時代」っていうのは,実はこれ結構ネット向きなんじゃないの? っていうのもありまして……。
渥美氏:
それ昔から結構社内では言われてたよね。
竹田氏:
何度も何度も言われてましたね。でも普通にMMORPGにしちゃうと,どうしても「当たり前のもの」しかできないので,いままでずっと頓挫してたというのがあります。
じゃあもうむしろMMORPGという枠に捕らわれないで,そのまま「大航海時代」をオンラインで作っちゃえばいいんじゃないの? っていうところが最初のとっかかりですね。
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渥美氏:
そうだったねぇ。
竹田氏:
当時は二つの選択肢があって,一つは既存の戦闘中心のMMORPGをベースに,世界観を大航海時代にしたといった作り。例えば,信Onとか比較的このアプローチですよね。
4Gamer:
なるほどなるほど。
竹田氏:
あと一つは,海のものとも山のものとも知れないしどうなるか分かんないんだけど,ウチの持ってる過去の「大航海時代」シリーズをまったく新しくアレンジしてオンライン上に再現してみるという選択肢ですね。
4Gamer:
それが今の形ですね。
竹田氏:
ええ。当時上野さんや渥美さんとみんなで「どうすっか。どっちにしようか」ってずっと言ってました。新しいものを作ろうか,既存MMO路線で進もうか。新しいものにしよう,って決めたときも,滅茶苦茶不安でしたね,最初は。
渥美氏:
うん,うん。
松原氏:
まぁほら,3年前ってねぇ,まだ信Onもまだサービス始まってなかったし。
竹田氏:
そうですね。
松原氏:
あれがいいのか,悪いのか。それすら結果が出てないので分かってなくて判断基準がなくて。あのころってEQ,UO,FFくらいしかなかったじゃないですか。
4Gamer:
確かに言われてみればそうですね。……ということはこのデザインコンセプトは,すでにそのころ決めていたんですね。2年前? いや,3年前か。
松原氏:
ええ,3年前。そのときすでに「既存のMMOモデルを踏襲しない」という路線だけは決めていたんです。
4Gamer:
それサラリと言ってるけど結構すごいことですよね……。
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渥美氏:
あの当時から,すでに「交易」「戦闘」「冒険」という3本柱でゲームデザインをするということは決めてました。あとはまぁ,「人とのつながりで世界が広がる」っていうコンセプトもありましたね。「入港許可証」なんかの原型にあたるものですね。
4Gamer:
3年前にもう基本があったって斬新ですねぇ。
会田氏:
そうです。それで不安だったのでお聞きしたいと思って行ったらダメだしされた,と。
松原氏:
見事に否定されて帰ってきた,と(笑)。
4Gamer:
うう,お恥ずかしい限りで……。
竹田氏:
いやでも,当時はみんなそうでした。やってる我々もよく分からなかったし。で,試作品を何度作っても,社内での評価もあまり良くなかったんですよ。何が面白いんだかさっぱり分からない,とか。
4Gamer:
社内テストですか?
渥美氏:
そうです。
松原氏:
そのたびにチーム全体が落ち込んでね。
竹田氏:
既存のMMORPGが好きな人が「どれどれ」って触ると「全然違うじゃん」って。「こんなのMMOじゃないよ」とか言われて(笑)。
4Gamer:
耳が痛い……。
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竹田氏:
いえいえ。「MMOじゃない」って言われても「うん,そうですよ」としか言いようがなくて。我々開発チームの頭の中には「こうすれば楽しいだろうなぁ」という共通認識があって作ってたんですけど,なかなかそうはならなくて,しかもそれを見せる手法が甘かったのかもしれませんね。
渥美氏:
うん,そうだったのかもしれないねぇ。
竹田氏:
なんでだろうなぁ,っていっぱい試行錯誤してましたね,あのころは。まぁ今でも試行錯誤してるだろと言われると否めないものはあるんですけど。
4Gamer:
「これがありなのか!」ということを思い知らされた気分です。
竹田氏:
ええ,そう言ってもらえると。「これがあり」っていうものを作りたいだけなんですよ。別に「MMOの主流を狙って」とかそんな大それたことを考えてるわけじゃないですし(笑)。
でもMMOって当時のあのまま進んでいくと,一部の人だけのものになって衰退していくんじゃないかなぁ,っていう開発者としての心配もあったし。
4Gamer:
ええ,それは今とくに感じられますね。正直,どれも同じ。
竹田氏:
あと,従来のタイプのMMOばかりが増えていってしまったら,長時間没頭する人がどんどん増えていくのでは,っていうのもありました。アジア圏ではよくニュースになりますしね。そういうのもあって,やっぱりいろいろな人が普通の人でも気楽に遊べるMMOがいいなぁ,って。
4Gamer:
そうですよね。子供のころMMOがあったら,いまごろ私の人生どうなってたか。
竹田氏:
ええ。ウチもそんな人ばっかりですよ(笑)。まぁもちろんそういう作品があるのは全然構わないんですけど,もう少し広い選択肢があってもいいんじゃないかなぁ,と。
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4Gamer:
コーエークラスの会社ともなると,やはり業界に対する責任っていうんでしょうか,そういうものもあると思うんですが,そういう意味でも興味深い見解ですね。
松原氏:
3年前に考えたときに,2年後,3年後にお客さんが何を求めているんだろうとか,そのときのビジネス的な成功とかしげしげ考えると,やはり「違う何か」という方向性についてはみんな考えてたと思うんですよね。まぁだからってこれがすぐ出てきたわけじゃないのは先ほどの話のとおりですが(笑)。
信Onは,やはりそのへんは典型的なMMOの流儀に則って作った作品ですし,それが1本あるからにはね,という感じで。
竹田氏:
あの,これオフレコにしてほしいんですけど……。
4Gamer:
ええ。
竹田氏:
社内でMMOが本当に好きな人達って,結構信Onチームに集まっちゃってて。うちのほうは「MMOって興味あるんだけどなー,ちゃんとやったことないなー」っていう人が多かったんです。
松原氏:
最初は社内的にも人集めにすごく苦労したりね(笑)。
竹田氏:
興味はあるんだけど,ドップリ遊んじゃうと仕事や私生活そっちのけになるのが怖いとかね。だから,っていうわけじゃないんですけど,結果として我々のチームだからこそできたという,そういう作品に仕上がりましたね。僕らにも遊べるMMOを作ろう,って。
4Gamer:
MMOを作ったチームとしては珍しいパターンですね。
松原氏:
「MMOのことならオレに聞け」みたいな何年も遊んでるスタッフは少なかったですね。
4Gamer:
いわゆる「コアプレイヤー」ばかりじゃなかったというわけですね。
松原氏:
ええ,そうですね。
竹田氏:
だから向学のためにいろいろ遊んでも,「なんでこういうことができないんだろう」「こういう遊び方ができないんだろう」ってそういうことを考えながらやってましたよ,みんな。
4Gamer:
いい話じゃないですか。書いちゃうことにします。
竹田氏:
えー(笑)。
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地域ごとにまったく違う風景を見て回るのも,楽しみの一つ。下の写真は,アフリカ西部の街(村?)シエラレオネ。先ごろ重要な交易品が登場し,ここ最近での,ある意味"もっとも熱い"街の一つだ |
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4Gamer:
でもそれは成功してると思うんですよね。仕事柄,MMOってずいぶん昔から色んなモノをやってきましたけど,大航海って微妙にプレイヤー層が異質じゃないですか? いわゆるいまいる固定層の「MMOプレイヤー」じゃない人が多い感じがします。
松原氏:
そうかもしれませんね。今までのMMOとは「違うモノ」を作ろうとしていたわけですし,ある意味予想範囲内だと思います。もちろんビジネスのためにやっているわけですから,いわゆる「オンラインゲームファン」という方々もとても大切に考えています。
4Gamer:
それはそうですね。
松原氏:
とはいえ市場を広げるためには,オンラインゲームプレイヤーじゃない人が入ってくれるという部分が大事だと思ってますし,そのへんの差別化を念頭に置いて開発してきました。
戦ってレベルを上げて装備を買い替えていくだけじゃない,とかね。そのへんは狙ったてとおりにいけてるんじゃないかと思っています。
4Gamer:
MMOってここまで数が増えると,もはや「プレイヤーの時間の奪い合い」ですよね。我々みたいな一種の職業プレイヤーは別として,普通の社会人がゲームに費やせる時間というのは,おそらくは多くても一日3〜4時間じゃないかなぁ,と。そういうプレイヤー達にもアピールしやすいポイントが多いですよね。
松原氏:
そう願って作ってます。
4Gamer:
とはいえゲーム内を見渡すと「おいおい」というレベルになっている人も大勢いたりして,やはりあの人達は,既存のいわゆる"コアゲーマー"なんですかね。
松原氏:
おかげさまで,色々なところから来てるみたいですね。FF,ラグナロク,リネージュII,信長,UO……とくにどこからいっぱい,っていうのはないよね。
渥美氏:
ないですね。いままでにない雰囲気のせいか,結構万遍なく散ってる感じです。
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