4Gamer:
こだわりが重要な一方で,開発作業は時間との戦いでもあると思います。アミーゴ・アミーガで,盛り込みたい要素はおおむね盛り込めましたか?
山口 尚氏:
いや,まだまだです。やりたいことはどんどん増えていくので,過去に作ってきた作品でも,思い描くことの半分以上を盛り込めるほうが稀ですね。
4Gamer:
うーむ,そういうものですか。
山口 尚氏:
ただ,ネットゲームは後から要素を追加できるということも,やはり念頭にあるんですけどね。
中村光一氏:
そこはいいですよね。出来上がったものをプレイしながら,あまり良くない部分を前向きな気持ちで見られるというのが,すごくいいです。ここをもっとこうすればいい,みたいな。
コンシューマゲームなど,完成品のメディアを売る形のビジネスでは,テストしてみて「ああ,ダメだったなあ」と感じたときは本当につらいんですよ。いや本当につらい。
4Gamer:
なんだか,すごく実感がこもってますね。
中村光一氏:
先ほどと同じくドラクエでのお話になりますが,開発工程のなかで一番キツい時期は,実装した要素を自分でテストする時間がないくらい忙しく,出来上がったものを片端からデバッガーの人が試すことになります。そこでひととおりプレイしておかしくなければ,OKになっていく。
強烈に憶えているのが「ドラゴンクエストII」のときです。「水門の鍵」というアイテムがあって,開くと水がドッと流れてくるシーンがありました。あそこのシーンのSE(効果音)について,僕が間違った番号を指定してしまったんですね。
ところが,実際にそのシーンの音を聞いたのは,すでに商品になり,関連製品のレコーディングのときだったんです。不自然じゃないからこそテストにパスしてしまったわけですが,これはもう直せないですよね。
4Gamer:
そ,それは確かに……。
中村光一氏:
でもオンラインゲームの場合直せるので,ある意味ちょっとうらやましいですね。
4Gamer:
ちなみにその音というのは。
中村光一氏:
水がゴーと流れる音が,本当はROMカセットに入っているのです。ところが実際に鳴るのは,ドアを開けたときの効果音なんですね。あれはがっかりしました。
4Gamer:
せっかく場面にぴったりの音を用意したというのに,ですか。
中村光一氏:
そう,せっかくメモリ容量を削って入れているのに。堀井さんとかすごく苦労してメッセージを削ってくれてるのに,です。
4Gamer:
そのSEは結局どこにも使われなかったんですか……って,この話そもそも書いて大丈夫ですか?
中村光一氏:
そう,使われてない。いやもう,さすがにいいと思います。話を戻すと,オンラインゲームでその部分はいいなあと。
山口 尚氏:
甘えが出てしまう部分もあるので,難しいですけどね。新しいクエストを実装して,3時間後くらいに不具合報告のメールが来たりとか。メールはすべて読んでいますが,こういうときは「しまった」と思いますね。実装後間もなくメンテナンスに入るとかですぐ直せないときなんか,思い出すだけで震えが来ます。
4Gamer:
ええと,なんだかバグの話に流れてしまいましたが,本題に戻しまして。アミーゴ・アミーガで今後改良したり,付け加えたりしたい部分について,ぜひ教えてください。
山口 尚氏:
細かい部分の修正は日々行っていますが,それとは別に大きなところでいうと,今週中に
「デュエル」が入って,プレイヤーキャラクター同士で戦えるようになります。
いまプレイしている方の間で一番多い声は,「当座やることがなくなってしまった」というものです。そこで,デュエルを中心に据えて,さまざまな要素を導入していきます。それと,定期的に追加されるストーリーですね。
デュエルとストーリー,この二つを大きな柱として,例えば生産要素であれば,もっと作れるものを増やしていくといったことを,精力的に進めていきます。
ストーリーだけはきっちり決まっていますが,今後どういった遊び要素を追加していくかは,その時々の流行などを見定めながら,決めていきたいと思います。
4Gamer:
なるほど,そうした小回りの利くあたりが国内開発作品ならではというわけですか。
山口 尚氏:
そうです。例えば通常のオンラインゲームでは,GMと開発スタッフはまったく別なのですが,アミーゴ・アミーガでは開発スタッフがオンラインイベント運営に参加しています。
4Gamer:
それは確かに珍しい取り組みですね。
山口 尚氏:
もちろんGM専業の人もいるのですが,開発とGMが同じ空気の中で運営/開発に取り組んだら,どういったことができるか。賛否両論あるのですが,タイムリーなアップデートを実現するというのが,大きな狙いです。
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| 3月14日の大型アップデートで導入されたメインクエスト第10話「寒中パピー大行進」の舞台となったサンダナの村 |
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| メインクエスト第10話「寒中パピー大行進」での会話シーン |
4Gamer:
なるほど,オンラインゲームのメリットを突き詰めたところで実現する,一つの大きな試みというわけですね。そこで再びコンシューマゲームと比較する論点に戻ると,「当座やることがなくなってしまった」という現象そのものが,すでにオンラインゲーム特有ですよね。
中村さんはそうした,オンラインゲームならではの運営のあり方を間近に見て,どんな印象を持ちましたか?
中村光一氏:
そうですね,ボスがいて,倒したらエンドロールが流れて思い出になるというのとは,かなり違いますよね。
人とのつながりを維持したいというのが,オンラインゲームの基本にあるのだと捉えています。そこで知り合った人と,次々に新しい要素に挑戦していく。その継続がそのまま,ビジネスになっているわけで,そこが実に興味深いところです。
4Gamer:
では,もう少し枠を広げて,オンラインゲーム全般について。これまでに手がけてきた作品を背景に置いたとき,中村さんにとってオンラインゲームとは,どういったゲームでしょうか?
中村光一氏:
すごくいろいろな意味で既存のゲームと違うな,と感じます。今回のアミーゴ・アミーガにしても,アイテム課金とはいえ,相当なところまで無料で遊べます。すごくお金がかかっていそうだなと思えるほど,きちんと作られているし,運営にもコストがかかっている。
そこまでの状態で,無料でそこそこ遊べるものを作っていかなきゃいけないゲームメーカーって,すごいたいへんですよね。そのあといかにそこに滞在してもらって,収益につなげるかとか,考えていくと。
4Gamer:
基本無料/アイテム課金制は,まさしく「ソフトウェア販売」からはかけ離れたビジネスモデルですね。
中村光一氏:
でしょう。普通のコンシューマゲームメーカーは,作り上げた1本をいかに買ってもらえるようにするかにすべてを懸けてきたわけですから。それに対してオンラインゲームのビジネスモデルは,月額課金,アイテム課金,そしてゲーム内広告と,どんどん無料になっていく流れの中にありますよね。
そこで,ものを作るに当たって置かなければならない視点というのが,かなり大きく異なる。映画や芸能人とのタイアップといった“ツカミ”も,そうそう利かないように思えます。無料で試せるということは,やってみてつまらないかったらすぐやめられるということでもありますし。
4Gamer:
そうですね。確かにプレイに入るための障壁の低さを,手放しで喜んでいるわけにはいかない……。
中村光一氏:
パッケージソフトはすでに「買ってしまって」いるので,買う前に思ったよりはつまらなくても,やってもらえるんですよ。ある種「面白いと信じ込んで」やるともいえます。買った/買ってもらった自分を否定することになっちゃいますからね。
ところが多くのオンラインゲームは,どこにも出かけることなくクライアントをダウンロードして,プレイを始められてしまう。メーカーに要求される水準は,かなり高いと思いますね。
4Gamer:
贔屓目が利かない,というわけですか。
中村光一氏:
いや,本当にそうだと思います。あと,よく山口さんと議論しているのは,人が集まっているがゆえに,集まっている意味/意義をどうゲームとしてデザインしていくかが重要だということです。
ただし,そこで同時に考えなければならないのは,チャットができてしまうことについてですね。実はチャットがしたいからそこにいて,チャットでの共通の話題のために,RPGという土台がある。そういう構図です。
とりあえず土台があれば,そこで交わされるチャットはテレビ番組の話題であってもいい。「この指とまれ!」みたいに,同郷の話題であってもかまわない。突き詰めるとそうなってしまうのではないかと。人が集まったときには,お酒でも飲みながらおしゃべりすることが一番楽しいんじゃないかと思うわけです。
そして,その楽しさを直接に実現できてしまう掲示板やチャットルームがあるなかで,その人がどうやってゲームに時間を割いていくか。そのエネルギーをどうやって維持するか。それを考えないといけないのだなあと思います。本当に面白いものを作らないと,いけないのではないかと。
逆に僕なんかは,「チャット抜きでやらせることを考えたほうが,面白いゲームが出来るのではないか」なんて,山口さんに言ったりもしています。
4Gamer:
チャット抜き,ですか……。
中村光一氏:
そう,チャット抜きのほうが,面白いゲームになるのではないかと。
4Gamer:
コミュニケーションは外に任せて,ということでしょうか? それとも……。
中村光一氏:
いや。外でもコミュニケーションできないような,という意味です。
4Gamer:
つまり,ゲーム性に特化したほうが最終的によいのではないかと,そういう方向ですか? 話をすることで消費されない形というか。
中村光一氏:
そうです。ゲーム性です。そうした視点も成り立つのではないかと。
4Gamer:
それは逆説的で興味深い意見ですね。ゲームとは何か,という問いに対する答えをまず探し,そこにあらためて意義を見いだす思考というか。
山口 尚氏:
例えばアミーゴ・アミーガで,ギルドを作るのはけっこうたいへんです。複数の人が,同じタイミングであることをしなければならないので。ダイレクトチャットで合わせようとすると,ラグがあってうまくいかないんですね。
ゲーム内でメールを送るとアイコンが出るんですが,その挙動を利用して,プレイヤーさん同士がタイミングを合わせていたりするんですよ。最初に見たとき「これはすごい」と思いましたが,これを編み出すに当たっては,かなりの議論が積み重ねられたのではないかと思います。それこそがプレイだったりするんですよね。
4Gamer:
チャットを通した会話に支えられつつも,そこで消費しきられてしまうことのないプレイ体験,ということですか。
山口 尚氏:
例えば学校でゲームの話をしていて,何が楽しいかというと,友達よりも先に解きたいとか,分からないときに始終その話をし,早く帰って挑戦したくてうずうずしてるとか,そういった部分です。それを含めて「ゲームプレイ」だと思うんですね。
そうしたゲームデザイン上のヒントをもらっては,実現すべく努力する。そんなやりとりが続いているんですが,チャットまったくなしのゲームというのは,さすがにまだイメージできないというか(笑)。まあ,次に作品を開発するといったときには,その考えを突き詰めてみることもあるかもしれません。