4Gamer:
そうした基本的な信頼性の部分から言っても,操作性と導入部をきちんとしなければならないわけですね。さてここまで,アミーゴ・アミーガ,次いでオンラインゲーム一般について話してきたわけですが,チュンソフトさんとしては今後,オンラインゲームで何らかの取り組み予定を持っていますか?
ここまで言ってきたようなことを考えつつ,アミーゴ・アミーガの様子を見つつ,検討を進めていかなければならないことだと思いますね。
4Gamer:
アミーゴ・アミーガを盛り立てつつ,いろいろな場面で「なるほどねえ」とか思いつつ,ですか。ではゲームデザインの問題と絡めて,社内でオンラインゲームを話題にすることはありますか?
それはもちろんあります。ゲーム内の個別の要素に関するアイデアも,ふだんいろいろ話します。
4Gamer:
先ほどの,「例えばチャットのないゲーム」というのも,そういうお話の一環ですか。
中村光一氏:
ええ。どうしても僕は,チャットが邪魔しているような気がしてならないんです。別にコミュニケーションを文字でしなくてもいいんじゃないか,とか。
表情が何種類かあれば,それだけでもコミュニケーションになるでしょうし,記号的なものでもいい。チャットになってしまうと,逆に国境をまたぐことができないわけです。
限られた記号や表情を,その世界の人が工夫しながらコミュニケーションをとっていくとか。そのほうが面白いかもしれない。
4Gamer:
コンシューマゲームに限った話ではないのですが,娯楽の歴史を見ていくと確かに“リミテッド”の魅力というのはある気がします。それこそ開発経緯を聞いてみると「メモリが足りなかった」ということだったりするわけですが。
あー。ありますね,それ。黎明期のゲームに名作が多いというのも,そこなんでしょうね。入れたいけど入れられないから,厳しい優先順位のなかで,面白いところしか入ってない。
4Gamer:
それが逆にプレイヤーの想像や行動を活性化することもあって。
中村光一氏:
ROMカセットからCDメディアになって,音もグラフィックスもすごくなったけど,プレイヤーにとっても当たり前になっていくから,感動がなくなる。最初は画面が揺れただけでも「おお!」とか思ったわけですが。
オンラインゲームもいまのところ,さまざまな要素のインフレーションを宿命として受け入れています。
中村光一氏:
ゲームにも,むしろ何らかのリミットが必要なのかもしれないですね。
山口 尚氏:
以前はモデムの通信速度が,制約要因になっていましたね。
中村光一氏:
かつて映画が栄えていったときに,どんどん長くなっていって,制作費は上がり,見るお客さんも疲れるようになった。そうした状況の中から,2時間くらいが限界だという認識が,自然に定着したわけです。
ゲームの場合も,そういうのがあるといいのかもしれません。プレイ時間なのかそれ以外なのかは分かりませんが,遊んでもらうのに適切な規模を見極められれば,作る側もクオリティアップに集中できるので。
4Gamer:
チュンソフトさんで,今後PCオンラインゲームを出していく予定は,現時点でありますか?
中村光一氏:
うーん,具体的な話としては,ないですかね。ただ,今回こういった形で山口さんのところと一緒にやらせてもらいましたので,今度は逆に,ウチがアイデアを出して山口さんのところに作ってもらうとか(笑)。ネットワークの技術は,一朝一夕にできるものではないですからね。
次はぜひ最初から一緒にやりたいと,僕らも思っています。僕ら自身のノウハウを踏まえたうえで,プレイヤーさんの意見に流されすぎることなく冒険ができるという意味で,有意義だと思います。
4Gamer:
では今度は,中村さん自身が感じ取った,オンラインでのゲームプレイが持つ可能性について教えてください。
うーん,長い人生の一部分を共有した,決して顔を見ることのない相手がいる,そういう良い思い出が残ることは素晴らしいですね。楽しいことはいっぱい考えられるんですが,現在の課題はそれがビジネスとして回るかどうかです。
山口 尚氏:
「風来のシレン」の救助隊については,どうですか?
中村光一氏:
あれは非常に良いけど,おかげで攻略本が売れないとか(笑)。果たして無料にしてよかったのか,とも思うわけです。もちろん,プレイヤーのみなさんには喜んでいただけていますが。
4Gamer:
……なかなか,難しい問題ですね,それは。では最後になりますがお二方に。この記事を読んでアミーゴ・アミーガに興味を持ってくれた読者,すでに楽しんでいる人に向けて,ぜひメッセージをお願いします。
ご要望をどんどん“山口さんあてに”メールで。あと,有料アイテム買ってください(笑)。難しそうに思えたから,いままでオンラインゲームをプレイしていなかったという人には,導入部をはじめとして,チュンソフトなりに易しくしていますので,ぜひ試してみてください。
山口 尚氏:
いままさに新しいプレイヤーの方が増えているタイミングですので,すでに楽しんでくれている方は,そうした新しいプレイヤーさんを,ぜひ温かく歓迎してあげてください。
本日はありがとうございました。
どうやら「アミーゴ・アミーガ」を「チュンソフト初のオンラインゲーム」と呼ぶのはいささか微妙らしく,むしろアドバイザーというのが正しい捉え方のようだ。
それを前提として,中村氏はしばしば過去のエピソードを交えつつ,コンシューマゲーム開発で培った感覚をもとに,アミーゴ・アミーガの開発にどう関与したかを語る。アドバイスのポイントが,もっぱらインタフェースと導入部だという話には,さもありなんと納得した読者も多いのではないだろうか。
また,オンラインゲーム市場の当事者でなく,長年コンシューマゲーム開発の第一線で活躍してきた人として語る,オンラインゲームとその市場に対する観測と論評には,興味深い論点がいくつも含まれている。必ずしも筋道立った話題展開ではないものの,物事の内側に入ってしまうと陥りがちな視野狭窄を,あらためていろいろ指摘された気がする。「プレイヤーにとって,ゲームのルールや世界観を理解するのはたいへんな労力である」という趣旨の指摘などは,その典型といえよう。
今回のインタビューでは明確な答えをもらえなかったが,さまざまに思うところはあると語る中村氏が,本格的にオンラインゲーム市場に挑むとしたら,どんな仕掛けを考えてくるのか。想像してみるのも一興だろう。(2007年3月26日収録)